アンズー (恐竜)

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アンズー
生息年代: 66 Ma
CMNHに展示された復元骨格
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
階級なし : オヴィラプトロサウルス類 Oviraptorosauria
上科 : カエナグナトゥス上科 Caenagnathoidae
: カエナグナトゥス科 Caenagnathidae
: アンズー属 Anzu
学名
Anzu
Lamanna et al., 2014
タイプ種
Anzu wyliei Lamanna et al., 2014

アンズー (学名:Anzu)はオヴィラプトロサウルス類恐竜の一つ。白亜紀後期(6600万年前)にノースダコタ州サウスダコタ州に生息していた。属名はメソポタミア神話の翼を持つ怪物アンズーに由来する。アンズとも表される。

形態[編集]

頭部と首の復元図

歯のない嘴、目立つ鶏冠、真っ直ぐな鉤爪を持つ長い腕が特徴である。生時は羽毛で覆われていたと思われ、全長3-3.5m、腰までの高さは1.5m、体重300kgと推定されている。モンゴルからはこれより大きいギガントラプトルも発見されているが、北米のオヴィラプトロサウルス類としては最大である[1]

記載時に、次のような固有派生系質が設定されている[1]

  • 前上顎骨が伸びて形成された、高い鶏冠を持つ
  • 後頭顆大後頭孔より広い
  • 歯骨の縫合部の側面に、大きな張り出しがある
  • 下顎骨の後関節突起が伸びる
  • 橈骨の下端に2つの丸い突起がある
  • 第2指の第一指骨の内側に溝がある
  • 距骨の全面、上に伸びる突起の基部に結節がある

他に可能性のある固有派生系質として、4つが指摘されている[1]

  • 上顎骨前眼窩窓の近辺に凹みがない
  • 上顎骨の上部から、"L"を逆にしたような形状の突起が伸びる
  • 方形頬骨突起が上下に長い
  • 方形頬骨突起が後方で2叉する

分類史[編集]

発見地

主な骨格はモンタナ州サウスダコタ州ヘルクリーク層マーストリヒチアン後期)から発見され、当初はキロステノテスとされていた[2]。だが、その後の研究で別種であることが明らかとなった[3]

1998年、Nuss FossilsのFred Nussがバッファロー (サウスダコタ州)英語版近郊で2個体を発見した。この内の1つがホロタイプのCM 78000で、2014年3月にAnzu wylieiという名を与えられた。もう一つのCM 78001は100mほど離れた場所から発見された。これらの化石はバラバラになっており、水に流されて堆積したと考えられる。3つ目の化石、MRF 319は部分的な骨格で、Scott Haireがマーマース (ノースダコタ州)英語版の叔父の牧場で発見し、国立自然史博物館のTyler Lysonによって調べられた。下顎の断片(FMNH PR 2296)も発見されている[1][4]

ヘルクリーク層からの4つの化石を合わせると、概ね全身骨格の75-80%が発見されていることになる[4]。2006年、3人の研究者(ユタ大学のEmma Schachner・カーネギー自然史博物館のMatthew Lamanna・スミソニアン博物館のTyler Lyson)は、各自が同種恐竜の骨格断片を持っていることに気づき、国立自然史博物館の古生物学者Hans-Dieter Suesの助けを借りて共同研究を始めた[4]。主な化石はピッツバーグのカーネギー自然史博物館に保管されていた[5]

カーネギー博物館の2標本 (CM 78000 and CM 78001) の一部

本種は、保存状態のよい北米のオヴィラプトロサウルス類としては初のものである。Suesによると、100年の間、北米のオヴィラプトロサウルス類は骨の破片しか発見されず、形態・生態は不明だったが、本種の発見によりその状況が打開された、とのことである[5]

大きな鶏冠、歯のない嘴を持ち、鳥のような外見であること[5]、ヘルクリーク層から発見されたことから、"chicken from hell"(地獄のニワトリ)というニックネームが付けられた。学名を考案したMatthew Lamannaによると、"chicken from hell"をラテン語かギリシャ語化した学名を付けたかったが、これらの言語でうまく表現できないため、シュメールの怪物アンズーから名を取り現在の学名にした、とのことである[6]種小名 wyliei は博物館への資金提供者の一人、Lee B. Fosterの孫Wylie J. Tuttleへの献名である[1]

系統[編集]

MRF 319

カエナグナトゥス科に分類される。分岐学的解析によると、カエナグナトゥス姉妹群となるようである[1]

Caenagnathoidea
Caenagnathidae

Microvenator celer

Gigantoraptor erlianensis

Caenagnathasia martinsoni

Alberta dentary morph 3

Leptorhynchos gaddisi

"Caenagnathus" sternbergi

Anzu wyliei

Caenagnathus collinsi

オヴィラプトル科

白亜紀にアジアとアメリカは陸続きであったため、双方から同じようなオヴィラプトロサウルス類が見つかると期待されていた。だが本種の発見によって、アメリカにはアジアの種と異なる独自のオヴィラプトロサウルス類がいたことが示された[7]

生態[編集]

カーネギー博物館の頭骨の写真

嘴はアジアのオヴィラプトル科のようには頑丈でないが、雑食または草食と考えられる[1]。アジアの近縁種との差異としては、本種の方が大きいことの他に、足が太いこと、下顎の形態が異なることなどがある[4]

化石は古代の氾濫原の一部であった泥岩から発見された。これは、乾燥地帯に生息したアジアの近縁種とはかなり異なる生態を持っていたことを示す[7]エディンバラ大学のStephen Brusatteは、本種は足の速い広食者で、通常の肉食・草食の恐竜とは異なるとコメントしている[5]。顎の形態は、植物・小さな動物・卵などの多様な食物を摂取できたことを示唆している[1]

復元図

本種は現生の鳥類と様々な点で似ているが、鳥の祖先ではない。本種を含む系統は6600万年前のK-T境界で他の恐竜とともに絶滅したため、鳥との類似は収斂進化の一例である[8]

大きな鶏冠の役割は明らかではないが、Suesは、本種の鶏冠はオヴィラプトロサウルスの中でも最大だが、薄い骨でできており衝撃には耐えられないため、現生のヒクイドリのようにディスプレイに用いていたのではないか、と語っている[7]。化石には肋骨の骨折が治癒した痕、剥離骨折を原因とする爪先の関節炎などの傷跡があった。これがお互いに闘ったことを示すものなのか、捕食者に傷つけられたものなのかは不明である[5]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h Lamanna, Matthew C and Sues, Hans-Dieter and Schachner, Emma R and Lyson, Tyler R (2014). “A New Large-Bodied Oviraptorosaurian Theropod Dinosaur from the Latest Cretaceous of Western North America,”. PloS one 9 (3): e92022. doi:10.1371/journal.pone.0092022. 
  2. ^ Varricchio, D. J. (2001). Late Cretaceous Oviraptorosaur (Theropoda) dinosaurs from Montana. Mesozoic Vertebrate Life. D. H. Tanke and K. Carpenter. Bloomington, Indiana University Press: 42-57.
  3. ^ Robert M. Sullivan, Steven E. Jasinski and Mark P.A. Van Tomme (2011). “A new caenagnathid Ojoraptorsaurus boerei, n. gen., n. sp. (Dinosauria, Oviraptorosauria), from the Upper Ojo Alamo Formation (Naashoibito Member), San Juan Basin, New Mexico”. Fossil Record 3. New Mexico Museum of Natural History and Science Bulletin 53: 418–428. http://www.robertmsullivanphd.com/uploads/169._Sullivan_et_al.__Ojoraptorsaurus__COLOR.pdf. 
  4. ^ a b c d Fawcett, Kirstin (2014年3月19日). “Scientists Discover a Large and Feathered Dinosaur that Once Roamed North America”. Smithsonianmag.com. http://www.smithsonianmag.com/smithsonian-institution/scientists-discover-discover-large-feathered-dinosaur-once-roamed-north-america-180950130/ 2014年3月20日閲覧。 
  5. ^ a b c d e Sample, Ian (2014年3月19日). “Dinosaur dubbed 'chicken from hell' was armed and dangerous”. The Guardian. http://www.theguardian.com/science/2014/mar/19/dinosaur-chicken-hell-anzu-wyliei 2014年3月20日閲覧。 
  6. ^ Ritter, Malcolm (2014年3月20日). “'Chicken from hell' dinosaur gets a proper name”. Associated Press. http://www.bostonglobe.com/news/science/2014/03/19/chicken-from-hell-dinosaur-gets-proper-name/jiPEwk7EaUQpifshtxvciP/story.html 2014年3月20日閲覧。 
  7. ^ a b c “One Scary Chicken—New species of large, feathered dinosaur discovered”. Smithsonian Science. (2014年3月19日). http://smithsonianscience.org/2014/03/one-scary-chicken-new-species-large-feathered-dinosaur-discovered/ 2014年3月20日閲覧。 
  8. ^ Achenbach, Joel (2014年3月19日). “New dinosaur called the Chicken From Hell”. The Washington Post. http://www.washingtonpost.com/national/health-science/new-dinosaur-called-the-chicken-from-hell/2014/03/19/92cc64d4-af7d-11e3-9627-c65021d6d572_story.html 2014年3月20日閲覧。 

外部リンク[編集]