無線標定陸上局

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無線標定陸上局(むせんひょうていりくじょうきょく)は、無線局の種別の一つである。

定義[編集]

総務省令電波法施行規則第4条第1項第18号の2に「無線標定業務を行う移動しない無線局」と定義している。 関連する定義として

  • 「無線標定業務」が第3条第1項第12号の2に「無線航行業務以外の無線測位業務」
  • 「無線測位業務」が第3条第1項第9号に「無線測位のための無線通信業務」
  • 「無線測位」を第2条第1項第29号に「電波の伝搬特性を用いてする位置の決定又は位置に関する情報の取得」

とある。

概要[編集]

定義を敷衍してみるとおり、船舶航空機の航行以外の目的で位置決定又は位置情報を送受信する無線設備陸上の移動しないもののことである。 無線測位局の一種であり陸上局ではないが陸上の無線局ではある。

実務上は、レーダーあるいはその原理を利用した速度測定装置、侵入者検知システムなどのことである。

免許[編集]

種別コードLR。免許の有効期間は5年。但し、当初に限り有効期限は5年以内の一定の11月30日となる。(沿革を参照)

電波型式A2N、N0N又はP0Nで周波数10.525GHz又は24.2GHzで空中線電力が0.1W以下の無線標定用レーダーは技術基準適合証明の対象であり、適合表示無線設備になれば簡易な免許手続の規定が適用され、予備免許落成検査が省略されて免許される。 簡易な免許手続の適用外でも、一部を除き登録検査等事業者等による点検ができるので、この結果に基づき落成検査が一部省略される。

  • 自衛隊のレーダーについては、自衛隊法第112条第1項により免許を要せず、無線局数の統計にも含まれない。
用途

局数の推移に見るとおり、その他の国家行政用(警察用、海上保安用を含む。)が多数を占めてきたが、総務省の「無線局免許情報及び無線局登録情報」では詳細が公表されていない。 すなわち、警察自動速度違反取締装置海上保安庁の沿岸監視用レーダーなどである。 自動速度違反取締装置はレーザーを使用したものが導入されており、電波を利用するもの、つまり無線標定陸上局との置換えがにより減少している。 その他、国土交通省の河川管理や海洋観測用、気象庁電力会社気象観測用、漁業協同組合や曳航業者の沿岸監視用などのレーダー、鉄道事業者の障害物検知システムなども無線標定陸上局である。

表示

適合表示無線設備には技適マークの表示が義務付けられている。 また、技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号の表示も必須とされ、上記の無線標定用レーダーを表す記号は技術基準適合証明番号の英字の1字目のQ[1]である。 従前は工事設計認証番号にも表示を要した。

技適マーク#沿革を参照。

旧技術基準の機器の使用[編集]

無線設備規則のスプリアス発射等の強度の許容値に関する技術基準改正 [2] により、旧技術基準に基づく無線設備が免許されるのは「平成29年11月30日」まで [3]、 使用は「平成34年11月30日」まで [4] とされた。

対象となるのは、

である。

新規免許は「平成29年12月1日」以降はできないが、使用期限はコロナ禍により[8]「当分の間」延期<[9]された。

詳細は無線局#旧技術基準の機器の使用を参照。

操作[編集]

無線標定陸上局は、陸上の無線局であるので陸上系の無線従事者による管理(常駐するという意味ではない。)を要するのが原則である。

例外を規定する電波法施行規則第33条の無線従事者を要しない「簡易な操作」から無線標定陸上局に係わるものを抜粋する。

  • 第6号(5) 適合表示無線設備のみを使用する無線局の無線設備の外部の転換装置で電波の質に影響を及ぼさないものの技術操作で告示するものに基づく告示[10]にある 警察庁所属のもの以外のもので空中線電力0.1W以下のもの

自衛隊のレーダーについては、自衛隊法第112条第1項により無線従事者を要しない。

検査[編集]

  • 落成検査は、上述の通り簡易な免許手続の対象であれば行われず、登録検査等事業者等の点検ができれば一部省略することもできる。
  • 定期検査は、電波法施行規則第41条の2の6第14号により426.0MHz、10.525GHz、13.4125GHz、24.2GHz又は35.98GHz以外の周波数を使用するものが対象である。周期は別表第5号第17号により5年。一部を除き登録検査等事業者等による検査が可能で、この結果に基づき検査が省略される。
  • 変更検査は、落成検査と同様である。
  • 自衛隊のレーダーについては、自衛隊法第112条第1項により検査が除外される。

沿革[編集]

1950年(昭和25年)- 電波法施行規則[11]制定時には、無線標定について定義されておらず、無線測位局として免許されていた。 免許の有効期間は5年間。但し、当初の有効期限は電波法施行の日から2年6ヶ月後(昭和27年11月30日)までとされた。

1952年(昭和27年)- 12月1日に最初の再免許がなされた。

  • 以後、無線測位局は5年毎の11月30日に満了するように免許される。

1961年(昭和36年)- 無線標定陸上局、無線標定業務が定義された。 [12]

  • レーダーのみの気象援助局および無線標定業務に相当する移動しない無線測位局が、無線標定陸上局にみなされた。[13]
  • 以後、無線標定陸上局は従前の無線測位局と同様の5年毎の11月30日に満了するように免許される。

1969年(昭和44年)- 運用開始の届出および免許の公示を要しないとされた。 [14]

1981年(昭和56年)- 特定無線設備の技術基準適合証明に関する規則(現・特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則)が制定 [15] され、電波の型式A0、A2又はF0(現N0N、A2N又はP0N)で周波数10.525GHzで空中線電力0.1W以下の無線標定用の無線局の無線設備がこの規則の対象(証明機器、現・適合表示無線設備)に

1988年(昭和63年)- 上記の機器に加え周波数が24.2GHzの機器も証明機器に [16]

1993年(平成5年)

1998年(平成10年)- 426.0MHz、10.525GHz、13.4125GHz、24.2GHz又は35.98GHzの周波数を使用するものは定期検査が不要に [18]

2009年(平成21年)- 無線標定陸上局は全て無線業務日誌の備付けが不要に [19]

局数の推移
年度 平成13年度末 平成14年度末 平成15年度末 平成16年度末 平成17年度末 平成18年度末
総数 6,351 6,236 6,209 5,775 5,591 5,408
その他国家行政用 5,356 5,322 5,307 4,949 4,722 4,638
年度 平成19年度末 平成20年度末 平成21年度末 平成22年度末 平成23年度末 平成24年度末
総数 5,088 5,025 4,901 7,061 4,590 3,941
その他国家行政用 4,478 4,406 4,272 3,293 3,591 3,329
年度 平成25年度末 平成26年度末 平成27年度末 平成28年度末 平成29年度末 平成30年度末
総数 3,721 3,130 2,535 2,173 1,837 1,723
その他国家行政用 3,107 2,527 1,927 1,563 1,268 1,151
年度 令和元年度末 令和2年度末 令和3年度末 令和4年度末    
総数 1,484 1,178 984 588    
水防水利道路用 184 184 177 152    
その他国家行政用 913 632 465 114    
各年度の地域・局種別無線局数[20]による。
電波利用料額

電波法別表第6第9項の「その他の無線局」が適用される。

年月 料額 備考
1993年(平成5年)4月[21] 20,200円
1997年(平成9年)10月[22]
2006年(平成18年)4月[23] 18,300円
2008年(平成20年)10月[24] 6GHz以下 26,500円 周波数や周波数幅の細分は料額が変わらない場合は省略
6GHz超 14,600円
2011年(平成23年)10月[25] 6GHz以下 31,800円
6GHz超 17,500円
2014年(平成26年)10月[26] 6GHz以下 38,100円
6GHz超 21,000円
2017年(平成29年)10月[27] 6GHz以下 45,700円
6GHz超 25,200円
2019年(令和元年)10月[28] 6GHz以下 46,600円
6GHz超 19,100円
2022年(令和4年)10月[29] 6GHz以下 45,000円
6GHz超 18,700円
注 料額は減免措置を考慮していない。


その他[編集]

車両位置等自動表示システム(AVM:Automatic Vehicle Moitoring)という運行中の車両の位置及び動態(実車、空車又は作業中等)を自動的に収集しセンターで把握するシステムが、タクシー用に400MHz帯で1980年(昭和55年)から実用化 [30] され、このシステムで車両に対し電波を送信する「サインポスト」は位置信号業務用の無線標定陸上局として免許 [31] された。 しかし、GPSシステムの普及に伴い2008年(平成20年)までに全廃[32]された。

脚注[編集]

  1. ^ 特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則様式7
  2. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正
  3. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第2項および平成19年総務省令第99号による同附則同条同項改正
  4. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第1項
  5. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正の施行日の前日
  6. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第2項
  7. ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第5条第4項
  8. ^ 無線設備規則の一部を改正する省令の一部改正等に係る意見募集 -新スプリアス規格への移行期限の延長-(総務省報道資料 令和3年3月26日)(2021年4月1日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  9. ^ 令和3年総務省令第75号による無線設備規則改正
  10. ^ 平成2年郵政省告示第240号 電波法施行規則第33条の規定に基づく無線従事者の資格を要しない簡易な操作第1項第4号(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)
  11. ^ 昭和25年電波監理委員会規則第3号
  12. ^ 昭和36年郵政省令第12号による電波法施行規則改正
  13. ^ 昭和36年郵政省令第12号による電波法施行規則改正附則第2項
  14. ^ 昭和44年郵政省令第6号による電波法施行規則改正
  15. ^ 昭和56年郵政省令第37号
  16. ^ 昭和63年郵政省令第37号による特定無線設備の技術基準適合証明に関する規則改正
  17. ^ 平成5年郵政省告示第217号による昭和35年郵政省告示第1017号改正
  18. ^ 平成9年郵政省令第75号による電波法施行規則改正の施行
  19. ^ 平成21年総務省告示第321号による昭和35年郵政省告示第1017号改正
  20. ^ 用途別無線局数 総務省情報通信統計データベース
  21. ^ 平成4年法律第74号による電波法改正の施行
  22. ^ 平成9年法律第47号による電波法改正
  23. ^ 平成17年法律第107号による電波法改正の施行
  24. ^ 平成20年法律第50号による電波法改正
  25. ^ 平成23年法律第60号による電波法改正
  26. ^ 平成26年法律第26号による電波法改正
  27. ^ 平成29年法律第27号による電波法改正
  28. ^ 令和元年法律第6号による電波法改正
  29. ^ 令和4年法律第63号による電波法改正
  30. ^ 車両位置等自動表示システム(AVMシステム) 昭和55年版通信白書第2部第7章第4節3(総務省情報通信統計データベース)
  31. ^ 自動車運送事業用(2)動向 昭和56年版通信白書第2部第3章第2節14(同上)
  32. ^ 平成20年度電波の利用状況調査の調査結果および調査の概要p.2 平成20年度電波の利用状況調査の評価結果の公表 (電波監理審議会から答申)別添(総務省 報道資料 平成21年7月8日)(2009年10月21日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project

関連項目[編集]

外部リンク[編集]