恒星船

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恒星船(こうせいせん)とは、恒星間を航行する能力を有する宇宙船の総称で、恒星間宇宙船(こうせいかんうちゅうせん)ともいう。

概要[編集]

一口に「恒星間を航行する」方法と言っても、その方法や考え方は様々である。例えば有人宇宙船の場合は、その航行に要する時間的なスケールによってもその構造や機能は全く異なる。しかし、太陽系に最も近い恒星でさえ4光年あまり離れている以上、その長期にわたる航行には、快適な居住スペースが必須である。これは重力の無い、もしくは弱い環境下に人間が長時間おかれると、生体機能に支障をきたすためである。もちろん、寿命の問題や精神衛生面の問題もある。これらの問題をクリアするためには、現在の科学では実現不可能な複数の高いハードルが存在している。

これに比べて、無人の恒星間宇宙船の場合はもう少し単純だが、機械部品の磨耗や化学的・電気的な劣化もあって、太陽系外縁部に達するまでに数十年という速度で航行させる事はできない。宇宙船の劣化が進んで機能しなくなれば、目的を果たせなくなりスペースデブリになるからである。このため、恒星間を飛行させるためには、速度的な制約がある。

なお現在の物理学の制限を脱し、エネルギー保存則運動量保存則光速を破ることも想像されてはおり、フィクション(特にサイエンス・フィクション)の世界ではよく使われる。ただ、この辺りは忌憚なく言うと「物語を因果律を超えて成立させるための詭弁」の域にあり、既知の物理学の守備範囲外である(→超光速航法)。

方法[編集]

恒星船には移動手段と見た場合に大きく分けて有人・無人という分類と、光速を越えるような短い時間で目的地に到着できるものとそれよりも遅い物という分類がある。他恒星系に向かう恒星船である以上は、太陽系を抜け出るために必要な脱出速度(→宇宙速度)に達しない物は除外するとしても、「お隣の恒星が4.3光年先」という状況では、光が到達するよりも遥かに短時間で目的地につけるかそうでないかによって、航法上というよりも運用上の考え方が全く違って来て、その機能や形状、更には容積などの必須要件が異なる。

有人・無人の問題は恒星船に大きな違いをもたらすが、無人の場合なら致命的な故障となる機械的なトラブルも、十分な技術力を持つクルーがいる有人恒星船の場合なら、さしたる問題にならない。

機械的な故障の発生確率の問題は、基本設計的な部分の技術力によって克服されるべき問題であり、現存の工学的な故障も将来的には克服される可能性もあり、ロボット工学の発達で、機械仕掛けの修理工が乗船する無人恒星船なら、低速で飛行してもさらに機能を維持できる時間が伸ばせるかもしれない。しかしいずれにしても無人恒星船ばかりでは、定型の調査任務や輸送業務には十分でもそれ以外の用途は意味をなさないと思われるため、ここでは主に有人恒星船をとりあげる。

なお、無人恒星船の可能性及び問題点に関しては、SFではあるが、ジェイムズ・P・ホーガンの「造物主(ライフメーカー)の掟」冒頭の描写が興味深い。

低速有人恒星船[編集]

限られた寿命を持つ人類を、それも重力が無ければ生理機能に悪影響を受けるという脆弱性をそのままに、低速で航行する有人恒星船に乗せて宇宙を旅行させる場合に、もっとも大きなファクターとなるのは時間である。

隣星のケンタウルス座アルファ星まで、地球の惑星軌道から直接太陽系外に脱出することのできる第三宇宙速度なら772世紀少々かかる計算で、容易に行き交うことは難しい。光速に限り無く近い亜光速航行ですら数年の歳月を要する事を考えれば、その間はクルーが快適に生活出来る方法を考えなければ、恒星間航行は不可能だといえる。

冷凍[編集]

人間を恒星船に乗せて飛ばす場合、その人間の扱いに関しても色々な方法がある。現在の科学で、比較的実現へのハードルが低いのは、人間自身を冷凍して、限り無く無人恒星船に近付けて打ち上げる方法だ。この方法は冬眠船とも呼ばれている。

これには倫理的な問題もさる事ながら、安全の確保に問題がある。たとえ冷凍したとしても、宇宙空間の素粒子放射線は無遠慮に宇宙船を貫通して行き、衝突の際にはエネルギーを発生させる。この過程で凍結された人体は部分解凍と再凍結を繰り返し、また衝突した時のエネルギーは有機分子を変性させる可能性もあるため、人体を構成する分子構造が破壊される危険性がある。生命活動を行っている状態なら、少々の破壊は自己治癒するが、凍結されている場合は破壊される一方である。

このため、できるだけ短い期間で目的地に到着させて被曝量を減らすか、何らかのシールドで凍結人体を確実に守る必要があるが、前者は化学ロケットでは速度に問題があるし、後者はより技術的な進歩を待たなければならない。

遺伝子搬船[編集]

断絶への航海』(ジェイムズ・P・ホーガン)、『遥かなる地球の歌』(アーサー・C・クラーク)、『ビブリオテーク・リヴ』(佐藤明機)等で言及されており、方法論的には2種類が想定される。実働する生身の人間がいない点が冷凍と共通する。

  • 遺伝子データのみを搬送し必要時にのみ有機体として再生する方法。
  • 凍結精子及び卵もしくは凍結受精卵を搬送し、想定される目的地到着期間を前倒しで解凍受精される方法。

しかし、冬眠船と同様の倫理上の問題、宇宙船外的素粒子による被爆問題以上に、有機化技術、人工子宮の開発、凍結解除(受精)後もしくは有機化再生後に使用する教育用AIの開発もしくは、遺伝子データを採取した人物のオリジナルの記憶を複製する技術、宇宙船のアクシデントを自動対処する修復システムの構築など技術的に克服しなければならない問題が多い。

世代交代[編集]

凍結なら個体単位で「いつかは他の恒星系へ」となる訳だが、これとは別のアプローチとして、種族として低速恒星船に乗り込み、世代交代を繰り返しながら他の恒星系に到達する方法がある。この方法は世代宇宙船とも呼ばれる。

SF作品としては、ロバート・A・ハインラインSF小説宇宙の孤児』(発表は1941年)に登場している。またアイザック・アシモフの『ネメシス』(1989年)には「宇宙コロニーとして既に機能していた宇宙国家そのものを他恒星系に飛ばす」というアイデアが登場しているが、こちらは超光速航法で1世代未満にて架空の太陽系近隣恒星系に到達しているため、世代宇宙船ではない。

これは航行期間にもよるが、到達時に目的を果たせるクルーが存在している必要性から、近親交配に陥らずに種族を維持できるのに十分な人数や、それらを教育出来る機能、更にはそれらの人員が生活できるだけの食糧や水・酸素を生産・消費可能なリサイクルを続けるために、循環する生物的な環境が必須となる。また居住スペースは人体活動を維持できる十分な重力がある必要がある。これらの必然性から、遠心力で擬似的な重力を作るためにも、ちょっとした宇宙コロニー並の居住スペースや食糧生産能力(いわゆる農業を行う機能)が必要になる。

また、これらの必然性により人員の数もスペースコロニー並みになる場合には、完全に孤立した社会の規模も小規模な都市国家並みとなることも予測される。この場合は、独力で航行する以上は政治経済も独自の形態を維持する必要があると考えることができる。前出のハインラインの小説では、遥かな昔に船内で大規模な暴動が発生、船の運航に必要な人員を教育できなくなり、文明は技術を含め急激に後退、中世さながらの後退した社会で、独自の文化・価値観が迷信となって混乱を招いている様が描写されている。アシモフの作品では、強烈なカリスマ性を持つ指導者が人心を束ねる様子が描かれており、世代宇宙船では無いものの、開拓に十分な人員をもっていることから、到着後にすぐさま恒星系宇宙域の開発を行っている。

これは非常に巨大な居住スペースを持つ宇宙船を必要とするため、それを慣性に抗って駆動する強力なエンジンも必要となり、更にはそのエンジンを働かせるための十分な動力源を必要とする。こうなると、大量の燃料を抱えて飛ぶために更に巨大な推力を必要とし、ひたすら巨大化の一途を辿った化学ロケットのようなエンジンでは、もはや進む事すら不可能に近くなるため、原子力ロケット核融合ロケット電気ロケットなどの、たとえ小さい反発力でも、継続的に高速の推進剤を噴出する事で、前進が可能なロケットエンジンの登場が不可欠になる。

もし人工重力を船内に発生させる「人工重力場発生装置」なるものが発明されたなら、居住スペースはもっとコンパクトに出来るだろうが、そのような装置が作れるのであれば、むしろそれは「上も下も無い宇宙空間で、無限に一定方向に落下し続ける」(言い替えるなら「亜光速にまで加速する」)事が可能であろうから、推進エンジンに利用されると思われる。そのアイディアはジェイムズ・P・ホーガン巨人たちの星シリーズで採用されている。

人体改造[編集]

遺伝子工学サイボーグ技術の発展に伴いSFにて用いられるようになったアプローチ。惑星内で生きることを前提とした人類をそのまま恒星船で送り出すのではなく、遺伝子レベルでの人体改造や機械による身体機能の補助や強化を行い、宇宙環境での長期航海に適応した形にすることで、宇宙船に必要な要求スペックをいくらか下げることが出来るとされている。現状では技術的ハードルが高く、倫理的問題もありSFの域を出ない。この種の話題を扱った先駆的な作品としては、幾世代にも及ぶ婚姻関係で長寿を獲得した一族(長命種)がそれ以外の人類(短命種)との対立を回避するために恒星船に乗り込む『メトセラの子ら』(ロバート・A・ハインライン1941-1958発表)がある。

高速(亜光速)恒星船[編集]

いかにして実現するかは一旦棚上げとして、仮に年単位で1G(船内での観測で9.8m毎秒毎秒)の加速が可能な宇宙船が存在したならば、その恒星船の速度は光速度に近付き、目的地への到着時間をそれなりに短縮できる。SFの用語では亜光速などと言う。特に相対論による時間の遅れにより船内の時間は遅く流れるので、光速で100年かかる距離(100光年)であっても、たとえば船内時間で1年で目的地に到達することも理論上は可能である。しかし船外の時間ではやはり100光年なら100年以上かかるため、出発地に残してきた家族や友人と生きて再会することはできない(一度きりの片道航行ならそれでもよいが)。

しかし、理論の範囲内でも加速した恒星船には様々な問題が発生する。また、加速を続ける方法に関しては、様々な可能性が示唆されている。

バサード・ラムジェット[編集]

宇宙空間には一立方m当たり数個程度の水素分子があり、これ以外にも様々な塵や破片が存在するなど、完全な真空では無いため、宇宙船は絶えずそれらの衝突に晒される。地球の衛星軌道に捕まるような第一宇宙速度ですら、秒速8kmで、この速度の微細な物体が衝突しただけで致命的な破壊をもたらす運動エネルギーを持つのに、これが光速の何分の一かの速度で航行していたとすれば、宇宙船はひっきりなしに水爆の直撃を食らうような状況に晒される危険性が高い。こと恒星近辺で微惑星などは太陽風で粗方吹き飛ばされているが、外宇宙にはそういった微細な天体がまばらに浮遊していると考えられている。

そのため、こういった宇宙空間に散在する微小天体は何らかの方法で斥力を発生させて衝突を回避する方法が必要になる。

その一方では、空間中に散在している水素分子を主とする星間物質を強力な磁場によってかき集めて燃料(推進剤)にする、という、バサード・ラムジェット(en:Bussard ramjet、恒星間ラムジェットとも)が提唱されている。ラムジェットエンジンが、自身の、空気との相対速度自体によって作動することになぞらえている。理論上、作動させられる速度までの加速に必要な燃料さえあれば、後はいくらでも加速できるという事になる。磁場を調節することで水素分子だけをラムスクープ(収集用の磁場を発生させる枠)に捉え、質量の大きな微小天体は素通りさせてしまう巨大なザルのようなものが想定されていて、宇宙船本体はザルの中心にぶら下がっている。

このシステムの問題は星間物質を集めるための磁場(ラムスクープ)の直径が惑星なみの大きさになる事、ラムスクープを形成するためのエネルギー、そして磁場が船内の機器や人体に与える影響である。星間水素密度が見積もりより遥かに薄く、1970年代にはバサード・ラムジェットは現実的には不可能であることがわかっている[要出典]

バサード・ラムジェットに関連した考えとして、加速と同規模のエネルギーを必要とする"減速"のため、同様に巨大な磁場を展開して、星間物質の抵抗を宇宙船のブレーキとして利用しようというアイデアも提案されている(→マグネティックセイル)。

楽観的な科学・技術・工学的予測にもとづきポジティブな結論の提案を示したロバート・バサードen:Robert W. Bussard、バッサードとも)にちなみこの名がある。

重力加速[編集]

原理的には、既存の天体の引力を利用して船の運動を変化させるスイングバイと呼ばれる方法を用いて、化学ロケットで得られるよりもはるかに早く加速する事が可能である。 実際にこの方法を用いるためには、

  1. 適切な天体がスイングバイに利用できる位置に存在すること。
  2. 天体の運行を精密に予測でき、その予測の上に、スイングバイに用いるべき進路を正確に計算できること。
  3. 計算結果にしたがって正確に航行できること。

が必要となる。

現在、各種の無人探査機が太陽系内を航行するにあたって、太陽系内惑星を利用してスイングバイすることが行われているが、 将来恒星間旅行にスイングバイを利用する際には、これらとは大きく異なったプロセスになるであろう。

脱出速度に達した人工天体 
スイングバイで太陽系外に向け飛行した人工天体ではボイジャー1号同2号パイオニア10号同11号が存在するが、パイオニア11号は1995年、10号は2003年に信号途絶し、ボイジャーも1号が2020年、2号が2030年以降には電源の発電量低下で通信できなくなると見られており、これらは機能停止以降「太陽系外に向けたメッセージカプセル」となる。また特定の恒星系を正確に目指している訳ではないため、恒星系内を生活の場とする地球外文明に拾われる可能性が出るのは、数十~数百万年より後だと考えられている。

人工的に重力をコントロールする技術が開発されたなら、事はもう少し簡単になる。上下の概念に欠ける宇宙空間で「落下」する事が可能になるためで、この方法でなら、相対性理論上の物質が加速出来る最大値の亜光速までの加速も不可能では無いとされる。

光速に縛られない航法[編集]

超光速航法[編集]

亜空間航行・超空間跳躍[編集]

サイエンス・フィクション」の範疇を越えて「サイエンティック・ファンタジー」の分野に突入してしまう程に、現代科学の埒外な技術である。俗に言う「テレポーテーション」の範疇だが、現代科学でも、物質ストリームによるテレポーテーション現象までは確認されている。

しかし人間がパッと消えてパッと現れる、というのではなく、原子レベルで同じ構造体が変化を同じくするという現象である。この現象は生前のアルバート・アインシュタインが光子で確認し「spooky(オバケみたい)だ」と評したとされる。エンタングルメントという状態にある原子構造が、未解明の相互作用によって片方の変化がもう片方に影響する現象である。

これを非常に莫大な確率の問題を解決して行けば、やがては送受信関係にある転送装置間で原子レベルに分解・再構築する事も可能になるかも知れないが、同じ方法で宇宙船を何も無い遥か先の天体近くで再構成させるのは、確実に原子の流れをコントロール出来ない事にはまず無理だと考えられている。

上記のような不確実な量子テレポーテーションが恒星間航行に使用されるとは考えにくい。一方の空間を操作する方法に至っては、数学的モデル上では亜空間や異次元は存在するものの、物理現象として空間の歪みなり穴なりを発見した事例は無く、これらを移動に利用できるかは未知数である。

一般的にブラックホールホワイトホールワームホールはSFファンにはお馴染みだが、ブラックホールは物質を吸い込む際に素粒子レベルにまで分解してしまうし、数学モデル上で存在が指摘されているホワイトホールで分解された素粒子が再構築されて吐き出されるとは考えにくい。たとえ再構築されても、ブラックホールの高重力で潰されている最中の状態で再構築されても技術的有用性は低い。ワームホールも同様である。

このような航法では、時空間的な特異現象を利用するか、まさにその特異現象を人工的に起こす必要がある。しかし前者はそのような現象が起きている場所まで到達できなければならず、後者に至っては、天体が発生させるような超高エネルギーを必要とする。

動力源としての可能性を持つ反物質[編集]

現在、恒星間航行を可能にする宇宙船の動力となる高エネルギー源として、もっとも有望視されているのは反物質である。加速器によって生成した反粒子を十分に冷却した状態で反応させる事により、安定した反物質(反水素)が生成できる事は確認されており、これを安全に保存できるなら、将来的なエネルギー源(正しくはエネルギーを保有する方法)として利用できる可能性がある。ただし、現代の技術水準では1gの反物質を製造するには巨大加速器を100億年にわたって反物質の製造に専念させる必要がある。

ダイソン球と呼ばれる、恒星を巨大な人工構造物で覆って、恒星から発生するエネルギーを利用する超巨大な構造物のアイデアがあるが、これを利用して恒星の発するエネルギーをすべて反物質製造に費やせるなら、数年~数十年程度で恒星間航行に必要な動力が得られると云う計算がある。そこまで大掛かりな装置で無くとも、公転軌道上に直径750m程の大きな粒子加速器付きの人工惑星(形状としては、太陽に向いた巨大アサガオのような物)を200個設置すれば、約20年程で恒星間航行が可能になるのに十分な反物質20トンが蓄えられるという。

現在の技術水準では、直径750mの人工惑星200個を太陽の公転軌道に乗せることも非常に難しいかもしれないが、月面のマスドライバーや惑星軌道上の工場衛星が現実的な未来の話として挙がっている以上、途方もない夢物語と云う水準の話ではない。

参考資料[編集]

  • 『最新宇宙飛行論 はるかなる未来文明への飛翔系』(発行:学習研究社・ISBN 978-4051059521・1991年11月)

関連項目[編集]