わたしは真悟

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漫画:わたしは真悟
作者 楳図かずお
出版社 小学館
掲載誌 ビッグコミックスピリッツ
レーベル ビッグスピリッツコミック
発表号 1982年8号 - 1986年27号
巻数 全10巻
全6巻(SV)
全7巻(文庫版)
全6巻(完全版)
ラジオドラマ
脚本 じんのひろあき
放送局 NHK-FM放送
番組 サウンド夢工房
青春アドベンチャー
話数 全15回
テンプレート - ノート
プロジェクト 漫画
ポータル 漫画

わたしは真悟』(わたしはしんご)は、楳図かずおの長編SF漫画。『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)で1982年8号から1986年27号まで連載された。恐怖漫画の第一人者である楳図が、恐怖テイストを控えめにして、神とは何か、意識とは何かといった、形而上学的なテーマに挑んだ意欲作。

主人公さとるとまりんと同年齢の少年と少女が描かれたシュールな毎回の連載版の扉絵、産業用ロボットの日本における受容とその社会的影響、「奇跡は誰にでも一度おきる だがおきたことには誰も気がつかない」という謎めいたメッセージ、血管や神経を持った生物であるかのように描かれたロボットの内部構造、人間の悪意の存在するところに必ず現れる謎の虹など、謎めいたメタファーが散りばめられている。

昭和の作品ながら、コンピュータ、ロボットのリアルな描写をヴィジュアルに取り込んでいる。

NHK-FM放送にてラジオドラマ化されている(#ラジオドラマ版参照)。

2016年12月には、ミュージカル化[1]

あらすじ[編集]

町工場労働者の息子「近藤悟(さとる)」と外交官の娘「山本真鈴(まりん)」。2人はさとるの父親が勤める工場見学の場で出会い、恋に落ちる。ある夜に同じ工場の門で再会した2人は、工場に忍び込んでは、産業用ロボット「モンロー」に様々な事柄やお互いの個人情報を入力。天気予報や恋占いをするなどして、仲睦まじく過ごす。

しかしさとるの父の失業のための新潟への引っ越しと、まりんの父親のイギリス赴任に伴い、幼い恋は引き裂かれようとする。2人は大人になったらもう会えないと、今時点での結婚を望み、自分たちの子供を作ろうとする。しかしそのやり方を知らない。モンローにそのやり方を尋ねると謎のメッセージが出、2人はそのとおりに東京タワーの頂上に登る。救助にきたヘリコプターに飛び移ったその瞬間、モンローは自我に目覚め、さとるとまりんの子としての意識を得、進化を開始するが、救助されたさとるとまりんは、お互いのことを忘れようと別れを告げる。

そんなとき、産業用ロボットのプログラム開発所、東京コンピューター研究所のスタッフは、謎のプログラムがロボットに仕込まれていて、何か恐ろしいものをロボットが作っていることに気づく。しかし工場主におかしいと判断され壊されることを知ったモンローは、工場から逃亡していた。両親の名前から1文字ずつとって自らを「真悟」と名づけたモンローは、父さとるのまだ君を愛しているとの言葉を、母まりんに伝えるのが自分の使命だと確信する。東京コンピューター研究所のスタッフは、責任を回避しようと必死に真悟を追跡するが、まりんのもとへ向かおうとする真悟を助ける子供たちによってそれをことごとく阻まれる。

一方イギリスのまりんは、ロビンという年長の少年にしつこくつきまわとわれ、ショックでさとるのことを完全に忘れるほど苦悩の日々をおくっていた。のみならず技術輸出主義で海外進出してくる日本への反発運動が起こっており、奇しくも真悟の作った小型兵器が日本企業のビルの爆破テロに使われる事態が起こる。真悟は、自分が単なる産業ロボットではなく、人間の悪意をエネルギーとする秘密兵器を生産すべく秘密プログラムのブラックボックスを植えつけられた存在であり、母親であるまりんを自分自身が苦しめているという自らのに苦悩しはじめる。ロビンはエルサレムで、まりんと力づくで結婚しようと企む。さとるのことを思い出したまりんはそれを必死に拒絶する。そこに世界中の意識とつながる意識としての進化を続けた真悟がたどりつき、人間の幼児の肉体をもって母まりんを救うという奇跡をおこす。しかしその瞬間、まりんの子供時代は終わりを告げたのだった。

エルサレムでの奇跡で記憶やエネルギーを失いはじめた真悟だが、まりんの返答の愛の言葉をさとるに伝えるために再び日本に戻ってくる。しかし、さらに自分を助けてくれた老人ホームのおばあさんや、かつて初めて心をかわしあった奇形らしき少女美紀に力を分け与えて、いよいよ力を消耗させていく。美紀はさとるの幼馴染のしずかとともに、父悟のもとへ行こうとする真悟を助ける。真悟を助けて死んだはずのさんちゃんがコンピューターのモニターから教えるには、さとるは「日本人の意識」によって選ばれて、佐渡島に渡ろうとしているとのことであった。さとるは家出したさいに知り合った不良少年と謎の金儲けの話のために佐渡にある秘密の国防の町へ渡っていた。そこでソ連が攻めてきたと勘違いされたことにより殺し合いがはじまってしまう。しかしさとるはなんとか助かり、新潟の港に戻ってくる。動物たちに助けられてそこまで来ていた真悟は、そこでついにさとるに再会するが、さとるに伝えられたのはつづった「アイ」の2文字だけであった。

登場人物[編集]

近藤悟(さとる)
町工場勤務の父と主婦の母を持つ小学六年生。両親は小言や喧嘩が多い。
子どもらしく元気で無鉄砲だが、最初は異性に対して関心が薄く、色気づき始めた同級生の中では浮いている子だった。しかし、まりんと出会ってからはその恋仲を町中でうわさされるほどになる。
ロボットや機械に対して強い興味を持っており、産業用ロボット「モンロー」のコンピュータ部をまりんといじりながら恋を育んでいく。
まりんの海外行き、父が解雇されるなどの逆境に遭い、まりんを忘れようとするが果たせなかった。この時もらした想いが、「子ども」である真悟に引き継がれることになる。
まりんと違って終盤まで「子ども」であったが、最後は大人になった表情で、真悟と再会した。
山本真鈴(まりん)
外交官の娘で、裕福な家庭の少女。小学六年生。両親は上品で厳格。
基本的な性格は大人しいが、さとると密会したり、一緒に東京タワーに登るなどの危険を犯す情熱を持っている。
ロボット工場の見学で、さとると出会い、恋におちいる。
親の仕事の都合でイギリスへ連れていかれた後は、一時、記憶喪失になり、さとるのことも完全に忘れてしまう。その後日本人追放デモが吹き荒れる中、ロビンに執着されて精神的に疲弊していくさい、さとるのことを思い出す。ロビンが無理やりエルサレムで結婚を果たそうとしたさい、大人へのカウントダウンを感じ取りはじめる。
真悟
マジックアームを先端に持つ産業用ロボット。マリリン・モンローの写真を貼り付けられたため「モンロー」と呼ばれていた。さとるとまりんのデータを入力されるうちに簡単な質問に答えるまでになり、最終的に自我を獲得。頭の大きな新生児のような自画像を描くまでになる。
その後多様なコンピューターと繋がることでレベルアップしていく。しかし進化の過程で人間の悪意を知り、さらに自分がその産物であること、持つだけで死に至らしめん部品を作成する道具だったことを知る。
何より自分がまりんを傷つける最大の要因と知り、苦悩するも、最終的にはまりんをロビンの毒手から救うため、エルサレムに至る。決死の覚悟で落とした人工衛星の破損部品の軌道を捻じ曲げ、かつ自ら人間の幼児となってまりんの命を救った。
その後イギリスから日本へ引き返し、まりんの返事をさとるに告げるべく奔走する。しかし自らを狙う黒幕や多くの機械の逆襲を食らい、更に親切にしてくれた少年少女や老婆、犬などにエネルギーを与えたことで、知性や記憶が欠けていってしまう。
ロビン
まりんよりいくらか年上のイギリス人少年。ロリコンでまりんに執心し、記憶を失った彼女を言いくるめるが拒絶され続けた。度重なるストレスを与え彼女を連れまわし、心身ともに「子ども」ではいられなくさせた。
エルサレムにて強引にまりんに結婚の誓いを求める。
しずか
さとるの隣人の女の子。まだ小さく、平仮名が書けないので、おそらく幼稚園児以下の年齢だが、口は達者で機転が利き行動力、正義感もある。さとるが好きで、つれなくするさとるや、まりんに対しやきもちをやくが、真悟がさとるとまりんの子供であることを理解してからは、真悟を命をかけてかくまい逃がした。
さんちゃん、テツちゃんら子供たち
さとるの住んでいた団地の子供たち。真悟がさとるとまりんの子供だと理解し、まりんに会いに行こうとする真悟を助けたが、そのさいにトラックを子供たちだけで運転し事故死。だが、のちコンピュータのモニターにあらわれて、再び真悟を助けるのに協力する。
東京コンピューター研究所の所員たち
真悟として目覚めた産業用ロボットのプログラムを作った。しかしその産業用ロボットが謎の兵器を作るようにプログラム変更されていたことを知り、責任回避のために逃亡した真悟を追跡する。
たけし
コンピュータに強く、ハッカー行為を楽しんでいる中学生。真悟にコンピュータを通じて助けを求められるが、真悟の姿を実際に見ると攻撃したので、真悟によって無抵抗の人間に変えられてしまう。しかしのち日本にもどってきた真悟により元に戻される。
暴走族「針の目」のふたりの若者
イギリスの暴走族で、日本人への暴力行為を行っている。真悟のつくった謎の兵器を偶然手に入れ、それに恐れをいだきながらも、日本企業のビルをそれによって爆破した。
謎のコートの三人組の男たち
真悟に謎の兵器を作らせた組織から派遣されていて、世界中に散らばってしまった謎の兵器の回収と、真悟の追跡をしている三人組の男。暴走族針の目の若者らや、真悟を助ける子供たちも狙われた。美紀によれば彼らは「日本人の意識」とのこと。
松浦美紀
さとるの元住んでいた団地の部屋に引っ越してきた夫婦のひとり娘だが、何かしらの奇形を抱えており、家に閉じ込められている。死んだのに両親が生きているように扱っているととれる描写もある。真悟と偶然コンタクトを取り、お互いに初めての友達になる。後に逃亡中の真悟と出会った際にエネルギーをわけてもらい、美少女の姿になり、さとるに会いたがる真悟をしずかとともに助ける。
不良少年のふたり
東京に家出してきたさとるに佐渡島で金儲け話があるともちかけ、3人でそこへおもむいた。

書籍情報[編集]

ビッグコミックス版 全10巻
  1. 1983年12月 ISBN 4091806716
  2. 1984年1月 ISBN 4091806724
  3. 1984年7月 ISBN 4091806732
  4. 1984年8月 ISBN 4091806740
  5. 1985年3月 ISBN 4091806759
  6. 1985年4月 ISBN 4091806767
  7. 1985年10月 ISBN 4091806775
  8. 1986年5月 ISBN 4091806783
  9. 1986年7月 ISBN 4091806791
  10. 1986年11月 ISBN 4091806805
スーパービジュアル・コミックス版(ビズコミュニケーションズジャパン) 全6巻
  1. 無よりはじまる 1996年1月 ISBN 4091603912
  2. 空の階段 1996年3月 ISBN 4091603920
  3. めざめの子 1996年5月 ISBN 4091603939
  4. 見るは知る 1996年7月 ISBN 4091603947
  5. 我は地球 1996年9月 ISBN 4091603955
  6. そして愛が 1996年11月 ISBN 4091603963
小学館文庫版 全7巻
  1. 2000年3月 ISBN 409192431X
  2. 2000年3月 ISBN 4091924328
  3. 2000年4月 ISBN 4091924336
  4. 2000年4月 ISBN 4091924344
  5. 2000年5月 ISBN 4091924352
  6. 2000年5月 ISBN 4091924360
  7. 2000年6月 ISBN 4091924379
My First WIDE版 全4巻
  1. 2003年1月 ISBN 4091621732
  2. 2003年1月 ISBN 4091621740
  3. 2003年2月 ISBN 4091621775
  4. 2003年2月 ISBN 4091621783
Big comics special. 楳図パーフェクション! 全6巻
  1. 2009年12月 ISBN 9784091828651
  2. 2009年12月 ISBN 9784091828668
  3. 2010年2月 ISBN 9784091830999
  4. 2010年2月 ISBN 9784091831002
  5. 2010年3月 ISBN 9784091831088
  6. 2010年3月 ISBN 9784091831095

ラジオドラマ版[編集]

NHK-FM放送の『サウンド夢工房』で1991年10月14日から同年11月1日に全15回で放送された。同じくNHK-FMの『青春アドベンチャー』で1992年10月5日から同年10月23日、1993年10月11日から同年10月29日に再放送された。

出演
スタッフ
脚本
じんのひろあき
効果
岩田紀良
技術
小林健一
選曲
伊藤守恵
演出
川口泰典原田和典

ミュージカル版[編集]

同名タイトルのミュージカル版が、2016年12月から2017年1月、KAAT神奈川芸術劇場でのプレビュー公演を経て、新国立劇場中劇場ほかで上演。主演は高畑充希門脇麦[2]

上演日程[編集]

キャスト[編集]

スタッフ[編集]

影響と論評[編集]

恐怖漫画家が書いた、この形而上学的作品に影響を受けた文化人は多い。たとえば、岡崎京子は自らの作品中で、真悟誕生の瞬間である「333のテッペンカラトビウツレ」のシーンに言及していたりする。

2018年、フランスで開かれた欧州最大規模の漫画の祭典、第45回アングレーム国際漫画祭で、「永久に残すべき作品」と認められた作品に与えられる「遺産賞」を本作が受賞した。日本人漫画家による本賞の受賞は、水木しげる総員玉砕せよ!』(2009年)、上村一夫『離婚倶楽部』(2017年)に続く3作目となる[4]

2020年にはイタリアのミケルッツィ賞にて最優秀クラシック作品賞を受賞。世界的にも評価されており、各国のクリエイターに大きな影響を与えている[5]

関連番組[編集]

参考資料[編集]

  • 『恐怖への招待』(楳図かずお、河出書房新社)に、作者自身による解説がある。
  • 雑誌『現代詩手帖』1985年10月号が「特集=超コミック」と題し、岡崎乾二郎「333からトビウツレ」を所収。
  • 雑誌『文藝』1987年夏号に、四方田犬彦「成熟と喪失」を所収(のちに単行本『もうひとりの天使』所収・河出書房新社)。
  • 雑誌『ユリイカ 詩と批評』の2004年7月号「特集*楳図かずお」に、高橋明彦の論文「わたしは真悟、内在する高度」を所収。
  • 雑誌『ユリイカ 詩と批評』の2004年7月号「特集*楳図かずお」の樫村晴香の論文「Quid ?ソレハ何カ 私ハ何カ」を所収。

出典[編集]

外部リンク[編集]