LAMPS
LAMPS(英: Light Airborne Multi-Purpose System、軽空中多目的システム)は、アメリカ海軍における水上戦闘艦用対潜水艦用ヘリコプターの開発計画および運用構想。またそれによって配備された機体の呼称。
概要
LAMPSは、ヘリコプターを水上艦の戦闘システムの一部として、そのセンサーや攻撃手段の三次元的な延長として運用するというシステムである。単なる対潜哨戒機としての任務だけではなく、対水上打撃任務においては目標捜索を行ない、必要に応じて自らも対艦ミサイルによって攻撃を実施する。また、副次任務として、捜索救難や電子戦、補給輸送から指揮連絡、対地ミサイルによる沿岸目標の攻撃に至るまで、多目的に用いられる。
初期に開発されてSH-2D(後にはその強化型であるSH-2F/G)を使用するLAMPS Mk I、新型の機体に新型の機器を搭載したSH-60Bを使用するLAMPS Mk IIIがある。また、LAMPS Mk III Block IIにおいては、より多目的化が進められたMH-60Rが導入されることになっており、これによって、航空母艦搭載の対潜ヘリコプター部隊と機体の共通化がなされる。
来歴
第二次世界大戦後の対潜戦闘システムの発達において、10海里以上の遠距離に対する攻撃兵器として、西欧諸国の海軍が有人ヘリコプターを採用したのに対し、アメリカ海軍は護衛駆逐艦(後のフリゲート)には無人対潜ヘリコプター (DASH)を搭載し、空母戦闘群(現 空母打撃群)においては空母搭載の対潜哨戒機と大型ヘリコプターによって対処するという方針を採用していた。しかし、DASHは索敵能力を有さず、その能力は魚雷の運搬に限られていた上に、無人機の運用技術が未熟な時代であったため、運用損失による減耗率が高かった。このため、DASHを代替しうる遠距離対潜戦闘システムとして開発されたのが、LAMPS (軽空中多目的システム)である。
LAMPSの開発は1960年代後半より開始され、DASHの運用設備(格納庫、飛行甲板など)からの運用が可能な小型の機体として、当時航空母艦で救難などに用いられていたUH-2をベースとすることが決定された。1970年には実験機としてSH-2Dが開発され、これがLAMPS Mk Iとして採用された。続けて、より高性能なSH-2E LAMPS Mk IIの開発が行われたものの、所要のコストに対して期待したほどの性能向上が得られないことから、その計画は1972年に中止され、より高性能なLAMPS Mk IIIの開発へと移行するとともに、その間のつなぎとしてLAMPS Mk Iの性能向上をはかることが決定され、SH-2Fとして配備が進められた。
LAMPS Mk IIIの要求仕様は1973年10月に決定され、76年6月には提案要求がなされた。これに対し、ボーイング・バートル社、ウエストランド社、シコルスキー社が応募したが、最終的に、当時アメリカ陸軍が進めていたUTTAS (汎用戦術輸送航空機システム)で採用されていたUH-60Aをベースとした案が採用され、SH-60Bとして制式化された。
その後、さらに多目的化を進めるため、LAMPS Mk III Block IIにおいて、より多目的化が進められて、空母に展開する対潜ヘリコプター部隊の保有機(以前はSH-60F)と同一の機体を使用するSH-60Rが採用されることになっていたが、多目的性を強調するため、機体の正式名はMH-60Rに変更された。
構成
LAMPSの主たる構成要素はヘリコプターであるが、LAMPSのシステムはそれ以外にも多くの要素によって構成されている。例えば、その搭載機器と母艦の戦術情報処理装置を連接するため、母艦の側にも多くの電子機器が搭載されており、LAMPS Mk IIIでは3トンにも及ぶ。
LAMPSは、プラットフォームとしてのヘリコプターのほか、下記のような要素により構成されている。
ソノブイ
アメリカ海軍の対潜作戦は、チョーク・ポイントでの潜水艦通過阻止、空母戦闘群外周でのパッシヴ型対潜作戦、内側でのアクティヴ型対潜作戦に分類される。LAMPSは、空母戦闘群の護衛艦に搭載されて、このうちの2番目、外周でのパッシヴ型対潜作戦を担当することになる。この作戦においては、捜索海域が広いため、主としてパッシヴ型のソノブイが使用される。[1]
LAMPS Mk Iのソノブイの搭載数は15本であったが、不足が指摘されたため、より機体に余裕のあるH-60系列を使用するLAMPS Mk IIIでは25本に増大した。また、使用する機種は、LAMPSの実戦配備当初はパッシヴ型のSSQ-41 (LOFAR)か、アクティヴ型のSSQ-47 (CASS)に限られたが、後にDIFARやDICASSなど多彩な機種が使用できるようになった。
データリンク装置
LAMPS Mk IIIで多少の機上処理能力が付与されはしたが、これらのソノブイのデータは、基本的にはデータリンクによって母艦の戦術情報処理装置に入力され、処理される。
LAMPS Mk Iでは、AKT-22 FM送信機により、単信式のアナログ・データリンクが用いられており、DIFAR (指向性パッシブ・ソノブイ) またはDICASS (指向性指令探信ソノブイ) ならば各2チャンネル、LOFAR (低周波捕捉測距ソノブイ) ならば8チャンネルのデータを送信するとともに、音声による交信を行なうことができた。これらはSバンドで動作するため、母艦からの進出距離は見通し線内に限られた。
LAMPS Mk IIIでは、二重通信・デジタル式のSRQ-4リンク・システム (機上端末はAN/ARQ-44)が採用されており、ソノブイのほか、レーダーやESMのデータも送信可能になったが、同時送信は不可能である。また、Cバンドを使うデータ・リンクは以前と同様に見通し線内でしか使用できないが、HF帯を使うことで見通し線外での使用を可能にした音声通信装置も搭載している。
さらに、LAMPS Mk III Block II (MH-60R)では、AN/ARQ-58 CDLホーク・リンク(Common Data Link Hawklink)によって代替される予定である。使用周波数はKuバンドに変更され、機上端末はAN/ARQ-58を使用する。これによって、見通し線を越えて100海里までデータ・リンクが可能となり、通信速度も21.4mbpsに向上する。
捜索レーダー
LAMPS Mk Iでは、装備の多くをP-2Hネプチューン固定翼哨戒機より流用しており、捜索レーダーも同様にLN-66を搭載する。ただし、これは母艦の対艦ミサイルによる対水上戦において目標捜索に用いるには捜索距離が不足しており、LAMPS Mk IIIではより強力なAN/APS-124が搭載されている。
ESM
敵の放射する電波を傍受するESM (Electronic Support Measures)は、LAMPSによる対水上目標捜索における主要なセンサーと位置づけられている。[1]
LAMPS Mk Iは当初、ESMとしてALR-54を装備していた。しかし、1980年代よりソ連軍が用いはじめた新しい電磁放射領域をカバーできないことから、順次新型のALR-66に換装された。一方、LAMPS Mk IIIでは、より新型のALQ-142が搭載されている。
MAD
ソノブイや母艦のソナーなどのセンサーで探知した目標の座標を局限化するため、LAMPSは磁気探知装置 (MAD)を搭載する。その機種としては、LAMPS Mk I, Mk IIIのいずれでも、AN/ASQ-81が採用されている。
機上情報処理装置
LAMPS Mk Iでは、ソノブイ等で得た音響情報はそのまま母艦に転送されて処理され、機上では可聴音のモニタリングを行なうのみである。
これに対し、LAMPS Mk IIIでは機上でのソノブイ信号処理用としてUYS-1プロチュース音響処理装置が搭載されており、水上艦との通信が途絶した場合には、ある程度独立しての作戦行動が可能となっている。ただし、処理能力は必然的に限定されたものであり、原則的には水上艦で行われることになる。
攻撃兵器
短魚雷
対潜戦闘システムとしてのLAMPSにおいて、主要な武器は直径324mmの短魚雷である。Mk44はDASHより使用され、LAMPS MK Iでも採用されていたが、既に退役した。既に最も典型的な短魚雷はLAMPSの開発当時より使用されているMk46であり、現在でも度重なる改良によって現役に留まっている。また、その後継としてMk50やMk54も実戦配備され、使用されている。
LAMPSのヘリコプター・プラットフォームにおいては、いずれも外部パイロンに2基の魚雷を搭載することができる。LAMPS Mk Iにおいては、滞空時間の問題から、魚雷の搭載は1本にとどめ、かわりに補助燃料タンクを1基搭載することが多かったが、LAMPS Mk IIIでは、機体の性能向上によってその必要性が薄れたとも言われている。LAMPS Mk Iにおいて、魚雷1本と補助燃料タンク1基を搭載しての基本的な作戦滞空時間は2時間で、魚雷を一切搭載しないかわりに補助燃料タンクを2基搭載する場合、滞空時間は2.5時間に増大する。
対艦ミサイル
LAMPS固有の対水上火力として、アメリカ海軍はノルウェー製の小型対艦ミサイルであるペンギンをAGM-119として採用している。これは比較的短射程だが軽量小型で、LAMPSのヘリコプター・プラットフォームにおいては、いずれも外部パイロンに1発を搭載することができる。水上艦の有するより長射程で強力な対艦ミサイルの補助として用いたり、あるいは単独で小型艦艇に対して使用されるよう構想されている。
また、ペンギンよりも小回りの効く対水上火力として、ヘルファイア・ミサイルも使用されている。これは元来は対戦車用として開発されたもので、現在配備されているのは、対艦任務に適合するように改正されたAGM-114M型である。用途に適するように弾頭を爆風破砕型に変更しており、射程は8kmである。LAMPS MK IIIは、これをパイロンに最大で4発搭載できるが、4発搭載時には充分なグラウンド・クリアランスが確保できないため、通常は2発のみ搭載する。非対称戦における対小型舟艇任務が想定される現在の環境においてはペンギンよりも適切な兵器と見なされており、ペンギンは新規調達がなされない一方で、ヘルファイアについては追加調達がなされている。
なお、SH-60Bがヘルファイアを運用する際には、レーザー照射機能を有するAAS-44の追加装備を行なっていたが、MH-60Rでは、これは当初より装備される。
対地ミサイル
オーストラリア海軍が自国のフリゲートで運用しているSH-2Gにおいて、AGM-65の運用が検討されているとも言われている。ただし、アメリカ本国のLAMPSにおいては、AGM-65の運用は予定されていない。
一方、上述のとおり、LAMPSは主として対小型舟艇用の火力として、ヘルファイア・ミサイルを有しているが、これは元来が対戦車用であり、沿岸の敵施設の攻撃などにも用いることができる。
ヘリコプター
LAMPSの空中プラットフォームであり、その最重要要素であるのがヘリコプターである。
LAMPS MK IにおいてはSH-2シースプライト系列の機体が使用される。もっとも初期はSH-2Dが使用されていたが、まもなくSH-2Fに発展した。その後、後継となるはずだったLAMPS Mk IIIで採用されたSH-60Bが、機体の大型化によりDASH用設備での運用に問題があることが判明し、LAMPS Mk Iの継続運用と強化が決定された。これによって開発されたのがSH-2Gスーパー・シースプライトで、エンジンをSH-60Bと同じくT700の双発としており、UTTASでH-60に惜敗したボーイング社のH-61で採用されていたギアボックスを使用している。現在、アメリカ海軍においては完全にLAMPS Mk IIIに取って代わられてはいるが、ノックス級フリゲートやオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートの初期建造艦などの搭載艦の輸出を受けた国では、依然として運用が行なわれている。
一方、LAMPS Mk IIIにおいては、より大型で性能的に優れたSH-60 シーホーク系列の機体が使用される。当初よりSH-60Bが運用されてきたが、現在、空母搭載の対潜哨戒型と機体を統一し、また多目的性をより向上させたMH-60R(旧称はSH-60R)による代替計画が進んでいる。これら大型のH-60系列の機体を比較的小型の水上戦闘艦で運用するに当たって、アメリカ海軍ははじめての本格着艦拘束システムの導入を決定した。機種としては、カナダや日本で既に運用実績のあったベア・トラップ・システムがRASTシステムとして採用された。これは、荒天時においても機体を安全に発着艦させ、また格納庫と飛行甲板の間を移送することができる。
上述のように、SH-60系列の機体は大型であるので、これに対応するように設計されたスプルーアンス級駆逐艦やオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートの後期建造艦、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦やアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦フライトIIAで運用されている。
脚注
参考文献
- 江畑謙介『艦載ヘリのすべて 変貌する現代の海洋戦』原書房、1988年
- 石川潤一「特集・新DD『たかなみ』型のすべて 3 搭載機」『世界の艦船』2003年8月号、90-93頁
- globalsecurity.org (2005年4月27日). “SH-2 Seasprite” (HTML) (英語). 2009年1月11日閲覧。
- globalsecurity.org (2005年4月27日). “SH-60B Seahawk” (HTML) (英語). 2009年1月11日閲覧。
- globalsecurity.org (2005年4月27日). “MH-60R Seahawk [ex Strikehawk]” (HTML) (英語). 2009年1月11日閲覧。