カルナ

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宿敵のアルジュナと対面するカルナ(右)

カルナ(कर्ण IASTKarṇa)は、インド叙事詩マハーバーラタ』に登場する不死身の英雄。クンティーがクル王パーンドゥの妃となる以前に、太陽神スーリヤとの間に生んだ子。パーンダヴァ5兄弟と敵対するカウラヴァの中心的人物の1人。優れた弓の使い手であり、大英雄アルジュナを宿敵とする。

生い立ち[編集]

弓の名手だったクル王パーンドゥは、リシ(聖仙)が変化した鹿を知らずに射殺してしまったために、性交をすると死んでしまう呪いをかけられていた。彼の最初の妻クンティーは、リシのドゥルヴァーサから任意の神を父親とした子を産むマントラを授かっていた。クンティーは夫にその事実を告白し、許しを得てダルマヴァーユインドラと交わり、それぞれユディシュティラビーマアルジュナの三人の子供を授かった。二人目の妻マードリーアシュヴィン双神と交わり、ナクラサハデーヴァの双子を生んだ。これがパーンダヴァ5兄弟である。しかし、クンティーは結婚するより以前、マントラを授かった直後に好奇心からスーリヤを呼び出してしまい、スーリヤの子を生んでいた。これがカルナであった。未婚での出産の発覚を恐れたクンティーは、生まれたばかりのカルナを箱に入れて川に流してしまった。カルナは御者アディラタに拾われ、ラーダーという養母に育てられた。

黄金の鎧[編集]

クンティーは、初産の不安と子供への愛情から、スーリヤの子を産む条件として、生まれてくる子供が父と同じ黄金に輝く鎧を所有することを要求した。その結果、カルナは黄金の鎧と耳輪を身に着けた姿で生まれてきた。この鎧は皮膚のごとくカルナの体の一部としてつながっていたため、脱ぐことができなかったが、この鎧が彼の体にある限りカルナは不死身であった。

宿敵との出会い[編集]

バリにあるアルジュナの像

長じて弓の名手となったカルナは、クル族(パーンダヴァ、カウラヴァ双方の属する一族)王家の主催する競技会に飛び入りで参加した。競技会にはアルジェナらパーンダヴァ兄弟も参加し、様々な武芸を披露していた。中でもアルジュナが一際優れた技を揮っていた。誰もがアルジュナの技に感嘆し、バーンダヴァを称賛する中で躍り出たカルナは、アルジュナに勝るとも劣らない技を見せ、脚光を浴びた。カルナは自らの優をさらに明確にすべく、アルジュナに対し挑戦したが、身分の違いによって果たせなかった。王族に挑戦するにはクシャトリヤ以上の階級である必要があり、それを問われたのだ。自らの属する階級が資格を満たさないことを知るカルナは、問いに答えることができず、身の程知らずの無礼者として辱められつつあった。このとき、パーンダヴァを敵視するドゥルヨーダナ(カウラヴァ百兄弟の長兄)がカルナを王としたので、一時的に不名誉から救われた。しかし、養父であるアディラタが立身出世を果たしたカルナの晴れ姿を見ようと現れたため、カルナの出自が判明してしまう。パーンダヴァは、御者の息子というカルナの生まれをあげつらって侮辱した。怒りに燃えるカルナとアルジュナの対決は避けられないものと思われたが、このときは日没によってひとまず幕を下ろすこととなった。

また、カルナは、ドルパダ王の娘ドラウパディーの花婿を選ぶ競技会に参加し、アルジュナでなければ引くことのできないはずであった強弓を見事に引き絞って見せた。しかし、ドラウパティーが御者の息子を夫とするつもりはないと宣言したため、競技を止めざるを得なくなった。その後に現れたアルジュナがその弓で的を射抜き、ドラウパディーはパーンダヴァの妻となることになった。

こうした出来事が積み重なることによって、カルナとパーンダヴァは確執を深め、カルナはカウラヴァの有力な協力者として、パーンダヴァの敵となった。

武術修行[編集]

カルナは、王家に仕えていた当代随一の武芸者ドローナから、アルジェナらとともに武術を習っていた。しかし、幼少時からアルジュナを一番弟子として可愛がっていた(ドローナを師と仰ぎ、アルジュナやドローナ自身をも凌ぐ弓の達人となった男を、アルジェナのために陥れた逸話もある)ドローナは、ことあるごとにアルジュナに対抗しようとするカルナには、なかなか奥義を授けようとしなかった。競技会での一件以降、ドゥルヨーダナと深く誼を通ずることとなるに至っては尚更であった。業を煮やしたカルナは、ドローナの師であったパラシュラーマに弟子入りし、彼から奥義を授けられた。

ドラウパディー侮辱[編集]

パーンダヴァがすべてを失い追放される原因となった賭博の場で、ユディシュティラが賭け代としたドラウパディーを巻き上げられた際、カルナはドラウパディーを奴隷女と罵り煽った。この行為が、パーンダヴァから憎まれる最大の要因となり、彼の運命に影を落とすことになった。

忠誠と武勲[編集]

パーンダヴァが追放された後、カルナは大恩あるドゥルヨーダナを王の中の王として君臨させ、自らの忠誠の証とすべく、諸国を従えていった。カルナの輝かんばかりの武勇と器量の前に敵するものはおらず、多くの国々がドゥルヨーダナの権威を認めるようになった。このとき、カルナが征した王の一人であるジャラーサンダ王は、後に怪力無双のビーマが三日間の格闘の末に三度体を引き裂き、ようやく殺害したほどの剛の者だったが、カルナと闘った際には、一度引き裂かれかけた時点で負けを悟り、降伏したといわれる。ドゥルヨーダナは大いに満足し、カルナに対して、ますます大きな信頼を寄せるようになった。

戦士の義務、母との誓い[編集]

クルクシェートラの戦いの前、クリシュナ、クンティーが相次いでカルナをパーンダヴァ側に引き入れるべく、説得に訪れた。

クリシュナは、カルナがパーンダヴァの長兄であることを告げ、争いの無益と、本来あるべき姿であるパーンダヴァの長として帰還し、世界を手にする栄光を説いた。クンティーは、自分がカルナの生みの母であり、パーンダヴァが血を分けた実の弟であることを告げ、肉親の情によってパーンダヴァの味方になるよう懇願した。

ドゥルヨーダナの恩を忘れないカルナはこれを拒否した。クリシュナに対しては、自分が敗北し死に行く運命を知っており、それでも勝利すべく戦い抜くのが戦士としての義務であることを訴え、クンティーには、自分を捨てた母親としての瑕疵とドゥルヨーダナの恩義とを対比して語り、それぞれの誘いを退けた。しかし、母の心中を思い、兄弟の中で唯一自分と対等に渡り合えるアルジュナ以外の兄弟は、絶対に殺さないという誓いを立てた。

悲劇の英雄[編集]

ユディシュティラとの戦い

カルナは様々なネガティブ要因に見舞われた悲劇の英雄である。

パラシュラーマの下で修行したときには、バラモンであると偽って弟子入りしたことが露呈し、クシャトリヤを深く憎むパラシュラーマの逆鱗に触れ、呪いを受けた。パラシュラーマの呪いは、カルナに匹敵する敵対者が現れ、絶命の危機が訪れたとき、授けた奥義を思い出せなくなるというものだった。バラモンの飼う牛を誤って殺してしまい、緊急の際に戦車が動かなくなる呪いも受けた。敵の大将であるユディシュティラを必殺の状況に追い詰め、大勝利の機会を得たが、母と交わした誓いに従い見逃した。カウラヴァ陣営でありアルジュナとの決戦で御者を務めたシャリア王は、パーンダヴァへの義理(元々はパーンダヴァに味方するつもりが成り行きでカウラヴァについた)を果たすため、カルナの戦意を削ぐ言動を繰り返した。また、カルナを恃みとするドゥルヨーダナを掣肘するために、不当に貶されることも多かった。

中でも彼にとって最大の不運だったのは、戦争直前、アルジュナに勝利を与えようとするインドラ神の策略によって黄金の鎧を喪失したことであった。カルナは毎日正午に沐浴し、父である太陽を礼拝する習慣があった。そしてそのときバラモン僧が施しを求めてきたならば、何を乞われても望みの品を贈っていた。そこでインドラはバラモンの姿に化けて正午にカルナの前に現れ、彼の黄金の鎧を所望した。カルナは驚いて、この鎧は自分の体と一体になっており脱ぐことができないと説明し、別のものを要求するよう懇願した。しかしバラモンはそれを拒否し、彼の鎧を要求し続けた。そのうちカルナはこの僧の正体に気づき、その要求にこたえることにした。彼は苦痛に耐えながら小剣で体とつながっている部分を切り裂いて、体を血に染め、微笑を浮かべながら鎧をインドラに手渡した。その見事な振る舞いに感心し、自ら恥じ入ったインドラから、代わりとして一度のみ使える必殺の槍を授かったが、到底釣り合うものではなかった。この事実を知って、パーンダヴァに与するものは安心し、カウラヴァに与するものは大いに嘆いたという。

カルナの最期[編集]

カルナの死

クルクシェートラの戦いでは、カルナはアルジュナと激戦を繰り広げたが、二つの呪いの成就がカルナの決定的な敗因となった。カルナの戦車の片方の車輪が大地に陥没し、戦う術を失ったカルナの首を、アルジュナの矢が切り落とした。死後、カルナは昇天し、スーリヤと一体化したとされる。

神話研究[編集]

カルナの最期については同様の話がスーリヤにも見られる。すなわちカルナの父であるスーリヤとアルジュナの父であるインドラが戦ったとき、インドラはスーリヤの戦車の片方の車輪を「外す」あるいは「埋め込む」ことによって勝利したとされる。この神話上の対立構造が叙事詩でも見受けられるのである。またスーリヤが2人の母を持つように、カルナも2人の母を持つ。

神話学者吉田敦彦氏は、比較神話学の見地からカルナを取り上げ、応神天皇の伝承と比較している。

関連項目[編集]