ヤマザクラ

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ヤマザクラ
ヤマザクラ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: バラ目 Rosales
: バラ科 Rosaceae
: サクラ属 Cerasus
: ヤマザクラ C. jamasakura
学名
Cerasus jamasakura
(Sieb. ex Koidz.) H.Ohba (1992)[1]
シノニム
  • Prunus jamasakura Sieb. (1830) (basionym?, nom. seminud.?)[2]
  • Prunus pseudocerasus var. jamasakura (Sieb.) Makino (1908)[3]
  • Prunus jamasakura Sieb. ex Koidz. (1911) (basionym?)[4]
  • Prunus jamasakura (Sieb. ex Makino) Nakai (1911) (later homonym)[5]
  • Cerasus jamasakura (Sieb. ex Koidz.) X.R.Wang & C.B.Shang (1998) (isonym)[6]
和名
ヤマザクラ(山桜)

ヤマザクラ山桜、学名:Cerasus jamasakura (Sieb. ex Koidz.) H.Ohba)はバラ科サクラ属の落葉高木のサクラ日本固有種で、日本に自生する10もしくは11種あるサクラ属の基本野生種の一つ[7][8][注釈 1]。便宜的に山地に生息する野生のサクラを総称してヤマザクラ(山桜)ということもあり、品種としてのヤマザクラとの混同に注意が必要である。

特徴

ソメイヨシノのように満開を過ぎたころに葉が出るのではなく、開花と同時に赤茶けた若葉が出る
個体変異種の一つのヒロシマエバヤマザクラ。花弁の数が倍以上ある

概説

樹高は20mを超える高木で樹形は傘形。花は中輪で花弁は5枚の一重咲きで色は淡紅色。東京を基準とした花期は4月中旬。成木の成葉の裏面が帯白色になる。多くの場合葉芽と花が同時に展開するので、花が先に咲くソメイヨシノと区別する大きな特徴となる。またソメイヨシノと同じく大きくなるが、より成長に時間がかかり、花の数も少ない[9][10][11]エドヒガンに次いで長命であるが、その分、発芽してから花が咲くまでに時間がかかり、早くて5年、長くて10年以上、寒冷地ではさらに遅くなることもある[12]

ヤマザクラは野生種で数も多いため、同一地域の個体群内でも個体変異が多く、開花時期、花つき、葉と花の開く時期、花の色の濃淡と新芽の色、樹の形など様々な変異がある。新芽から展開しかけの若い葉の色は特に変異が大きく、赤紫色や褐色の他にもツクシヤマザクラでは黄緑色、緑色もあり、先端の色が濃いものなどもある。樹皮は暗褐色または暗灰色。

変種のヤマザクラとツクシヤマザクラの違い

分類学上の種(species)としてはヤマザクラだが、その下位分類の変種(variety)レベルでは、ヤマザクラ(var. jamasakura)とツクシヤマザクラ(var. chikusiensis)に分類される。ツクシヤマザクラはツクシザクラ(筑紫桜[13])とも呼ばれ、ヤマザクラの分布域(参照 )のうち薩南諸島九州西部に限定して分布しており、花が大きく若芽が緑や黄褐色で、若芽が赤いヤマザクラと区別ができ、見た目的にはヤマザクラとオオシマザクラの中間的な形態である[11][14]

江戸時代以前の日本におけるサクラの代表種

奈良県吉野山中千本付近のシロヤマザクラの眺望

その分布域(参照)から古来日本人に最もなじみが深かったサクラであり、江戸時代後期にソメイヨシノが開発されて明治時代以降に主流になるまでは、花見の対象と言えば主にヤマザクラであった。そのため和歌にも数多く詠まれており、「吉野の桜」とは本来このヤマザクラを指していた。野生種のため個体間の変異が比較的大きく、同一地域にあっても個体ごとに開花期が前後する。このため当時の花見は、栽培品種クローンで同一地域では一斉に咲く現代のソメイヨシノを対象とした現代の花見とは趣が違っていた。身近にあった事から用材としてもよく使われた[11][10]

木材は家具の材料としても人気が高い。樹皮は樺細工などに利用される。

分布地域と地域内の生息域

日本の固有種で東日本を含んだ広範囲に自生するが西日本の暖温帯を中心に分布する。北限は太平洋側では宮城県日本海側では新潟県。南限は鹿児島県トカラ列島。オオシマザクラと同じく暖温帯に分布するため本来は常緑広葉樹林が生息域だが、むしろ人間の生活圏の拡大と共に森が伐採されて陽当たりが良くなった二次林の落葉広葉樹林の方に多く進出して生息してきた。しかし1960年代以降は林業の衰退により二次林が放置されて暗くなっている場所が多く、ヤマザクラの生息域が減少している[11]

中国朝鮮半島韓国)の一部地域にも分布しているという説もあるが、カスミザクラオオヤマザクラの誤認の可能性が高いという[11]

地方自治体の木

  • 宮崎県(フェニックス飫肥杉と合わせて指定)[15]
  • 福島県郡山市
  • 埼玉県寄居町
  • 千葉県富里市
  • 神奈川県横浜市金沢区
  • 神奈川県鎌倉市
  • 神奈川県大和市
  • 長野県長和町
  • 滋賀県大津市
  • 兵庫県淡路市

ヤマザクラ群

ヤマザクラに類するサクラをヤマザクラ群と呼ぶことがある。これには分類学上の種(species)としての別種も含まれており正式な分類ではなく、便宜的に呼んでいる人がいるだけということに注意する必要がある。一昔前の分類記載においてはカスミザクラオオヤマザクラなどの他の野生のサクラと混同するケースなどがあり、専門家の書いた記述についても注意が必要である。この原因には、日本の野生桜が多くの変異を引き起こしやすいこと、交雑によると見られる雑種が多く生じやすいこと、古来から花が好まれたことで広く人工的に植栽されたことで交雑個体や変異個体が広く分布する原因になっていることなどがある。

野生種

  • アサギリザクラ(朝霧桜・毛山桜)
  • ウスガサネオオシマ(薄重大島)
  • オオシマザクラ(大島桜) - カスミザクラの島嶼種もしくはヤマザクラの海岸型。
  • オオヤマザクラ(大山桜・蝦夷山桜・紅山桜)
  • カスミザクラ(霞桜)
  • カタオカザクラ(片丘桜) - カスミザクラの幼形開花型。ヤマザクラに戻ってしまうことが多い。
  • キビザクラ(吉備桜)
  • クマノザクラ(熊野桜)
  • ケエゾヤマザクラ(毛蝦夷山桜)
  • シオカゼザクラ(潮風桜) - オオシマザクラの一型。
  • ツクシザクラ(筑紫桜・筑紫山桜)- 分類学上ではヤマザクラの変種。
  • ハツユキザクラ(初雪桜)
  • ヤマザクラ(山桜)- 本種

園芸品種

  • アオバ(青葉)
  • アカツキザクラ(暁桜・霞蝦夷山桜)
  • アカミオオシマ(赤実大島)
  • イズザクラ(伊豆桜)
  • イチハラトラノオ(市原虎の尾)
  • イボザクラ(伊保桜・井保桜)
  • イヨウスズミ(伊予薄墨)
  • ウンリュウオオシマ(雲竜大島)
  • オウシュウサトザクラ(奥州里桜)
  • カンザキオオシマ(寒咲大島)
  • キクシダレ(菊枝垂)
  • ギジョウジギジョザクラ(祇王寺祇女桜)
  • キヌガサ(衣笠)
  • キリフリザクラ
  • クチナシザクラ(梔子桜)
  • ケタノシロキクザクラ(気多の白菊桜)
  • コウホクニオイ(江北匂)
  • ゴザノマニオイ(御座の間匂)
  • コトヒラ(琴平)
  • コノハナザクラ(木の花桜)
  • コンゴウザクラ(金剛桜・源氏車・小督) - 国の天然記念物。
  • サノザクラ(佐野桜)
  • シダレオオヤマザクラ(枝垂大山桜)
  • ジョウニオイ(上匂)
  • シンスミゾメ(新墨染)
  • スルガダイニオイ(駿河台匂)
  • ゼンショウジキクザクラ(善正寺菊桜)
  • センダイヤ(仙台屋)
  • ソウドウザクラ(宗堂桜) 2種がある。
  • タイザンフクン(泰山府君)
  • ダイリノサクラ(内裏の桜)
  • タカネオオヤマザクラ(高嶺大山桜)
  • タキニオイ(滝匂)
  • ナラノヤエザクラ(奈良の八重桜・奈良八重桜)
  • ニドザクラ(二度桜)
  • ノナカノサクラ(野中の桜)
  • ハチスカザクラ(蜂須賀桜) - 沖縄系カンヒザクラとヤマザクラの一代交雑種カンザクラ
  • ヒウチダニキクザクラ(火打谷菊桜)
  • ヒロシマエバヤマザクラ(広島江波山桜)
  • ヒヨシザクラ(日吉桜)
  • ベニタマニシキ(紅玉錦・松前紅玉錦)
  • ベニナンデン(紅南殿)
  • ホソカワニオイ(細川匂)
  • マツマエウスベニココノエ(松前薄紅九重)
  • ミナカミ(水上)
  • ミョウジョウ(明星・松前明星)
  • ヤエノオオシマザクラ(八重の大島桜)
  • ヤエノカスミザクラ(八重の霞桜)
  • ヤエベニオオシマ(八重紅大島)
  • ヤツブサザクラ(八房桜)
  • ヤマゴシムラサキ(山越紫)
  • ヨウロウザクラ(養老桜)
  • ライコウジキクザクラ(来迎寺菊桜)
  • ワカキノサクラ(稚木の桜) - ヤマザクラの幼形開花型。ヤマザクラに戻ってしまうことが多い。

脚注

注釈

  1. ^ ヤマザクラ、オオヤマザクラカスミザクラオオシマザクラエドヒガンチョウジザクラマメザクラタカネザクラミヤマザクラクマノザクラの10種。疑義のあるカンヒザクラも含めると11種。

出典

  1. ^ Ohba, H. 1992. Japanese Cherry Trees under the Genus Cerasus (Rosaceae). The Journal of Japanese Botany 67 (5): 278. (PDF)
  2. ^ Siebold, P.F.v. 1830. Synopsis plantarum oeconomicarum universi regni Japonici. Verhandelingen van het Bataviaasch Genootschap der Kunsten en Wetenschappen 12: 68.
  3. ^ Makino, T. 1908. Observations on the Flora of Japan. 『植物学雑誌』, 1908 Volume 22 Issue 257 Pages 93-102, doi:10.15281/jplantres1887.22.257_93
  4. ^ Koidzumi, G. 1911. Notes on Japanese Rosaceae. III. The Botanical Magazine, Tokyo 25 (295): 184., doi:10.15281/jplantres1887.25.295_183
  5. ^ Nakai, T. 1911. Flora Koreana. The Journal of the College of Science, Imperial University of Tokyo 31: 482.
  6. ^ Wang, X.R. & Shang, C.B. 1998. Notes on some species of the genus Cerasus Miq. Journal of Nanjing Forestry University 22 (4): 61.
  7. ^ 勝木俊雄『桜』p13 - p14、岩波新書、2015年、ISBN 978-4004315346
  8. ^ 紀伊半島南部で100年ぶり野生種のサクラ新種「クマノザクラ」 鮮やかなピンク 森林総研 産経ニュース 2018年3月13日
  9. ^ 山桜 日本花の会 桜図鑑
  10. ^ a b 勝木俊雄『桜』p6 - p7、岩波新書、2015年、ISBN 978-4004315346
  11. ^ a b c d e 勝木俊雄『桜』p156 - p160、岩波新書、2015年、ISBN 978-4004315346
  12. ^ 勝木俊雄『桜』p152、岩波新書、2015年、ISBN 978-4004315346
  13. ^ 筑紫桜 日本花の会 桜図鑑
  14. ^ 勝木俊雄『桜』p33、岩波新書、2015年、ISBN 978-4004315346
  15. ^ 県の木・県の花・県の鳥”. 宮崎県. 2019年4月6日閲覧。

参考文献

関連項目