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{{for|広義的解釈|オーク (架空の生物)}}
{{出典の明記|date=2017年8月}}

'''オーク'''({{En|'''Orc'''}}または{{En|'''Ork'''}})は[[J・R・R・トールキン]]の作品世界[[中つ国 (トールキン)|中つ国]]に住む、人間とは異なる種族。『[[指輪物語]]』や『[[シルマリルの物語]]』では常に、[[モルゴス]]、[[サウロン]]、[[サルマン]]のような悪に仕える兵士として、ときには副官として登場する。『[[ホビットの冒険]]』では「何とも例えようのないオーク鬼(第7章 [[瀬田貞二]]訳)」「山のオーク(悪鬼)」(5章 [[山本史郎]]訳)という記述がある{{efn|これ以外では、トロルの岩屋で手に入れた剣の「[[オルクリスト]](Orcrist)」(『幻獣大全1』164頁では「オーク殺し」であるが山本史郎は「ゴブリンを裂くもの」と訳している)などにオークの名前が確認できる。なお、トーリンの通り名のオーケンシールドの綴りは「Oakenshield」で種族のオークではなく樹木([[樫]]・[[楢]])の方。}}ものの、主に'''[[ゴブリン]]'''として記述されており、かれら自身の王をかつぎ、独立した存在のように振舞っている。オークは[[キャロル・ローズ]]『世界の妖精・怪物事典』でも「ゴブリンの一種」として説明されている。
'''オーク'''({{En|'''Orc'''}}または{{En|'''Ork'''}})は[[J・R・R・トールキン]]の作品世界[[中つ国 (トールキン)|中つ国]]に住む、人間とは異なる種族。『ホビットの冒険』初版では一度のみ使われた名称で、残りでは「ゴブリン」と呼ばれている。『[[指輪物語]]』や『[[シルマリルの物語]]』では[[モルゴス]]や[[サウロン]]ら悪の君主や魔法使い[[サルマン]]に仕える兵士(や副官)として登場する。

剣名[[オルクリスト]]は「オーク殺し」の意。


==概要==
==概要==
<!--概要は、後述した詳述部分(原則出典付き)のまとめなので、ここでは出典ははぶく-->
エルフ族が[[モルゴス]]によって捕らえられ、拷問や日の当たらない牢に閉じ込められるなどして堕落してしまった姿であると言われている。そのため、苦痛、憎悪が影響し、美しかった白肌は不気味な灰色になり、鉤爪が生え、醜い姿となった。また長い間、苦痛にさらされていたせいか背丈が低くなっていて、日光を嫌う。総じて知能も高く愚かではないが、鈍感で下劣な生物として描写されている。かれらは言語をくずして使い、手先が器用で、歯車や機械に興味を持ち、[[やっとこ]]や[[つるはし]]や斧などの他「大量の人間を一度に抹殺する機械([[山本史郎]]訳)」以外は何も生み出さず、破壊するだけの存在である。ただ繁殖力が非常に高く、『ホビットの冒険』終盤の五軍の戦いで一度絶滅しかけたものの立ち直っている。ちなみに、作中で女性のオーク(ゴブリン)は登場していないが、子供は『ホビットの冒険』のナレーションで、ビルボがゴクリと出会う4~5時間前にゴブリンの子供がゴクリに捕まって食われた説明がされている。
オークとは、J・R・R・トールキン作品に登場するゴブリンたちの名称である{{Refn|[[キャロル・ローズ]]『世界の妖精・怪物事典』。Rose (1996) "orc", p. 249.<ref name="rose1996"/>}}。


オークは、[[中つ国]]という架空世界にあるとされる幾つかの言語で異なる名称がつけられており、そのひとつが「ウルク」である([[#架空言語名|§架空言語名]]参照)。また作品で改良種とも人間との交配種ともいわれるのが[[ウルク=ハイ]]である。実写映画版では「ウルク」を大型種の呼称としてもちいていた([[#ウルク|§ウルク]]参照)。「狼乗り」と呼ばれる矮小種も存在した([[#狼乗り|§狼乗り]]参照)。
なお、トールキンの書簡によれば、「女オークは存在する」とのことである。知識や進歩に関しても、本来はエルフや人間などと同等だが憎悪や嫉妬、絶望に苛まれるがゆえに建設的な連携を取りにくいだけで、『ホビットの冒険』でのゴブリンは「人を痛める道具」について、「進歩(と呼ばれていますが)」させていると描かれる。


祖先はエルフ族だが、[[モルゴス]]たるメルコールにとらわれ創り出された種族であると外伝(『[[シルマリル物語]]』)に伝わる。小説や映画では女ゴブリンがあらわれる場面はないが、女性のオーク(ゴブリン)は存在するものとされ、人間と同じく異性と番って子供をつくるとされる。
[[ピーター・ジャクソン]]監督による[[ホビット (映画)|実写映画作品]]でも登場する[[アゾグ]]とその息子ボルグなど、何人かの大きなオークは『ホビットの冒険』の段階では、「オーク」と呼称されていたがプロポーションの描写などから『指輪物語』で、「ウルク」とされた可能性が高い。また、この種はオーク同士の品種改良によってできた最高種、という説がある{{efn|健部伸明『幻獣大全』 [[新紀元社]] p374}}。『ホビット ゆきてかえりし物語』[[1997年版]]で「食人鬼」とされる種(第5章)は、「背を屈めて両手を地面につけんばかりにして相当なスピードで走れる」と描写され、このような特徴がウルクであるシャグラトに認められることから、『ホビットの冒険』でオークとされるものと『指輪物語』でのウルクが同じもので、かつウルクは太陽光線に弱いがウルク・ハイはそれを克服している点、またウルクと称される物のみが「頭が大きい」とされる点が根拠に挙げられる。同じ作業により、グリシュナーハなど水泳に長じた「曲がり足の手長オーク」と呼ばれる者が誕生している。


作中、ホビット族の成れの果ての[[ゴクリ]](ゴラム)や大蜘蛛がオークを捕食する描写がある([[#オークの肉|§オークの肉]]参照)。
設定上、モルゴスたるメルコールが第1紀、上記の工程(ただ、厳密には「人間を」加工した可能性もある)でオルフと呼ばれる原型を作る。これが戦争で、滅びかけ、復活したのち第2紀に接触した人間の側から「オーク」という呼称で呼ばれる。後、第3紀の中ごろに次代冥王サウロンによって大型種ウルクが作られ、3紀末期に[[サルマン]]が[[イルーヴァタールの子ら|人間]]とのハーフである半オーク[[ウルク・ハイ]]を作った事が窺える。


== 語釈 ==
『ホビットの冒険』から『[[終わらざりし物語]]』に至るまで、[[狼]]に乗る騎狼隊あるいは狼乗り(「Wolfrider」)と呼ばれる矮小な種が登場する。彼らは、狼に乗れるサイズでかつ、身長が90cm~120cmほどのホビットが化けても怪しまれないことからその程度の身長と想像される。また他のオーク全般は、「オーク人間」たるウルク・ハイまで、生物との相性が悪いのか、馬は食用以外に使わない。大きな狼[[ワーグ]]に関し、同盟を結んで共闘するものの乗せないとする『幻獣大全』説の他、デヴィッド・デイ『指輪物語事典』ではワーグがゴブリンを乗せるとあり、資料に若干の混乱がある。
最初の原作『[[ホビットの冒険|The Hobbit]]』初版(1937年)では"orc"の語は一度のみ使われており、これ以外に[[オルクリスト]]{{efn2|Orcrist}}という剣名に用いられるが、他所では同義語として"goblin"が充てられていた<ref name="anderson-annot-hobbit1988"/><ref name="gilliver&marshall&weiner2009"/>。しかし続編の『指輪物語』では "orc"が多用されている<ref name="gilliver&marshall&weiner2009"/>。


『[[ホビットの冒険]]』(和訳)では、唯一の使用箇所は「何とも例えようのない'''オーク鬼'''」([[瀬田貞二]]訳、1965年。第7章)や「山の'''オーク(悪鬼)'''」([[山本史郎]]訳。1997年。第5章)などと訳出されている。剣の名は「オルクリスト」と音写が使われているが(瀬田訳、山本訳とも)、これはエルフ語名という設定になっており{{sfnp|Tolkien|Anderson|1988|p=62, n4}}([[#架空言語名|§架空言語名]]も参照)、作中では(共通語で)"goblin cleaver"(原書)「ゴブリン退治」(瀬田訳)、「ゴブリンを裂くもの」(山本訳)を意味する名であると説明されている{{efn2|「オーク殺し」という語釈が{{harvp|健部|2008}}『幻獣大全』p. 164にみえる。}}。
この矮種は、ほかのオークあるいはほかの種族から[[蛆]](Maggot)、スナガ(Snaga 「[[奴隷]]」を指す暗黒語)とよばれ、第2部下巻7章に、地の文で「モルドールの蛆ども」が、と書かれている。『幻獣大全』では、繁殖力の強さと描写の近似性から、トールキンの[[:en:The_Father_Christmas_Letters|『サンタ・クロースからの手紙』(英語版の記事)]]に登場するゴブリンは、これではないかとする{{efn|健部伸明『幻獣大全』 [[新紀元社]] p373 なお『サンタ・クロースからの手紙』によれば、ゴブリン共は「原始人の書く絵の中へ象形文字を書いている」とあるが、『指輪物語』第2部7章で、件の蛆どもが「王の像へ彼ら独特の象形文字を」書いていると描かれる}}。


=== 起源 ===
スナガあるいはマゴットはまた別に、背が小さく色が黒く、鼻孔が大きい者がおり、嗅覚のみで視覚を用いず探し物をする「追跡者(Tracker)」として使われている。同様の、暗闇でも目と耳が効き闇夜の[[イタチ]]よりも速く走る「走り手」が、『ホビットの冒険』から登場している。<!-- 『幻獣大全1』368頁で「rAnner」て書いてあるけど原作でこういう表記なのか誤植なのか不明-->
{{Also|オーク (架空の生物)#語源}}
トールキンは"オーク"という語を、古英語 {{lang|ang|orc}} (「悪魔」)から借用したが、それは「あくまで発音的適宜性」による理由であり{{efn2|引用:"derived from Old English ''orc'' 'demon', but only because of its phonetic suitability"}}<ref name="gilliver&marshall&weiner2009"/>{{Refn|name="Letter 144"}}、自分の"オーク"の設定は、[[ジョージ・マクドナルド]]作{{仮リンク|お姫さまとゴブリンの物語|en|The Princess and the Goblin|label=『お姫さまとゴブリンの物語』}}より多大な影響を受けていると説明している{{Refn|name="Letter 144"|トールキン書簡({{仮リンク|ナオミ・ミッチソン|en|Naomi Mitchison}}宛て。Tolkien, letter #144、25 April 1954付<ref>{{harvnb|Carpenter|1981|loc=#144 to Naomi Mitchison 25 April 1954}}</ref>}}。

==== 古英語語源 ====

元となった"orc"という古英語は、英雄詩『[[ベーオウルフ]]』や、古英語語彙集に用例があることトールキンは述べている{{Refn|トールキンは、自分が用いる"Orc"は、イルカ目の海獣を意味する"Orc"とは関連性が無いとも述べている([[シャチ]]の学名・ラテン名は Orca である)。}}{{Refn|name="Letter 144 OE"|トールキン書簡(ナオミ・ミッチソン宛て。Tolkien, letter #144、25 April 1954付):

{{blockquote|I originally took the word from Old English ''orc'' (''Beowulf'' 112 ''orc-neas'' and the gloss ''orc'': ''þyrs'' ('ogre'), ''heldeofol'' ('hell-devil')). This is supposed not to be connected with [[:en:modern English|modern English]] ''orc'', ''ork'', a name applied to various sea-beasts of the dolphin order".<ref>{{cite book |first=J. R. R. |last=Tolkien |editor-last1=Hammond |editor-first1=Wayne G. |editor1-link=Wayne G. Hammond |editor-last2=Scull |editor-first2=Christina |editor2-link=Christina Scull |title=Nomenclature of The Lord of the Rings |work=The Lord of the Rings: A Reader's Companion <!--|title-link=Guide to the Names in The Lord of the Rings--> |publisher=[[HarperCollins]] | location=New York City| year=2005 |isbn=978-0-00-720907-1 |url=http://tolkien.ro/text/JRR%20Tolkien%20-%20Guide%20to%20the%20Names%20in%20The%20Lord%20of%20the%20Rings.pdf}}</ref><ref name="karthaus-hunt" />}}}}<ref name="yamamoto-tr-p400n">{{harvp|山本訳|2012}}『ホビット ゆきてかえりし物語』、400頁注。</ref>。

『ベーオウルフ』の用例では、悪玉の怪物[[グレンデル]]について、同じ血統に「オーク=ネ」たちという種族がいることが記述されている(原文は複数形:"{{Lang|ang|Orc-néas}}"。シッピー英訳:"悪魔の骸たち"<ref name="shippey1982-orcneas">{{harvp|Shippey|1982|p=45}}: "{{lang|ang|eotenas ond ylfe ond orcnéas}} 'ettens and elves and demon corpses'".</ref>。忍足訳:"悪霊"<ref name="oshitari-tr"/>。岡本千晶重訳:"死にそこないの悪魔の形をした生物"<ref name="okamoto-tr">{{harvp|岡本訳|2017}}『トールキンのベーオウルフ物語《注釈版》』180頁。</ref>)がいるという{{efn2|ちなみにグレンデルと同じ[[カインの末裔]]には他にも"エティン巨人族やエルフ族"がいると書かれているが<ref name="shippey1982-orcneas"/>、忍足訳では"妖怪と妖精"を充てている<ref name="oshitari-tr"/>。脱線になるが、トールキンの英訳で"elf"にまさかの"goblin"を充てている(岡本の重訳では「ゴブリン」)<ref name="okamoto-tr"/>理由について、これはトールキンが自分の『シルマリルの物語』的神話に鑑みて、エルフを(善なる種族とみていたため)ベーオウルフの敵に連なる"呪われた存在"にしてしまうことをためらったのであろう、と推察されている<ref name="chance"/>。}}。

===スペル===
トールキンは『ホビット;ゆきてかえりし物語』(1988年刊)の冒頭で、「[[ルーン文字]]について」と題し、ルーン表記について語る際、オークがオルカなどの海獣系を指すとされる説を否定し、『指輪物語』以後の著述では、{{En|'''Ork'''}}と綴るのを好んだ。これは明らかに、'''オーク的な'''を意味する{{En|'''orcish'''}}の「C」が、「S」として発音されてしまうのを避けるためである。オークの綴りが{{En|'''Ork'''}}であった場合、'''オーク的'''を意味する単語の綴りは{{En|'''orkish'''}}となり、発音に誤解の余地がなくなる。また『指輪物語』でもorkの方を後になって採用しようとしたが、用語が人口に膾炙されたため断念した。

=== 架空言語名{{anchors|発音}} ===
もし読者がトールキンの著作を、「西境の赤表紙本」の翻訳とみなすならば、この語はクウェンヤやシンダール語からの、西方語への翻訳されたもの、と考えることができるだろう。


==発音==
作中で使われる「上のエルフの言葉」[[クウェンヤ]]ではオークを'''ウルコ'''('''urko''')、複数形'''ウルクイ'''('''urqui''')と呼ぶ。この語は「[[ボギー (妖精)|ボギー]](おばけ)」、または、「[[ブギーマン]](悪い子をさらう鬼)」を意味し、オークが怖ろしいものであることを表現している。
作中で使われる「上のエルフの言葉」[[クウェンヤ]]ではオークを'''ウルコ'''('''urko''')、複数形'''ウルクイ'''('''urqui''')と呼ぶ。この語は「[[ボギー (妖精)|ボギー]](おばけ)」、または、「[[ブギーマン]](悪い子をさらう鬼)」を意味し、オークが怖ろしいものであることを表現している。


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==生態==
==生態==
{{出典の明記|date=2017年8月|section=1}}
オークはエルフより創造され、あるいは進化し<ref name="drout"/>、苦痛、憎悪が影響し、美しかった白肌は不気味な灰色になり、鉤爪が生え、醜い姿となった。また長い間、苦痛にさらされていたせいか背丈が低くなっていて、日光を嫌う。総じて知能も高く愚かではないが、鈍感で下劣な生物として描写されている。かれらは言語をくずして使い、手先が器用で、歯車や機械に興味を持ち、[[やっとこ]]や[[つるはし]]や斧などの他「大量の人間を一度に抹殺する機械([[山本史郎]]訳)」以外は何も生み出さず、破壊するだけの存在である。ただ繁殖力が非常に高く、『ホビットの冒険』終盤の五軍の戦いで一度絶滅しかけたものの立ち直っている。

作中で女性のオーク(ゴブリン)は登場していないが、ゴブリンの子供については回想的に触れられている{{Refn|『ホビットの冒険』。ナレーションで、ビルボがゴクリと出会う4~5時間前にがゴクリに捕まって食われた説明がされている。}}([[#オーク女や子供|§オーク女や子供]]を参照)。

=== 創造神話 ===

オークの発生起源については、『シルマリル物語』にエルフ族が飼われて品種開発されたか、あるいは野生進化したもの、と二つの異なる説明が記載される<ref name="drout"/>。ひとつには第1紀に[[モルゴス]]たるメルコールがエルフ族を捕らえ、"ゆっくりと(時間をかけた)残酷な術で.. 堕落させ隷属させ"、オークを作り出したという説明がある{{Refn|''Silmarillion'', p. 47.<ref name="drout"/>}}。{{Refn|''Silmarillion'', p. 47.<ref name="drout"/>}}。一方で、{{仮リンク|アヴァリ|en|Avari (Middle-earth)}}と称するエルフの部族が"原野に(放たれて)..邪悪化し野生化したのかもしれない"という説も述べられている{{Refn|''Silmarillion'', p. 102.<ref name="drout"/>}}。

これが戦争で、滅びかけ、復活したのち、第2紀に接触した人間の側から「オーク」という呼称で呼ばれる。後、第3紀の中ごろに次代冥王サウロンによって大型種ウルクが作られ、3紀末期に[[サルマン]]が人間とのハーフである半オーク[[ウルク・ハイ]]を作った事が窺える。

=== 亜種 ===

==== 狼乗り ====
『ホビットの冒険』から『[[終わらざりし物語]]』に至るまで、[[狼]]に乗る騎狼隊あるいは狼乗り(「Wolfrider」)と呼ばれる矮小な種が登場する。彼らは、狼に乗れるサイズでかつ、身長が90cm~120cmほどのホビットが化けても怪しまれないことからその程度の身長と想像される。また他のオーク全般は、「オーク人間」たるウルク・ハイまで、生物との相性が悪いのか、馬は食用以外に使わない。

大型狼[[ワーグ]]は、オークと共闘はするが乗せることまではしないという解説と<ref>{{harvp|健部|2008}}『幻獣大全』</ref>、ワーグもゴブリンを乗せるという解説<ref>{{harvp|デイ|1994}}『指輪物語事典』</ref>とが交錯する。

この矮種は、ほかのオークあるいはほかの種族から[[蛆]](Maggot)、スナガ(Snaga 「[[奴隷]]」を指す暗黒語)とよばれ、第2部下巻7章に、地の文で「モルドールの蛆ども」が、と書かれている。『幻獣大全』では、繁殖力の強さと描写の近似性から、トールキンの[[:en:The_Father_Christmas_Letters|『サンタ・クロースからの手紙』(英語版の記事)]]に登場するゴブリンは、これではないかとする<ref>{{harvp|健部|2008}}『幻獣大全』p. 373。</ref>{{efn2|なお『サンタ・クロースからの手紙』によれば、ゴブリン共は「原始人の書く絵の中へ象形文字を書いている」とあるが、『指輪物語』第2部7章で、件の蛆どもが「王の像へ彼ら独特の象形文字を」書いていると描かれる。}}。

スナガあるいはマゴットはまた別に、背が小さく色が黒く、鼻孔が大きい者がおり、嗅覚のみで視覚を用いず探し物をする「追跡者(Tracker)」として使われている。同様の、暗闇でも目と耳が効き闇夜の[[イタチ]]よりも速く走る「走り手」が、『ホビットの冒険』から登場している。<!-- 『幻獣大全1』368頁で「rAnner」て書いてあるけど原作でこういう表記なのか誤植なのか不明-->

====ウルク (映画版) ====
[[ピーター・ジャクソン]]監督による[[ホビット (映画)|実写映画作品]]でも登場する[[アゾグ]]とその息子ボルグなど、何人かの大きなオークは『ホビットの冒険』の段階では、「オーク」と呼称されていたがプロポーションの描写などから『指輪物語』で、「ウルク」とされた可能性が高い。また、この種はオーク同士の品種改良によってできた最高種、という説がある<ref>{{harvp|健部|2008}}『幻獣大全』p. 374。</ref>。『ホビット ゆきてかえりし物語』(1997年版)で「食人鬼」とされる種(第5章)は、「背を屈めて両手を地面につけんばかりにして相当なスピードで走れる」と描写され、このような特徴がウルクであるシャグラトに認められることから、『ホビットの冒険』でオークとされるものと『指輪物語』でのウルクが同じもので、かつウルクは太陽光線に弱いがウルク・ハイはそれを克服している点、またウルクと称される物のみが「頭が大きい」とされる点が根拠に挙げられる。同じ作業により、グリシュナーハなど水泳に長じた「曲がり足の手長オーク」と呼ばれる者が誕生している。

=== 習性 ===
知識や進歩に関しても、本来はエルフや人間などと同等だが憎悪や嫉妬、絶望に苛まれるがゆえに建設的な連携を取りにくいだけで、『ホビットの冒険』でのゴブリンは「人を痛める道具」について、「進歩(と呼ばれていますが)」させていると描かれる。

オークは「[[馬]]や子馬、[[ロバ]]など何でも食べる」と説明されるが、食事に関してはそれなりにこだわりがあるらしく、『ホビットの冒険』では首領の大ゴブリンが「わざわざ地底湖に魚を取りに行かせることがあった」という説明がある。
オークは「[[馬]]や子馬、[[ロバ]]など何でも食べる」と説明されるが、食事に関してはそれなりにこだわりがあるらしく、『ホビットの冒険』では首領の大ゴブリンが「わざわざ地底湖に魚を取りに行かせることがあった」という説明がある。
オーク自身の肉の味は人によって評価が違い、『ホビットの冒険』ではゴクリ初登場の所で「ゴクリは(魚だけではなく)ゴブリンの肉もうまいと思っていました」とナレーションに説明があるが、映画『[[ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還]]』によると、キリス・ウンゴル(Cirith Ungol蜘蛛峠)の洞窟を住処とする[[シェロブ]]が普段はオークを獲物にしていることについてサウロン配下のオークは「オークの肉は不味いが、他に食べる物が無い」と語っている。原作では、サウロンは一応シェロブを「飼い猫」と呼んで手懐けようとし、結局同盟関係にしており、「外敵がおらず」「シェロブが飢えたときに」オークが「シェロブザグレート(太母シェロブ)」の元へ供される。


=== オーク女や子供 ===
しかし、後者の方でもあまり美味しい食事にありつけない状況下ではこの限りではないようで、映画『[[ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔]]』ではメリーとピピンを捕まえてアイゼンガルドに向かっていた[[サルマン]]配下のオークと[[ウルク=ハイ]]が休息時に「腹が減った。ここ数日腐ったパンしか食ってねえ」と不満を露わにしたのをきっかけに、生け捕りにすべきメリーとピピンを殺さずに「要らない」という理由で2人の足を食おうとの提案がされるが、最後には1人のオークがウルク=ハイに首を刎ねられ、「メニューに肉が戻るぞ!」の掛け声の元その場で貪り食われた。なお原作では、彼らは異なる部族の出身者による混成部隊であるため、当初サウロンによってオークの共通語である「暗黒語」が作られていたが、これは指揮官クラスしか使われず、通常のオーク同士では互いの意思疎通にホビットたちも理解できる「ふつうの言葉」(西方語)を話している{{efn|健部『幻獣大全』p350}}。


オークの女性や子供は作中に登場しないが、いるものと想定されている{{Refn|ゴクリがゴブリンの子供を捕食した記述(上述)や、特定のオークが「~の息子」を名乗る例が挙げられる{{sfnp|Stuart|2022|p=133}}}}。トールキンの著作物に"オークは「[[イルーヴァタールの子ら]](ヒト族やエルフ族)と同じように繁殖する"(『シルマリルの物語』)<ref>Tolkien, J. R. R.; Tolkien, Christopher ed. (1979), p. 58: "the Orcs... multiplied after the manner of the Children of Ilúvatar [Elves and Men]," apud {{harvp|Stuart|2022|p=133}}</ref>、すなわち[[有性生殖]]するとあるほか{{sfnp|Shippey|1982|p=174}}、"オーク女性はいたはずだ"とも書簡で述べている{{efn2|原文:"there must have been orc-women"}}<ref name="munsby-apud-gee"/><ref name="chausse"/>{{sfnp|Stuart|2022|p=133}} 。
==スペル==
トールキンは『ホビット;ゆきてかえりし物語』(1988年刊)の冒頭で、「[[ルーン文字]]について」と題し、ルーン表記について語る際、オークがオルカなどの海獣系を指すとされる説を否定し、『指輪物語』以後の著述では、{{En|'''Ork'''}}と綴るのを好んだ。これは明らかに、'''オーク的な'''を意味する{{En|'''orcish'''}}の「C」が、「S」として発音されてしまうのを避けるためである。オークの綴りが{{En|'''Ork'''}}であった場合、'''オーク的'''を意味する単語の綴りは{{En|'''orkish'''}}となり、発音に誤解の余地がなくなる。また『指輪物語』でもorkの方を後になって採用しようとしたが、用語が人口に膾炙されたため断念した。


=== オークの肉 ===
==起源==
オーク自身の肉の味は人によって評価が違い、『ホビットの冒険』でゴブリンの子供食いを犯していたゴクリは、初登場の所で「ゴクリは(魚だけではなく)ゴブリンの肉もうまいと思っていました」とナレーションに説明があるが、映画『[[ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還]]』によると、キリス・ウンゴル(Cirith Ungol蜘蛛峠)の洞窟を住処とする[[シェロブ]]が普段はオークを獲物にしていることについてサウロン配下のオークは「オークの肉は不味いが、他に食べる物が無い」と語っている。原作では、サウロンは一応シェロブを「飼い猫」と呼んで手懐けようとし、結局同盟関係にしており、「外敵がおらず」「シェロブが飢えたときに」オークが「シェロブザグレート(太母シェロブ)」の元へ供される。
トールキンは'''オーク'''という語を、『[[ベーオウルフ]]』に登場する不死者の怪物にしてThyrs(巨人)[[グレンデル]]が眷属として所属する[[カイン]]の末裔、Ylfe(「[[ゴブリン]]」と訳される)、Eoten(「[[オーガー]]」と訳される)、神に対抗した巨人(Gigant)に連なる、「オーク=ナス」({{Lang|ang|Orc-néas}})から採用した。「オーク=ナス」とは「[[オルクス]]の死体」を意味する。詳しい語源と他作品でのオークについては[[オーク (架空の生物)]]を参照。


しかし、後者の方でもあまり美味しい食事にありつけない状況下ではこの限りではないようで、映画『[[ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔]]』ではメリーとピピンを捕まえてアイゼンガルドに向かっていた[[サルマン]]配下のオークと[[ウルク=ハイ]]が休息時に「腹が減った。ここ数日腐ったパンしか食ってねえ」と不満を露わにしたのをきっかけに、生け捕りにすべきメリーとピピンを殺さずに「要らない」という理由で2人の足を食おうとの提案がされるが、最後には1人のオークがウルク=ハイに首を刎ねられ、「メニューに肉が戻るぞ!」の掛け声の元その場で貪り食われた。なお原作では、彼らは異なる部族の出身者による混成部隊であるため、当初サウロンによってオークの共通語である「暗黒語」が作られていたが、これは指揮官クラスしか使われず、通常のオーク同士では互いの意思疎通にホビットたちも理解できる「ふつうの言葉」(西方語)を話している<ref>{{harvp|健部|2008}}『幻獣大全』p. 350。</ref>。
『[[ホビット]] ゆきてかえりし物語』の注によれば、『ベーオウルフ』にある、「[[カイン]]の末裔」Orcの注釈「þyrs」(「Ogre」と訳される)、Helldeofol(「Hell Devil」と訳される)から作ったといい、OrcにはOrca([[シャチ]])のような海獣の意は含まれていないという{{efn|『[[ホビット]] ゆきてかえりし物語』 400頁}}。なお『トールキンのベーオウルフ物語』にあるトールキンの説によれば、「Orcnéas」(岡本千晶による和訳は「死にそこないの悪魔の形をした生物」)は、「[[ラテン語]]のOrcus([[地獄]]、[[死]])をそれらしくあしらったものと思われる」Orcに「「死体」を意味する古い言葉」Nēの複数形を付けたものと考えられる{{efn|『トールキンのベーオウルフ物語』 180頁}}。


== 文芸評論 ==
<!-- 古い英語などの文献に{{Lang|ang|orc}}と言う単語が見られており、これが語源だと言われているがはっきりとはしていない。 -->
=== マクドナルドの影響 ===
既述したように、トールキンのオークは、[[ジョージ・マクドナルド]]作{{仮リンク|お姫さまとゴブリンの物語|en|The Princess and the Goblin|label=『お姫さまとゴブリンの物語』}}の影響を受けていると著者自身が述べている{{Refn|name="Letter 144"}}。


ただ、後年マクドナルドの作品『金の鍵』の解説を依頼されたものの、批判しか出ず代案として執筆したものを膨らませ『星をのんだ、かじや』(山本史郎訳では『ウートンメジャーの鍛冶屋』)を著し、結局解説は書かなかった彼は、マクドナルド作品を敬愛していた若いころからマクドナルドの描く「足が柔らかくダンスが踊れず、歌を忌避する」というゴブリン像には否定的で<ref>{{harvp|山本訳|2012}}『ホビット ゆきてかえりし物語』、383頁。</ref>、『ホビットの冒険』第4章でドワーフとホビットを連行する際「囃し歌を歌い」「手を叩き」「足を踏み鳴らし」浮かれるゴブリンを描いている。また『幻獣大全』によれば、[[ライマン・フランク・ボーム]]の『[[サンタクロースの冒険]]』に登場する、オーグワが影響を与えている可能性がある<ref>{{harvp|健部|2008}}『幻獣大全』p. 388。}}</ref>。その傍証である、実子のみへ送った『サンタ・クロースからの手紙』では、[[サンタ・クロース]]はレッドノームと共に、『ホビットの冒険』と設定を同じくするらしいゴブリンの来襲に対抗している。
もし読者がトールキンの著作を、「西境の赤表紙本」の翻訳とみなすならば、この語はクウェンヤやシンダール語からの、西方語への翻訳されたもの、と考えることができるだろう。


=== 北欧由来説 ===
トールキンは『ホビットの冒険』に登場するゴブリンについて、かれが愛好した物語、[[ジョージ・マクドナルド]]の『お姫さまとゴブリンの物語』の影響を強く受けた、と述べている。ただ、後年マクドナルドの作品『金の鍵』の解説を依頼されたものの、批判しか出ず代案として執筆したものを膨らませ『星をのんだ、かじや』(山本史郎訳では『ウートンメジャーの鍛冶屋』)を著し、結局解説は書かなかった彼は、マクドナルド作品を敬愛していた若いころからマクドナルドの描く「足が柔らかくダンスが踊れず、歌を忌避する」というゴブリン像には否定的で{{efn|『[[ホビット]] ゆきてかえりし物語』383頁}}、『ホビットの冒険』第4章でドワーフとホビットを連行する際「囃し歌を歌い」「手を叩き」「足を踏み鳴らし」浮かれるゴブリンを描いている。また『幻獣大全』によれば、[[ライマン・フランク・ボーム]]の『[[サンタクロースの冒険]]』に登場する、オーグワが影響を与えている可能性がある{{efn|健部『幻獣大全』p388}}。その傍証である、実子のみへ送った『サンタ・クロースからの手紙』では、[[サンタ・クロース]]はレッドノームと共に、『ホビットの冒険』と設定を同じくするらしいゴブリンの来襲に対抗している。


『幻獣大全』によれば、手先が器用で、美しいもの以外なら何でも造る、鉱山に洞穴を掘る、性格が邪悪、という特徴から、同様の特徴を持つ北欧神話に登場するスヴァルトアールヴ([[ドワー]]モデルの可能性がある{{efn|健部篇『幻獣大全』p367この書では「蛆から生まれた」という[[北欧神話]]でのドヴェルグ起源説を根拠、ゴブリン蛆と呼ばれている点からオークへこれ込んだ可能性を示唆している。なお、中つ国には[[ドワーフ(トールキン)]]自体はホビットの冒険の頃からゴブリン(オーク)と別種族で登場している}}
日本のゲームライター[[健部伸明]](『幻獣大全』)は、手先が器用で、美しいもの以外なら何でも造る、鉱山に洞穴を掘る、性格が邪悪、という特徴を持つ北欧神話スヴァルトアールヴ(「黒エルこそオーク族のモデルあると仮説を立てている。「蛆から生まれた」という[[北欧神話]]でのドヴェルグ起源説があることと、ゴブリンも「と呼ばれている点を符合させ根拠としている<ref>{{harvp|健部|2008}}幻獣大全p. 367</ref>

もっとも、「黒エルフ」というのは[[ドワーフ]]をそのように言換えた[[スノッリ・ストゥルルソン|スノッリ]]による造語だと現代学者によってみなされている<ref name="lindow"/>。そしてトールキンの一連の創作には別途[[ドワーフ(トールキン)|ドワーフ族]]が登場するわけで、これはいうまでもなく英語のドワーフや北欧の[[ドヴェルグ]]に由来している。


== 注釈 ==
== 注釈 ==
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=== 参考資料 ===
== 出典 ==
;脚注
{{reflist|30em|refs=
<ref name="anderson-annot-hobbit1988">{{cite book|ref={{SfnRef|Tolkien|Anderson|1988}}|last=Tolkien |first=J. R. R. |author-link=J. R. R. Tolkien |editor-last=Anderson |editor-first=Douglas Allen |editor-link=:en:Douglas A. Anderson |chapter=Queer Lodgings |title=The Annotated Hobbit: The Hobbit, Or, There and Back Again |publisher=Houghton Mifflin Company |year=1988 |chapter-url=https://books.google.com/books?id=3hMhAQAAIAAJ&q=orc+orcrist |page=149, n9 |isbn=<!--0395476909, -->9780395476901}}</ref>


<ref name="chance">{{cite book|last=Chance |first=Jane |author-link=:en:Jane Chance |editor-last=Anderson |editor-first=Douglas Allen |editor-link=:en:Douglas A. Anderson |section=Tolkien's 'Beowulf' Teaching Translation |title=Tolkien, Self and Other: "This Queer Creature" |publisher=Springer |year=2016 |section-url=https://books.google.com/books?id=n8mSDQAAQBAJ&pg=PA194 |page=194 |isbn=<!--1137398965, -->9781137398963 |quote=Tolkien apparently did not want to translate 'ylfe' as elves, similarly cursed, beings over whom he may have felt proprietorial given his Silmarillion mythology}}</ref>
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;参照資料

* {{cite book|和書|ref={{SfnRef|健部|2008}}|editor=健部伸明 |editor-link=健部伸明 |title=幻獣大全 |publisher=新紀元社 |year=1990 |url= |pages= |series= |isbn=4775302612}}<!--* 健部伸明編『幻獣大全』[[2008年]] [[新紀元社]]刊  ISBN 4775302612-->

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* {{cite book|和書|ref={{SfnRef|デイ|1994}}|author=デヴィッド・デイ |author-link=:en:David Day (Canadian author) |translator=仁保真佐子 |translator-link=<!--仁保真佐子--> |others=ピーター・ミルワード (監修) |title=トールキンの指輪物語事典 |publisher=[[原書房]] |year=1994 |url= |pages= |series= |isbn=ISBN 4-562-02639-1}}<!--* デヴィッド・デイ『トールキンの指輪物語事典』[[1994年]] 原書房 ISBN 4-562-02639-1-->


* キャロル・ローズ『世界の妖精・妖怪事典』[[2003年]] 原書房 ISBN 4-562-03712-1
* キャロル・ローズ『世界の妖精・妖怪事典』[[2003年]] 原書房 ISBN 4-562-03712-1


* {{ME-ref|Letters}} <!--Carpenter, Letters-->

* {{cite book |last=Shippey |first=Tom |author-link=Tom Shippey |title=The Road to Middle-Earth |date=1982 |location=Boston |publisher=Houghton Mifflin |url=https://books.google.com/books?id=TlAfAAAAMAAJ |isbn=<!--0395339731, -->9780395339732}};

* {{cite book|last=Stuart |first=Robert |author-link=<!--Robert Stuart (University of Western Australia)--> |title=Tolkien, Race, and Racism in Middle-earth |publisher=Springer Nature |date=2022 |url=https://books.google.com/books?id=t0hrEAAAQBAJ&pg=PA133 |isbn=<!--3030974758, -->9783030974756}}
== 関連項目 ==
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2023年2月14日 (火) 09:29時点における版

オークOrcまたはOrk)はJ・R・R・トールキンの作品世界中つ国に住む、人間とは異なる種族。『ホビットの冒険』初版では一度のみ使われた名称で、残りでは「ゴブリン」と呼ばれている。『指輪物語』や『シルマリルの物語』ではモルゴスサウロンら悪の君主や魔法使いサルマンに仕える兵士(や副官)として登場する。

剣名オルクリストは「オーク殺し」の意。

概要

オークとは、J・R・R・トールキン作品に登場するゴブリンたちの名称である[2]

オークは、中つ国という架空世界にあるとされる幾つかの言語で異なる名称がつけられており、そのひとつが「ウルク」である(§架空言語名参照)。また作品で改良種とも人間との交配種ともいわれるのがウルク=ハイである。実写映画版では「ウルク」を大型種の呼称としてもちいていた(§ウルク参照)。「狼乗り」と呼ばれる矮小種も存在した(§狼乗り参照)。

祖先はエルフ族だが、モルゴスたるメルコールにとらわれ創り出された種族であると外伝(『シルマリル物語』)に伝わる。小説や映画では女ゴブリンがあらわれる場面はないが、女性のオーク(ゴブリン)は存在するものとされ、人間と同じく異性と番って子供をつくるとされる。

作中、ホビット族の成れの果てのゴクリ(ゴラム)や大蜘蛛がオークを捕食する描写がある(§オークの肉参照)。

語釈

最初の原作『The Hobbit』初版(1937年)では"orc"の語は一度のみ使われており、これ以外にオルクリスト[注 1]という剣名に用いられるが、他所では同義語として"goblin"が充てられていた[3][4]。しかし続編の『指輪物語』では "orc"が多用されている[4]

ホビットの冒険』(和訳)では、唯一の使用箇所は「何とも例えようのないオーク鬼」(瀬田貞二訳、1965年。第7章)や「山のオーク(悪鬼)」(山本史郎訳。1997年。第5章)などと訳出されている。剣の名は「オルクリスト」と音写が使われているが(瀬田訳、山本訳とも)、これはエルフ語名という設定になっており[5]§架空言語名も参照)、作中では(共通語で)"goblin cleaver"(原書)「ゴブリン退治」(瀬田訳)、「ゴブリンを裂くもの」(山本訳)を意味する名であると説明されている[注 2]

起源

トールキンは"オーク"という語を、古英語 orc (「悪魔」)から借用したが、それは「あくまで発音的適宜性」による理由であり[注 3][4][6]、自分の"オーク"の設定は、ジョージ・マクドナルド『お姫さまとゴブリンの物語』英語版より多大な影響を受けていると説明している[6]

古英語語源

元となった"orc"という古英語は、英雄詩『ベーオウルフ』や、古英語語彙集に用例があることトールキンは述べている[8][11][12]

『ベーオウルフ』の用例では、悪玉の怪物グレンデルについて、同じ血統に「オーク=ネ」たちという種族がいることが記述されている(原文は複数形:"Orc-néas"。シッピー英訳:"悪魔の骸たち"[13]。忍足訳:"悪霊"[14]。岡本千晶重訳:"死にそこないの悪魔の形をした生物"[15])がいるという[注 4]

スペル

トールキンは『ホビット;ゆきてかえりし物語』(1988年刊)の冒頭で、「ルーン文字について」と題し、ルーン表記について語る際、オークがオルカなどの海獣系を指すとされる説を否定し、『指輪物語』以後の著述では、Orkと綴るのを好んだ。これは明らかに、オーク的なを意味するorcishの「C」が、「S」として発音されてしまうのを避けるためである。オークの綴りがOrkであった場合、オーク的を意味する単語の綴りはorkishとなり、発音に誤解の余地がなくなる。また『指輪物語』でもorkの方を後になって採用しようとしたが、用語が人口に膾炙されたため断念した。

架空言語名

もし読者がトールキンの著作を、「西境の赤表紙本」の翻訳とみなすならば、この語はクウェンヤやシンダール語からの、西方語への翻訳されたもの、と考えることができるだろう。

作中で使われる「上のエルフの言葉」クウェンヤではオークをウルコurko)、複数形ウルクイurqui)と呼ぶ。この語は「ボギー(おばけ)」、または、「ブギーマン(悪い子をさらう鬼)」を意味し、オークが怖ろしいものであることを表現している。

エルフの共通語として設定されているシンダール語ではオークをオルフorch)、複数形イルフyrch)あるいはグラムホス(glamhoth、騒々しいやつらの意)と呼ぶ。 暗黒語でのオークの同義語は、ウルク=ハイの語に見られるウルクUruk)である。もっともウルクの呼び名は主に第三期2400年代後半から出現したモルドール及びアイゼンガルドの大型戦闘用オークを指して使われた。

生態

オークはエルフより創造され、あるいは進化し[17]、苦痛、憎悪が影響し、美しかった白肌は不気味な灰色になり、鉤爪が生え、醜い姿となった。また長い間、苦痛にさらされていたせいか背丈が低くなっていて、日光を嫌う。総じて知能も高く愚かではないが、鈍感で下劣な生物として描写されている。かれらは言語をくずして使い、手先が器用で、歯車や機械に興味を持ち、やっとこつるはしや斧などの他「大量の人間を一度に抹殺する機械(山本史郎訳)」以外は何も生み出さず、破壊するだけの存在である。ただ繁殖力が非常に高く、『ホビットの冒険』終盤の五軍の戦いで一度絶滅しかけたものの立ち直っている。

作中で女性のオーク(ゴブリン)は登場していないが、ゴブリンの子供については回想的に触れられている[18]§オーク女や子供を参照)。

創造神話

オークの発生起源については、『シルマリル物語』にエルフ族が飼われて品種開発されたか、あるいは野生進化したもの、と二つの異なる説明が記載される[17]。ひとつには第1紀にモルゴスたるメルコールがエルフ族を捕らえ、"ゆっくりと(時間をかけた)残酷な術で.. 堕落させ隷属させ"、オークを作り出したという説明がある[19][20]。一方で、アヴァリと称するエルフの部族が"原野に(放たれて)..邪悪化し野生化したのかもしれない"という説も述べられている[21]

これが戦争で、滅びかけ、復活したのち、第2紀に接触した人間の側から「オーク」という呼称で呼ばれる。後、第3紀の中ごろに次代冥王サウロンによって大型種ウルクが作られ、3紀末期にサルマンが人間とのハーフである半オークウルク・ハイを作った事が窺える。

亜種

狼乗り

『ホビットの冒険』から『終わらざりし物語』に至るまで、に乗る騎狼隊あるいは狼乗り(「Wolfrider」)と呼ばれる矮小な種が登場する。彼らは、狼に乗れるサイズでかつ、身長が90cm~120cmほどのホビットが化けても怪しまれないことからその程度の身長と想像される。また他のオーク全般は、「オーク人間」たるウルク・ハイまで、生物との相性が悪いのか、馬は食用以外に使わない。

大型狼ワーグは、オークと共闘はするが乗せることまではしないという解説と[22]、ワーグもゴブリンを乗せるという解説[23]とが交錯する。

この矮種は、ほかのオークあるいはほかの種族から(Maggot)、スナガ(Snaga 「奴隷」を指す暗黒語)とよばれ、第2部下巻7章に、地の文で「モルドールの蛆ども」が、と書かれている。『幻獣大全』では、繁殖力の強さと描写の近似性から、トールキンの『サンタ・クロースからの手紙』(英語版の記事)に登場するゴブリンは、これではないかとする[24][注 5]

スナガあるいはマゴットはまた別に、背が小さく色が黒く、鼻孔が大きい者がおり、嗅覚のみで視覚を用いず探し物をする「追跡者(Tracker)」として使われている。同様の、暗闇でも目と耳が効き闇夜のイタチよりも速く走る「走り手」が、『ホビットの冒険』から登場している。

ウルク (映画版)

ピーター・ジャクソン監督による実写映画作品でも登場するアゾグとその息子ボルグなど、何人かの大きなオークは『ホビットの冒険』の段階では、「オーク」と呼称されていたがプロポーションの描写などから『指輪物語』で、「ウルク」とされた可能性が高い。また、この種はオーク同士の品種改良によってできた最高種、という説がある[25]。『ホビット ゆきてかえりし物語』(1997年版)で「食人鬼」とされる種(第5章)は、「背を屈めて両手を地面につけんばかりにして相当なスピードで走れる」と描写され、このような特徴がウルクであるシャグラトに認められることから、『ホビットの冒険』でオークとされるものと『指輪物語』でのウルクが同じもので、かつウルクは太陽光線に弱いがウルク・ハイはそれを克服している点、またウルクと称される物のみが「頭が大きい」とされる点が根拠に挙げられる。同じ作業により、グリシュナーハなど水泳に長じた「曲がり足の手長オーク」と呼ばれる者が誕生している。

習性

知識や進歩に関しても、本来はエルフや人間などと同等だが憎悪や嫉妬、絶望に苛まれるがゆえに建設的な連携を取りにくいだけで、『ホビットの冒険』でのゴブリンは「人を痛める道具」について、「進歩(と呼ばれていますが)」させていると描かれる。

オークは「や子馬、ロバなど何でも食べる」と説明されるが、食事に関してはそれなりにこだわりがあるらしく、『ホビットの冒険』では首領の大ゴブリンが「わざわざ地底湖に魚を取りに行かせることがあった」という説明がある。

オーク女や子供

オークの女性や子供は作中に登場しないが、いるものと想定されている[27]。トールキンの著作物に"オークは「イルーヴァタールの子ら(ヒト族やエルフ族)と同じように繁殖する"(『シルマリルの物語』)[28]、すなわち有性生殖するとあるほか[29]、"オーク女性はいたはずだ"とも書簡で述べている[注 6][30][31][26]

オークの肉

オーク自身の肉の味は人によって評価が違い、『ホビットの冒険』でゴブリンの子供食いを犯していたゴクリは、初登場の所で「ゴクリは(魚だけではなく)ゴブリンの肉もうまいと思っていました」とナレーションに説明があるが、映画『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』によると、キリス・ウンゴル(Cirith Ungol蜘蛛峠)の洞窟を住処とするシェロブが普段はオークを獲物にしていることについてサウロン配下のオークは「オークの肉は不味いが、他に食べる物が無い」と語っている。原作では、サウロンは一応シェロブを「飼い猫」と呼んで手懐けようとし、結局同盟関係にしており、「外敵がおらず」「シェロブが飢えたときに」オークが「シェロブザグレート(太母シェロブ)」の元へ供される。

しかし、後者の方でもあまり美味しい食事にありつけない状況下ではこの限りではないようで、映画『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』ではメリーとピピンを捕まえてアイゼンガルドに向かっていたサルマン配下のオークとウルク=ハイが休息時に「腹が減った。ここ数日腐ったパンしか食ってねえ」と不満を露わにしたのをきっかけに、生け捕りにすべきメリーとピピンを殺さずに「要らない」という理由で2人の足を食おうとの提案がされるが、最後には1人のオークがウルク=ハイに首を刎ねられ、「メニューに肉が戻るぞ!」の掛け声の元その場で貪り食われた。なお原作では、彼らは異なる部族の出身者による混成部隊であるため、当初サウロンによってオークの共通語である「暗黒語」が作られていたが、これは指揮官クラスしか使われず、通常のオーク同士では互いの意思疎通にホビットたちも理解できる「ふつうの言葉」(西方語)を話している[32]

文芸評論

マクドナルドの影響

既述したように、トールキンのオークは、ジョージ・マクドナルド『お姫さまとゴブリンの物語』英語版の影響を受けていると著者自身が述べている[6]

ただ、後年マクドナルドの作品『金の鍵』の解説を依頼されたものの、批判しか出ず代案として執筆したものを膨らませ『星をのんだ、かじや』(山本史郎訳では『ウートンメジャーの鍛冶屋』)を著し、結局解説は書かなかった彼は、マクドナルド作品を敬愛していた若いころからマクドナルドの描く「足が柔らかくダンスが踊れず、歌を忌避する」というゴブリン像には否定的で[33]、『ホビットの冒険』第4章でドワーフとホビットを連行する際「囃し歌を歌い」「手を叩き」「足を踏み鳴らし」浮かれるゴブリンを描いている。また『幻獣大全』によれば、ライマン・フランク・ボームの『サンタクロースの冒険』に登場する、オーグワが影響を与えている可能性がある[34]。その傍証である、実子のみへ送った『サンタ・クロースからの手紙』では、サンタ・クロースはレッドノームと共に、『ホビットの冒険』と設定を同じくするらしいゴブリンの来襲に対抗している。

北欧由来説

日本のゲームライター健部伸明(『幻獣大全』)は、手先が器用で、美しいもの以外なら何でも造る、鉱山に洞穴を掘る、性格が邪悪、という特徴を持つ北欧神話のスヴァルトアールヴ(「黒エルフ」)こそオーク族のモデルであると仮説を立てている。「蛆から生まれた」という北欧神話でのドヴェルグ起源説があることと、ゴブリンも「蛆」と呼ばれている点を符合させて根拠としている[35]

もっとも、「黒エルフ」というのはドワーフをそのように言換えたスノッリによる造語だと現代学者によってみなされている[36]。そしてトールキンの一連の創作には別途ドワーフ族が登場するわけで、これはいうまでもなく英語のドワーフや北欧のドヴェルグに由来している。

注釈

  1. ^ Orcrist
  2. ^ 「オーク殺し」という語釈が健部 (2008)『幻獣大全』p. 164にみえる。
  3. ^ 引用:"derived from Old English orc 'demon', but only because of its phonetic suitability"
  4. ^ ちなみにグレンデルと同じカインの末裔には他にも"エティン巨人族やエルフ族"がいると書かれているが[13]、忍足訳では"妖怪と妖精"を充てている[14]。脱線になるが、トールキンの英訳で"elf"にまさかの"goblin"を充てている(岡本の重訳では「ゴブリン」)[15]理由について、これはトールキンが自分の『シルマリルの物語』的神話に鑑みて、エルフを(善なる種族とみていたため)ベーオウルフの敵に連なる"呪われた存在"にしてしまうことをためらったのであろう、と推察されている[16]
  5. ^ なお『サンタ・クロースからの手紙』によれば、ゴブリン共は「原始人の書く絵の中へ象形文字を書いている」とあるが、『指輪物語』第2部7章で、件の蛆どもが「王の像へ彼ら独特の象形文字を」書いていると描かれる。
  6. ^ 原文:"there must have been orc-women"

出典

脚注
  1. ^ Rose, Carol (2001). “Orc”. Spirits, Fairies, Gnomes, and Goblins: An Encyclopedia of the Little People. ABC-CLIO. p. 249. ISBN 9780874368116. https://books.google.com/books?id=ZxnXAAAAMAAJ&q=tolkien 
  2. ^ キャロル・ローズ『世界の妖精・怪物事典』。Rose (1996) "orc", p. 249.[1]
  3. ^ Tolkien, J. R. R. (1988). “Queer Lodgings”. In Anderson, Douglas Allen. The Annotated Hobbit: The Hobbit, Or, There and Back Again. Houghton Mifflin Company. p. 149, n9. ISBN 9780395476901. https://books.google.com/books?id=3hMhAQAAIAAJ&q=orc+orcrist 
  4. ^ a b c Gilliver, Peter; Marshall, Jeremy; Weiner, Edmund (2009). “Part III. Word Studies. Orc.”. The Ring of Words: Tolkien and the Oxford English Dictionary. Oxford University Press. pp. 174–175. ISBN 9780199568369. https://books.google.com/books?id=bszM-uwEQOkC&q=orc 
  5. ^ Tolkien & Anderson (1988), p. 62, n4.
  6. ^ a b c トールキン書簡(ナオミ・ミッチソン英語版宛て。Tolkien, letter #144、25 April 1954付[7]
  7. ^ Carpenter 1981, #144 to Naomi Mitchison 25 April 1954
  8. ^ トールキンは、自分が用いる"Orc"は、イルカ目の海獣を意味する"Orc"とは関連性が無いとも述べている(シャチの学名・ラテン名は Orca である)。
  9. ^ Tolkien, J. R. R. (2005). Nomenclature of The Lord of the Rings. New York City: HarperCollins. ISBN 978-0-00-720907-1. http://tolkien.ro/text/JRR%20Tolkien%20-%20Guide%20to%20the%20Names%20in%20The%20Lord%20of%20the%20Rings.pdf 
  10. ^ Karthaus-Hunt, Beatrix (2002), “‘And What Happened After’: How J.R.R. Tolkien Visualized, and Other Artists Re-Visualized, the Denizens of Middle-earth”, in Westfahl, Gary; Slusser, George Edgar; Plummer, Kathleen Church, Unearthly Visions: Approaches to Science Fiction and Fantasy Art, Greenwood Press, pp. 138n, ISBN 0313317054, https://books.google.com/books?id=wnAVAQAAIAAJ&q=ork 
  11. ^ トールキン書簡(ナオミ・ミッチソン宛て。Tolkien, letter #144、25 April 1954付):
    I originally took the word from Old English orc (Beowulf 112 orc-neas and the gloss orc: þyrs ('ogre'), heldeofol ('hell-devil')). This is supposed not to be connected with modern English orc, ork, a name applied to various sea-beasts of the dolphin order".[9][10]
  12. ^ 山本訳 (2012)『ホビット ゆきてかえりし物語』、400頁注。
  13. ^ a b Shippey (1982), p. 45: "eotenas ond ylfe ond orcnéas 'ettens and elves and demon corpses'".
  14. ^ a b 忍足欣四郎 訳『ベーオウルフ』岩波書店〈岩波文庫 赤275-1〉、1990年、第1詩節、第104–112行。 
  15. ^ a b 岡本訳 (2017)『トールキンのベーオウルフ物語《注釈版》』180頁。
  16. ^ Chance, Jane (2016). “Tolkien's 'Beowulf' Teaching Translation”. In Anderson, Douglas Allen. Tolkien, Self and Other: "This Queer Creature". Springer. p. 194. ISBN 9781137398963. "Tolkien apparently did not want to translate 'ylfe' as elves, similarly cursed, beings over whom he may have felt proprietorial given his Silmarillion mythology" 
  17. ^ a b c d e Drout, Michael D. C. [in 英語] (2007). "Biology of Middle -Earth". J.R.R. Tolkien Encyclopedia: Scholarship and Critical Assessment. Routledge. p. 66. ISBN 9780415969420
  18. ^ 『ホビットの冒険』。ナレーションで、ビルボがゴクリと出会う4~5時間前にがゴクリに捕まって食われた説明がされている。
  19. ^ Silmarillion, p. 47.[17]
  20. ^ Silmarillion, p. 47.[17]
  21. ^ Silmarillion, p. 102.[17]
  22. ^ 健部 (2008)『幻獣大全』
  23. ^ デイ (1994)『指輪物語事典』
  24. ^ 健部 (2008)『幻獣大全』p. 373。
  25. ^ 健部 (2008)『幻獣大全』p. 374。
  26. ^ a b Stuart (2022), p. 133.
  27. ^ ゴクリがゴブリンの子供を捕食した記述(上述)や、特定のオークが「~の息子」を名乗る例が挙げられる[26]
  28. ^ Tolkien, J. R. R.; Tolkien, Christopher ed. (1979), p. 58: "the Orcs... multiplied after the manner of the Children of Ilúvatar [Elves and Men]," apud Stuart (2022), p. 133
  29. ^ Shippey (1982), p. 174.
  30. ^ Letter dated 21 October 1963 to Ms. Munsby. apud Gee, Henry. “The Science of Middle-earth: Sex and the Single Orc”. TheOneRing.net. 2009年5月29日閲覧。
  31. ^ Chausse, Jean (2016). Qadri, Jean-Philippe; Sainton, Jérôme. eds. Le pouvoir féminin en Arda . Le Dragon de Brume. p. 160, n7. ISBN 9782953989649. https://books.google.com/books?id=z6g8DwAAQBAJ&pg=PA160 
  32. ^ 健部 (2008)『幻獣大全』p. 350。
  33. ^ 山本訳 (2012)『ホビット ゆきてかえりし物語』、383頁。
  34. ^ 健部 (2008)『幻獣大全』p. 388。}}
  35. ^ 健部 (2008)『幻獣大全』p. 367。
  36. ^ Lindow, John (2001). Norse Mythology: A Guide to the Gods, Heroes, Rituals, and Beliefs. Oxford University Press. p. 110. ISBN 0-19-515382-0. https://books.google.com/books?id=KlT7tv3eMSwC&pg=PA110 
参照資料


関連項目