Waves Audio

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Waves Audio Ltd.
業種 製造業
創業者 ギラッド・ケレン, 最高経営責任者
メイア・シャシュア, 最高技術責任者
製品 プラグイン・エフェクトソフトウェア・シンセサイザー
従業員数
260
ウェブサイト Waves.com

Waves Audio Ltd.は、録音ミキシングマスタリングポストプロダクション放送、ライブサウンドで使用されるプロフェッショナルなデジタルオーディオ信号処理技術とオーディオエフェクトを開発する会社でありサプライヤーである。イスラエルテルアビブに本社と主要な開発施設があり、アメリカ中国台湾に支店、さらにインドウクライナに開発センターがある。

2011年、Waves Audioはテクニカルグラミー賞を受賞した[1][2]

歴史[編集]

Waves Audioは、1992年にギラッド・ケレンとメイア・シャシュアによってイスラエルのテルアビブに設立された[3]。その年の後半、Wavesの最初の製品でありオーディオ業界初の市販オーディオプラグインでもあるQ10パラグラフィックイコライザーを発売した[4][5]

1994年に発売されたL1 Ultramaximizer(エルワン・ウルトラマキシマイザー)は著名なプラグインになり、一部の出版物は、これを現代の音楽におけるマスタリングの背景にある「ラウドネス・ウォー」を引き起こしていると指摘している[6]レコードプロデューサーのトニー・マセラティは、初期のWavesソフトウェアについて、「クオリティと創造力のあるプラグインはWavesだけだった」と述べている[7]。Wavesはのちに、マセラティにインスパイアされたプラグインのシグネチャーラインを立ち上げている。

Wavesは、音楽プロデューサーやエンジニアと協力して独自のサウンドを探求するWavesシグネチャーシリーズを立ち上げた。2009年、Wavesはシグネチャーシリーズの一部として、クラシックロックに焦点を当てた5つのプラグインを含むエディ・クレイマー・シグネチャーシリーズを発売した[8]。2010年にはクリス・ロード・アルジ・シグネチャーシリーズが続いた[9]

2011年、同社は「録音分野への卓越した技術的重要性の貢献」に対してテクニカルグラミー賞を受賞した[1][2]

Wavesシグネチャー・シリーズは、マニー・マロキン・シグネチャーシリーズとともに2013年も続いた[10]。2015年、Wavesは音楽プロデューサーのブッチ・ビグと協力して、Wavesシグネチャーシリーズの一部としてブッチ・ビグ・ボーカル・プラグインをリリースした[11]

2018年、Wavesはアビーロード・コレクションの一部としてアビーロード・TGマスタリング・チェインをリリースした[12]。これは、アビーロード・スタジオのマスタリング一式で使用されているコンソール(EMI TG12345)をモデルにしている。

製品[編集]

Waves Audioは、さまざまなソフトウェア音源やエフェクトに加えて、音楽制作、エンジニアリング、ミキシング、マスタリングに特化した200を超えるソフトウェア製品を販売している[13]。 注目すべきソフトウェアは次のとおり。

ソフトウェア 機能 発売日 補足
Q1 イコライザー・プラグイン 1992年 最初のオーディオプラグイン
L1 Ultramaximizer リミッター・プラグイン 1994年 L2とL3はそれぞれ2000年と2005年に発売されました
Waves Tune リアルタイムでピッチ補正とオートチューニングを行うプラグイン 2005年 第119回AESコンベンション(2005年10月7日、ニューヨーク開催)
SSL 4000 Collection SSLとの共同開発。SSLコンソール(SSL 4000)のチャンネルストリップ、EQ、コンプレッサーをモデリングしたプラグイン・バンドル 2006年
Renaissance Maxx ヴィンテージ機器をモデリングしたエフェクト・プラグイン・バンドル
API Collection APIとの共同開発。APIコンソール(API 2500、API 550A、API 550B、API 560)をモデリングしたプラグイン・バンドル 2007年
Eddie Kramer Signature Series エディ・クレイマー氏との共同開発によるエフェクト・プラグイン・バンドル 2009年
SoundGrid WavesプラグインをDSPで使用するためのプラットフォーム 2010年
Vocal Rider 自動でボーカルトラックのボリュームを調整することに特化したプラグイン 2010年
CLA-2A コンプレッサーおよびリミッター・プラグイン CLAシグネチャーシリーズの一部
NS1 Noise Suppressor ノイズサプレッサー・プラグイン 2012年
NLS マーク・スパイク・ステント氏、マイク・ヘッジス氏、ヨード・ニーヴォ氏との共同開発。彼らが所有するコンソールをモデリングして1つのUIにまとめたプラグイン 2012年
Manny Marroquin Signature Series マニー・マロクイン氏との共同開発によるエフェクト・プラグイン・バンドル 2013年
C6 Multiband Compressor マルチバンド・コンプレッサー・プラグイン 2013年
WLM Meter ラウドネス・メーター・プラグイン 2014年
Waves Tune Real-Time Waves Tuneをリアルタイムで使用することに焦点を当てたプラグイン 2016年
Torque ドラムサウンドのピッチを修正できるプラグイン[14] 2017年
Dugan Automixer ダン・デュガン氏との共同開発によるオートマチックミキサー・プラグイン 2017年
Abbey Road TG Mastering Chain 複数のアビーロード・スタジオ機器(EMIコンソール)をモデリングしたプラグイン 2018年
B360 Ambisonics Encoder 360度オーディオコンバーターを搭載したミキサー・プラグイン 2018年
Scheps Omni Channel アンドリュー・シェップス氏との共同開発によるチャンネルストリップ・プラグイン 2018年
Submarine サブベース(超低音)を追加するプラグイン 2019年
Bass Fingers エレクトリック・ベースの指弾きサウンドを再現するソフトウェア音源 2019年
Nx Virtual Mix Room ヘッドフォンでのミキシングやマスタリングに最適化されたマスターバス用プラグイン
Multirack Wavesプラグインをライブパフォーマンスで使用するために最適化されたスタンドアローン・ホスト・アプリケーション
SuperRack Wavesプラグインをミキシングコンソールに組み込む仮想プラットフォーム・アプリケーション 2019年
Abbey Road Studio 3 アビーロードのミックスルームにいるような音響を再現したヘッドフォン用のマスターバス用プラグイン 2019年 Waves Nxでの作業
Abbey Road Saturator EMI TG12321をエミュレーションしたアビーロード・スタジオ公認のサチュレータープラグイン 2019年

Wavesは、長年にわたりアビーロード・スタジオとの共同開発を行っており、2011年には英国王室のために作られたマイクを再現したThe King’s Microphones[15]、2012年にはEMI REDDコンソールを再現したREDD[16]、2013年にはテープレコーダーによるサチュレーションをモデリングしたJ37 Tape、プレート・リバーブの元祖であるEMT 140をモデリングしたAbbey Road Reverb Plates、RS56 Universal Tone Control Passive EQを再現したRS56 Passive EQ[17][18]、2014年にはEMI TG12345をモデリングしたEMI TG12345 Channel Stripなど数多くのプラグインを発売している[19]

技術[編集]

2010年、WavesはWinter NAMMショーでSoundGridテクノロジーを発表した。 SoundGridは、Wavesオーディオプロセッサを低レイテンシーのプラットフォームで利用できるようにするために作成された[20]。SoundGridシステムは、SoundGrid環境を実行するLinuxベースのサーバー、互換性のあるプラグイン、MacまたはWindows、および入出力(I / O)用のDAインターフェイスで構成されている。ライブサウンド、放送、およびポストプロダクションに使用され、DiGiCo、Allen&Heath、ヤマハなどの特定のハードウェア・オーディオ・ミキシング・コンソールでのオーディオ処理に低遅延環境を提供する。

Wavesは、Maxxブランドの下で、一般家庭用製品に向けてライセンス利用可能なアルゴリズムとしてのテクノロジーを提供している。 Maxxブランドのテクノロジーは、デル[21]東芝[22]ソニーOPPOOnePlus[23]三洋電機日本ビクターアルテックランシングなどの企業のコンピューター、ラップトップ、スマートフォン、 VoIP 、ポータブル・スピーカーシステムなどの製品で使用されている。

2016年、Wavesは立体音響をヘッドホンでも聞けるようにステレオから7.1chまでの音声を処理する『Waves Nx』の制作資金を募るため、Kickstarterキャンペーンを開始した[24][25]。このテクノロジーは、ユーザーが「音がどの方向から来ているかを検出」できるようにする3次元の仮想オーディオスケープを生成している。 [26]

2018年、WavesはWaves Nxと並び、360度の空間音声やVRオーディオプロジェクトをミキシングするエンジニアを支援するために、Waves B360 Ambisonics Encoderも開発した[27]。 Waves製のオーディオプロセッサを採用したAudeze Mobiusヘッドフォンは、WavesのNxテクノロジーで動作する[28]

現在、Waves Maxxテクノロジーは、IoT、モバイル、スマートアシスタンス、および通信デバイスで利用できる。 Waves Maxxのパートナーシップには、Google、LG、Acer、Fitbit、クアルコムインテルが含まれる。さらに、3Dオーディオ用のWaves Nxテクノロジーは、AcerおよびAudezeによってゲーミングヘッドホンやその他のデバイスで利用できる。映画音楽エンジニアのアラン・マイヤーソン氏は、Wavesのテクノロジーについて、「映画音楽のサウンドを変えた」と語った[29]

著作権および商標訴訟[編集]

2010年、Waves Audioは、知的財産権の侵害とそのソフトウェアの違法な使用に関する2つの訴訟に関与した。被告SkylineRecording Studios NYCとの訴訟では、Wavesが勝訴し、もう1つの訴訟では、被告Quad Recording Studiosとの訴訟で、被告は責任を認めた[30][31]

2013年、Waves Audioは、スマートフォンのDroid RazrMaxxおよびDroidRazr MaxxHDの名称がMaxxの商標を侵害したとしてモトローラ・モビリティを提訴した[32]

参考文献[編集]

  1. ^ a b Technical GRAMMY Award: Waves Audio Ltd.” (2011年2月11日). 2014年2月13日閲覧。
  2. ^ a b Waves Audio To Receive Technical Grammy Award (ProSoundWeb)”. ProSoundWeb (2010年12月23日). 2014年2月13日閲覧。
  3. ^ Tom Teicholz. “MØ Waves, MØ Better Sound”. forbes.com. 2020年12月4日閲覧。
  4. ^ Richard James Burgess (2014). The History of Music Production. Oxford University Press 
  5. ^ Rounik Sethi (2016年6月7日). “Behind The Scenes at Waves: An Interview With Mick Olesh”. Ask Audio. 2016年9月22日閲覧。
  6. ^ Twells (2016年10月1日). “The 14 pieces of software that shaped modern music”. FactMag.com. Fact. 2019年4月11日閲覧。
  7. ^ Tom Teicholz. “MØ Waves, MØ Better Sound”. forbes.com. 2020年12月4日閲覧。
  8. ^ The Eddie Kramer Collection - Waves Audio Signature Series Software Plug-ins”. Routenote (2009年10月19日). 2016年9月22日閲覧。
  9. ^ Waves Audio Chris Lord-Alge Artist Signature Collection”. FOH Online (2010年3月16日). 2016年9月22日閲覧。
  10. ^ Waves Audio Introduces Manny Marroquin Signature Series Collection”. ProSound Web (2013年3月19日). 2016年9月22日閲覧。
  11. ^ Waves Audio Now Shipping Butch Vig Vocals Plug-In”. ProSound Web (2015年3月20日). 2016年9月22日閲覧。
  12. ^ Ramsey (2018年10月22日). “Waves pairs with Abbey Road on TG Mastering Chain plugin”. Audio Media International.com. Audio Media International. 2019年4月15日閲覧。
  13. ^ Waves Products. Waves Audio
  14. ^ http://www.pro-tools-expert.com/home-page/2017/9/18/waves-release-torque-a-new-drum-tone-shifter-plug-in-retune-drums-in-the-mix
  15. ^ Waves Audio and Abbey Road Studios Offer The king's Microphones Plugin”. FOH Online (2011年5月20日). 2016年9月22日閲覧。
  16. ^ Waves Audio, Abbey Road Studios Unveil REDD Console Plug-ins”. Soundworks Collection (2012年12月10日). 2016年9月22日閲覧。
  17. ^ Waves Audio and Abbey Road Studios introduce the J37 Tape Saturation plug-in”. Guitar Player (2013年10月16日). 2016年9月22日閲覧。
  18. ^ Waves Audio and Abbey Road Studios Unveil RS56 Plugin”. Gear Junkies (2013年6月13日). 2016年9月22日閲覧。
  19. ^ Waves Audio & Abbey Road Studios Now Shipping EMI TG12345 Plug-In”. ProSound Web (2014年10月8日). 2016年9月22日閲覧。
  20. ^ Waves Announces SoundGrid Audio-Over-Ethernet Networking/Processing Platform At Winter NAMM 2010”. ProSoundWeb (2010年1月19日). 2016年9月22日閲覧。
  21. ^ Dell Unveils Redesigned Inspiron Laptop Portfolio”. Hot Hardware (2012年6月5日). 2014年3月12日閲覧。
  22. ^ Toshiba Improves Laptop Sound Quality by Enlisting Waves MaxxAudio”. Mobile Magazine (2007年8月22日). 2014年3月12日閲覧。
  23. ^ OnePlus Partners with Waves to add MaxxAudio to the One”. 2015年3月13日閲覧。
  24. ^ Max Langridge (2016年7月13日). “Wednesday Wrap: Tidal and Humax updates, Waves 3D Audio and Teufel surround sound setups”. What Hi Fi?. 2016年9月22日閲覧。
  25. ^ Julian Horsey (2016年6月23日). “Waves NX Offers 3D Audio On Any Headphones (video)”. Geeky Gadgets. 2016年9月22日閲覧。
  26. ^ Audeze launches their Mobius 3D Planar Magnetic Gaming Headphones”. POCNetwork.com. POC Network (2018年12月17日). 2019年4月11日閲覧。
  27. ^ Waves Audio Shipping Ambisonics 360-Degree Audio Production Tools”. AVNetwork.com. AV Network (2017年10月16日). 2019年4月11日閲覧。
  28. ^ Bob Fekete. “HEADPHONES HOLIDAY GIFT GUIDE 2018: THE BEST GAMING HEADSETS OF THE YEAR”. 2020年12月13日閲覧。
  29. ^ Tom Teicholz. “MØ Waves, MØ Better Sound”. 2020年12月13日閲覧。
  30. ^ Recording: Waves Audio Prevails Against Copyright Infringement”. Pro Sound Web (2010年5月19日). 2014年3月12日閲覧。
  31. ^ Software Beware”. Grammy.com (2013年6月3日). 2014年3月13日閲覧。
  32. ^ Waves Audio Slaps Motorola With 'Maxx' Trademark Suit”. Law 360 (2013年3月13日). 2014年3月13日閲覧。

外部リンク[編集]