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== 歴史 ==
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奈良漬けは、粕漬として[[平城京]]の跡地で発掘された[[長屋王]]木簡にも「進物(たてまつりもの)加須津毛瓜(かすづけけうり ) 加須津韓奈須比(かすづけかんなすび)」と記された貢納品伝票がある<ref>[https://mokkanko.nabunken.go.jp/ja/6AFITB110362 奈良文化財研究所「木簡庫」]、「毛瓜」は「冬瓜」だとされる、2020年5月25日閲覧</ref>。正倉院文書の史料には生姜と瓜の粕漬{{Sfn|朝倉|2016|p=4}}。[[平安時代]]中期の[[延長]]5年(927)に編纂された[[延喜式]]の[[内膳]]の部に「粕漬」という名で、瓜、冬瓜・ナスが記載されていた{{Sfn|奈良県中小企業診断士会|2008|p=4}}。なお、当時の[[酒]]といえば[[どぶろく]]を指していて、[[粕]]とは搾り粕ではなくその容器の底に溜まる沈殿物の染(おり)に野菜を漬けこんだものであったとされる{{Sfn|小川|1979|p=500}}。当時は、上流階級の保存食・香の物として珍重されていたようで、高級食として扱われていた{{Sfn|奈良県中小企業診断士会|2008|p=4}}。
奈良漬けは、粕漬として[[平城京]]の跡地で発掘された[[長屋王]][[木簡]]にも「進物(たてまつりもの)加須津毛瓜(かすづけけうり ) 加須津韓奈須比(かすづけかんなすび)」と記された貢納品伝票がある<ref>[https://mokkanko.nabunken.go.jp/ja/6AFITB110362 奈良文化財研究所「木簡庫」]、「毛瓜」は「冬瓜」だとされる、2020年5月25日閲覧</ref>。[[正倉院]]文書には生姜と瓜の粕漬{{Sfn|朝倉|2016|p=4}}。[[平安時代]]中期の[[延長]]5年(927)に編纂された[[延喜式]]の[[内膳]]の部に「粕漬」という名で、瓜、冬瓜・ナスが記載されていた{{Sfn|奈良県中小企業診断士会|2008|p=4}}。なお、当時の[[酒]]といえば[[どぶろく]]を指していて、[[粕]]とは搾り粕ではなくその容器の底に溜まる沈殿物の染(おり)に野菜を漬けこんだものであったとされる{{Sfn|小川|1979|p=500}}。当時は、上流階級の保存食・香の物として珍重されていたようで、高級食として扱われていた{{Sfn|奈良県中小企業診断士会|2008|p=4}}。


「奈良漬け」は元々は瓜の粕漬で{{Sfn|小川|1979|p=500}}、その言葉は[[1492年]]([[明応]]元年)『山科家礼記』に、宇治の土産として「ミヤゲ、'''ナラツケ'''オケ一、マススシ一桶、御コワ一器」と記してあるのが初見である{{Sfn|奈良県中小企業診断士会|2008|p=4}}。その後、[[1590年]]([[天正]]18年)『北野社家日記』、[[1597年]]([[慶長]]2年)『神谷宗湛献立日記』にも見え、[[1603年]](慶長8年)『日葡辞書』では、「奈良漬は奈良の漬物の一種であり、香の物の代わりに使う」と記されている{{Sfn|奈良県中小企業診断士会|2008|p=4}}<ref>土井忠生、森田武、長南実編訳 『日葡辞書:邦訳』岩波書店、1980年。</ref>。
「奈良漬け」は元々は瓜の粕漬で{{Sfn|小川|1979|p=500}}、その言葉は[[1492年]]([[明応]]元年)『山科家礼記』に、宇治の土産として「ミヤゲ、'''ナラツケ'''オケ一、マススシ一桶、御コワ一器」と記してあるのが初見である{{Sfn|奈良県中小企業診断士会|2008|p=4}}。その後、[[1590年]]([[天正]]18年)『北野社家日記』、[[1597年]]([[慶長]]2年)『神谷宗湛献立日記』にも見え、[[1603年]](慶長8年)『日葡辞書』では、「奈良漬は奈良の漬物の一種であり、香の物の代わりに使う」と記されている{{Sfn|奈良県中小企業診断士会|2008|p=4}}<ref>土井忠生、森田武、長南実編訳 『日葡辞書:邦訳』岩波書店、1980年。</ref>。
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* {{Cite journal |和書|author=小川敏男 |title= 粕漬について|date=1979-08 |publisher=日本釀造協会 |journal= 日本釀造協会雜誌|volume=74 |issue= 8|doi=10.6013/jbrewsocjapan1915.74.500 |pages=500-503 |issn =0369-416X |url = https://doi.org/10.6013/jbrewsocjapan1915.74.500 |accessdate = 2020-05-26 |ref={{Sfnref|小川|1979}}}}
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2020年5月26日 (火) 04:55時点における版

奈良漬け

奈良漬け(奈良漬、ならづけ)とは白うり胡瓜西瓜生姜などの野菜を塩漬けにし、何度も新しい酒粕(さけかす)に漬け替えながらできた漬物である。

歴史

奈良漬けは、粕漬として平城京の跡地で発掘された長屋王木簡にも「進物(たてまつりもの)加須津毛瓜(かすづけけうり ) 加須津韓奈須比(かすづけかんなすび)」と記された貢納品伝票がある[1]正倉院文書には生姜と瓜の粕漬[2]平安時代中期の延長5年(927)に編纂された延喜式内膳の部に「粕漬」という名で、瓜、冬瓜・ナスが記載されていた[3]。なお、当時のといえばどぶろくを指していて、とは搾り粕ではなくその容器の底に溜まる沈殿物の染(おり)に野菜を漬けこんだものであったとされる[4]。当時は、上流階級の保存食・香の物として珍重されていたようで、高級食として扱われていた[3]

「奈良漬け」は元々は瓜の粕漬で[4]、その言葉は1492年明応元年)『山科家礼記』に、宇治の土産として「ミヤゲ、ナラツケオケ一、マススシ一桶、御コワ一器」と記してあるのが初見である[3]。その後、1590年天正18年)『北野社家日記』、1597年慶長2年)『神谷宗湛献立日記』にも見え、1603年(慶長8年)『日葡辞書』では、「奈良漬は奈良の漬物の一種であり、香の物の代わりに使う」と記されている[3][5]

江戸時代に入ると、奈良中筋町に住む漢方医糸屋宗仙が、慶長年間(1596年 - 1615年)に、シロウリの粕漬けを「奈良漬」という名で売り出して評判となり、奈良漬けの言葉を広める。大坂の陣の時に徳川家康に献上して気に入られ、やがて医者をやめて江戸に呼び寄せられ幕府の奈良漬け担当の御用商人になった[4]奈良を訪れる旅人によって庶民に普及し、愛されるようになる[6]。「奈良は春日(粕が)あればこそ良い都なり」といわれ、奈良は酒の産地で、奈良漬の発祥地ともなった[4]。将軍徳川綱吉の時代、浅草の観音の門前で「奈良漬を載せたお茶漬け」が評判となり、大当たりした[3]。やがて、瓜の粕漬から野菜の粕漬の総称となり[4]、幕末の『守貞謾稿』後集巻1「香物」には「酒の粕には、白瓜茄子大根を専らとす。何国に漬たるをも粕漬とも、奈良漬とも云也。古は奈良を製酒の第一とする故也。」とあり、銘醸地奈良の南都諸白から生まれる質のよい酒粕に負うところが大きいことが記されている[7]

奈良県以外で製造したものも奈良漬けと呼ばれ、一般名詞化している。江戸時代後期の大阪四天王寺北門近くの酒屋の六万堂で蔵元の上質酒粕で野菜を漬け「浪速奈良漬」と名付けて販売していて、既に奈良の範囲を超えて庶民に販売される製品になっていた[4]。奈良県以外では、灘五郷兵庫県)の酒粕を用いた甲南漬名古屋市周辺で収穫される守口大根を用いた守口漬などと名付けられた品物もある。

特徴

奈良漬けは保存性が高いが、多くの漬物は、長期保存が可能なため、季節を問わずに使用できる保存食の野菜漬として、栽培技術や冷蔵設備が未発達な時代には重要視された[8]長崎県大村市の500年以上前から伝わる押し寿司大村寿司では、昔は奈良漬けを使用した寿司もあった[9]。またの蒲焼きの箸休めとしても定番となっており、鰻を食べた後に口に残る脂っこさを奈良漬けが拭い去り、口をさっぱりとさせる効果がある[6]。胃の働きを活発にし胸焼けを抑えたり、脂肪の分解、ビタミンミネラルの吸収を助けるなどの効果があるとも言われている[6]

なお、奈良漬けを多量に食べた後に車両等を運転すると酒気帯び運転となる場合があるので、食後に運転する予定がある場合は注意する必要がある。ただし、アルコール健康医学協会によると、アルコール度数5%の奈良漬けの場合は約60切れ(約400g)もの量を食べなければ基準値に達しないということである。また、公益財団法人交通事故総合分析センターの実験によると、奈良漬け50gを食べた20分後に行なった走行実験では呼気中のアルコール濃度はゼロであり、走行にも影響を与えていない[10]。酒気帯び運転で逮捕されて当初は「奈良漬けを食べた」と供述した事例でも、後の調べで飲酒していたことが判明している[11]

法的規格

農林規格-農産物粕漬類「なら漬け-農産物かす漬け類のうち、酒かす等を用いて漬け替えることにより、塩抜き又は調味したものを、仕上げかす(最終の漬けに用いる酒かす等をいう。以下同じ。)に漬けたものをいう。」2015年5月28日改正

脚注

  1. ^ 奈良文化財研究所「木簡庫」、「毛瓜」は「冬瓜」だとされる、2020年5月25日閲覧
  2. ^ 朝倉 2016, p. 4.
  3. ^ a b c d e 奈良県中小企業診断士会 2008, p. 4.
  4. ^ a b c d e f 小川 1979, p. 500.
  5. ^ 土井忠生、森田武、長南実編訳 『日葡辞書:邦訳』岩波書店、1980年。
  6. ^ a b c 漬物大百科『奈良漬け(奈良) Archived 2014年9月12日, at the Wayback Machine.』(2010年5月7日閲覧)
  7. ^ 喜田川守貞守貞謾稿』後集巻1
  8. ^ 朝倉 2016, pp. 2–3.
  9. ^ 2013年5月奈良漬「春日大名漬」:寿司と奈良漬け2020年5月25日閲覧
  10. ^ 飲酒運転摘発逃れに悪用-「奈良漬」60切れ食べなきゃ無理産経新聞、2009年1月24日)
  11. ^ 奈良漬400切れ相当!飲酒運転偽装もバレたスポーツニッポン、2009年1月8日)

参考文献

  • 小川敏男「粕漬について」『日本釀造協会雜誌』第74巻第8号、日本釀造協会、1979年8月、500-503頁、doi:10.6013/jbrewsocjapan1915.74.500ISSN 0369-416X2020年5月26日閲覧 
  • 奈良の食文化についての 実態調査報告書 - 奈良漬・茶がゆの魅力度向上策の提言” (PDF). 一般社団法人 奈良県中小企業診断士会 (2008年1月). 2020年5月25日閲覧。
  • 朝倉聖子『日本の漬物文化 : その変遷と特色』(博士(学術)論文・大学院グローバルアジア研究科専攻)甲第42号、国士舘大学、2016年3月20日http://id.nii.ac.jp/1410/00010364/2020年5月26日閲覧 

外部リンク