クリスタル・ガラス

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クリスタル・ガラス (英語:lead glass) は、高品位の無色透明ガラスのことである。

クリスタル・ガラスの例
クリスタル・ガラスの例 伝統工芸品江戸切子

概要[編集]

一般的には、珪砂(SiO2)、カリウムソーダ灰というガラスの主成分に、酸化鉛(PbO)を添加して形成される鉛ガラスの一種を指す。 ガラスの製造時に酸化鉛等を添加することでガラスの溶解温度が低く抑えられ成形もソーダガラスに比べて容易になること、また透明度屈折率が高まり水晶(クリスタル)のように輝く透明なガラスになることから、通称として「クリスタル」と呼ばれる。

一般的にはの含有量が上がるほどの透明度や屈折率が高くなり、また比重が大きくなるとともに打音が澄んで余音を持つ。このため、特にワイングラスなど工芸用では酸化鉛が多いものが好まれる。 しかし、その実現には、溶解・成形・徐冷・加工などの高度な製造技術や、鉄分など不純物の除去や他の混合物の配合など全体的な化学組成の調整が重要であり、一概に鉛の含有量が高ければ良いという訳ではない。光学的に無色透明であるよりもわずかに青みを帯びた方が肉眼では「美しい透明」と感じがちなため、アルカリ金属酸化物などの着色剤を用いて調整することが多い。

呼称の科学的妥当性[編集]

本来、「クリスタル」とは二酸化ケイ素 (SiO2) が結晶してできた鉱物石英)のうち、大きく透明度が高く、宝石(半貴石)としての価値を持つものである。一方、科学(化学)的な意味での「ガラス」とは結晶を形成していない非晶質のことであるため、「クリスタルガラス」という言葉は科学的な語義の上では明らかな矛盾があるといえる。(「クリスタルガラスはクリスタルかガラスか?」といえば「クリスタルではなくガラス」である。) 科学的な用語というよりはむしろマーケティング上の用語であり、下記に述べる用途を中心に、高級・装飾向けのガラスの代名詞として様々なガラス食器ブランドに利用されている。(ちなみにクリスタルガラス同様、高級な装飾的工業製品で用いられる「サファイアガラス」は科学的に天然サファイアと同じ組成であるが、サファイアは結晶であり「サファイアガラス」との呼称にはやはり矛盾がある。「サファイアガラスはサファイアかガラスか?」といえば「ガラスではなくサファイア」である。ただし宝石業界の慣行として合成品は基本的に宝石(サファイア等)として認めない)

定義[編集]

日本硝子製品工業会によるクリスタルガラスの定義は、

  1. 酸化鉛を含む:酸化鉛を主要成分として含むガラス
  2. 酸化鉛を含まない:酸化カリウム、酸化バリウム、酸化チタニウムなどを主要成分として含むガラス

の2種類に大別され、更に「高い透明度を有し、かつ屈折率 nDが1.520以上で光沢のある美しい輝き、および澄んだ音色で特徴付けられる」としている[1]

更に酸化鉛の含有率で細分化し

  • フルレッドクリスタルガラス、酸化鉛を30%以上含み密度が3.00g/cm3以上
  • レッドクリスタルガラス、酸化鉛を24%以上含み密度が2.90g/cm3以上
  • セミレッドクリスタルガラス、酸化鉛含有量が24%未満で酸化鉛単独もしくは酸化カリウム、酸化バリウム、酸化亜鉛と併せて10%以上含む

また酸化鉛を含まず、酸化亜鉛を単独または酸化カリウム、酸化バリウム、酸化チタニウムを共に10%以上含むものを、主要成分を基にそれぞれ「カリクリスタルガラス」、「バリウムクリスタルガラス」、「チタンクリスタルガラス」などと呼ぶ[1]

鉛規制との関係[編集]

ハイテク機器におけるROHS指令に代表される鉛の使用を忌避する動きから、製造過程・廃棄後の処理等・鉛逸散防止が重要視されている。 食器用の鉛クリスタルガラスを通常の使用条件で利用している限り、問題になる程の鉛成分溶出はないとされ、輸入時の検査基準をはじめ管理も行われている。

鉛クリスタルに代わり、チタン化合物やバリウム化合物のガラスへの添加によって屈折率や比重を既存のクリスタルガラスに近づけた「無鉛クリスタルガラス」[2]も存在する。また、高品位の無色透明ガラスがクリスタルであると解釈して、光学ガラスをもってクリスタルと呼称し代替とする場合もある。

組成[編集]

それぞれ、少量の酸化アルミニウム酸化ホウ素酸化マグネシウム酸化カリウム酸化ナトリウムなどを含有する場合もある。

用途[編集]

成型・徐冷後に、高い透明度のガラスとなるため、ガラス食器グラス類・ガラス工芸に用いられる。 素材としては、カッティング装飾による一層の輝きを与られるカットグラス(切子)向け、またとんぼ玉等のバーナーワーク向けのグラスロッド等。製品としては、高級洋食器・グラス・トロフィーシャンデリアジュエリービーズ等となり販売される。

工業用途として代表的なのは、テレビのブラウン管用のガラス。 医療・研究・建築・工学的用途向けに鉛の含有量を高くし放射線の遮蔽能力を強化した放射線遮蔽ガラスがあげられる。日本では日本電気硝子 が製品を販売している。

クリスタル・ガラス食器の代表的なメーカー(ブランド)[編集]

その他[編集]

労働衛生[編集]

光源の温度が約1800 ℃以上である場合には短波長の可視光ブルーライト)の実効輝度が、許容値を超えると推定される。従って、ブルーライトによる網膜障害の危険性が示唆される[3]

参考文献[編集]

  • 浅見 進一『19.2 ガラス(19.装飾用セラミックス)』窯業協會誌(日本セラミックス協会 発行) Vol.72(820)、P.C348-C349、1964.3

脚注[編集]

  1. ^ a b クリスタルガラス定義 日本硝子製品工業会 2009年9月25日
  2. ^ 欧州の RoHS 規制と無鉛クリスタルガラス 日本陶磁器産業振興協会 (PDF)
  3. ^ クリスタルガラス製品の製造に伴って発生するブルーライトの有害性産業衛生学雑誌 Vol.55 (2013) No.3 p.85-89

関連項目[編集]

以下の物は、クリスタル・ガラスを使った製品である。

外部リンク[編集]