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{{出典の明記|date=2018年12月}}
{{生物分類表
{{生物分類表
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* [[ ニチリンヒトデ目]] [[:en:Velatida|Velatida]]
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[[file:Astropecten lorioli.jpg|thumb|right|240px|''Astropecten lorioli'' - [[ジュラ紀]]の種]]
'''ヒトデ'''('''海星'''、'''人手'''、'''海盤車'''、{{lang-en-short|starfish}})は、[[棘皮動物門]]'''[[ヒトデ綱]]'''('''海星綱、[[:en:Asteroidea|Asteroidea]]''')に所属する[[動物]]の総称<ref>{{Cite web|url=https://kotobank.jp/word/%E3%83%92%E3%83%88%E3%83%87-120360|title=ヒトデとは|accessdate=2018-12-20|last=小項目事典,百科事典マイペディア,[[日本大百科全書]](ニッポニカ)|first=[[ブリタニカ国際大百科事典]]|website=[[コトバンク]]|language=ja}}</ref><ref name=":0">{{Cite web|url=http://www.godac.jamstec.go.jp/bismal/j/JODC_J-DOSS/view/0000095|title=ヒトデ/海星綱 - JODC Dataset - Biological Information System for Marine Life|accessdate=2018-12-20|website=www.godac.jamstec.go.jp}}</ref>。


'''ヒトデ'''('''海星'''、'''人手'''、{{lang-en-short|starfish}})は、[[棘皮動物門]]'''[[ヒトデ綱]]'''('''海星綱、[[:en:Asteroidea|Asteroidea]]''')に所属する[[動物]]の総称{{sfn|コトバンク: ヒトデ}}{{sfn|藤田敏彦|2022|p=1-4}}。
星型(多くは[[五芒星]]形)をした[[生物]]で、現在人間が用いている[[スター (記号)|星型や星マーク(☆・★)]]の元となった{{Refnest|group="注"|[[古代エジプト]]において、空を表すために部屋の天井に刻んだヒトデの形が発祥。現在でも[[エジプト]]の[[サッカラ]]にある[[ウナス]]王の[[ピラミッド]]内において人類最古の宗教碑文『[[ピラミッド・テキスト]]』が刻まれた部屋の天井にその状態を確認することができる<ref>2013年8月3日放送、TBS系『[[日立 世界・ふしぎ発見!]]』「エジプト スフィンクスの謎」放送回</ref>。}}。ヒトデという[[和名]]は「[[ヒト]]の[[手]]」を意味する。また、[[英語]]では「starfish」([[恒星|星]]の[[魚]])あるいは「sea star」([[海]]の星)、[[フランス語]]では「étoile de mer」(海の星)、[[ドイツ語]]では「Seestern」(海の星)など、多くの言語で星にちなんだ名で呼ばれている。


多くの種は、体が平たい星形(☆)の姿をしている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}{{sfn|本川達雄|2001b|p=13}}{{sfn|コトバンク: ヒトデ}}。世界でおよそ2000種、日本近海に限ってもおよそ300種が確認されている。その生息域は、[[潮間帯]]から[[深海]]、あるいは熱帯域から極帯域に至る世界中の[[海底]]だが、一方で[[淡水]]や陸上に生息する種はいない{{sfn|藤田敏彦|2022|p=1-4}}。
== 概要 ==
多くは5本、あるいはそれ以上の[[腕]]を持ち、この腕の腹側に並んだ管足を使って自由に移動する。


== 名称 ==
腹側中央に口がある。[[肉食動物|肉食]]で、[[貝]]や死んだ[[魚]]などを食べる。
ヒトデ(人手)という[[和名]]は、5本の腕をもつ姿を5本の指をもつ[[人間|人]]の[[手]]になぞらえたものである{{sfn|藤田敏彦|2022|p=5-8}}。また、海星はその姿を星形に見立てた事に由来する{{sfn|藤田敏彦|2022|p=1-4}}。[[江戸時代]]までは、モミジガイ(紅葉貝)とも呼ばれたが、この呼称は現在は[[モミジガイ目]]などに留まる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=110-111}}。


[[英語]]では「starfish」(「fish」は魚ではなく海の動物の意味{{sfn|本川達雄|2001b|p=13}})あるいは「sea star」([[海]]の星)、[[フランス語]]では「étoile de mer」(海の星)、[[ドイツ語]]では「Seestern」(海の星)など、多くの言語で星にちなんだ名で呼ばれている。
一部分が切除などによって失われたときに[[再生 (生物学)|再生]]をする。また、自発的に体部を分断し、各分体を再生させることにより増殖([[分裂]]・[[自切]])する種も存在する。


== 形態 ==
ヒトデの大きさは「輻長」(ふくちょう、中心から腕の先までの長さ)で表す。
[[File:Asterias rubens, dissection.svg|300px|thumb|right|ヒトデの部分解剖図
1 幽門胃
2 直腸
3 直腸腺
4 石管
5 多孔板
6 幽門盲嚢
7 消化腺
8 噴門胃
9 生殖巣
10 歩帯板
11 瓶嚢]]


ヒトデの体は中央の盤と、そこから放射状に伸びる腕からなる。他の棘皮動物と同様に構造は五放射相称で、腕は5本であることが多いが例外もある{{Refnest|group=注釈|[[タコヒトデ]]のように腕が20から30本に及ぶものや{{sfn|コトバンク: タコヒトデ}}、逆に少ない4腕の個体がまれに発生する[[イトマキヒトデ]]{{sfn|千葉県立中央博物館分館海の博物館|2016|p=5}}、[[マンジュウヒトデ]]のように腕がほとんど無く球体に近い種もある{{sfn|藤田敏彦|2022|p=94-96}}。}}。口は下側にあり、この面を口側(こうそく)、上面を反口側(はんこうそく)と呼ぶ。口側の中央に口があり、そこから腕の先端に向けて歩帯溝(ほたいこう)と呼ばれる溝が伸びる。歩帯溝には無数の管足(かんそく)が並ぶ{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}。
== 外部形態 ==
偏平で、五本の[[腕]]のあるいわゆる[[スター (記号)|星形]]の体を持つ。ただし、腕の数には変化があり、種類によってはその数を次第に増やしたり、分裂することで失ったりするものがある。腕の集まる中央部を'''盤'''という。背面は多数のコブ状や針状の突起が一面に並んだ丈夫な皮膚で覆われている。皮膚の下には多数の石灰質の骨板が[[筋肉]]や結合組織で結ばれた丈夫な[[内骨格]]がある。


ヒトデの中心から腕の先端までの距離を幅長(ふくちょう)、中心から腕と腕の間の部分までの距離を間幅長(かんふくちょう)と呼び、一般的にヒトデの大きさは幅長で表される{{sfn|藤田敏彦|2022|p=10}}。
腕の下面では腕の中央に沿って深い溝があり、この内側に[[管足]]が並ぶ。この溝を'''歩帯溝'''という。盤中央下面、それぞれの腕の歩帯溝の交じり会うところに[[口]]がある。[[肛門]]は盤の上面中央にある。'''多孔板'''は盤の上面側方、ある二つの腕の分かれるところ近くに一つ、あるいは腕の増加に連れてその数を増やす。


=== 骨格と表皮 ===
管足は多くの種で[[吸盤]]状で、腕の先端部には特に長いものがあり、[[触手]]のように働く。背面にも小さな管足状の突起が出るが、これは伸びることはなく、[[呼吸]]を行っているものとされ、'''皮[[鰓]]'''(papula)と呼ばれている。
ヒトデの体は、表皮の下にある小さな骨片を隙間なく並べた[[内骨格]]に覆われている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=15-17}}。骨片は[[炭酸カルシウム]]の結晶で、スポンジ状の多孔質(ステレオム構造)をしている{{sfn|本川達雄|2001b|p=59-66}}。骨片は筋肉とキャッチ結合組織で繋がれているが、キャッチ結合組織は自由に固さを変えることができ、これにより体を柔らかく動かすことも硬直させることもできる。キャッチ結合組織は一度硬くするとエネルギーをほとんど消費せずに状態を維持することができ、その様からcatch(留め金)と名付けられた{{sfn|藤田敏彦|2022|p=17-18}}。


反口側の骨片のうち1か所だけ大きく板状の骨がある。これには微細な穴があることから多孔板と呼ばれ、[[水管系]]に海水を取り込む入口の役割を果たす{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}。口側では、口から腕の先端に向けて放射状に歩帯板と呼ばれる骨が対になって並び、V字の溝(歩帯溝)をなす{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}。
== 内部形態 ==
[[消化管]]は下面中央の口から上に伸び、盤中央の内部を大きく占める[[胃]]に通じ、そこから上面中央に開く肛門へと[[直腸]]が続く。胃は大きく二つに分かれる。最初の噴門部は大きくて筋肉質でよく伸び縮みし、食物を採る時には体外に広げられる。後方の幽門部からはそれぞれの腕に管が伸び、その先で左右に分かれ、それぞれの腕の内部にある'''肝盲嚢'''につながっている。


反口側の表皮にはたくさんの突起があるが、これらは骨格の隙間から飛び出た体腔で皮鰓(ひさい)と呼ぶ。皮鰓はガス交換の役割を担うと考えられるが、その数は種によって異なる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}。また皮鰓とは別に骨片が変形した棘などを持つ種もいる。反口側の表皮は鮮やかな色や模様を持つものも多い。多くは赤系だが、これは水中での保護色と考えられる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=21-23}}。
[[水管系]]は皮膚と内骨格の間を走る。多孔板から石管が下側に伸び、口周辺を取り巻く環状水管に続き、そこから歩帯溝中央を走る放射水管へとつながる。


=== 棘と叉棘 ===
神経系は水管に沿って環状神経と放射神経が走る。[[生殖巣]]は肝盲嚢の下に腕に一対ずつあり、腕の間の位置の盤上周囲に開く。[[雌雄異体]]。
{{Double image aside|right|MA I317879 TePapa Benthopecten-pikei-HES full.jpg|210|Pédicellaires d' Acanthaster Planci.JPG|180|左:イバラヒトデ科の骨格(口側)<br>右:オニヒトデの叉棘}}
一部の種では、骨片が棘やピンセット状の叉棘(さきょく)の形状になるものがあるが、これらは他の棘皮動物と同様に表皮に覆われている{{sfn|本川達雄|2001b|p=11}}。叉棘は骨片の組み合わせにより2本の棘をハサミのように動かすことができる棘で、[[ウデボソヒトデ]]などの一部の種では叉棘で[[デトリタス]]を挟むように捕まえるが、多くの種では用途は分かっていない{{sfn|藤田敏彦|2022|p=40-42}}{{sfn|藤田敏彦|2022|p=113-115}}。


また、[[オニヒトデ]]の棘は長さ3センチメートルほどで先が槍のように鋭利になっており、刺さると表皮が破れて内部の毒腺から猛毒が注入される{{sfn|藤田敏彦|2022|p=98-99}}。
体腔内には[[嚢胸下綱#下位分類|シダムシ類]]が[[寄生]]する<ref>[https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/59066 【研究成果】アカヒトデシダムシは新種だった!~90年越しの再同定~][[広島大学]](2020年07月14日)2020年9月25日閲覧</ref>。


== 発生 ==
=== 水管系 ===
[[水管系]]は、ヒトデの移動器官や[[循環系|循環器系]]に相当する機能を持つ。盤の口を取り巻くように環状水管があり、そこから各腕の先端まで放射水管が伸びており、内部は体液で満たされている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}{{sfn|本川達雄|2001b|p=8-10}}。環状水管から反口側に向かって1本だけ管が伸び、多孔板を通して海中と繋がっている。したがって水管系には海水が取り込まれるが、孔の内部にある多数の繊毛によりその量は制御される。多孔板と環状水管を繋ぐ管は石灰が付着して硬くなっており、石管と呼ばれる{{sfn|本川達雄|2001b|p=8-10}}。
多くは[[体外受精]]で、孵化した[[幼生]]は[[プランクトン]]生活をする。幼生は左右相称で、体表面に繊毛帯を持って移動する。次第に[[繊毛]]帯は体表面に複雑な曲がりくねった形となり、その一部が三対の突起となって突き出した状態を'''ビピンナリア幼生'''(bipinnaria larva)、さらにそれが長い突起として伸びだしたものを'''ブラキオラリア幼生'''(brachiolaria larva)という。


放射水管には、左右対称に枝のように側管が伸び、その先端に管足が付く。管足の基部には瓶嚢と呼ばれる袋があり、瓶嚢を収縮・膨張させることで管足内の水圧を制御して管足を伸縮させる。管足は歩行のみならず、その表面でガス交換・老廃物の放出を行い、餌を捕らえる摂食器官や感覚器官としても機能する{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}{{sfn|本川達雄|2001b|p=6-8}}。
その後、幼生は海底に降り、幼生の反口側で基盤上に固着し、口の部分の周辺を中心に新たな体が作られる形で[[変態]]が行われ、ヒトデらしい姿となる。


=== 消化器系 ===
直接発生で幼体になる例もあり、なかには親の体で子が育つ例もある。
ヒトデの消化器官は短いが発達している。口は盤の中央に位置し、ごく短い食道を通して胃に繋がる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}。胃は、噴門胃と幽門胃に分かれる。ある種では噴門胃が体内で蛇腹のように畳まれており、捕食する際にこれを反転させて口から出して口外摂食することがある。口から出す胃はかなり大きく、オニヒトデは自分の体と同じくらいに広げることが出来る{{sfn|野島哲|2001|p=28-30}}{{sfn|藤田敏彦|2022|p=35-36}}。胃の周囲には消化液を分泌する5対の幽門盲嚢が付くが、それらは腕の内部まで入り込んでいる。また、幽門盲嚢には栄養分を一時的に溜め込む働きもある{{sfn|野島哲|2001|p=26-28}}。胃から反口側に向けてごく短い腸が伸びて、肛門に達する。肛門は盤の中央からややずれた位置にあって小さく目立たず、消化しきれない貝殻などは口から排出することもある。また、肛門が無い種も少なくない{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}。


== 習性 ==
=== 神経系 ===
[[File:Détail bras d'étoile de mer.jpg|thumb|腕の先端にある赤い点が眼点]]
[[ファイル:Starfishmussel.jpg|サムネイル|[[イガイ]]を捕食するヒトデ]]
ヒトデは脳を持たないが、体に分布する感覚細胞で受けた物理的・化学的な刺激を神経で伝えている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=18-21}}。神経も水管系と同様に盤に環状神経があり、そこから各腕に放射神経が伸びる{{sfn|本川達雄|2001b|p=8-10}}{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}。また、腕の先端には眼点と呼ばれる器官がある。眼点は複数の感覚細胞が集まる[[複眼と単眼#複眼|複眼]]のような構造で、解像度は低いが光の方向を認識し朧げな「像」として捕らえられると考えられている。実験では、オニヒトデは5メートルほど離れた場所にあるリーフを見つけ出している{{sfn|藤田敏彦|2022|p=18-21}}。
全ては[[海]]産の[[底生動物]]で、泳ぐものはない。ほとんどは管足で基盤上に吸着しつつ這うが、一部に砂の中に潜れるものもある。いずれにせよ、動きはゆっくりしており、素早い動きができるものではない。しかし、その骨格は骨板のつながりあったもので、一見固そうな外見に反して柔軟に変形させることが出来る。大きなヒトデが信じられないような小さな隙間に入り込んでいることがあり、また引っ繰り返された場合には体を大きくひねって元に戻ることができる。


また、ヒトデは匂いで餌を探り当てることが知られている。匂いの感覚細胞は体表全体に分布しており、実験では餌の場所だけでなく好き嫌いも判断することができた{{sfn|野島哲|2001|p=27-28}}。
[[深海]]棲の種は主に[[デトリタス]]食性であるが、肉食性のものも多い。餌は[[二枚貝]]などの動きの遅い小動物であるが、海洋ではこの範疇の動物はかなり数が多いので、ヒトデは重要な肉食者である。その食べ方は独特で、二枚貝を腕で抱え込み、管足の力でじっくりと時間をかけて開ける。さらに、胃を体外に出すことができ、これで食物を包んで[[消化液]]を出し、そのまま消化吸収してしまう。


=== 生殖器系 ===
このような特殊な食べ方で、普通の動物には食べにくい[[固着性]]の貝([[カキ (貝)|カキ]]等)なども餌にしてしまう。{{要出典範囲|一説によると、[[ホタテガイ]]など二枚貝の一部に見られる急激な移動能力はヒトデの捕食から逃れるために発達したと考えられている。|date=2018年12月}}実際には[[甲殻類]]や[[環形動物]]、時には小[[魚]]までが餌になっている。
生殖巣は盤あるいは腕の付け根に5対あり、多くの種では対をなしている。精子・卵子を海中に放出する生殖孔は反口側にある{{sfn|藤田敏彦|2022|p=8-12}}。


=== クモヒトデとの違い ===
== 再生 ==
[[クモヒトデ]]は盤と腕の境界が明確で、細く長い5本の腕が盤から飛び出るような姿をしている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=13-15}}。腕の骨格は中心に関節で繋がる腕骨があり、それを4枚の腕板が囲む。腕の口側に歩帯溝は無く、管足は有るが移動にはあまり使わない。移動は腕骨に付く筋肉を使って腕を素早くしならせて海底を掻き、その速度はヒトデよりも遥かに早く、中には泳ぐ種もいる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=13-15}}{{sfn|藤田敏彦|2022|p=26-28}}{{sfn|藤田敏彦|2022|p=28}}。全ての種で肛門がないため排泄は口で行い、多孔板や生殖裂孔なども全て口側にある{{sfn|藤田敏彦|2022|p=13-15}}。また生殖嚢を持ち、その中で幼生を保育する種が多い{{sfn|藤田敏彦|2022|p=67-70}}。
[[ファイル:Tu - Linckia guildingi cropped.jpg|サムネイル|1本の腕から再生中のヒトデ]]
ヒトデ類は[[再生 (生物学)|再生]]能力が高いことでも有名である。腕の一本だけでも再生でき、種によっては腕をつかむと自切する。また、真っ二つになっても再生し、その場合には2匹になる。また、常時分裂を行って[[無性生殖]]しているものもある。


== 下位分類 ==
== 生態 ==
=== 寿命 ===
以下の[[目 (分類学)|目]]が知られる<ref name=":0" />。
ヒトデの一生には不明な点が多く、その寿命も確かなことは分かっていない。キヒトデは水槽などの飼育環境で数年生きることが確認されており、その成長スピードと野生のキヒトデの大きさから逆算すると、寿命は5から10年程度と推測されている。また、幅長40センチメートルにもなる大型の種では30年、逆に成長が遅い[[南極海|南氷洋]]の種では幅長5センチ程度に成長するまで39年掛かると推定されており、種によってかなり異なると考えられる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=74-76}}。

=== 食性 ===
{{Double image aside|right|Horned Sea Star Eating Shrimp.jpg|120|Starfishmussel.jpg|220|左:エビを包む半透明の膜が胃。<br>右:二枚貝を捕食するヒトデ。}}
[[File:Brisingid starfish (24856697877).jpg|thumb|海中に腕を広げるウデボソヒトデ類]]
ヒトデの食性は様々だが、最も多いのは肉食性である。主に動きの遅い[[アサリ]]や[[ホタテガイ]]などの貝類や[[フジツボ]]などを好むが、同じヒトデを含む棘皮動物や、動きの速い[[エビ]]や[[魚類|魚]]を捕食したり、あるいは[[腐肉食]]をすることもある{{sfn|野島哲|2001|p=30-33}}。小さな餌は口から胃に入れるが、口に入らないような大きな餌は、体外に出した胃で餌を包み込み消化吸収する{{sfn|藤田敏彦|2022|p=35-36}}{{sfn|野島哲|2001|p=28-30}}。

二枚貝を捕食する際には、貝殻が開く側を口に向けて腕ですっぽりと覆いこみ、貝殻に管足の吸盤を貼り付けて両側に引っ張る。この際のヒトデはキャッチ結合組織で体を硬直させて引っ張るが、その力は4から5キログラムに及ぶ。貝に隙間ができると、そこから反転した胃を入れて消化吸収を行う。その際に必要な隙間は0.1ミリメートルほどである{{sfn|藤田敏彦|2022|p=36-38}}{{sfn|野島哲|2001|p=28-30}}。

[[イトマキヒトデ]]の仲間などは、素早い動物を待ち構えて捕食することがある。ヒトデが5本の腕を海底につけて盤を浮かせてドーム状の体制を取ると、海底とヒトデが作る隙間は魚にとって安全な場所のように見える。そこに小魚やエビが誘い込まれると、ヒトデは徐々に体を降ろして捕食する{{sfn|藤田敏彦|2022|p=36-38}}。

深海に生息するウデボソヒトデ類は、[[ウミユリ綱|ウミユリ]]のような受動的懸濁物食者である。たくさんの腕を海中に漂わせて、棘や叉棘で漂うデトリタスを捕らえ、腕を曲げて口まで運んで捕食する{{sfn|藤田敏彦|2022|p=40-42}}。同じく深海に生息するマンプクヒトデ類は砂の中に潜って生息するが、海底に堆積したデトリタスを砂ごと胃に入れ、養分を消化吸収した後に砂を排出している{{sfn|藤田敏彦|2022|p=42-43}}。

また、[[アオサ]]や芝草などの海藻や[[サンゴ]]を食べる種もある{{sfn|野島哲|2001|p=30-33}}。

=== 運動 ===
[[File:Seastar.webm|thumb|ガラスに張り付く管足の動き]]
[[File:A starfish's flip.webm|thumb|でんぐり返しで反転するヒトデ]]
ヒトデは管足を用いて移動する。管足は水管系の端部にあり、チューブのような形状で内部は体液で満たされている。管足の先端には吸盤があり、反対の基部は腕の内部にあり瓶嚢と呼ばれる袋が付く。この瓶嚢を縮めて体液を送ると管足が伸びる。また管足には筋肉も付いており、それによって管足を任意の方向に曲げることができる。この伸縮と曲げを組み合わせて海底を蹴るように動かす。多数の管足は水管系に沿った神経系により同調させることができ、これによりゆっくりと動く。また、先端の吸盤からは粘着性の分泌液を出すことができ、これを使って岩礁やガラスに吸い付いてよじ登ることもできる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=25-26}}。その動きは極めて遅く、キヒトデ類で1分間に数センチから20センチメートルほどで、観測された最も早い記録でも[[スナヒトデ]]類の分速75から115センチメートルである{{sfn|野島哲|2001|p=38}}。

一方で砂地に生息するヒトデは、砂に潜ることがある。モミジガイは潜る際に歩帯溝を開いて管足を腕の両側に伸ばし、管足で体の下にある砂を腕の両脇に掻きだすように掘って体を砂に埋めてゆく。こうした砂地で暮らす種では、管足の先端に吸盤はなく尖っている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=29-30}}。

ヒトデがひっくり返った時の反転行動には2種類ある。一つは、腕を曲げたり捻ったりして腕の先端の管足で海底面を掴み、それを手掛かりに盤やその他の腕を持ち上げてでんぐり返しする方法である。もう一つは、口側に向かって全ての腕を曲げてチューリップ状になり、いずれかの方向へ横倒しの体制になったら上側の腕の管足で海底面を掴み、掴んだ方向に進みながら丸めた体を徐々に伸ばしていく方法である{{sfn|藤田敏彦|2022|p=30-33}}。

=== 有性生殖 ===
==== 放卵放精 ====
[[File:Asterias rubens 09 Espen Rekdal.jpg|thumb|[[:en:Common starfish|Asterias rubens]] の放精]]
ヒトデの多くの種は、雌雄異体である。メスとオスはそれぞれ腕の根本付近にある生殖孔から放卵放精を行い、受精は海水中で行われる。いくつか種では受精する確率を高めるために近くに集まったり、同時に放卵放精を行うことが知られているが、中にはカスリモミジガイのように雌雄が重なるように放卵放精を行う種もいる。また、[[コブヒトデ]]などは腕の先端で盤を持ち上げて海底から体を離す姿勢で放卵放精を行うが、これは効率よく海中に拡散させるためだと考えられる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=53-54}}。

雌雄異体ではなく有性生殖をおこなう種としては、雌雄同体のチビイトマキヒトデや{{sfn|小松美英子|1977|p=277}}、[[単為生殖]]をするホウキボシの仲間[[:en:Ophidiaster granifer|Ophidiaster granifer]]などが挙げられる{{sfn|M. Yamaguchi|J. S. Lucas|1984|p=33-44}}。

==== 発生 ====
[[File:Haeckel Asteridea Larvae.jpg|thumb|Asterias rubensの発生<br>
2.スカフラリア幼生(ビピンナリア初期):上方の緑の部分が胃。赤い帯状の部分は繊毛帯。<br>3.ビピンナリア幼生:左右に5対の腕が伸びる。胃の左側にある赤い部分が発生したばかりのヒトデ原基。<br>4.横から見たブラキオラリア幼生:左側に3本伸びるのがブラキオラリア腕。上部のヒトデ原基はさらに発達している{{sfn|小松美英子|2001|p=230-239}}。]]
ヒトデの発生は多様であるが、ここでは日本近海に広く見られる[[イトマキヒトデ]](水温20度から22度)を例にする{{sfn|小松美英子|2001|p=232-233}}{{sfn|小松美英子|2001|p=240-243}}。卵が受精すると、1、2分でその周りに受精膜が見られるようになり、受精から1時間ほどすると[[卵割]]が始まる。イトマキヒトデの卵割様式は全等割で、やがて[[胞胚]]に達する。胞胚は球形で、中央の胞胚腔を細胞の壁が取り囲む[[胞胚#腔胞胚|有腔胞胚]]である{{sfn|小松美英子|2001|p=232-233}}。胞胚は受精後11時間半で受精膜から出て、繊毛で遊泳する。受精後15時間後には植物極付近の細胞が内部に陥入を始めて原腸を形成、その後原腸は幼生の消化管になる。受精後40時間で、体をよぎる繊毛帯が口と肛門付近に1つずつ現れる。この繊毛帯は幼生の遊泳器官でもあり、餌を摂食する器官でもある。この頃をビピンナリア幼生と呼ぶが、幼生は遊泳しながら[[プランクトン|植物性プランクトン]]を餌とする{{sfn|小松美英子|2001|p=235-238}}。受精後2日ごろのビピンナリア幼生は体長は350ミクロン幅は280ミクロンで、その姿は左右対称である。その後、左右の体腔嚢が原腸から分離するが、体腔嚢は左が大きく成長していく。受精後1週間で、左体腔嚢に5つの水腔葉(すいこうよう)が現れて左右非対称が顕著になっていく。この水腔葉は、将来は成体の水管系になる。ビピンナリア幼生はビピンナリア腕と呼ばれる5対の小突起をもつが、これとは別に幼生の腹部に3本のブラキオラリア腕が現れて、ブラキオラリア幼生になる{{sfn|小松美英子|2001|p=238-239}}。受精後20日ほどで、ブラキオラリア幼生は逆さまの体制でブラキオラリア腕で底質に付着する。この頃には左体腔嚢の中でヒトデ原基が発生し、五放射相称への変態が始まる。成長したヒトデ原基は、やがてその他の幼生器官を吸収して、直径が600ミクロンほどの稚ヒトデになる{{sfn|小松美英子|2001|p=240}}。

上記のような発生過程は一例であり、ヒトデの発生は種によって多様である。例えば同じイトマキヒトデ属のヌノメイトマキヒトデは、ビピンナリア幼生を経ずに胞胚からブラキオラリア幼生へ移行し、口を持たず必要な養分は卵に蓄えられている卵黄から摂取する。チビイトマキヒトデは卵から孵化するとすぐにブラキオラリア幼生になるが、海中を浮遊しない匍匐性である{{sfn|小松美英子|2001|p=240-243}}。またコイトマキヒトデは[[卵胎生]]で、受精からブラキオラリア幼生になるまで親の生殖巣内で過ごす{{sfn|小松美英子|2001|p=240-243}}{{sfn|藤田敏彦|2022|p=65-66}}。

==== 保育 ====
ヒトデの幼生は浮遊して移動する[[プランクトン]]になる種が多いが、親が子を保育する種もいる。体内で保育する種としては、前述の生殖巣で保育するコイトマキヒトデの他に、胃の中で保育するSmilasterias multiparaがいる。Smilasterias multiparaは、母親の胃の中で稚ヒトデまで成長し口から出てくる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=65-66}}。

体外で保育する種では、反口側にもつ膜の中で育てるマクヒトデの仲間や、骨片の隙間で子を背負うコモチヒトデなどが挙げられる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=65-66}}。また、体を丸めるように海底と体の間に隙間を作りその中で保育を行う種は多く、特に冷たい海では多様な群に認められる。なかには親と子がへその緒状のヒモで繋がった状態で保育する例も確認されている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=66-67}}。

=== 再生と分裂 ===
[[File:Tu - Linckia guildingi - 2.jpg|thumb|1本の腕から再生するホウキボシ類]]
ヒトデは強い再生力を持つことでも知られている。ヒトデの骨格は細かい骨片がキャッチ結合組織などで繋がって出来ているが、このキャッチ結合組織を緩めることで自由に体を自切することができる。そこからの再生力は強く、失った腕が再生するのはもちろん、盤さえ残っていれば半分に割れても元通りの体に再生する。大発生したキヒトデやオニヒトデを駆除しようとバラバラにしたところ、かえって数が増えるという例も報告されている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=73-74}}。

このような自切は、基本的にトカゲのしっぽ切りのような自己防衛手段だが、積極的に分裂をして数を増やす無性繁殖をおこなう種が20種ほど確認されている{{sfn|藤田敏彦|2001|p=150-151}}{{sfn|藤田敏彦|2001|p=151-154}}{{sfn|藤田敏彦|2001|p=155-156}}。[[ヤツデヒトデ]]は、腕を相対する2方向に広げ逆方向に引っ張り合って盤を半分に割って分裂する。分裂した個体は1年ほどを掛けて元の姿にもどるが、分裂を2年ごとに繰り返して数を増やしている。こうした分裂を行う種は、通常は1つしか持たない肛門や多孔板を複数持つものが多い{{sfn|藤田敏彦|2001|p=151-154}}。分裂をする種の中でも最も再生力が強い種が[[ホウキボシ]]の仲間である。ホウキボシは盤を失った1本の腕から体全体を復元することができる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=73-74}}。このように1本の腕だけで完全に再生できる種は6種が確認されている{{sfn|藤田敏彦|2001|p=154-155}}。

また、幼生段階で分裂を行う種も確認されている。スナヒトデの仲間では、幼生の腕の先端に瘤のような二次幼生をつくり[[クローニング]]を行う。分裂した胚から再び幼生が発生することも確認されており、クローニングによって発生段階を繰り返すことができると考えられる。このような分裂を行う幼生は、発生を繰り返すことで長時間にわたって浮遊幼生段階を維持し、海流に乗ってより長距離を移動していると考えられる{{sfn|藤田敏彦|2001|p=156-158}}。

== 分類 ==
[[File:Riedaster reicheli.JPG|thumb|[[後期ジュラ紀]]のRiedaster reicheliの[[化石]]]]
棘皮動物は、[[カンブリア紀]]に急速に発展し、古生代を通じて20綱にも及んだ{{sfn|藤田敏彦|2022|p=92-94}}。ヒトデ綱もこの頃に分かれたと考えられる{{sfn|大路樹生|2001|p=98-102}}。[[オルドビス紀]]から綱の数は減り続けて[[ペルム紀|二畳紀]]には6綱になる。[[ペルム紀|二畳紀]]末の大量絶滅で[[ウミツボミ綱]]が絶滅し、現生5綱が残った{{sfn|大路樹生|2001|p=104-105}}。現生5綱はいずれも五放射相称だが、その理由は分かっていない{{sfn|藤田敏彦|2022|p=88-91}}。現生5綱のうち、[[ウミユリ綱]]は固着性で茎を持つので有柄類と呼ばれ、早くから他の4綱から分かれた。残りの4綱は動き回ることから遊在類と呼ばれ、その中で歩帯を放射状に伸ばした星形亜門と、歩帯を閉じて球体になった有棘亜門に分かれた。ヒトデは星形亜門に属する{{sfn|藤田敏彦|2022|p=92-94}}。

{{Clade
|label1=[[棘皮動物|棘皮動物門]](Echinodermata)
|1={{Clade
|label1=遊在類 
|1={{clade
|label1=有棘亜門 
|1={{clade
|1=[[ナマコ|ナマコ綱]](Holothuroidea) [[File:Holothuroidea.JPG|80 px]]
|2=[[ウニ|ウニ綱]](Echinoidea) [[File:Sea urchin (217110954).jpg|80 px]]
}}
|label2=星形亜門 
|2={{clade
|1=[[クモヒトデ|クモヒトデ綱]](Ophiuroidea) [[File:Ophiura ophiura.jpg|80 px]]
|2='''ヒトデ綱(Asteroidea)''' [[File:Portugal 20140812-DSC01434 (21371237591).jpg|100 px]]
}}
}}
|label2=有柄類 
|2=[[ウミユリ|ウミユリ綱]](Crinoidea) [[File:Crinoid on the reef of Batu Moncho Island (cropped).JPG|50 px]]
}}
}}

=== 下位分類 ===
ヒトデ綱に属する[[目 (分類学)|目]]は、以下のものが知られる{{sfn|海洋研究開発機構|2022}}。このうち[[シャリンヒトデ目]]は発見当初に棘皮動物の6番目の綱とされていたが、後年のDNAの調査などでヒトデ綱の一部に位置づけられている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=109-110}}。
* [[ウデボソヒトデ目]] [[:en:Brisingida|Brisingida]]
* [[ウデボソヒトデ目]] [[:en:Brisingida|Brisingida]]
* [[マヒトデ目]] [[:en:Forcipulatida|Forcipulatida]]
* [[マヒトデ目]] [[:en:Forcipulatida|Forcipulatida]]
* [[イバラヒトデ目]] [[:en:Notomyotida|Notomyotida]]
* [[モミジガイ目]] [[:en:Paxillosida|Paxillosida]]
* [[モミジガイ目]] [[:en:Paxillosida|Paxillosida]]
* [[シャリンヒトデ目]] [[:en:Peripodida|Peripodida]]
* [[シャリンヒトデ目]] [[:en:Peripodida|Peripodida]]
* [[ヒメヒトデ目]] [[:en:Spinulosida|Spinulosida]]
* [[ヒメヒトデ目/ルソンヒトデ目]] [[:en:Spinulosida|Spinulosida]]
* [[アカヒトデ目]] [[:en:Valvatida|Valvatida]]
* [[アカヒトデ目]] [[:en:Valvatida|Valvatida]]
* [[ ニチリンヒトデ目]] [[:en:Velatida|Velatida]]
* [[マクヒトデ目]] [[:en:Velatida|Velatida]]


=== 主な種 ===
== 人間との関わり ==
[[File:Starfish in Cyprus.JPG|thumb|土産として売られる乾燥ヒトデ]]
*[[アオヒトデ]] ''Linckia laevigata'' (ホウキボシ科):青色。一本の脚の長さは10[[センチメートル|cm]]以上にもなる大型のヒトデ。
[[File:What to eat - strange food in China.jpg|thumb|中国の屋台に並ぶ揚げヒトデ]]
* [[アカヒトデ]] ''Certonardoa semiregularis''(ホウキボシ科):朱色、腕は細長く輻長約10cm。
ヒトデは、海岸で簡単に目にする事ができ、[[水族館]]のタッチプールでも定番のよく知られた水生生物である{{sfn|本川達雄|2001b|p=2-3}}。星型の姿は好感を持たれることも多く、海辺のイラストなどでヒトデが描かれる事も多い。また、海辺の土産で乾燥したヒトデが販売される事や、観賞用に飼育されることもある{{sfn|藤田敏彦|2022|p=107-108}}。しかし、それ以外で実利的に利用されることはほとんど無い{{sfn|藤田敏彦|2022|p=103-106}}。
* [[イトマキヒトデ]] ''Asterina pectinifera''(イトマキヒトデ科):腕は短く、五角形の糸巻の形に似ている。輻長約6cm。
* [[オニヒトデ]] ''Acanthaster planci''(オニヒトデ科):輻長約15cm。[[トゲ]]に強い毒を持つ。[[珊瑚]](サンゴ)を主食とする。
* [[トゲモミジガイ]]Astropecpten polyacanthus(モミジガイ科):輻長約10cm。[[テトロドトキシン]]を持つ。
* [[スナヒトデ]] ''Luidia quinaria''(スナヒトデ科):輻長約14cm。
* [[ヤツデスナヒトデ]] ''Luidia maculata''(スナヒトデ科):輻長約20cm。
* [[タコヒトデ]] ''Plazaster borealis''(タコヒトデ科):30本前後の腕をもつ。
* [[キヒトデ]](ヒトデ・マヒトデ)''Asterias amurensis'' (キヒトデ科):輻長約10cm。
* [[ヤツデヒトデ]] ''Coscinasterias acutispina''(キヒトデ科):腕はおおむね8 - 11本。
* [[フサトゲニチリンヒトデ]] ''Crossaster papposus''(ニチリンヒトデ科):腕は10本前後。


=== 利用 ===
<gallery>
ウニの生殖巣は好んで食べられるのに対し、ヒトデの生殖巣には[[サポニン]]が多く含まれるため一般的に食用に適さない。しかし、[[キヒトデ]]は比較的サポニンが少なく、九州の一部の地域では塩ゆでしてサポニンを抜いて生殖巣を食べている。また中国では焼ヒトデを食べたり、中国から東南アジアにかけては乾燥させたヒトデが販売され滋養強壮の薬として料理に入れたり酒に漬けたりする。ただし、モミジガイ類など猛毒の[[テトロドトキシン]]を持つ種もあり、知識なく食べることは危険である{{sfn|藤田敏彦|2022|p=103-106}}。
ファイル:BlueSeaStar.jpg|[[アオヒトデ]]
ファイル:Certonardoa semiregularis ja01.jpg|[[アカヒトデ]](背側)
ファイル:Certonardoa semiregularis ja02.jpg|[[アカヒトデ]](腹側)
ファイル:Asterina pectinifera ja01.jpg|[[イトマキヒトデ]](背側)
ファイル:Asterina pectinifera ja02.jpg|[[イトマキヒトデ]](腹側)
ファイル:トゲモミジガイ兵庫県明石市二見町沖合い300mにて.JPG|[[トゲモミジガイ]](背側 明石市)
</gallery>


毒性を持つことを逆に利用する例もある。肥溜めや汲み取り式トイレにヒトデを入れると[[蛆|ウジ]]の発生を抑える効果がある。また、その性質を利用して害虫駆除剤や害獣忌避剤の原料にされる{{sfn|藤田敏彦|2022|p=103-106}}。
== 人間とのかかわり ==
その姿の面白さから[[水族館]]の人気者となったりする例はあるが、実利的な意味ではほとんど役に立つ例はない。


学術的には、[[生物学]]の研究対象となることが多い。1969年にヒトデを人工授精させる方法が発見されると、同じ棘皮動物の[[ウニ]]と並んで[[発生学]]の主要な研究対象となっている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=56-58}}。また、幼生など分裂は[[クローン]]研究の対象になっている{{sfn|藤田敏彦|2001|p=156-158}}。
体内に[[カドミウム]]や[[鉛]]などの[[重金属]]を多く含むこともあり<ref>[http://www.famic.go.jp/ffis/fert/obj/1chu_hm.pdf 魚かす粉末等の有害重金属の含有実態調査] [[農林水産消費安全技術センター]]</ref>、基本的に食用には適さない。[[熊本県]]の[[天草諸島]]では、春の抱卵期に、地元で「ゴホンガゼ」と呼ばれる[[キヒトデ]]を塩茹でし、その卵を食べるという食習慣がある。味は薄味の[[ウニ]]ミソのようで、[[サポニン]]などに由来する[[苦味]]が多少ある。ヒトデは長寿の源とされているが、天草地方でも食習慣があるのはごく一部の地域に留まる。


=== 被害 ===
[[カキ (貝)|カキ]]、[[ホタテガイ|ホタテ]]、[[アサリ]]、[[ウニ]]、[[アワビ]]稚貝などを食害するほか、漁業用の置き餌にもたかる。そのため、漁業関係者には迷惑がられ、大量発生すると駆除・捕獲して埋め立て、あるいは[[堆肥]]化などの形で処分される。オニヒトデはサンゴの[[ポリプ]]を食べ、[[サンゴ礁]]に打撃を与える(一方でサンゴはオニヒトデの幼生を食べるので、互いに[[天敵]]の関係にある)。[[バラスト水]]によって海外からもたらされたキヒトデが、[[オーストラリア]]の[[養殖]]カキや[[ホタテガイ|ホタテ]]を食い荒らし、深刻な被害を与えている。
ヒトデと人間の関係で問題になるのは漁業被害である。ヒトデは度々大発生を起こし、海産資源に食害を与える。1982年のアサリ養殖の被害など、ホタテや[[カキ (貝)|カキ]]などの貝類を始めとし、時には[[刺し網|刺網]]にかかる魚にも及ぶ。また、[[底引網|底引き網]]に大量のヒトデが掛かって漁具が壊れるなどの被害を与える事もある{{sfn|藤田敏彦|2022|p=36-38}}{{sfn|野島哲|2001|p=43-45}}。


ヒトデは長距離を移動することはないが、人間によって運ばれてその先で問題を起こすこともある。日本近海に生息する[[キヒトデ]]類は、1980年代に[[タンカー]]の[[バラスト水]]に幼生が紛れて[[オーストラリア]]に移入し、[[タスマニア州|タスマニア島]]で漁業被害や原産種を絶滅させるなど深刻な被害をもたらした。キヒトデは[[世界の侵略的外来種ワースト100]]に挙げられている{{sfn|藤田敏彦|2022|p=99-101}}。
一部の地域では、ヒトデを乾燥し粉砕したものを虫の忌避材兼肥料として利用している。また[[汲み取り式便所]]にヒトデを数体投入すると[[ハエ|蝿]]が発生しにくくなり、今でも一部の海沿いの[[集落]]でこの方法が使われている。


人間に直接的に危害を加える例ではオニヒトデが挙げられる。オニヒトデは鋭い針をもち、刺すとと毒腺から毒を注入する。オニヒトデ毒には肝臓性毒や[[アナフィラキシー|アナフィラキシーショック]]を引き起こす物質も含まれており、ダイバーに死亡事故が起きた事もある{{sfn|藤田敏彦|2022|p=98-99}}。
ヒトデを有用な海洋資源と見なした場合、無尽蔵ともいえるほどの量があり増殖も簡単であるから、これを有効活用しようと[[産学官連携]]でいくつかの研究が進められている。


== 他の生物との関係 ==
[[漢方医学]]では、ヒトデに含まれる[[ガングリオシド]]や[[グリシン]]、[[サポニン]]といった成分に滋養強壮作用があるとされる。サポニン等の物質は、敵を寄せ付けない抗菌性・微毒性があり(ゆえに[[生薬]]として長期間の服用が適さない場合がある)、ヒトデのこの成分([[ステロイドサポニン]])を利用した有益な薬性についての[[臨床研究]]も行われている。
[[File:Hymenocera picta en train de retourner Fromia milleporella.JPG|thumb|Fromia milleporellaを捕食するフリソデエビ]]
[[File:Dendrogaster tobasuii.png|thumb|ヒトデの体内に寄生する[[ユミヘリゴカクノシダムシ]]]]
自然界でヒトデが起す問題には、[[オニヒトデ]]によるサンゴの食害が挙げられる。オニヒトデは[[サンゴ礁|珊瑚礁]]を形成する[[造礁サンゴ]]を好んで食べ、その量は1個体で1年間に5から6平方メートルに及び、珊瑚礁の生態系あるいは観光産業に影響を与える{{sfn|藤田敏彦|2022|p=97-98}}{{sfn|野島哲|2001|p=43-45}}。

その一方でヒトデは体内に[[サポニン]]を持つため、天敵となる動物は少ない{{sfn|藤田敏彦|2022|p=103-106}}。ヒトデを好んで食べる動物としては、ボウシュウボラなどの[[ホラガイ]]{{sfn|藤田敏彦|2022|p=103-106}}、[[フリソデエビ]]、ヨコシマエビ{{sfn|千葉県立中央博物館分館海の博物館|2016|p=8}}などがあり、他にも同じヒトデ類・魚類・[[カニ]]・[[カモメ]]・[[ラッコ]]などが捕食する<ref>{{cite book|title=Starfish: Biology and Ecology of the Asteroidea |author1=Gaymer, C. F. |author2=Himmelman, J. H. | contribution=Leptasterias polaris | pages=182–84}}</ref><ref>{{cite book |author1=Byrne, M. |author2=O'Hara, T. D. |author3=Lawrence, J. M. | contribution=Asterias amurensis|title=Starfish: Biology and Ecology of the Asteroidea | pages=177–179}}</ref><ref>{{cite book | author=Robles, C. | contribution=Pisaster ochraceus | pages=166–167|title=Starfish: Biology and Ecology of the Asteroidea}}</ref><ref>{{cite book| author=Scheibling, R. E. |contribution=Oreaster reticulatus|title=Starfish: Biology and Ecology of the Asteroidea |page=150}}</ref>。

天敵が少ないヒトデは潮間帯の食物連鎖の頂点にいて、[[生物群集]]に大きな影響を与える[[キーストーン種]]である。北アメリカの北西海岸沖の岩場で実験的にヒトデの数を減らしたところ、[[ムラサキイガイ]]が大発生してその餌となる藻類が激減し、生物多様性が損なわれてしまった{{sfn|コトバンク: キーストーン種}}。こうした事は自然界でも起こっている。2013年にはアメリカ西海岸で[[:en:Ambidensovirus|アンビデンソウイルス属]]の感染拡大により数百万体のヒトデが病死してしまい、生態系のバランスが大きく崩れる事態になった{{sfn|藤田敏彦|2022|p=101-103}}。

ヒトデに寄生する生物は少なくない。体外に寄生する生物には、[[アオヒトデ]]の口側に取りついて吻で体液を吸収する巻貝のヒトデナカセや、スナヒトデに寄生する[[多毛類]]のスナヒトデシリスなどがいる。体内に寄生する巻貝のアカヒトデヤドリニナは成長するとヒトデの表皮が瘤のように膨らんでくる。同じく体内に寄生する[[シダムシ属]]はフジツボに近い[[甲殻類]]だが、一見するとヒトデの臓器と見違えるほど姿を変える{{sfn|藤田敏彦|2022|p=76-78}}。

また、ヒトデの体外で共生する生物には[[クラゲムシ]]やヒトデヤドリエビなどがおり{{sfn|千葉県立中央博物館分館海の博物館|2016|p=9}}、肛門から体内に入って共生する生物には[[カクレウオ科|カクレウオ]]がいる{{sfn|コトバンク: カクレウオ}}。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
=== 出典 ===
<!-- 文献参照ページ -->
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== 参考文献 ==
'''書籍'''
* {{Cite book|和書|author=藤田敏彦 |title=ヒトデとクモヒトデ-謎の☆形動物 |publisher=[[岩波書店]] |series=岩波科学ライブラリー 313 |year=2022 |isbn=978-4-00-029713-4 |ref=harv}}

* {{Cite book|和書|year=2001|title=ヒトデ学-棘皮動物のミラクルワールド|editor=[[本川達雄]]|publisher=[[東海大学出版会]]|isbn=4-486-01552-5|ref=harv}}
** {{Cite book|和書|author=本川達雄|title=棘皮動物にはミラクルがいっぱい、他|ref={{SfnRef|本川達雄|2001b}}}}
** {{Cite book|和書|author=野島哲|title=ヒトデの食生活 |ref={{SfnRef|野島哲|2001}}}}
** {{Cite book|和書|author=大路樹生|title=化石 |ref={{SfnRef|大路樹生|2001}}}}
** {{Cite book|和書|author=藤田敏彦|title=分身の術 |ref={{SfnRef|藤田敏彦|2001}}}}
** {{Cite book|和書|author=小松美英子|title=幼生たちの世界 |ref={{SfnRef|小松美英子|2001}}}}

'''論文など'''
* {{Cite journal |和書 |author=小松美英子 |title=チビイトマキヒトデの自家受精 |journal=動物学雑誌 |volume=86 |issue=4 |publisher=東京動物學會 |year=1977 |date=1977 |naid=110003364960|ref=harv}}
* {{Cite journal |author1=M. Yamaguchi |author2=J. S. Lucas |title=Natural parthenogenesis, larval and juvenile development, and geographical distribution of the coral reef asteroid Ophidiaster granifer |journal=Marine Biology |volume=83 |year=1984 |date=1984 |doi=10.1007/BF00393083 |ref=harv}}

'''辞典など'''
* “[[コトバンク]]”. [[朝日新聞社]], [[CARTA HOLDINGS|VOYAGE MARKETING]].
** {{Cite web |url=https://kotobank.jp/word/%E3%83%92%E3%83%88%E3%83%87-120360 |title=ヒトデ |accessdate=2022-10-07|ref={{sfnref|コトバンク: ヒトデ}}}}(『日本大百科全書』ほかより転載)。
** {{Cite web |url=https://kotobank.jp/word/%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%B3%E7%A8%AE-1611607 |title=キーストーン種 |accessdate=2022-10-07|ref={{sfnref|コトバンク: キーストーン種}}}}(『ブリタニカ国際大百科事典』ほかより転載)。
** {{Cite web |url=https://kotobank.jp/word/%E3%82%BF%E3%82%B3%E3%83%92%E3%83%88%E3%83%87-93180 |title=タコヒトデ |accessdate=2022-10-07|ref={{sfnref|コトバンク: タコヒトデ}}}}(『日本大百科全書』ほかより転載)。
** {{Cite web |url=https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A6%E3%82%AA-43879 |title=カクレウオ |accessdate=2022-10-07|ref={{sfnref|コトバンク: カクレウオ}}}}(『日本大百科全書』ほかより転載)。


'''webなど'''
== 参考図書 ==
* {{Cite web |author=[[海洋研究開発機構]] |url=https://www.godac.jamstec.go.jp/bismal/j/view/0000095 |title=Asteroidea de Blainville, 1830 ヒトデ/海星綱 |date=2022-08-09 |year=2022 |accessdate=2022-10-09 |ref=harv}}
*佐波 征機(著), 入村 精一(著), 楚山 勇『ヒトデガイドブック』[[TBSブリタニカ]] 2002年7月 ISBN 4484024101
* {{Cite web |author=[[千葉県立中央博物館]]分館[[勝浦海中公園#海の博物館|海の博物館]] |url=http://www2.chiba-muse.or.jp/www/UMIHAKU/contents/1521849666827/simple/No13.pdf |title=ヒトデ・ウニ・ナマコを観察しよう |date=2016-03-18 |year=2016 |accessdate=2022-10-10 |ref=harv}}
<!--
* [http://www.tbs.co.jp/seibutsu/zukan/ TBS生物図鑑]
* [http://www.umi.muse-tokai.jp/encyclopedia/fish/htd.html 東海大学海洋科学博物館デジタル百科事典]
* [http://www.youtube.com/watch?v=HG17TsgV_qI 死んだアザラシを食べるヒトデ] [[BBC]]
-->


{{commons|starfish}}
{{commons|starfish}}

2022年10月19日 (水) 02:46時点における版

ヒトデ
Ochre Sea Star
Olympic National Parkの海岸にて
分類
: 動物界 Animalia
: 棘皮動物門 Echinodermata
: ヒトデ綱海星綱Asteroidea
学名
Asteroidea
de Blainville, 1830
英名
starfish

ヒトデ海星人手: starfish)は、棘皮動物門ヒトデ綱海星綱、Asteroidea)に所属する動物の総称[1][2]

多くの種は、体が平たい星形(☆)の姿をしている[3][4][1]。世界でおよそ2000種、日本近海に限ってもおよそ300種が確認されている。その生息域は、潮間帯から深海、あるいは熱帯域から極帯域に至る世界中の海底だが、一方で淡水や陸上に生息する種はいない[2]

名称

ヒトデ(人手)という和名は、5本の腕をもつ姿を5本の指をもつになぞらえたものである[5]。また、海星はその姿を星形に見立てた事に由来する[2]江戸時代までは、モミジガイ(紅葉貝)とも呼ばれたが、この呼称は現在はモミジガイ目などに留まる[6]

英語では「starfish」(「fish」は魚ではなく海の動物の意味[4])あるいは「sea star」(の星)、フランス語では「étoile de mer」(海の星)、ドイツ語では「Seestern」(海の星)など、多くの言語で星にちなんだ名で呼ばれている。

形態

ヒトデの部分解剖図 1 幽門胃 2 直腸 3 直腸腺 4 石管 5 多孔板 6 幽門盲嚢 7 消化腺 8 噴門胃 9 生殖巣 10 歩帯板 11 瓶嚢

ヒトデの体は中央の盤と、そこから放射状に伸びる腕からなる。他の棘皮動物と同様に構造は五放射相称で、腕は5本であることが多いが例外もある[注釈 1]。口は下側にあり、この面を口側(こうそく)、上面を反口側(はんこうそく)と呼ぶ。口側の中央に口があり、そこから腕の先端に向けて歩帯溝(ほたいこう)と呼ばれる溝が伸びる。歩帯溝には無数の管足(かんそく)が並ぶ[3]

ヒトデの中心から腕の先端までの距離を幅長(ふくちょう)、中心から腕と腕の間の部分までの距離を間幅長(かんふくちょう)と呼び、一般的にヒトデの大きさは幅長で表される[10]

骨格と表皮

ヒトデの体は、表皮の下にある小さな骨片を隙間なく並べた内骨格に覆われている[11]。骨片は炭酸カルシウムの結晶で、スポンジ状の多孔質(ステレオム構造)をしている[12]。骨片は筋肉とキャッチ結合組織で繋がれているが、キャッチ結合組織は自由に固さを変えることができ、これにより体を柔らかく動かすことも硬直させることもできる。キャッチ結合組織は一度硬くするとエネルギーをほとんど消費せずに状態を維持することができ、その様からcatch(留め金)と名付けられた[13]

反口側の骨片のうち1か所だけ大きく板状の骨がある。これには微細な穴があることから多孔板と呼ばれ、水管系に海水を取り込む入口の役割を果たす[3]。口側では、口から腕の先端に向けて放射状に歩帯板と呼ばれる骨が対になって並び、V字の溝(歩帯溝)をなす[3]

反口側の表皮にはたくさんの突起があるが、これらは骨格の隙間から飛び出た体腔で皮鰓(ひさい)と呼ぶ。皮鰓はガス交換の役割を担うと考えられるが、その数は種によって異なる[3]。また皮鰓とは別に骨片が変形した棘などを持つ種もいる。反口側の表皮は鮮やかな色や模様を持つものも多い。多くは赤系だが、これは水中での保護色と考えられる[14]

棘と叉棘

左:イバラヒトデ科の骨格(口側) 右:オニヒトデの叉棘 左:イバラヒトデ科の骨格(口側) 右:オニヒトデの叉棘
左:イバラヒトデ科の骨格(口側)
右:オニヒトデの叉棘

一部の種では、骨片が棘やピンセット状の叉棘(さきょく)の形状になるものがあるが、これらは他の棘皮動物と同様に表皮に覆われている[15]。叉棘は骨片の組み合わせにより2本の棘をハサミのように動かすことができる棘で、ウデボソヒトデなどの一部の種では叉棘でデトリタスを挟むように捕まえるが、多くの種では用途は分かっていない[16][17]

また、オニヒトデの棘は長さ3センチメートルほどで先が槍のように鋭利になっており、刺さると表皮が破れて内部の毒腺から猛毒が注入される[18]

水管系

水管系は、ヒトデの移動器官や循環器系に相当する機能を持つ。盤の口を取り巻くように環状水管があり、そこから各腕の先端まで放射水管が伸びており、内部は体液で満たされている[3][19]。環状水管から反口側に向かって1本だけ管が伸び、多孔板を通して海中と繋がっている。したがって水管系には海水が取り込まれるが、孔の内部にある多数の繊毛によりその量は制御される。多孔板と環状水管を繋ぐ管は石灰が付着して硬くなっており、石管と呼ばれる[19]

放射水管には、左右対称に枝のように側管が伸び、その先端に管足が付く。管足の基部には瓶嚢と呼ばれる袋があり、瓶嚢を収縮・膨張させることで管足内の水圧を制御して管足を伸縮させる。管足は歩行のみならず、その表面でガス交換・老廃物の放出を行い、餌を捕らえる摂食器官や感覚器官としても機能する[3][20]

消化器系

ヒトデの消化器官は短いが発達している。口は盤の中央に位置し、ごく短い食道を通して胃に繋がる[3]。胃は、噴門胃と幽門胃に分かれる。ある種では噴門胃が体内で蛇腹のように畳まれており、捕食する際にこれを反転させて口から出して口外摂食することがある。口から出す胃はかなり大きく、オニヒトデは自分の体と同じくらいに広げることが出来る[21][22]。胃の周囲には消化液を分泌する5対の幽門盲嚢が付くが、それらは腕の内部まで入り込んでいる。また、幽門盲嚢には栄養分を一時的に溜め込む働きもある[23]。胃から反口側に向けてごく短い腸が伸びて、肛門に達する。肛門は盤の中央からややずれた位置にあって小さく目立たず、消化しきれない貝殻などは口から排出することもある。また、肛門が無い種も少なくない[3]

神経系

腕の先端にある赤い点が眼点

ヒトデは脳を持たないが、体に分布する感覚細胞で受けた物理的・化学的な刺激を神経で伝えている[24]。神経も水管系と同様に盤に環状神経があり、そこから各腕に放射神経が伸びる[19][3]。また、腕の先端には眼点と呼ばれる器官がある。眼点は複数の感覚細胞が集まる複眼のような構造で、解像度は低いが光の方向を認識し朧げな「像」として捕らえられると考えられている。実験では、オニヒトデは5メートルほど離れた場所にあるリーフを見つけ出している[24]

また、ヒトデは匂いで餌を探り当てることが知られている。匂いの感覚細胞は体表全体に分布しており、実験では餌の場所だけでなく好き嫌いも判断することができた[25]

生殖器系

生殖巣は盤あるいは腕の付け根に5対あり、多くの種では対をなしている。精子・卵子を海中に放出する生殖孔は反口側にある[3]

クモヒトデとの違い

クモヒトデは盤と腕の境界が明確で、細く長い5本の腕が盤から飛び出るような姿をしている[26]。腕の骨格は中心に関節で繋がる腕骨があり、それを4枚の腕板が囲む。腕の口側に歩帯溝は無く、管足は有るが移動にはあまり使わない。移動は腕骨に付く筋肉を使って腕を素早くしならせて海底を掻き、その速度はヒトデよりも遥かに早く、中には泳ぐ種もいる[26][27][28]。全ての種で肛門がないため排泄は口で行い、多孔板や生殖裂孔なども全て口側にある[26]。また生殖嚢を持ち、その中で幼生を保育する種が多い[29]

生態

寿命

ヒトデの一生には不明な点が多く、その寿命も確かなことは分かっていない。キヒトデは水槽などの飼育環境で数年生きることが確認されており、その成長スピードと野生のキヒトデの大きさから逆算すると、寿命は5から10年程度と推測されている。また、幅長40センチメートルにもなる大型の種では30年、逆に成長が遅い南氷洋の種では幅長5センチ程度に成長するまで39年掛かると推定されており、種によってかなり異なると考えられる[30]

食性

左:エビを包む半透明の膜が胃。 右:二枚貝を捕食するヒトデ。 左:エビを包む半透明の膜が胃。 右:二枚貝を捕食するヒトデ。
左:エビを包む半透明の膜が胃。
右:二枚貝を捕食するヒトデ。
海中に腕を広げるウデボソヒトデ類

ヒトデの食性は様々だが、最も多いのは肉食性である。主に動きの遅いアサリホタテガイなどの貝類やフジツボなどを好むが、同じヒトデを含む棘皮動物や、動きの速いエビを捕食したり、あるいは腐肉食をすることもある[31]。小さな餌は口から胃に入れるが、口に入らないような大きな餌は、体外に出した胃で餌を包み込み消化吸収する[22][21]

二枚貝を捕食する際には、貝殻が開く側を口に向けて腕ですっぽりと覆いこみ、貝殻に管足の吸盤を貼り付けて両側に引っ張る。この際のヒトデはキャッチ結合組織で体を硬直させて引っ張るが、その力は4から5キログラムに及ぶ。貝に隙間ができると、そこから反転した胃を入れて消化吸収を行う。その際に必要な隙間は0.1ミリメートルほどである[32][21]

イトマキヒトデの仲間などは、素早い動物を待ち構えて捕食することがある。ヒトデが5本の腕を海底につけて盤を浮かせてドーム状の体制を取ると、海底とヒトデが作る隙間は魚にとって安全な場所のように見える。そこに小魚やエビが誘い込まれると、ヒトデは徐々に体を降ろして捕食する[32]

深海に生息するウデボソヒトデ類は、ウミユリのような受動的懸濁物食者である。たくさんの腕を海中に漂わせて、棘や叉棘で漂うデトリタスを捕らえ、腕を曲げて口まで運んで捕食する[16]。同じく深海に生息するマンプクヒトデ類は砂の中に潜って生息するが、海底に堆積したデトリタスを砂ごと胃に入れ、養分を消化吸収した後に砂を排出している[33]

また、アオサや芝草などの海藻やサンゴを食べる種もある[31]

運動

ガラスに張り付く管足の動き
でんぐり返しで反転するヒトデ

ヒトデは管足を用いて移動する。管足は水管系の端部にあり、チューブのような形状で内部は体液で満たされている。管足の先端には吸盤があり、反対の基部は腕の内部にあり瓶嚢と呼ばれる袋が付く。この瓶嚢を縮めて体液を送ると管足が伸びる。また管足には筋肉も付いており、それによって管足を任意の方向に曲げることができる。この伸縮と曲げを組み合わせて海底を蹴るように動かす。多数の管足は水管系に沿った神経系により同調させることができ、これによりゆっくりと動く。また、先端の吸盤からは粘着性の分泌液を出すことができ、これを使って岩礁やガラスに吸い付いてよじ登ることもできる[34]。その動きは極めて遅く、キヒトデ類で1分間に数センチから20センチメートルほどで、観測された最も早い記録でもスナヒトデ類の分速75から115センチメートルである[35]

一方で砂地に生息するヒトデは、砂に潜ることがある。モミジガイは潜る際に歩帯溝を開いて管足を腕の両側に伸ばし、管足で体の下にある砂を腕の両脇に掻きだすように掘って体を砂に埋めてゆく。こうした砂地で暮らす種では、管足の先端に吸盤はなく尖っている[36]

ヒトデがひっくり返った時の反転行動には2種類ある。一つは、腕を曲げたり捻ったりして腕の先端の管足で海底面を掴み、それを手掛かりに盤やその他の腕を持ち上げてでんぐり返しする方法である。もう一つは、口側に向かって全ての腕を曲げてチューリップ状になり、いずれかの方向へ横倒しの体制になったら上側の腕の管足で海底面を掴み、掴んだ方向に進みながら丸めた体を徐々に伸ばしていく方法である[37]

有性生殖

放卵放精

Asterias rubens の放精

ヒトデの多くの種は、雌雄異体である。メスとオスはそれぞれ腕の根本付近にある生殖孔から放卵放精を行い、受精は海水中で行われる。いくつか種では受精する確率を高めるために近くに集まったり、同時に放卵放精を行うことが知られているが、中にはカスリモミジガイのように雌雄が重なるように放卵放精を行う種もいる。また、コブヒトデなどは腕の先端で盤を持ち上げて海底から体を離す姿勢で放卵放精を行うが、これは効率よく海中に拡散させるためだと考えられる[38]

雌雄異体ではなく有性生殖をおこなう種としては、雌雄同体のチビイトマキヒトデや[39]単為生殖をするホウキボシの仲間Ophidiaster graniferなどが挙げられる[40]

発生

Asterias rubensの発生
2.スカフラリア幼生(ビピンナリア初期):上方の緑の部分が胃。赤い帯状の部分は繊毛帯。
3.ビピンナリア幼生:左右に5対の腕が伸びる。胃の左側にある赤い部分が発生したばかりのヒトデ原基。
4.横から見たブラキオラリア幼生:左側に3本伸びるのがブラキオラリア腕。上部のヒトデ原基はさらに発達している[41]

ヒトデの発生は多様であるが、ここでは日本近海に広く見られるイトマキヒトデ(水温20度から22度)を例にする[42][43]。卵が受精すると、1、2分でその周りに受精膜が見られるようになり、受精から1時間ほどすると卵割が始まる。イトマキヒトデの卵割様式は全等割で、やがて胞胚に達する。胞胚は球形で、中央の胞胚腔を細胞の壁が取り囲む有腔胞胚である[42]。胞胚は受精後11時間半で受精膜から出て、繊毛で遊泳する。受精後15時間後には植物極付近の細胞が内部に陥入を始めて原腸を形成、その後原腸は幼生の消化管になる。受精後40時間で、体をよぎる繊毛帯が口と肛門付近に1つずつ現れる。この繊毛帯は幼生の遊泳器官でもあり、餌を摂食する器官でもある。この頃をビピンナリア幼生と呼ぶが、幼生は遊泳しながら植物性プランクトンを餌とする[44]。受精後2日ごろのビピンナリア幼生は体長は350ミクロン幅は280ミクロンで、その姿は左右対称である。その後、左右の体腔嚢が原腸から分離するが、体腔嚢は左が大きく成長していく。受精後1週間で、左体腔嚢に5つの水腔葉(すいこうよう)が現れて左右非対称が顕著になっていく。この水腔葉は、将来は成体の水管系になる。ビピンナリア幼生はビピンナリア腕と呼ばれる5対の小突起をもつが、これとは別に幼生の腹部に3本のブラキオラリア腕が現れて、ブラキオラリア幼生になる[45]。受精後20日ほどで、ブラキオラリア幼生は逆さまの体制でブラキオラリア腕で底質に付着する。この頃には左体腔嚢の中でヒトデ原基が発生し、五放射相称への変態が始まる。成長したヒトデ原基は、やがてその他の幼生器官を吸収して、直径が600ミクロンほどの稚ヒトデになる[46]

上記のような発生過程は一例であり、ヒトデの発生は種によって多様である。例えば同じイトマキヒトデ属のヌノメイトマキヒトデは、ビピンナリア幼生を経ずに胞胚からブラキオラリア幼生へ移行し、口を持たず必要な養分は卵に蓄えられている卵黄から摂取する。チビイトマキヒトデは卵から孵化するとすぐにブラキオラリア幼生になるが、海中を浮遊しない匍匐性である[43]。またコイトマキヒトデは卵胎生で、受精からブラキオラリア幼生になるまで親の生殖巣内で過ごす[43][47]

保育

ヒトデの幼生は浮遊して移動するプランクトンになる種が多いが、親が子を保育する種もいる。体内で保育する種としては、前述の生殖巣で保育するコイトマキヒトデの他に、胃の中で保育するSmilasterias multiparaがいる。Smilasterias multiparaは、母親の胃の中で稚ヒトデまで成長し口から出てくる[47]

体外で保育する種では、反口側にもつ膜の中で育てるマクヒトデの仲間や、骨片の隙間で子を背負うコモチヒトデなどが挙げられる[47]。また、体を丸めるように海底と体の間に隙間を作りその中で保育を行う種は多く、特に冷たい海では多様な群に認められる。なかには親と子がへその緒状のヒモで繋がった状態で保育する例も確認されている[48]

再生と分裂

1本の腕から再生するホウキボシ類

ヒトデは強い再生力を持つことでも知られている。ヒトデの骨格は細かい骨片がキャッチ結合組織などで繋がって出来ているが、このキャッチ結合組織を緩めることで自由に体を自切することができる。そこからの再生力は強く、失った腕が再生するのはもちろん、盤さえ残っていれば半分に割れても元通りの体に再生する。大発生したキヒトデやオニヒトデを駆除しようとバラバラにしたところ、かえって数が増えるという例も報告されている[49]

このような自切は、基本的にトカゲのしっぽ切りのような自己防衛手段だが、積極的に分裂をして数を増やす無性繁殖をおこなう種が20種ほど確認されている[50][51][52]ヤツデヒトデは、腕を相対する2方向に広げ逆方向に引っ張り合って盤を半分に割って分裂する。分裂した個体は1年ほどを掛けて元の姿にもどるが、分裂を2年ごとに繰り返して数を増やしている。こうした分裂を行う種は、通常は1つしか持たない肛門や多孔板を複数持つものが多い[51]。分裂をする種の中でも最も再生力が強い種がホウキボシの仲間である。ホウキボシは盤を失った1本の腕から体全体を復元することができる[49]。このように1本の腕だけで完全に再生できる種は6種が確認されている[53]

また、幼生段階で分裂を行う種も確認されている。スナヒトデの仲間では、幼生の腕の先端に瘤のような二次幼生をつくりクローニングを行う。分裂した胚から再び幼生が発生することも確認されており、クローニングによって発生段階を繰り返すことができると考えられる。このような分裂を行う幼生は、発生を繰り返すことで長時間にわたって浮遊幼生段階を維持し、海流に乗ってより長距離を移動していると考えられる[54]

分類

後期ジュラ紀のRiedaster reicheliの化石

棘皮動物は、カンブリア紀に急速に発展し、古生代を通じて20綱にも及んだ[55]。ヒトデ綱もこの頃に分かれたと考えられる[56]オルドビス紀から綱の数は減り続けて二畳紀には6綱になる。二畳紀末の大量絶滅でウミツボミ綱が絶滅し、現生5綱が残った[57]。現生5綱はいずれも五放射相称だが、その理由は分かっていない[58]。現生5綱のうち、ウミユリ綱は固着性で茎を持つので有柄類と呼ばれ、早くから他の4綱から分かれた。残りの4綱は動き回ることから遊在類と呼ばれ、その中で歩帯を放射状に伸ばした星形亜門と、歩帯を閉じて球体になった有棘亜門に分かれた。ヒトデは星形亜門に属する[55]

棘皮動物門(Echinodermata)
遊在類 
有棘亜門 

ナマコ綱(Holothuroidea)

ウニ綱(Echinoidea)

星形亜門 

クモヒトデ綱(Ophiuroidea)

ヒトデ綱(Asteroidea)

有柄類 

ウミユリ綱(Crinoidea)

下位分類

ヒトデ綱に属するは、以下のものが知られる[59]。このうちシャリンヒトデ目は発見当初に棘皮動物の6番目の綱とされていたが、後年のDNAの調査などでヒトデ綱の一部に位置づけられている[60]

人間との関わり

土産として売られる乾燥ヒトデ
中国の屋台に並ぶ揚げヒトデ

ヒトデは、海岸で簡単に目にする事ができ、水族館のタッチプールでも定番のよく知られた水生生物である[61]。星型の姿は好感を持たれることも多く、海辺のイラストなどでヒトデが描かれる事も多い。また、海辺の土産で乾燥したヒトデが販売される事や、観賞用に飼育されることもある[62]。しかし、それ以外で実利的に利用されることはほとんど無い[63]

利用

ウニの生殖巣は好んで食べられるのに対し、ヒトデの生殖巣にはサポニンが多く含まれるため一般的に食用に適さない。しかし、キヒトデは比較的サポニンが少なく、九州の一部の地域では塩ゆでしてサポニンを抜いて生殖巣を食べている。また中国では焼ヒトデを食べたり、中国から東南アジアにかけては乾燥させたヒトデが販売され滋養強壮の薬として料理に入れたり酒に漬けたりする。ただし、モミジガイ類など猛毒のテトロドトキシンを持つ種もあり、知識なく食べることは危険である[63]

毒性を持つことを逆に利用する例もある。肥溜めや汲み取り式トイレにヒトデを入れるとウジの発生を抑える効果がある。また、その性質を利用して害虫駆除剤や害獣忌避剤の原料にされる[63]

学術的には、生物学の研究対象となることが多い。1969年にヒトデを人工授精させる方法が発見されると、同じ棘皮動物のウニと並んで発生学の主要な研究対象となっている[64]。また、幼生など分裂はクローン研究の対象になっている[54]

被害

ヒトデと人間の関係で問題になるのは漁業被害である。ヒトデは度々大発生を起こし、海産資源に食害を与える。1982年のアサリ養殖の被害など、ホタテやカキなどの貝類を始めとし、時には刺網にかかる魚にも及ぶ。また、底引き網に大量のヒトデが掛かって漁具が壊れるなどの被害を与える事もある[32][65]

ヒトデは長距離を移動することはないが、人間によって運ばれてその先で問題を起こすこともある。日本近海に生息するキヒトデ類は、1980年代にタンカーバラスト水に幼生が紛れてオーストラリアに移入し、タスマニア島で漁業被害や原産種を絶滅させるなど深刻な被害をもたらした。キヒトデは世界の侵略的外来種ワースト100に挙げられている[66]

人間に直接的に危害を加える例ではオニヒトデが挙げられる。オニヒトデは鋭い針をもち、刺すとと毒腺から毒を注入する。オニヒトデ毒には肝臓性毒やアナフィラキシーショックを引き起こす物質も含まれており、ダイバーに死亡事故が起きた事もある[18]

他の生物との関係

Fromia milleporellaを捕食するフリソデエビ
ヒトデの体内に寄生するユミヘリゴカクノシダムシ

自然界でヒトデが起す問題には、オニヒトデによるサンゴの食害が挙げられる。オニヒトデは珊瑚礁を形成する造礁サンゴを好んで食べ、その量は1個体で1年間に5から6平方メートルに及び、珊瑚礁の生態系あるいは観光産業に影響を与える[67][65]

その一方でヒトデは体内にサポニンを持つため、天敵となる動物は少ない[63]。ヒトデを好んで食べる動物としては、ボウシュウボラなどのホラガイ[63]フリソデエビ、ヨコシマエビ[68]などがあり、他にも同じヒトデ類・魚類・カニカモメラッコなどが捕食する[69][70][71][72]

天敵が少ないヒトデは潮間帯の食物連鎖の頂点にいて、生物群集に大きな影響を与えるキーストーン種である。北アメリカの北西海岸沖の岩場で実験的にヒトデの数を減らしたところ、ムラサキイガイが大発生してその餌となる藻類が激減し、生物多様性が損なわれてしまった[73]。こうした事は自然界でも起こっている。2013年にはアメリカ西海岸でアンビデンソウイルス属の感染拡大により数百万体のヒトデが病死してしまい、生態系のバランスが大きく崩れる事態になった[74]

ヒトデに寄生する生物は少なくない。体外に寄生する生物には、アオヒトデの口側に取りついて吻で体液を吸収する巻貝のヒトデナカセや、スナヒトデに寄生する多毛類のスナヒトデシリスなどがいる。体内に寄生する巻貝のアカヒトデヤドリニナは成長するとヒトデの表皮が瘤のように膨らんでくる。同じく体内に寄生するシダムシ属はフジツボに近い甲殻類だが、一見するとヒトデの臓器と見違えるほど姿を変える[75]

また、ヒトデの体外で共生する生物にはクラゲムシやヒトデヤドリエビなどがおり[76]、肛門から体内に入って共生する生物にはカクレウオがいる[77]

脚注

注釈

  1. ^ タコヒトデのように腕が20から30本に及ぶものや[7]、逆に少ない4腕の個体がまれに発生するイトマキヒトデ[8]マンジュウヒトデのように腕がほとんど無く球体に近い種もある[9]

出典

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  61. ^ 本川達雄 2001b, p. 2-3.
  62. ^ 藤田敏彦 2022, p. 107-108.
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  64. ^ 藤田敏彦 2022, p. 56-58.
  65. ^ a b 野島哲 2001, p. 43-45.
  66. ^ 藤田敏彦 2022, p. 99-101.
  67. ^ 藤田敏彦 2022, p. 97-98.
  68. ^ 千葉県立中央博物館分館海の博物館 2016, p. 8.
  69. ^ Gaymer, C. F.; Himmelman, J. H.. “Leptasterias polaris”. Starfish: Biology and Ecology of the Asteroidea. pp. 182–84 
  70. ^ Byrne, M.; O'Hara, T. D.; Lawrence, J. M.. “Asterias amurensis”. Starfish: Biology and Ecology of the Asteroidea. pp. 177–179 
  71. ^ Robles, C.. “Pisaster ochraceus”. Starfish: Biology and Ecology of the Asteroidea. pp. 166–167 
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  73. ^ コトバンク: キーストーン種.
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  76. ^ 千葉県立中央博物館分館海の博物館 2016, p. 9.
  77. ^ コトバンク: カクレウオ.

参考文献

書籍

  • 藤田敏彦『ヒトデとクモヒトデ-謎の☆形動物』岩波書店〈岩波科学ライブラリー 313〉、2022年。ISBN 978-4-00-029713-4 
  • 本川達雄 編『ヒトデ学-棘皮動物のミラクルワールド』東海大学出版会、2001年。ISBN 4-486-01552-5 
    • 本川達雄『棘皮動物にはミラクルがいっぱい、他』。 
    • 野島哲『ヒトデの食生活』。 
    • 大路樹生『化石』。 
    • 藤田敏彦『分身の術』。 
    • 小松美英子『幼生たちの世界』。 

論文など

  • 小松美英子「チビイトマキヒトデの自家受精」『動物学雑誌』第86巻第4号、東京動物學會、1977年、NAID 110003364960 
  • M. Yamaguchi; J. S. Lucas (1984). “Natural parthenogenesis, larval and juvenile development, and geographical distribution of the coral reef asteroid Ophidiaster granifer”. Marine Biology 83. doi:10.1007/BF00393083. 

辞典など

webなど