オオクチバス

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オオクチバス
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
上綱 : 顎口上綱 Gnathostomata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: スズキ目 Perciformes
亜目 : スズキ亜目 Percoidei
: サンフィッシュ科 Centrarchidae
: オオクチバス属 Micropterus
: オオクチバス M. salmoides
学名
Micropterus salmoides
Lacépède, 1802
英名
Largemouth bass

オオクチバス(大口バス、ノーザン・ラージマウスバス、学名 Micropterus salmoides) は、スズキ目・サンフィッシュ科(バス科)・オオクチバス属に分類される淡水魚の一種。本来は北アメリカ南東部の固有種だったが、釣り(スポーツフィッシング)や食用の対象魚として世界各地に移入された。コクチバス M. dolomieuフロリダバス(フロリダ・ラージマウスバス)M. floridanus などと共に、通称「ブラックバス」と呼ばれることが多い。また、単に「バス」と呼ばれることもある。日本に移入された当初はオオクチクロマスとも呼ばれたが、サケ科のマス類と混同されるためにこの呼称は現在では使用されていない。

分布

ミシシッピ水系を中心とした北アメリカ南東部に分布するが、食用や釣りの対象として世界各地に移入されている。原産地のアメリカ合衆国では、アラバマ州ジョージア州ミシシッピ州フロリダ州の州魚に指定されている。

特徴

成魚は全長30-50cmに達するが、最大でジョージア州ジョージ・ペリー氏が釣り上げた全長97.0cm・体重10.09kg・年齢23歳の記録がある。 日本でも琵琶湖で栗田学氏によって全長73.5cm、体重10.12kgの世界記録タイ(IGFAオールタックル世界記録では体重で大きさが決まるため)がブルーギルを餌にして捕獲されている。口が目の後ろまで裂ける点でコクチバスと区別できる。

湖、沼などの止水環境や流れの緩い河川に生息するが、汽水域でもしばしば漁獲される。食性は肉食性で、水生昆虫・魚類・甲殻類などを捕食する。自分の体長の半分程度の大きさの魚まで捕食し、カエルネズミ、小型の鳥類まで丸飲みにする。春から秋には岸近くで活発に活動するが、冬は深みに移り物陰に群れを成して越冬する。

繁殖は水温15℃の条件が必要である。この水温は、北アメリカの生息地では北部で5-6月、南部で12-5月である。日本では6月を盛期に5-7月である。また、多くの動物に見られるように、産卵は満月か新月の日に行われるのが一般的である。オスは砂地に直径50cmほどの浅いすり鉢状の巣を作り、メスを呼びこんで産卵させる。複数のメスを呼びこんで産卵するため、巣の卵数は1万粒に達することもある。卵は10日ほどで孵化する。産卵後もオスは巣に残り、卵を狙う敵を追い払うなどして保護する。孵化した仔魚は全長2-3cmになるまでオスの保護下で群れを成して生活する。稚魚がある程度の大きさになると、オスは稚魚を食べることで巣からの自立を促す、この過程で卵から孵った幼魚の半分以上が淘汰されるという。成熟齢は2年から5年といわれ、一般には23cm前後で成熟する。

外来種問題

導入

日本ではほとんどの都道府県で多くの湖・池に生息している淡水魚で人為的に移入された外来種である。日本に持ち込まれたのは、1925年に実業家の赤星鉄馬により芦ノ湖に放流されたのが最初である[1]

1970年代以降、日本での分布が急速に拡大し、環境問題に発展している[1]。釣り人による密放流(ゲリラ放流)、琵琶湖産のアユ種苗やゲンゴロウブナへの混入などによりその生息域を広げたと考えられている。導入経路や非公式な違法放流についてはミトコンドリアDNAの解析によりその実態が明らかになっている[2][3][4]

影響

捕食や競争により本来日本の湖・池に生息していた魚(在来魚)を減少させるとしてコクチバスブルーギルと並び問題視されている[1]メダカゼニタナゴジュズカケハゼシナイモツゴといった希少な魚を減少させるなど魚類相に大きな影響を与えている[1]。また、魚類だけでなく甲殻類や水生昆虫にも被害が発生しているほか、そうした生物を餌にする水鳥などの他の生物にも悪影響を及ぼす[1]。さらに、アカネズミなどの齧歯類ヒミズなどの食虫類といった小型哺乳類、アオジオオジュリンといった鳥類の直接的な捕食事例も確認されている[5][6]。本種は日本生態学会により日本の侵略的外来種ワースト100に選定されているが、国際自然保護連合によって世界の侵略的外来種ワースト100のひとつにも選ばれており世界的に問題となっている[7]

対策

事態を重くみた環境省は、2005年(平成17年)6月施行の「外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)」でコクチバスと共にオオクチバスの規制(輸入・飼養・運搬・移殖を規制する)を目指すことになった[8]。しかし、2004年10月から開始されたオオクチバスを特定外来生物に選定する是非を決める会議では、全国内水面漁業協同組合連合会や外来種問題を危惧する研究者などの指定賛成派と、日本釣振興会全日本釣り団体協議会、釣魚議員連盟といった指定反対派との間で意見が大きく対立し議論は難航した[8]。結果、2005年1月19日の第4回小会合にてオオクチバスの指定については半年まで検討期間を延長することになった[8]。ところが、その2日後に当時の環境大臣がバスは指定されるべきとの発言をしたため急遽方針が転換され、結局オオクチバスは特定外来生物に1次指定されることが決定した[8]。こうした混乱や衝突はオオクチバスが大規模なバス釣り産業を形成しており経済的に重要な価値を有することが背景にあり、外来種問題の解決の難しさが窺える事例となった[8][9]。また、多くの都道府県でも、内水面漁業調整規則に基づき移殖放流が禁止されている[1]。1965年に移入された芦ノ湖の漁業権を管理する神奈川県は、オオクチバスを含めたブラックバスに関して移植をしてはならないとした[10]。さらに、日本国外ではイギリスや韓国などで国内への持ち込みが禁止されている[1]

稚魚のすくい取り、産卵床の破壊、人工産卵床の設置、地引き網、池干しといった方法で防除が行われている[9][11]。環境省では2005年度から「オオクチバス等防除モデル事業」を伊豆沼・内沼、羽田沼、片野鴨池、犬山市内のため池群、琵琶湖、藺牟田池の6つの地域で実施した[12]。また、市民活動も盛んに行われており、2005年には「全国ブラックバス防除市民ネットワーク」が結成されている[12][13]。防除対策によって減少していた魚類の増加が確認され生態系の回復が実現している水域もある[11]

食用

身は癖のない白身で、ムニエルフライなどで食べられる。体表面の粘膜に生臭さがある場合が多いため、これを身につけないようにするのがコツとされる。表面に生臭みがある淡水魚は塩もみするか、濃い塩水中でタワシで洗うと落とせる。 小骨にも注意。また、生食では顎口虫症による健康被害が報告されており[14]寄生虫対策として加熱して食べる必要がある。水のきれいな水域の個体が美味で、汚染の危険性も低い。また、オオクチバスよりもコクチバスの方が身が締まっていて食味において勝っているとも言われる[要出典]

オオクチバスを含めたサンフィッシュ科魚類は、原産地である北米では食用魚とされてきた。日本でも元々食用としての用途も意図されて移植されたが、専ら釣り(遊漁)の対象魚とされている。釣ったオオクチバスは再放流されることが多いが、一部ではオオクチバス料理を提供している店舗もある。80年代頃に全国的に生息域が拡大し、在来生物層の保護という観点から、90年代初頭には沖縄県を除く全ての都道府県で無許可での放流が禁止された。

関連項目

脚注

  1. ^ a b c d e f g 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著)『決定版 日本の外来生物』平凡社、2008年4月21日。ISBN 978-4-582-54241-7 
  2. ^ 高村健二「日本産ブラックバスにおけるミトコンドリアDNAハプロタイプの分布」(PDF)『魚類学雑誌』第52巻第2号、2005年、107-114頁、2012年5月7日閲覧 
  3. ^ 青木大輔・中山祐一郎・林 正人・岩崎魚成「琵琶湖におけるオオクチバスフロリダ半島産亜種(Micropterus salmoides floridanus)のミトコンドリアDNA調節領域の多様性と導入起源」『保全生態学研究』第11巻第1号、2006年、53-60頁。 
  4. ^ 北野 聡・武居 薫・川之辺素一・上島 剛「長野県内で確認されたオオクチバス及びコクチバスのミトコンドリアDNAハプロタイプ」『長野県環境保全研究所研究報告』第4巻、2008年、75-78頁。 
  5. ^ 中野晃生・西原昇吾「オオクチバス Micropterus salmoides に摂食されたヒミズ Urotrichus talpoides」(PDF)『哺乳類科学』第45巻第2号、2005年、177-179頁、2012年5月7日閲覧 
  6. ^ 嶋田哲郎・藤本泰文「オオクチバスによる小鳥の捕食」(PDF)『Bird Research』第5巻、2009年、7-9頁、2012年5月7日閲覧 
  7. ^ 村上興正・鷲谷いづみ(監修) 日本生態学会(編著)『外来種ハンドブック』地人書館、2002年9月30日。ISBN 4-8052-0706-X 
  8. ^ a b c d e 瀬能 宏「外来生物法はブラックバス問題を解決できるのか?」(PDF)『哺乳類科学』第46巻第1号、2006年、103-109頁、2012年5月7日閲覧 
  9. ^ a b オオクチバス 国立環境研究所 侵入生物DB
  10. ^ 神奈川県内水面漁業調整規則第30条の2
  11. ^ a b 高橋清孝「オオクチバスMicropterus salmonides駆除の技術開発と実践」『日本水産学会誌』第71巻第3号、2005年、402-405頁、NAID 110003161621 
  12. ^ a b 種生物学会『外来生物の生態学 進化する脅威とその対策』文一総合出版、2010年3月31日。ISBN 978-4-8299-1080-1 
  13. ^ 全国ブラックバス防除市民ネットワーク
  14. ^ 日本顎口虫(がっこうちゅう)症 愛知県衛生研究所

参考文献

外部リンク