ボックスオフィス・ボム

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ボックスオフィス・ボム / ボックスオフィス・フロップBox-office bomb / box-office flop)は、映画産業において興行的に大きな失敗をした映画作品を意味する用語。box-officeは原義的には映画館のチケット売り場(かつては箱型だったことから)のことであり、転じて興行収入を意味する。

概要[編集]

通常、製作費とマーケティング費の合計が興行収入を上回った映画は「爆死」と認識され、主に事前の期待値が高く、製作費が高額になる大手映画スタジオの製作作品に対して用いられる[1][2]。また、批評家からの評価が賛否両論となることでも「爆死」が引き起こされることがあるが、低評価を受けた映画が必ずしも興行収入に悪影響を与えるとは限らない[3]

原因[編集]

外的要因[編集]

映画の公開時期によって興行収入が大きな影響を受ける場合があり、この例としてはD・W・グリフィスの『イントレランス』が挙げられる。同作はアメリカ国内における第一次世界大戦に対する反戦感情が高かった時期に製作が始まったが、製作が長引いたことで参戦機運が高まった時期に公開され、国内世論とかけ離れた内容になってしまった結果、興行的に失敗した[4]。また、国際サッカー連盟(FIFA)が出資して製作されたドキュメンタリードラマユナイテッド・パッションズ英語版』は、アメリカではFIFA幹部の不正に関する捜査が行われていた時期に公開され、またサッカーへの関心が低かったこともあり興行成績は振るわず、オープニング週末の興行収入は918ドルという結果に終わった[5]

この他にアメリカ同時多発テロ事件ハリケーン・ハービーの上陸、新型コロナウイルス感染症の流行などの国家非常事態や災害被害が発生した直後に公開された映画は興行収入に大きな影響を受けることが多い[6][7][8]

内的要因[編集]

製作費や宣伝費が高額になり過ぎた結果、興行収入が好調でも「失敗した」と見なされる場合があり、この例としては『天国の門』が挙げられる。同作は製作期間が予定よりも3か月間長引いた結果[9]、製作費が当初の1200万ドルから4400万ドルに膨れ上がった[10]。最終的な興行収入は350万ドルに留まったため、興行的な大失敗となってしまった[11]。『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』は製作費や配給費など2億8120万ドルの費用が掛かったが[12]、興行収入が1億1900万ドル、テレビ放送収入などを含めた全体の収益が2億290万ドルだったため、7830万ドルの損失を出している[12][13]。『ジョン・カーター』は興行収入2億3400万ドルを記録したものの、製作費2億5000万ドル及び全世界での宣伝費用の回収はできず、最終的に2億ドルの損失を出している[14]

損失の回収[編集]

公開当初は「失敗」と判断された映画が、他の要因で「成功」と判断される場合がある。製作国では興行的に失敗した映画が海外市場で成功を収める場合や[15][16]、テレビ放送権売買、映画館以外での配給、家庭用ソフト販売などを通して損失を回収することがある[17]。また、公開後にカルト的な人気を得たり、後年再評価されることで成功と判断されることもある。これらの例としては『めまい』の他[18]、『ブレードランナー』『オズの魔法使』『素晴らしき哉、人生!』『市民ケーン』『夢のチョコレート工場』が挙げられる[19]

映画スタジオへの影響[編集]

極端なケースでは、1本の映画の興行不振で映画スタジオが財政赤字や倒産に追い込まれることもある。例としてはユナイテッド・アーティスツ(『天国の門』)[20]カロルコ・ピクチャーズ(『カットスロート・アイランド』)が挙げられる[21][22]。また、『ライラの冒険 黄金の羅針盤』の興行不振はニュー・ライン・シネマワーナー・ブラザースに吸収される原因になったと言われている[23]

スクエア・ピクチャーズが製作した『ファイナルファンタジー』は賛否両論の評価を受け、1億4500万ドルの製作費を回収することができなかった[24]。同作の失敗を受けたスクエア・ピクチャーズは映画製作から撤退し、その後スクエア・エニックスの連結子会社(スクウェア・エニックス イメージ・スタジオ部英語版)になった[25]イメージムーバーズ・デジタルが製作した『少年マイロの火星冒険記3D』は1億4000万ドル以上の損失を出し、名目ドルベースで最も大きな損失を出したボックスオフィス・ボム作品として知られている。同作の製作時点でイメージムーバーズ・デジタルは閉鎖することが決まっていたが、同作の失敗が明らかになった後は同社の他の映画企画が全て中止された[26]

インディペンデント映画[編集]

フラッシュバック・キラー』はアメリカでの興行収入が30ドルという結果となった。同作の製作費は120万ドルで、映画俳優組合からの要件を満たすためにダラスで6日間だけ上映されたことから、こうした興行成績になった[27][28]。出演者のレオ・グリロ英語版によると6枚のチケットが売れ、そのうち2枚が出演者が購入したという[29]。また、イギリス映画『Offending Angels』も興行収入が100ポンド(150ドルに相当[30])という結果を出して話題となった[31]。同作の製作費は7万ポンド(10万5000ドルに相当[30])で、「本当に酷いゴミの山」(BBC[32]、「救いようがない映画」(トータル・フィルム英語版)などと酷評された[33]。『The Worst Movie Ever!』は上映館1館のみで興行収入11ドルを記録し、『フラッシュバック・キラー』を上回る最低興行成績を記録している[34]

出典[編集]

  1. ^ Greatest Box-Office Bombs, Disasters and Flops”. Filmsite.org. 2013年3月6日閲覧。
  2. ^ The 15 Biggest Box Office Bombs”. CNBC.com (2010年8月23日). 2013年3月6日閲覧。
  3. ^ As 'Battleship' Flops: Ten Other Memorable Box-Office Bombs | The Playlist”. Blogs.indiewire.com (1995年12月22日). 2013年3月6日閲覧。
  4. ^ Intolerance (1916)”. www.filmsite.org. 2017年11月7日閲覧。
  5. ^ FIFA film 'United Passions' one of worst in U.S. box office history”. ESPN (2015年6月18日). 2015年6月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年6月18日閲覧。
  6. ^ Kelley, Seth (2017年8月27日). “Box Office Disaster: Lackluster Releases, Mayweather-McGregor, Hurricane Harvey Create Slowest Weekend in Over 15 Years”. Variety. https://variety.com/2017/film/news/box-office-hitmans-bodyguard-annabelle-creation-mayweather-mcgregor-hurricane-harvey-1202539879/ 2017年11月9日閲覧。 
  7. ^ Weekend Box Office”. Boxofficeguru.com (2001年9月17日). 2011年12月8日閲覧。
  8. ^ Erlichman, Jon (2020年3月13日). “Box office bomb: COVID-19's impact on the movie theatre business”. BNN Bloomberg. https://www.bnnbloomberg.ca/box-office-bomb-covid-19-s-impact-on-the-movie-theatre-business-1.1405416 2020年3月17日閲覧。 
  9. ^ Miller, Alexander (2015年4月27日). “Unmaking of an Epic – The Production of Heaven's Gate”. filminquiry.com. 2017年11月7日閲覧。
  10. ^ Burr, Ty (2012年11月24日). “Ty Burr revisits 'Heaven's Gate'”. The Boston Globe. https://www.bostonglobe.com/arts/2012/11/24/burr-revisits-heaven-gate/km6gp1cBbxY75qxWrFs6tM/story.html 2020年1月13日閲覧。 
  11. ^ Heaven's Gate (1980)”. Box Office Mojo. 2020年1月13日閲覧。
  12. ^ a b Bunting, Glenn F. (2007年4月15日). “$78 million of red ink?”. Los Angeles Times. 2014年5月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月13日閲覧。
  13. ^ Bunting, Glenn F. (2007年3月5日). “Jurors hear tales of studio maneuvering”. Los Angeles Times. オリジナルの2009年3月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090327110637/https://articles.latimes.com/2007/mar/05/business/fi-cussler5 2021年8月4日閲覧。 
  14. ^ “John Carter flop to cost Walt Disney $200m”. bbc.co.uk (BBC News). (2012年3月20日). https://www.bbc.co.uk/news/business-17442200 2021年8月28日閲覧。 
  15. ^ 'Pacific Rim' And More Domestic "Flops" That Became Global Hits”. Forbes. 2015年8月19日閲覧。
  16. ^ Fleming, Mike Jr. (2013年8月7日). “Isn't It Time To Take 'Waterworld' Off The All-Time Flop List?”. Deadline Hollywood. 2013年8月13日閲覧。
  17. ^ 11 Beloved Movies That Were Box Office Flops”. Mental Floss. 2015年8月19日閲覧。
  18. ^ “Vertigo: From box-office flop to 'greatest film of all time'”. The Irish Times. (2018年7月12日). https://www.irishtimes.com/culture/film/vertigo-from-box-office-flop-to-greatest-film-of-all-time-1.3561982 
  19. ^ “11 Beloved Movies That Were Box Office Flops”. Mental Floss. (2015年11月10日). https://www.mentalfloss.com/article/59990/11-beloved-movies-were-box-office-flops 
  20. ^ Welkos, Robert W.. “'Heaven's Gate': The film flop that reshaped Hollywood”. latimes.com. https://www.latimes.com/entertainment/movies/la-et-mn-heavens-gate-flop-archive-20040612-snap-story.html 2018年12月25日閲覧。 
  21. ^ Sterngold, James (1996年3月31日). “Debacle on the High Seas”. The New York Times. https://www.nytimes.com/1996/03/31/movies/debacle-on-the-high-seas.html 2018年12月25日閲覧。 
  22. ^ “Largest box office loss”. Guinness World Records. (2012年4月30日). https://www.guinnessworldrecords.com/world-records/69937-largest-box-office-loss 2019年7月17日閲覧。 
  23. ^ Davis, Erik (2008年2月28日). “Breaking: New Line Cinema Says Goodbye!”. Cinematical.com. 2012年10月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年12月8日閲覧。
  24. ^ Briscoe, David (2002年2月1日). “'Final Fantasy' studio to fold”. The Independent. https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/news/final-fantasy-studio-to-close-9276846.html 2019年6月2日閲覧。 
  25. ^ Square-Enix Co, LTD. Annual Report 2007”. pp. 29, 30, 53. 2009年3月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月5日閲覧。
  26. ^ Finke, Nikki (2010年3月12日). “Disney Closing Zemeckis' Digital Studio”. https://www.deadline.com/2010/03/disney-closing-zemeckis-digital-studio-in-2011/ 2010年11月21日閲覧。 
  27. ^ Faraci, Devin (2006年12月31日). “What if they released a movie and nobody came?”. CHUD.com. オリジナルの2011年6月7日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110607011632/http://www.chud.com/8378/WHAT-IF-THEY-RELEASED-A-MOVIE-AND-NOBODY-CAME/ 2007年1月2日閲覧。 
  28. ^ Brunner, Rob (2007年2月9日). “The Strange and Twisted Tale of ... The Movie That Grossed $30.00”. Entertainment Weekly. https://www.ew.com/ew/article/0,,20011268,00.html 2008年1月24日閲覧。 
  29. ^ Mueller, Andrew (2007年1月16日). “This Film Is Absolute Dross – People Are Going to Love It!”. The Guardian (London). https://www.theguardian.com/film/2007/jan/15/features.features11 2007年1月15日閲覧。 
  30. ^ a b Officer, Lawrence H.. “Dollar-Pound Exchange Rate From 1791: 2000–2002”. MeasuringWorth. 2017年11月9日閲覧。
  31. ^ logboy (2006年2月3日). “Offending Angels. £70k Budget, £89 Box Office. 8 DVD Sales to Double its Takings”. Twitch.net. オリジナルの2011年5月24日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110524001729/http://twitchfilm.com/news/2006/02/offending-angels-70k-budget-89-box-office-8-dvd-sales-to-double-its-takings.php# 2007年1月16日閲覧。 
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  33. ^ Harley, Kevin (2002年5月). “Offending Angels review”. Total Film. https://www.gamesradar.com/offending-angels-review/ 2021年6月15日閲覧。 
  34. ^ The Worst Movie Ever! (2011)”. Box Office Mojo. 2011年8月25日閲覧。

関連項目[編集]