ウィトルウィウス的人体図
| イタリア語: Uomo vitruviano | |
| 作者 | レオナルド・ダ・ヴィンチ |
|---|---|
| 制作年 | 1487年頃 |
| 素材 | 紙にペンとインク |
| 寸法 | 34.4 cm × 25.5 cm (13.5 in × 10.0 in) |
| 所蔵 | アカデミア美術館(ヴェネツィア) |
『ウィトルウィウス的人体図』(ウィトルウィウスてきじんたいず、伊: Uomo vitruviano、英: Vitruvian Man)は1487年ごろにレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた世界的に有名なドローイング。古代ローマ時代の建築家ウィトルウィウスの著作をもとにダ・ヴィンチが書いた手稿の挿絵である[1]。紙にペンとインクで、両手脚が異なる位置で男性の裸体が重ねられて描かれており、外周に描かれた真円と正方形とに男性の手脚が内接しているという構図となっている。このドローイングが描かれている手稿は、「プロポーションの法則 (Canon of Proportions)」あるいは「人体の調和 (Proportions of Man)」と呼ばれることがある。ヴェネツィアのアカデミア美術館所蔵だが常設展示はされておらず、同美術館所蔵の他の紙に描かれた作品同様に時折展示されるのみである[2][3]。
『ウィトルウィウス的人体図』はウィトルウィウスの著作である『建築論』第3巻の、理想的な人体図に関する記述をもとに描かれた作品で、ウィトルウィウスは同著で、人体こそが建築様式のオーダーにおける重要な構成要素であるとしている。ダ・ヴィンチのほかにもウィトルウィウスの記述をもとにした作品を残している芸術家もいるがそれほど有名ではなく、古くからこのドローイングが建築家ウィトルウィウスの名前を冠して呼ばれる作品となっている。
目次 |
歴史 [編集]
このドローイングはルネサンス期の芸術と科学との融和を、またダ・ヴィンチが人体比率に強い関心を持っていたことを端的に示すものである。さらにこの作品は人と自然との融合というダ・ヴィンチの試みの基礎となる象徴的な作品といえる。オンライン版『ブリタニカ百科事典』によると「ダ・ヴィンチは自身の解剖学の知識をもとに人体図を構想し、『ウィトルウィウス的人体図』を古代ギリシアの世界観における雛形のコスモグラフィアとして描いた」としている。ダ・ヴィンチは人体の機能は宇宙の動きと関連していると信じていた。また、このドローイングに描かれている正方形は物質的な存在を象徴し、真円は精神的な存在を象徴しているという見解もある。ダ・ヴィンチはこれら二つの図形と人体との融合を表現しようとしたのである[4]。このドローイングが描かれている手稿には鏡文字で「ウィトルウィウスの著作に従って描いた男性人体図の習作である。ウィトルウィウスが提唱した理論を表現した」と書かれている。
- 掌は指4本の幅と等しい
- 足の長さは掌の幅の4倍と等しい
- 肘から指先の長さは掌の幅の6倍と等しい
- 2歩は肘から指先の長さの4倍と等しい
- 身長は肘から指先の長さの4倍と等しい(掌の幅の24倍)
- 腕を横に広げるた長さは身長と等しい
- 髪の生え際から顎の先までの長さは身長の1/10と等しい
- 頭頂から顎の先までの長さは身長の1/8と等しい
- 首の付け根から髪の生え際までの長さは身長の1/6と等しい
- 肩幅は身長の1/4と等しい
- 胸の中心から頭頂までの長さは身長の1/4と等しい
- 肘から指先までの長さは身長の1/4と等しい
- 肘から脇までの長さは身長の1/8と等しい
- 手の長さは身長の1/8と等しい
- 顎から鼻までの長さは頭部の1/3と等しい
- 髪の生え際から眉までの長さは頭部の1/3と等しい
- 耳の長さは顔の1/3と等しい
- 足の長さは身長の1/6と等しい
ダ・ヴィンチはウィトルウィウスの著作『建築論』の第3巻1章2節から3節の内容を忠実に視覚化している。
顎から額、髪の生え際までの長さは身長の1/10で、広げた手の手首から中指の先までも同じ長さである。首、肩から髪の生え際までの長さは身長の1/6で、胸の中心から頭頂までの長さは身長の1/4である。顔の長さは、顎先から小鼻までの長さ、小鼻から眉までの長さ、眉から髪の生え際までがいずれも顔の長さの1/3となる。足の長さは身長の1/6、肘から指先まで、胸幅は身長の1/4である。これらの他にも人体は対称的に均整がとれており、この対称性を用いて古代からの画家、彫刻家は後世まで賞賛される作品を創り出すことができた。
人体と同様に神殿も様々な箇所が対称的に均整がとれ、建物全体として調和していることが望ましい。人体の中心は宇宙の中心と同じである。人間が両手両脚を広げて仰向けに横たわり、へそを中心に円を描くと指先とつま先はその円に内接する。さらに円のみならず、この横たわった人体からは正方形を見いだすことも可能である。足裏から頭頂までの長さと、腕を真横に広げた長さは等しく、平面上に完璧な正方形を描くことが出来る。[1]
古典主義の対概念であるロマン主義とともに始まった多角的な考察は、人体の比率に普遍的なものなどは存在しないことを明確にしている。人体測定学 (en:Anthropometry) は、人体がそれぞれ異なったものであることの説明を目的として発展した学術分野である。ウィトルウィウスの人体に対する考察は、あくまでも「平均的」なものであるとすれば、理解することは可能であろう。ウィトルウィウスはへそを中心とすることによって人体の比率に正確な数学的定義付けを試みたが、この定義には問題がある。人体の中心(重心)は四肢の位置によって変化し、起立した状態では通常へそよりも10センチほど下にあり、腰骨のあたりとなる。
このダ・ヴィンチのドローイングは、古代に書かれたウィトルウィウスの著作を、彼独自の人体に対する観察で昇華したものであることに留意する必要がある。描かれている真円ではへそを中心としているが、正方形はへそを中心としておらず、解剖学的に見て正しい、やや下に中心がある。この相違はダ・ヴィンチが芸術にもたらした数多い革新的な要素の一つであり、それまでの絵画とこの作品との違いを決定的にしている。描かれている指先は、ウィトルウィウスの著作のそれよりも高く頭頂部と同じ位置にあり、へそを通る腕が形作るラインはより低い角度となっている。
このドローイングは18世紀のイタリア人画家・美術著述者のジョゼッペ・ボッシ (en:Giuseppe Bossi) が所有しており、ボッシは1810年に『最後の晩餐』などを主題とする論文「The Last Supper, Del Cenacolo di Leonardo Da Vinci libri quattro」を、自身が描いたイラストとともに書いた。1811年にはこの論文から『ウィトルウィウス的人体図』に関する部分を抜粋し、友人のイタリア人彫刻家アントニオ・カノーヴァへの献辞を添えた「Delle opinioni di Leonardo da Vinci intorno alla simmetria de'Corpi Umani」を出版している[5]。そしてボッシが死去した1815年にアカデミア美術館が、ボッシのイラストとともに『ウィトルウィウス的人体図』が描かれた手稿を入手した。
後世への影響 [編集]
『ウィトルウィウス的人体図』は現在でも医学に関するシンボルとして用いられており、多くの医学関連企業がこのドローイングをシンボルとしている。また皮肉なことに似非医学や健康食品などのシンボルとしても用いられている。現代の病院において医療に携わる職業と『ウィトルウィウス的人体図』とほぼ同義になりつつあり、アメリカ、サウジアラビア、インド、ドイツでは『ウィトルウィウス的人体図』が医療の専門技術のシンボルとして広く受け入れられている。ウィトルウィウスが提唱したこの人体比率は現在でも世界中でもっとも引用、再現されているイメージの一つとなっており、多くの芸術家が独自の「ウィトルウィウス的人体図」を作品にしている。
- チェーザレ・チェザリアーノの「建築論」- 建築理論家、1521年にウィトルウィウスの「建築論」を出版
- アルブレヒト・デューラー の「人体均衡論四書 (Vier Bücher von menschlicher Proportion)」(1528年)- 画家、版画家
- ピエトロ・ディ・ジャコモ・カッタネオ (en:Pietro di Giacomo Cataneo) (1554年)- 建築家
- ウィリアム・ブレイクの「アビリオンの踊り (en:Albion (Blake))」(1795年)- 画家・版画家・詩人、大江健三郎の講談社文庫版『新しい人よ眼ざめよ』の表紙にもなっている[6]
- スーザン・ドロテア・ホワイト (en:Susan Dorothea White)の『ウィトルウィウス的人体図』を女性に置き換えた「Sex Change for Vitruvian Man」」(2005年)- 画家、彫刻家、版画家
『ウィトルウィウス的人体図』は医学関係だけではなく、様々なメディアにシンボルとして用いられている。当時のイタリアの国庫相カルロ・アツェリオ・チャンピは「万物の度量衡として」このドローイングをイタリアの1ユーロ硬貨のデザインに採用した。他にもデザイン化された『ウィトルウィウス的人体図』は、MacOSのアクセシビリティを保証するアイコンとなっており[7]、GNOMEのデスクトップインターフェースにも採用されている。日本ではNTTドコモのクレジット決済サービスiDが使える場所を表すマークとなっている[8]。
また、シンボルとして採用される際に人体は他の生物[9]、ロボット[10]など、用途に応じて様々に加工されることがある[11]。『ウィトルウィウス的人体図』のわかりやすいイメージは多様な用途に用いられているのである。
脚注 [編集]
- ^ The Secret Language of the Renaissance - Richard Stemp
- ^ The Vitruvian man
- ^ Da Vinci's Code
- ^ About.com — Vitruvian Man
- ^ Bibliographical notice, no. 319.
- ^ http://www.amazon.co.jp/gp/product/images/4061837540/ref=dp_image_0?ie=UTF8&n=465392&s=books
- ^ Apple – Accessibility
- ^ http://id-credit.com/ iDの総合サポートウェブサイト
- ^ http://www.knopper.net/knoppix/index-en.html The logo for the Linux distribution, Knoppix
- ^ http://www.specialist-games.com/inquisitor/assets/lrb/InqLRBpart1.pdf Rulebook for Inquisitor (game)nquisitor, a miniatures game by Games Workshop, featuring a cybernetically modified Vitruvian Man p76-77. 2009年5月現在リンク切れ
- ^ http://www.marvel.com/news/all.48 Marvel crossover announcement with Vitruvian man poster
外部リンク [編集]
- Willamette University site on Vitruvian man(英語)
- Stanford University site on Vitruvian man(英語)
- Vitruvian Man on Wikimedia Commons(英語)
- Vitruvian Female on Wikimedia Commons(英語)
- The Vitruvian Man and the squaring of the circle(英語)
- Leonardo's Vitruvian Man(英語)
- Vitruvian Man Video(英語)
- Decoding the Vitruvian man(英語)
- Geometry behind the Vitruvian man(英語)
- Contemporary interpretation of Vitruvian Man(英語)
- Sex Change for Vituvian Man(英語)
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