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細胞

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生命の階層
生態系 ecosystem
生物群集 community
個体群 population
個体 individual
器官 organ
組織 tissue
細胞 cell
細胞小器官 organelle
分子 molecule
その他
群体 colony
定数群体 coenobium

細胞(さいぼう、: cell)とは、全ての生物が持つ、微小な部屋状の下部構造のこと。生物体の構造上・機能上の基本単位。そして同時にそれ自体を生命体と言うこともできる[1]

動物の真核細胞のスケッチ

細胞を意味する英語の「cell」の語源はギリシャ語で「小さな部屋」を意味する語である。ロバート・フックが1665年に刊行した自著『ミクログラフィア図版集ー微小世界図絵』(仮説社)の中で、「コルクガシの樹皮を観察したら多数の小部屋(cell)が並んでいた」と報告し、これが細胞がcellと呼ばれるようになった起源である[2]

概要

細胞は、生物の原始的な形態である単細胞生物細菌原生生物など)[3]では個体そのもの、複雑な多細胞生物では組織を構成する基本的な単位である[1]。全ての生物がこの小部屋状の下部構造「細胞」から成り立ち、一般に「生物の最も基本的な構成単位」と認められ[4]、細胞を持つことが生物の定義のひとつとされることもある[5]。この考えではウイルスウイロイドは、細胞を持たず代謝を行わないことや自己増殖ができない点などから、生物とはみなされない[5]

細胞には、細胞質と外界を隔てる構造に包まれ、内部には解糖系クエン酸回路などの代謝する経路[6]などを担い生命活動を恒常的に行う器官を持ち、自己再生複製をするための遺伝情報とそれを発現させる機能が備わっている[1][7]

生物は多様であり、分類するドメインは複数ある。このうち、遺伝を担う共通の物質であるDNAがどのような形態に置かれているかによって、細胞そして生物は2種類に分類される[8]。DNAを保持するはっきりした構造を持たないものを原核生物(前核生物)と言い[1]、その他の細胞小器官(オルガネラ[9])も持たない[10]。このような細胞は原核細胞(前核細胞・裸核細胞)と呼ばれる[11]。これに対し、DNAを包むはっきりしたを持つ細胞が真核細胞(被核細胞・有核細胞)であり、明確な細胞小器官も見られる[1][12]細胞分裂においても、真核細胞が有糸分裂を行うのに対し、原核細胞は行わない[12]

さらに生物には、一つ一つの細胞が独立して生きていくような単細胞生物から、同じような細胞が集まって群体を形成して一緒に生きていくようなもの、また一つ一つの細胞に分かれては生きていけないほどまでに特殊化した細胞からなる多細胞生物まで、様々な形態がある[4]

歴史

コルクの細胞を描いたロバート・フックのスケッチ

英語「cell(=小さな部屋)」の命名はロバート・フック著「顕微鏡図譜」「Micrographiaミクログラフィア」が始まりとされる。 1665年、彼はコルクガシコルク層の小片を自作の顕微鏡で観察している時にこの構造を初めて発見し、生物は細胞から作られていると考えた。ただし彼が実際に観察したものは、内容物を失ったあとの細胞壁であった[4]。その後、アントニ・ファン・レーウェンフックが発明した高性能の顕微鏡で細胞観察を行った[4]

1838年にはマティアス・ヤーコプ・シュライデンが植物組織を、翌年にはテオドール・シュワンが動物組織を観察した結果から[13]、生物は基本的に細胞から構成されているとし、細胞は生物共通の構造で発生の基本単位であるとする「細胞説」を提唱した[4]。細胞説は、細胞がどのように発生するかを説明していなかったが、1855年ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョーが「細胞は分裂して増える」という説を発表し、1860年ルイ・パスツールが生物の自然発生説を否定し、生物は細胞増殖で成長すると考えられるようになった[4]

1857年にはミトコンドリアが、1898年にはカミッロ・ゴルジによってゴルジ体が発見された[13]。1950年代頃から電子顕微鏡による観察が盛んに行われ、細胞膜や細胞骨格が観察された[13]。さらに、多細胞生物の組織内部にある細胞についても1951年にHeLa細胞で細胞培養と不死化が成功して以来、観察が可能となった。技術は進み、均一な細胞集団の早い増殖技術、生化学遺伝学の研究技法の導入、遺伝子組み換え技術や細胞工学的技術の発展、発生生物学技術の進歩などを取り込みながら、細胞の研究は進展している[13]

細胞を構成する原料

元素

細胞は約17種類の元素が含まれる[14]。重量比64%の酸素有機化合物の他に、呼吸で取り込んだ酸素ガスに含まれている。同18%の炭素は有機化合物の他に、呼吸で排出する二酸化炭素中にも存在する。同10%の水素は水や有機化合物に使われる。同3%の窒素アミノ酸塩基の原料となる[15]。ここまでの4種類は主要四元素と呼ばれる[14]

これに続き、神経細胞や細胞調整に使われるカルシウム・染色体やリン酸として使われるリンナトリウムカリウム塩素マグネシウムなどが続き、さらに微量元素と呼ばれる亜鉛マンガンヨウ素フッ素などがある[14][15]

分子

生命に必須の物質といわれる水[16]以外に細胞中に含まれる分子は、主に糖質脂質タンパク質アミノ酸)・核酸の4種に分けられる[15]

糖質では、単糖のリボースがヌクレオチドの成分として重要である。グルコースはエネルギー源となり、単純多糖化すると植物ではデンプン・動物ではグリコーゲンとなってエネルギー貯蔵能を持つ。セルロースは植物細胞の構造を支え、多糖のグリコサミノグリカンは動物細胞の細胞外マトリックスに多く含まれる[17]

不水溶性の脂質はグリセロールとのエステルである中性脂肪の形で存在し、エネルギー貯蔵の役目を持つ。また、リン酸と結合した脂質であるホスファチジルコリンなどのリン脂質は細胞膜の主成分である[18]

生体内においてタンパク質と核酸は、直接に遺伝情報を持つため「情報高分子」と呼ばれる[19]。酵素や[20]リボソーム[21]など生体物質などに使われるタンパク質は、 光学異性体L形に限られた20種類のアミノ酸がペプチド結合を重ね、高次構造を持ったさまざまな種類がある[22]

核酸は糖の1’位に塩基が結びついたヌクレオシドを基礎に、糖の4’位に結合したリン酸(ここまでの構造をヌクレオチドという)を介したジエステル結合によって連続的に繋がった構造を持つDNAと、そこから転写されつくられるヌクレオチド重合体であるRNAがある。DNAの糖は2-デオキシリボース、RNAの糖はリボースである。また塩基は、DNAではプリン塩基であるアデニン(A)とグアニン(G)およびピリミジン塩基であるシトシン(C)とチミン(T)の4種が、RNAではチミンに代わってピリミジン塩基のウラシル(U)を含む4種が使われる[23]。 また、DNAは、「グアニン」「シトニン」「アデミン」「チミン」があり、グアニンがシトニンに、アデミンがチミンに結合する。

全ての細胞に共通する性質と構造

全ての細胞は生体膜である細胞膜で包まれ[24]、内部は生体物質を含む水溶液があり代謝の場となっている。リボソーム細胞質原形質)といった共通の構成要素を持っている。

外界から内部を隔てる約5nmの厚みを持つ細胞膜は、脂質二重層にタンパク質が結合した構成を持っている。その微細構造は疎水性の脂肪酸に親水性のリンや糖が結びついた分子が、疎水基を向かい合わせてP面を作り、親水基が外側のE面を作って緩く並び、所々にタンパク質が挟まっており、全体が流動している[24]。脂質部分は水や脂溶性物質のみの通過を許し、水溶性物質が通れる箇所は挟まったチャンネルタンパク質に空いた小さな穴のみ限定される上、キャリアタンパク質という箇所はエネルギーを消費して通過する物質を選択する性質を持つ[24]

細胞が持つDNAは、塩基配列または遺伝暗号 (genetic code)と言うヌクレオチドの塩基部分が並ぶ構造を持つ[25]。この塩基の並びは3つを基本的な単位としており、これをmRNAに転写し、細胞内のリボソームでmRNAの情報(コドン)が翻訳され、それに沿ってアミノ酸が数珠状に合成されタンパク質が作られる。この一連の反応はすべての細胞に共通する基本的な原理であり、そのためセントラルドグマと呼ばれている[25]

原核細胞と真核細胞

いろいろな細胞 (A)マウス肝細胞、(B)大腸菌、(C)出芽酵母
高度好塩菌。原核細胞生物である古細菌の一種。

細胞はその内部構造から原核細胞と真核細胞に分けられる。これらの最も大きな差異は細胞核の有無であり、原核細胞には細胞核がない[8]。原核細胞には細菌古細菌が含まれ、真核細胞は真核生物が含まれる。また、原核細胞から構成される生物をまとめて原核生物と呼ぶ。これら3 種類の生物群はドメインと呼ばれる最も上位の分類群で、古細菌と真核生物が近く、細菌が離れている[26]

原核細胞は真核細胞に比べ、細胞膜の中に懸濁したリボソームがあるだけの単純な構造を持つ。原核細胞は単細胞生物や群体をなす生物に限定して見ることができ、五界説モネラ界が相当する[8]。真核細胞は、その細胞膜の内側に細胞小器官を有する[8]ミトコンドリア葉緑体は細胞に取り込まれた細菌が共生したものに由来すると考えられている(細胞内共生説)。単細胞の真核生物は非常に多様な種類があるが、群体や多細胞生物の種類も多い(多細胞生物の中に含まれるである動物界植物界真菌は全て真核細胞生物である)。なお、原核細胞を裸核細胞、真核細胞を被核細胞と呼ぶこともある。

原核細胞

原核細胞は単純な組織を持ち、細胞を持つ生物の初期の形態を維持していると考えられる。最大の特徴はDNAを含む核様体が膜の区切りが無く細胞質の中に漂っている事と、一般に単位膜で包まれた細胞小器官を持たない事である[27]。DNA は環状で[28]、その一端が細胞膜の決まった箇所に付着している[27]

リボソームは細胞質中に浮遊したもの(遊離リボソーム)と、細胞膜に付着したもの(膜リボソーム)がある[27]ため細胞質基質はザラザラしている。なお原核細胞のリボソームは真核細胞のそれよりやや小さい[27]

細胞膜は脂質二重層であり、その外側にモリクテス綱テルモプラズマ綱を除くと細胞壁を持ち[27]細胞内と外界とを隔てている[24]エンドサイトーシスやミトコンドリアを持たない原核生物にとって、ここは電子伝達系を始めとした代謝の主要な場であり、盛んに内外との物質のやり取り、エネルギー生産などを行っている[27]。原核生物にとって細胞膜の機能は大変に重要であり、体積に対してある程度の表面積を確保する必要がある。これが原核生物が細胞サイズをあまり拡大できない理由の一つといえる。また細胞壁の存在は、低張液などの条件下での浸透圧による細胞の破裂を防止する。原核藻類(シアノバクテリアなど)は光合成を行う機能を持つ[27]

この他目立つ構造に、鞭毛線毛または莢膜粘膜層を持つものがある[27]。鞭毛はアクチン様タンパク質フラジェリンの螺旋様多重合体であり、これが細胞壁から突き出して回転し[27]、能動的に移動することができる。線毛はタンパク質の繊維で、病原体などが他者へ付着することを容易にする[27]。水を多く含み細胞を取り巻く莢膜や粘膜層は、食作用を受けにくくさせる効果がある[27]

細菌古細菌を比較した場合、鞭毛や細胞壁は細菌や古細菌がそれぞれ独立に持つものであり、目的は同じでも両者の構造に共通点はない。また、古細菌の遺伝子発現やタンパク質合成系は細菌よりもむしろ真核生物に似ている(ただしDNA が細胞質中に存在するなど原核生物の基本的な性質は保存している)。古細菌のエーテル型脂質、特にその立体構造の違いは両者を決定的に区別するが、これは細菌と古細菌の違いというより、むしろ古細菌とその他の生物を区別する特徴である。

原核細胞の生理は機能化が進んだ真核生物よりも多様である。発見された数千種に過ぎない原核生物には、真核生物が成しえない硫黄からエネルギーを得るものや、空中窒素固定を可能にするものも存在する[27]

真核細胞

真核細胞原核生物よりも一般に大きく、数種類の細胞小器官を持つなど複雑な構造をしている[29]

細胞質の基質は原核細胞と違ってざらざらしていない。これはリボソームの主要な部分が小胞体に結合しているためである。真核細胞の細胞質には細胞骨格(サイトスケルトン)と呼ばれる微小な管やフィラメント状がつくる網目もしくは束状をした3次元構造[30]がある。これが特に発達した動物の細胞では、細胞骨格が各細胞の形を決定づける。植物の場合、細胞の形は細胞壁による影響が大きいが、細胞骨格が原形質の流動を制御する。細胞小器官はこの細胞骨格に定着しており、浮遊状態には無い[31]。細胞骨格は細胞質フィラメントと呼ばれる3種類のタンパク質からなる繊維に分けられる[30]。また、細胞質フィラメントは骨格的機能だけでなく、分泌や情報の伝達、また運動にも機能すると推定されている[32]。細胞膜は、原核細胞と構成は少々異なる部分もあるが、機能はほぼ同じである。真核細胞では、細胞壁があるものもあれば、無いものもある。

真核細胞のDNA は、一本または複数本の分子から構成される直線状で原核生物よりも多く[29]染色体と呼ばれる[28]。染色体は、DNA がヒストンという塩基性タンパク質に絡みついた複合体(ヌクレオソーム)を構成してしっかりと凝縮した状態になっている[33]。全ての染色体のDNA は核の中に閉じ込められており、核膜によって細胞質と隔てられている。何種類かの細胞内小器官は、それぞれが独自のDNA を持つものがある。それらは大きさがほぼ細菌に近い事もあり、元々は別の生物だったものが共生によって細胞小器官となったとする考えを細胞内共生説という[26]

真核細胞生物の中には、繊毛鞭毛で移動できるものがある。鞭毛は原核生物のものとは構造が異なり、まったく違った性格のものであり、細胞骨格の一種である微小管がタンパク質繊維で結びついたものである[34]

原核細胞と真核細胞の特徴のまとめ

  原核細胞 真核細胞
典型的な生物 細菌 古細菌 真核生物原生生物真菌植物動物[28]
一般的な大きさ 1から10 µm 5から100 µm
細胞核の形態 核様体; はっきりとした核の境界は無い。核膜の存在はごく稀 二重膜で区切られたはっきりした核がある
DNAの形態 環状。直線状は稀 環状、ヒストンと結合している 直線状で、ヒストンと結合している
細胞分裂時には染色体を形成する
末端はテロメアと結合する[28]
DNAの存在様式[8][26] 裸のDNA クロマチン様 タンパク質が結合したクロマチン様
RNA-/タンパク質-合成 細胞質中で行われる RNAの合成は核の中で、タンパク質の合成は細胞質で行われる
リボソーム 50S+30S 60S+40S
細胞質 エステル型脂質[26] エーテル型脂質[26] 膜と細胞骨格によって高度に構造化されている
細胞壁[8][26] ペプチドグリカン
ムラミン酸を持つ
タンパク質
ムラミン酸は無い
あり・なし
細胞の移動 フラジェリンから構成される鞭毛。滑走 古細菌型鞭毛 チューブリンから構成される鞭毛と繊毛
ミトコンドリア なし[8] 1から数十個
葉緑体 なし 藻類植物にある
組織化 通常単細胞。稀に群体 単細胞。稀に群体、融合細胞 単細胞、群体から高度に分化した多細胞まで
細胞分裂 Zリング ESCRT複合体(プロテオ古細菌
出芽(テルモプロテウス目
Zリング(ユーリ古細菌
収縮環
細胞板(植物)
細胞骨格[8] なし あり
原形質流動[8] なし あり

細胞小器官

典型的な動物細胞の模式図:(1)核小体(仁)、(2)細胞核、(3)リボソーム、(4)小胞、(5)粗面小胞体、(6)ゴルジ体、(7)微小管、(8)滑面小胞体、(9)ミトコンドリア、(10)液胞、(11)細胞質基質、(12)リソソーム、(13)中心体
典型的な植物細胞の模式図: 動物細胞との違いは、濃い緑色で描かれている細胞壁(Cell wall)、紺色で示されている液胞(vacuole)、筋の入った緑色の紡錘形に見える葉緑体(Chloroplast) 、核の左横に描かれた小さな球体である白色体(Leukoplast)のほか、細胞質分裂の後にも細胞壁の表面に残り、隣接する細胞と原形質を連絡する通路となる原形質連絡(Plasmodesmata)などである。

真核細胞の内部には、細胞小器官(細胞器官、オルガネラ)と呼ばれる膜に包まれた[29]構造体がある。これらはそれぞれ特有の機能を持ち[29]、まるで生命個体の器官のように働くため、このような名称がつけられた。例えば酸素を吸収し二酸化炭素を排出する面から見た呼吸の役割は、ミトコンドリアと比される。消化高分子を取り入れて加水分解することとすれば、ピノソーム消化管リソソームに相当する[35]。 他に、

なども存在する。

微小管、中間系フィラメントおよびアクチンフィラメントをまとめて、細胞骨格と呼ぶ。

そのあり方

実際には、すべての生物で細胞がこの様な構造が見られるわけではない。原生生物は多細胞生物の細胞と同様に核構造を持ち真核生物に分類されるが、変形菌の変形体やミズカビケカビなどでは大きな体が細胞に分かれておらず、しかも多数の核を含む。これは細胞の成長と核分裂が起きても細胞質分裂が起きないためで、多数の細胞に当たる内容が単一の細胞容器に含まれる。この様な生物は多核体と呼ばれる。同様に多数の細胞に当たる内容が単一の細胞の輪郭に含まれるものは多細胞生物にもあり、例えば横紋筋などがそうであるが、これはむしろ多数の細胞が融合したものと見なし、これを合胞体という。

多細胞生物では、逆に細胞として不可欠なはずの内容を欠く例もある。例えば我々ほ乳類赤血球には核がない。これはむしろ多細胞生物に見られる細胞の役割分担の中で、なくてもその機能が果たせる場合にはそれが退化することもある、ということであろう。

原核生物から多細胞生物へ

45億年前と言われる地球誕生後、最初の細胞は40億年前頃に原核生物として誕生した。真核細胞への進化はその15億年後に成されたが、当初は単細胞生物であった。多細胞生物が誕生するには更に10億年の期間を待たなければならなかった[36]

原核細胞と真核細胞の大きな差異である核や細胞小器官は、それぞれが膜に包まれ、内容物を閉じ込めている。核では傷つきやすいDNAであり、葉緑体やミトコンドリアはエネルギー転移系、小胞体やゴルジ体は膜合成系と分泌器官系、細胞にとって危険な過酸化水素をつくる酵素ベルオキシダーを閉じ込めるミクロボディや、リソソームはやはり危険を伴う酵素や異物の消化を行う[29]

このような小器官は複数の発生段階を踏んだと考えられている[37]。葉緑体やミトコンドリアはそれぞれの機能を持つ原核生物を、初期の真核生物が食作用で細胞内に取り込み共生し、現在の姿になったと考えられる。この根拠として、両者は2重以上の単位膜に覆われ、独自のDNAを持ち、原核生物と同じ70Sのリボソームを持ち、また2重以上の単位膜に覆われる点が挙げられる。特に複数の膜は、内側が原核生物時代の細胞膜、外側が真核生物の食作用時につくった窪み部分の細胞膜をそれぞれ由来とすると思われる[37]

機械的に脆いDNAを守る核も2重の単位膜を持つ。この由来はよく分かっていないが[38]、原核細胞で見られるDNAが付着する細胞膜部分の周囲がへこみ、2重に折りたたまれた単位膜がDNAを覆った球状器官が細胞内部に入ったという意見がある[39]

小胞体やゴルジ体は1重の単位膜で構成される。タンパク質の合成と分泌に関わるこれら小器官に相当する機能を原核細胞では細胞膜と付着するリボソームで行っている。真核細胞は進化の過程でリボソームを持つ細胞膜の一部を内部に凹ませ、細胞内でのタンパク質合成とゴルジ体そして液胞を使った分泌のメカニズムを獲得したという説がある[39]。同様に1重単位膜のリソソームも、食作用のため細胞膜の一部を異物を取り囲むように腔を作った部分の変化とも考えられる[39]

多細胞生物は生命活動の役割を細胞単位で分担しているという特徴がある。しかし、このように違う各細胞のDNAは基本的に変わらない。これは、ひとつはDNAの発現部分の選択や後成的な仕組みによってコントロールされる。これらはエピジェネティックと呼ばれる[40]

細胞の大きさ・比重

地球生物で細胞の大きさを競えるものは卵細胞であり、ヒトが持ちうる最大の細胞も卵子と例外ではない。特に鳥類が産む大きな黄身は1つの卵細胞に当たり、最大と言われるダチョウでは7,500,000,000,000,000µm3にもなる。ヒトの卵子は1,400,000µm3に過ぎない[41]

ヒトの細胞の大きさ
顆粒球リンパ球>網赤血球>赤血球血小板
細胞の比重
赤血球>顆粒球>リンパ球血小板アルブミン

細胞の死

細胞の死は生物が成長する各段階において見られ、例えばオタマジャクシの尾が収縮する例が挙げられる。その死には遺伝子にあらかじめ組み込まれた情報に則ったものから、偶発的な場合もある[42]。自発的な細胞死はアポトーシス、偶発的な細胞死(壊死)はネクローシスと呼ばれる[43]

細胞中の塩基は波長260nmの紫外線を特異的に吸収する性質を持ち、DNAの塩基構造を変化させることがある。例えば、チミンが並ぶ部分が紫外線を吸光すると、その間シクロブタン環が形成され、対になるグリシンがアデニンに変化する現象が起こる。結果遺伝情報が書き換えられ、突然変異やガン化または細胞死などの異常を起こす可能性が生じる。また塩基構造の変化はDNAの複製や転写を阻害してしまう事もある[44]

クロイツフェルト・ヤコブ病は不充分な折りたたみ構造を持つ異常タンパク質が引き起こす脳細胞死が原因である。これを含むプリオン病プリオンは本来水溶性のタンパク質だが、らせん構造が減少しβシート構造が増えた異常プリオンは不溶化し、分解されずに脳細胞に沈着する。これが鋳型となり正常なプリオンを異常化させ、増殖するように振舞いながら脳細胞を死に至らしめる [45][46]などは主に肝細胞に排除される。

ヒトの細胞

ヒトの細胞は、最小のリンパ球で直径約5 µm、最大のひとつ卵子は約120 µmある。一般的な細胞は10-20 µmである。かつては人体1kg当たりの平均的細胞数は約1兆個であり、体重60 kgの平均的男性の場合、その身体は約60兆個で作られている[7]とされていたが、細胞の種類などを考慮した計算では約37兆個とされる[47]

ヒトの体には生殖細胞体細胞があり、そのほとんどを占める体細胞は約200種で、増殖方法から大きく3種類の組織に分けられる[48]

  • 1. 生理的再生系組織では、正常な状態でも常に細胞が再生・機能・死にある3つの群が存在する。血液の単球は数日から比較的長い赤血球でも120日程度で死を迎え、一方で骨髄幹細胞から常に再生供給される。その入れ替わりは1分間に数億個に相当する。表皮消化器系の上皮も常に基底部で新しい細胞が作られ、表面の細胞は死んで脱落を繰り返す[48]
  • 2. 条件再生系組織の細胞は、通常ではほとんど増えないが、傷つくなど特別な状況で増殖を行う。肝細胞はこの顕著な例で、分裂は通常の場合年に1回程度だが、手術などで一部を除去すると猛烈に増殖を行う。例えば肝臓の70%を切除しても1週間程度で元に戻る。この種類の細胞になる幹細胞は未だ発見されていない[48]
  • 3. 非再生系組織の細胞は増殖能力が無く、自然には再生しない。神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞など特殊な機能に分化したものがこれに当たり、加齢とともに減少の一途を辿る。筋力トレーニングで骨格筋は太くなるが、これは細胞が増えたのではなく細胞内のタンパク質が増えたものである。同様に肥満も細胞が脂肪を蓄えたためで、細胞の数は基本的に変わらない[48]

脚注

  1. ^ a b c d e 生化学辞典第2版、p.531-532 【単細胞生物】
  2. ^ デビット・A・シンクレア (2020). ライフスパン 老いなき世界. 東洋経済新聞社. p. 210. 2022年5月28日閲覧
  3. ^ 生化学辞典第2版、p.802 【単細胞生物】
  4. ^ a b c d e f 田村(2010)、p.3-4、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-1細胞は生物の単位
  5. ^ a b 田村(2010)、p.2、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞
  6. ^ 生化学辞典第2版、p.777-778 【代謝経路】
  7. ^ a b 解剖学第2版、p.2-10、細胞
  8. ^ a b c d e f g h i 田村(2010)、p.7-8、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-3生物を二つに分類する
  9. ^ 生化学辞典第2版、p.239 【オルガネラ】
  10. ^ 生化学辞典第2版、p.440-441 【原核細胞】
  11. ^ 生化学辞典第2版、p.440 【原核細胞】
  12. ^ a b 生化学辞典第2版、p.666 【真核細胞】
  13. ^ a b c d 田村(2010)、p.4、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-2細胞生物学の発展
  14. ^ a b c 田村(2010)、p.25、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-3細胞をつくる元素
  15. ^ a b c 田村(2010)、p.25、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-4細胞に含まれる分子
  16. ^ 田村(2010)、p.24-25、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-2水という特異な物質
  17. ^ 田村(2010)、p.27-29、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-5糖質
  18. ^ 田村(2010)、p.29-31、Ⅰ細胞生物学の基礎、3.細胞に含まれる物質、3-6脂質
  19. ^ 田村(2010)、p.32、Ⅰ細胞生物学の基礎、4.情報高分子(1):アミノ酸とタンパク質
  20. ^ 田村(2010)、p.48-49、Ⅱ代謝:生体内化学反応、6酵素、6-1酵素はタンパク質触媒
  21. ^ 田村(2010)、p.112-113、Ⅲ遺伝情報の保存と利用、13タンパク質合成、13-3リボソーム
  22. ^ 田村(2010)、p.32-37、Ⅰ細胞生物学の基礎、4.情報高分子(1):アミノ酸とタンパク質、4-1タンパク質を構成するアミノ酸
  23. ^ 田村(2010)、p.38-40、Ⅰ細胞生物学の基礎、5.情報高分子(2):ヌクレオチドと核酸、5-1核酸を構成するヌクレオチド
  24. ^ a b c d #松本ら(1993)
  25. ^ a b 武村(2012)、p.14-24、第1章 エピジェネティクスを理解するための基礎知識、1-1 DNAとセントラルドグマ
  26. ^ a b c d e f 田村(2010)、p.8-12、Ⅰ細胞生物学の基礎、1.生物と細胞、1-4生物の進化
  27. ^ a b c d e f g h i j k l #松本ら(1993)
  28. ^ a b c d 井出(2006)、p.65-75、第6章 テロメアとは何か
  29. ^ a b c d e #松本ら(1993)
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  31. ^ 生化学辞典第2版、p.534 【細胞骨格】
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  34. ^ #松本ら(1993)、p.56-57、3.細胞の微細構造とその機能、3.3.真核生物、3.3.2細胞小器官以外の細胞質-細胞骨格、鞭毛、繊毛
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  37. ^ a b #松本ら(1993)
  38. ^ #松本ら(1993)
  39. ^ a b c #松本ら(1993)
  40. ^ 武村(2012)、p.25-33、第1章 エピジェネティクスを理解するための基礎知識、1-2 エピジェネティクスとはなにか
  41. ^ アイザック・アシモフ 著、小尾信彌、山高昭 訳「第一部 生物学 2.卵とチビ」『空想自然科学入門』(18刷)ハヤカワ文庫、1995年(原著1978年)、32-49頁。ISBN 4-15-050021-5 
  42. ^ 生化学辞典第2版、p.533 【細胞死】
  43. ^ 生化学辞典第3版 p.572 【細胞死】
  44. ^ 田村(2010)、p.42-45、Ⅰ細胞生物学の基礎、5.情報高分子(2):ヌクレオチドと核酸、5-4核酸の性質
  45. ^ 田村(2010)、p.123-126、Ⅲ遺伝情報の保存と利用、14タンパク質の局在化,成熟,分解、14-6タンパク質の分解
  46. ^ 赤血球
  47. ^ An estimation of the number of cells in the human body: Annals of Human Biology: Vol 40, No 6
  48. ^ a b c d 井出(2006)、p.1-10、第1章 ヒトを構成する細胞

参考文献

外部リンク