統一原子質量単位

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統一原子質量単位
unified atomic mass unit
unité de masse atomique unifiée
炭素原子の模型
記号 u
SI併用単位
質量
SI 1.660 539 066 60(50)×10−27 kg (2018CODATA)[1]
定義 静止して基底状態にある自由な炭素12原子の質量の1/12
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ダルトン
dalton
記号 Da
SI併用単位
定義 統一原子質量単位と同じ
語源 ジョン・ドルトン
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原子質量単位
atomic mass unit
記号 amu, a.m.u.
定義 非公式に統一原子質量単位と同じとされるが厳密には複数
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統一原子質量単位(とういつげんししつりょうたんい、: unified atomic mass unit、記号 u)およびダルトンドルトンdalton、記号 Da)は、原子分子のような微小な粒子の質量を表す単位である。かつては原子質量単位(記号 amu)とも言ったが、その名と記号は現在は非公式である。ダルトンと Da はかつて非公式だったが、2006年国際度量衡局(BIPM) により承認された。

統一原子質量単位とダルトンの定義は全く同じで、静止して基底状態にある自由な炭素12 (12C) 原子の質量の1/12と定義されている。国際単位系 (SI) では共に、SI単位ではないがSIと併用できるSI併用単位(Non-SI units that are accepted for use with the SI)に位置付けられている[2]

名称と記号

名称 英語 記号 SI併用
統一原子質量単位 unified atomic mass unit u
ダルトン dalton Da
原子質量単位 atomic mass unit amu ×

統一原子質量単位と原子質量単位は、厳密には別の単位である。原子質量単位にはかつて複数の定義があり、それらを統一したのが統一原子質量単位である。このような経緯があるため、原子質量単位の使用は推奨されていない。

統一原子質量単位の記号 u は「統一 (unified)」に由来し、amu の3文字目のように「単位 (unit)」に由来しているわけではない。したがって、原子質量単位の記号を u とするのは誤りである。

ダルトンの名は、近代原子論を提唱したジョン・ドルトンに由来する。日本では単位名は「ダルトン」とすることが多いが、英語での発音は「ドールトン」の方が近い。

1 u のCODATA推奨値は

1 u = 1.660 540 2(10)×10−27 kg (CODATA1986)
1 u = 1.660 538 73(13)×10−27 kg (CODATA1998)
1 u = 1.660 538 86(29)×10−27 kg (CODATA2002)
1 u = 1.660 538 782(83)×10−27 kg (CODATA2006)
1 u = 1.660 538 921(73)×10−27 kg (CODATA2010)
1 u = 1.660 539 040(20)×10−27 kg (CODATA2014)
1 u = 1.660 539 066 60(50)×10−27 kg (CODATA2018)[3]

である。括弧内の数値は標準不確かさである。

定義より、厳密に

m(12C) = 12 u = 12 Da

である。

12C原子は、12C原子核とそれを取り巻く6個の電子からなる。電子の質量は原子核の質量よりもずっと小さい。炭素12の質量数陽子数と中性子数の合計)は12なので、したがって、核子(陽子と中性子)および1H原子の質量はほぼ 1 u である。ただし実際はわずかに重く

mp = 1.0073 u[4]
mn = 1.0087 u[5]

および

m(1H) = 1.0078 u[6]

である。これは、自由な核子が高い核エネルギーを質量の形で持っているからである。しかしこの程度の差異を誤差として許容するなら、質量数 A の原子の質量はおよそ A u であるといえる。天然に存在する核種であれば概して

A ≲ 12 のとき m > A u
A ∼ 12 のとき mA u
12 ≲ A ≲ 210 のとき m < A u
220 ≲ A のとき m > A u

である[6]

統一原子質量単位(あるいはダルトン)の定義は、「12 g の炭素12の物質量」とされていたモルの以前の定義の裏返しになっており、

1 gNA u = 6.022 140 76×1023 u (2018CODATA)

である。つまり、ある分子等の質量を統一原子質量単位で表した数値は、その分子からなる純物質 1 mol(正確に 6.022 140 76×1023個の分子)の質量をグラムで表した数値とほぼ等しい(2019年のSI基本単位の再定義より以前は正確に等しかった)。

物理量

統一原子質量単位やダルトンは「原子量分子量を表す単位」と誤解されることがある。しかし、u や Da が表すのが質量であるのに対し、原子量は質量ではなく、原子の質量と 1 u との比であり、無次元量である。したがって、原子量を u や Da で表すことはできない。例えば「炭素12の原子量は12[7]」「炭素12の質量は 12 u」「炭素12の質量は 12 Da」の表記は正しいが、「炭素12の原子量は 12 u」「炭素12の原子量は 12 Da」は誤った表記である。

派生単位

ダルトン (Da) にはSI接頭辞を付けることができる。通常使われるのはミリダルトン (mDa)、キロダルトン (kDa)、ギガダルトン (GDa) である。

統一原子質量単位 (u) にSI接頭辞を付けることは、禁止されている訳ではないが、実際にはほとんどない。

ミリマスユニット (milli mass unit, mmu) という非公式の単位もあり、1 mmu = 1/1000 u = 1 mDa とされるが、SI接頭辞のシステムと整合性がなく、使用は推奨されない。

歴史

20世紀初頭、酸素O原子の質量の1/16が(「統一」のない)原子質量単位と定義されていた。しかし1929年、酸素の同位体 17O と 18O が発見されると、「酸素」と呼ばれているものは各種同位体の混合であり、「酸素原子の質量」とは、各同位体原子の質量の、同位体比に応じた平均であることが明らかになった。そしてまもなく、その同位体比も一定ではないことが明らかになり、原子質量単位の定義は不確実になった。

物理学の世界ではこれに対し、酸素16 16Oの質量の 1/16 と定義された新しい原子質量単位 (physical amu) を使うようになった(これにより、従来の値は変更しなくてはならないという問題も出てきた)。一方、化学の世界では従来の定義の原子質量単位 (chemical amu) を使った。こうして2つの定義が混在することとなった。これらを現在の統一原子質量単位で表すと

1 physical amu ≒ 0.999 6882 u
1 chemical amu ≒ 0.999 96 u(同位体比のばらつきにより高い精度では定まらない)

となり、約 1/3600 の差がある。

この混乱を解消するため、国際純粋・応用物理学連合 (IUPAP) と国際純正・応用化学連合 (IUPAC) が協議し、1960年、炭素12 12C 原子の質量の1/12である統一原子質量単位が定められた。この定義は、核種を特定することで同位体比の問題をなくしつつ、化学系amuに最も近く従来の数値を変更する必要がないように選ばれた。このとき、単位記号も新しく、統一 (unified) からuと定められた。

(「統一」のない)原子質量単位が「炭素12の質量の1/12」と公式に定義されたことはないが、現在ではほぼ常に、統一原子質量単位と同じ「炭素12の質量の1/12」の意味で使われる。

ダルトンは古くから使われていた単位で、長らく公式の定義がなかったものの、1960年までは物理学的amuと同じ「酸素16の質量の1/16」、1960年以降は統一原子質量単位と同じ「炭素12の質量の1/12」の意味で使うことが多かった。2006年以降は、国際度量衡局はダルトンを、統一原子質量単位と全く同じ定義の単位としてSI併用単位に採用した。

使用

原子イオン分子DNAタンパク質などの巨大な高分子を含む)の質量を表すのに使われる。大きなものではリボゾームのような複数個の超高分子の複合体にも使われる。

ただし、生化学で生体高分子や複合体の質量を表すときには、主にダルトンが使われる。ダルトンがSI併用単位になる前の書籍等では「ダルトンが使われるが正式には統一原子質量単位を使うべきである」などとされていた。生物学では無次元量である分子量を示すときにも「ダルトン」がしばしば使われる。

原子質量定数

原子質量定数
atomic mass constant
記号 mu
1.66053906660(50)×10−27 kg [8]
定義 統一原子質量単位と同じ
相対標準不確かさ 3.0×10−10
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原子質量定数(げんししつりょうていすう、: atomic mass constant)は、記号 mu で表される、原子質量と原子量を関連付ける物理定数である。統一原子質量単位と等しい[9]。すなわち mu = 1 u = 1 Da である。

原子 E の相対原子質量(すなわち原子 E の原子量)Ar(E) は、原子 E の質量 ma(E) と原子質量定数 mu の比として定義される[10]

Ar(E) = ma(E)/mu

同様に分子 B の相対分子質量(すなわち分子 B の分子量)Mr(B) は、分子 B の質量 m(B) と原子質量定数 mu の比として定義される[10]

Mr(B) = m(B)/mu

元素 E の相対原子質量(すなわち元素 E の原子量)Ar(E) は、元素 E の平均質量 ma(E) と原子質量定数 mu の比として定義される[11]

Ar(E) = ma(E)/mu

モル質量定数 Mu は原子質量定数 mu とアボガドロ定数 NA の積として定義される[10]

Mu = muNA

Muモル質量を原子量や分子量と関連付ける物理定数であり、モルの定義が変更された2019年5月20日以降は、0.99999999965(30) g mol−1 である[12]

出典

  1. ^ unified atomic mass unit The NIST Reference on Constants, Units, and Uncertainty. US National Institute of Standards and Technology. 2019-05-20. 2018 CODATA recommended values
  2. ^ SI国際文書SI第9版(2019年)第4章「SIとの併用が認められる非SI単位(Non-SI units that are accepted for use with the SI)」の表8The International System of Units(SI) 9th edition 2019 Bureau International des Poids et Mesures, 2019-05-20, pp.145-146 ただし値はCODATA2014によるもの(注(f))。
  3. ^ unified atomic mass unit The NIST Reference on Constants, Units, and Uncertainty. US National Institute of Standards and Technology. 2019-05-20. 2018 CODATA recommended values
  4. ^ CODATA proton mass in u.
  5. ^ CODATA neutron mass in u.
  6. ^ a b NIST Relative Atomic Mass.
  7. ^ SI第8版 (2006) p. 25.
  8. ^ unified atomic mass unit The NIST Reference on Constants, Units, and Uncertainty. US National Institute of Standards and Technology. 2019-05-20. 2018 CODATA recommended values
  9. ^ Gold Book A00497.
  10. ^ a b c グリーンブック (2009) pp. 57-58.
  11. ^ グリーンブック (2009) p. 143.
  12. ^ CODATA molar mass constant.

参考文献

  • 国際単位系 (SI) 日本語版刊行委員『国際文書 国際単位系 (SI)』(第 8 版日本語版)独立行政法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター、2006年http://www.nmij.jp/library/units/si/R8/SI8J.pdf2017年9月24日閲覧 
  • 吉野健一「用語を通して学ぶ質量分析基礎の基礎 : 第3回「イオンや分子の質量の単位, u, Da, amu, mmu」」『質量分析』第56巻第6号、日本質量分析学会、2008年12月1日、269-274頁、NAID 10024483810 
  • J.G. Frey、H.L. Strauss『物理化学で用いられる量・単位・記号』(PDF)産業技術総合研究所計量標準総合センター訳(第3版)、講談社、2009年。ISBN 978-406154359-1https://www.nmij.jp/public/report/translation/IUPAC/iupac/iupac_green_book_jp.pdf2017年9月13日閲覧 

外部リンク