ルパン対ホームズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

文学
File:Lit.jpg
ポータル
各国の文学
記事総覧
出版社文芸雑誌
文学賞
作家
詩人小説家
その他作家
お知らせ
このテンプレート解説ページができました。使用されるべき記事が決まりましたので一度ご確認ください。

ルパン対ホームズアルセーヌ・ルパン対シャーロック・ホームズとも, Arsene Lupin contre Herlock Sholmès) は、モーリス・ルブランアルセーヌ・ルパンシリーズの一篇。原題を正確に訳すと、「アルセーヌ・ルパン対エルロック・ショルメ」。

かのイギリスの名探偵ホームズを基にしたパロディーキャラ「エルロック・ショルメ」とフランスの大怪盗ルパンとの世紀の対決を描いた2話(『金髪の美女』、『ユダヤのランプ』)を指す。エルロック・ショルメ(Herlock Sholmès)はアナグラムで、SholmesのSをファーストネームに持っていくとシャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)となる。

ショルメは初登場作品「遅かりしシャーロック・ホームズ」では、雑誌発表時、「シャーロック・ホームズ」本人として登場した。が、これはすぐさまシャーロック・ホームズシリーズの原作者アーサー・コナン・ドイルから厳重な抗議を受けた。作者ルブランはこのキャラクターを「ショルメ」と改名し、これ以降キャラクター付けや外見も明確にホームズとは違った別キャラクターとして構築し直した。「遅かりし~」は単行本(「怪盗紳士ルパン」)収録時にはショルメと直されキャラクター付けも修正されているし、その次の作品となる本作「ルパン対ショルメ」では元祖ホームズに遠慮しない、思い切った「ショルメ」というキャラクターとしての対決が描かれている。ホームズの盟友ワトスンにあたるキャラクターも、ウィルソンという別キャラクターである。

しかし、日本語訳では古くからショルメ(Herlock Sholmes)をシャーロック・ホームズと訳す事が慣習となってきた(ただし、ワトスンはウィルソンのまま)。アナグラムになじみのない日本人向けの、パロディーへの分りやすさを優先させた処置だが、この処置は日本の読者に原作を誤解させる結果ともなっている。


注意以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。


目次

[編集] あらすじ

[編集] 金髪の美女

とある数学教授が古物商で購入した年代物の書き物机が、その翌日には盗難されてしまう。これに端を発して、アルセーヌ・ルパンと彼の「女友達」である金髪の婦人にまつわる事件が続く。いずれの事件でも、老警部ガニマールの堅固な包囲にかかわらず、ルパンと金髪婦人は決して脱出不可能なはずの状況下で姿を消してしまう。

一連の事件の中で歴史的価値も高い青ダイヤを盗まれたクローゾン夫妻によって、イギリスから名探偵エルロック・ショルメが招聘される。ショルメは当初はルパンの数々の妨害によって二の足を踏み、盟友ウィルソンも重傷を負わされてしまう。

しかし、ルパンが姿を消した家がすべて同じ建築士の手になることに気付いたショルメは、この建築士に助手として働いていたルパンが、自分のために数々の秘密のからくりをこれらの家屋に施していたことを見破り、ついにはルパンの最大のアジトをつきとめる。

これに対してルパンも先手を打って、ショルメを拉致し、イギリス行きの貨物船に閉じ込めて送り返す。ショルメが不在のうちにアジトから撤退しようとしたルパンだったが、ショルメは彼の思惑を見破ってフランスに戻って来てしまう。

ショルメの活躍でルパンは生涯二度目の逮捕を受けることになる。しかし、フランス警察の意表をついて脱走を果たしたルパンは、パリ北駅で好敵手ショルメに対して別れの挨拶を果たすのだった。

[編集] ユダヤのランプ

フランスのダンプルバル男爵から、イギリスのエルロック・ショルメに依頼が届く。それとほぼ同時にアルセーヌ・ルパンからこの事件にはかかわらぬ様にという文書もとどいた。この忠告を「挑発」とみなしたショルメはすぐさまウィルソンとともにパリへ出立する。

男爵の依頼は、古いユダヤのランプ(それ自体の価値は低いが、多数の宝石を散りばめた金製の置物「黄金の怪獣」が中に隠してある)の盗難事件の解明だった。男爵邸につくや、ショルメは現場に残された数々の証拠がまったくの偽装であり、窃盗は内部犯行であることをいちはやく見抜く。

ルパンは事件の真相を追うショルメに次々と謎をかけ、彼を翻弄するが、ショルメはそんなルパンの言葉の端々に手がかりをみつけ、ついにはユダヤのランプを男爵邸から持ち出した犯人にたどり着く。しかしそれは男爵家に悲劇を招くものでもあった。

[編集] ショルメとホームズの関係

  • 今作品のショルメをホームズと認めるかについては、上記の経緯に加えて、ショルメの容姿がホームズのそれと一致しないこと(たとえばショルメは口ひげをたくわえている)や、ワトスンことウィルソンへの態度が彼らしくない(友人というより下僕に近い扱いをしている)こと、そのウィルソンが早々に退場して結局はショルメの単独行になってしまう展開などから、難しいといわざるを得ない。
  • にもかかわらず、本作はもっとも有名なホームズものパスティーシュの一編である。ドイルの筆になる「聖典」に対する「外典」に位置づける「宗派」も存在する。
  • どちらの作品も、エルロック・ショルメの視点からの追跡劇が大半を占める。異郷フランスにおいて地の利と組織力において勝るルパン相手に、ショルメが孤立無援に近い状態で捜査を進めるという、不利なだけにかえって盛り上がる「アウェーゲーム」が展開される。
  • 構成的には、作中の「私(ルパンの伝記作家)」があとでウィルソンから聞いた話だという体裁をとっている。
  • やはりどちらの作品でもショルメは真相にたどりつき、青ダイヤやユダヤのランプといった盗難品も取り戻すことに成功する。しかし、「真犯人」を世に公にすることは諸事情から憚るしかなかった。このためにこの二つの事件はショルメにとって「あまりパッとしない事件」ということになった。かくて、エルロック・ショルメとアルセーヌ・ルパンの対決は、引き分けとして知られることになる。他の多くのホームズものパスティーシュ作品と同じく、「なぜこの事件はワトスンの手で発表されなかったのか」の理由付けがなされているということと見る事もできる。
  • エルロック・ショルメの住いは、ベーカー街221Bならぬ、パーカー街219。
  • 今作品を含むルパン作品の世界には、「エルロック・ショルメ」とは別に、小説中の人物としてれっきとした本物の「シャーロック・ホームズ」が存在する。エルロック・ショルメは、「まるでコナン・ドイルの小説の中から抜け出してきたような」と噂されて登場するのである(が、実際の彼が登場すると、シャーロック・ホームズのような容姿を期待していた周囲の人間は、そのイメージとのギャップに少なからず落胆を強いられる、という描写までハッキリとある)。
  • なお、作者ルブランはエルロック・ショルメに、鹿撃ち帽をかぶらせ、インバネスマントも着用させている。

[編集] ルパンとショルメ

エルロック・ショルメは、その後のルパンものにもしばしば登場する。奇巌城において、ルパンの三度目の妻をはからずも射殺してしまったのもショルメである。ルパンはこのイギリス人探偵に完全な勝利を収めることだけはできず、ホームズとは別キャラクターにしたとはいえ作者ルブランも一定の配慮を払っている。

D・H・ローレンスは、「ユダヤのランプ」における、ドーバー海峡航路を渡る船上でルパンとショルメがくつろぎあい、その傍らをルパンに気付かないイギリスの警察官たちが行き来する場面を指して、「かつてイギリスがフランスから受けた最大の敬意の表現」と評した。また自身熱烈なシャーロキアンでもあるエラリー・クイーンは、フランス警察相手には常勝不敗を誇っていたルパンが、ショルメ相手には引き分けどまりだったことを指摘、「フランス紳士ルブラン氏なりの、あらゆるイギリス人にたいする、忘れがたい挨拶であったとはいえないだろうか」と評している。

[編集] その他

  • 「ルパン対ホームズ」という構図は、特に日本において評判が高く、芦辺拓の『真説 ルパン対ホームズ』や伊吹秀明の『養蜂場の決闘(『シャーロック・ホームズの決闘』に収録)』などいくつかのパスティーシュが書かれている。特に後者は隠居後のホームズが我流武術「バリツ」で、挑戦しに来たルパンは我流の総合格闘技で、ワトソンの立会いの下一対一の果し合いで「対決」する怪作。
  • 1981年に東映動画が「金髪の美女」を堂々と「ルパン対ホームズ」としてアニメ化。ルパンは広川太一郎(ちなみに広川は、後述の「名探偵ホームズ」でホームズの声を担当している)、ホームズは山城新伍が声優を担当。ラストシーンはホームズが気球で飛び去るルパンを見送るという、アニメならではの大胆な脚色がされていた。
  • 宮崎駿のアニメ『名探偵ホームズ』におけるモリアーティ教授は、白スーツ姿にシルクハットにモノクルと、明らかにルパンをイメージしたキャラクターになっている(ただし、中身は典型的な宮崎アニメ風ダメ中年)。


他の言語