国務大臣
国務大臣(こくむだいじん)とは、内閣を構成する大臣のことを指す。
閣僚、閣員とも言われる。
資格
内閣総理大臣と国務大臣は憲法上文民でなければならず、その過半数を国会議員にて構成しなければならない。
日本国憲法第63条において
- 内閣総理大臣が、任命する。その過半数は国会議員の中から選ばれる。
- 内閣総理大臣が、任意に罷免する。と規定されている。
任命
一般的に国務大臣という場合には内閣総理大臣を含めていうときとそうでないときがある。内閣総理大臣は国会の議決により指名され、天皇から任命される(親任式)。
内閣総理大臣以外の国務大臣は内閣総理大臣により任命され、天皇から認証される(認証官任命式)。なお、宮中の親任式及び認証官任命式で授与される「官記」は単に内閣総理大臣又は国務大臣としての任命・認証であり、どの行政事務を担当するかの辞令(例:「総務大臣を命ずる」)は式後に官邸で内閣総理大臣から発令される(これを「補職」・「補職辞令」という。)。
外交上の敬称としては交渉国との間で主に大臣閣下という敬称と本官に相当する本大臣という自称で呼び合うこととなっている。また、防衛をはじめ有事に携わる部隊を所管する大臣はその就退任に栄誉礼を受ける。
権限
国務大臣はその在任中、内閣総理大臣の同意なくして逮捕されない。法律及び政令には国務大臣の署名を必要とするなど様々な制約や特権がある。
現在、内閣はじめ省庁における大臣以下の政治ポストはかつての政務次官が副大臣や大臣政務官などに再編され、省内における政治任用職も増えたことで、政治主導の流れを強くしつつある状況にある。総理以外の大臣秘書官は定数1名で官庁の外から政治的任用される(通例はその大臣の選挙区の後継予定者であることが多い)。
当該省庁の職員も大臣秘書官と呼ばれるポストに就いて大臣を補佐するが、これは厳密には大臣秘書官事務取扱といい、正規の法定秘書官ではない。大臣以下副大臣・政務官の品位と倫理を維持するため、大臣規範などを定め、汚職の防止や兼職の禁止など自律的な制約を定めている。
一覧
内閣法では内閣総理大臣を除く国務大臣の数は原則14人とされ、必要であればさらに3人まで任命できることとなっている。
- 内閣総理大臣 - 国会から指名される内閣の首長。内閣府の長。
- 総務大臣 - 総務省の長。
- 法務大臣 - 法務省の長。
- 外務大臣 - 外務省の長。
- 財務大臣 - 財務省の長。
- 文部科学大臣 - 文部科学省の長。
- 厚生労働大臣 - 厚生労働省の長。
- 農林水産大臣 - 農林水産省の長。
- 経済産業大臣 - 経済産業省の長。
- 国土交通大臣 - 国土交通省の長。
- 環境大臣 - 環境省の長。
- 内閣官房長官 - 内閣官房の長。内閣府本府の総括も担当する。
- 国家公安委員会委員長 - 内閣府の外局である国家公安委員会の長。
- 防衛庁長官 - 内閣府の外局である防衛庁の長。
- 内閣府特命担当大臣 - 必要に応じ内閣府に置かれるが、「沖縄及び北方対策担当」と「金融担当」は、必ず置かなければならない(内閣府設置法第10条・第11条)。
- 無任所大臣 - 上記のいずれの事務も担当しない大臣を置く場合の俗称。戦前には「班列」と称された時期もある。
備考
連署・副署
- 内閣総理大臣及び各省大臣(上記一覧の環境大臣まで)は内閣法上「主任の大臣」と呼ばれ、担当国務に関係する法律、政令を公布する際その末尾に連署・副署することが義務づけられている。
- 「主任の大臣」以外の大臣(上記一覧の内閣官房長官以下)は、連署・副署をしない。ただし、「主任の大臣」の誰かが外遊等で国内不在となる場合に一時的にその臨時代理を命ぜられることがあり、その際は連署・副署に名を連ねることとなる。
特命事項の担当大臣
- 複数の省庁に関係するような国政の重要事項については一省庁の所掌とせず、専任の重要事項担当部署(局・対策室など)を省庁より格上の内閣官房か内閣府に設置して、最高責任者である内閣総理大臣の下で総合的に処理する場合がある。
- 重要事項担当部署の長(局長・対策室長など)は通例官僚であるが、それら局長等と内閣総理大臣との間に総括的な責任者として担当大臣が置かれることがある。重要事項担当部署が内閣府にある場合その担当大臣のことを法律上「特命担当大臣」(官報辞令上は「内閣府特命担当大臣」)と言う。一方、重要事項担当部署が内閣官房にある場合その担当大臣の正式呼称は特に法定されていない。
- 内閣府特命担当大臣(例:金融担当)も、内閣官房の重要事項担当部署の担当大臣(例:郵政民営化担当)も、一般的にはそれぞれの担当職務を用いて「○○担当大臣」と呼ばれる。
- なお、例はあまり多くないが、複数省庁にわたる政策事項でありながら内閣官房でも内閣府でもなく一省庁内に「対策室」等を設置し、その総括をその省庁の大臣と別の大臣に命ずる場合(例:個人情報保護担当)があるが、その場合も内閣官房の場合と同様に担当大臣の法定された正式呼称はなく、俗に○○担当大臣と呼称される。
副総理と内閣総理大臣臨時代理
- 日本には正式な官職としての内閣副総理大臣(副総理大臣、副首相)の制度は存在しない。内閣法第9条によれば、「内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、その予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う」という規定があり、これによって指定された国務大臣を副総理と呼ぶ慣習がある。
通常、総理外遊等の際は総理が国務大臣の一人を「内閣総理大臣臨時代理」に指定することでその職務を代行させるが、かつて(2000年(平成12年)4月以前)はその指定方法がいくつかあった。
- 組閣時等に一人の大臣を内閣総理大臣の臨時代理として正式に指定(官報掲載)。代行期間を限定しない発令のため内閣存続中一貫して有効であり、外遊等の際に一々辞令は発しない(その都度自動的に就任・解職したものとみなされる。)。
- 組閣時等に一人の大臣に口頭で臨時代理予定者である旨を指示し、正式な辞令は外遊等の都度その代行期間を限定して発する。
- 組閣時等に臨時代理予定者を明示せず、外遊等の都度人選の上その代行期間を限定して発令する。
- 上記1は、大物大臣を事実上の副首相として処遇したい際に用いられ、俗に「副総理」と呼ばれた。正式な官職ではないため、正式呼称の略称と誤解される可能性のある「副総理大臣」・「副首相」と呼ばれることはなく、マスコミなどでも表記は「副総理」に統一されていた(なお、組閣時の内閣官房長官の発表では、「内閣法第9条の規定により指定された者」などの表現が用いられている)。
- 上記2は、「副総理」として遇するほどではないが閣内の取りまとめ役として尊重したい準大物大臣の場合などに用いられた。「副総理」とは呼ばれなかったが、組閣時などの報道では「今回の内閣では○○氏が副総理格」などと書かれた。ただし、この「副総理」と「副総理格」の細かな違いが一般にはあまり知られていなかったことから、地元支持者らの前で「副総理」を自称する副総理格大臣もいた。
- 上記3は、大物・準大物大臣がいないか、いても継続的な臨時代理予定者への指定を固辞した場合、あるいは逆に大物大臣が複数いて副総理・副総理格を明示しない方が均衡上いいと総理が判断した場合などに用いられた。
- 上記3の場合、総理が臨時代理を指定する暇もなく急死したり重篤な状態に陥る可能性もあり国政上問題が生ずるおそれがあるとして、2000年(平成12年)4月以降、組閣時などに内閣総理大臣臨時代理の予定者を第5順位まで指定・官報掲載するように方針が改められ、原則として内閣官房長官たる国務大臣が第1順位とされるようになった(第2順位以降の人選は個々の経験等を勘案して総理が決定)。これは2000年4月1日深夜、当時の小渕恵三首相が脳梗塞で倒れ、青木幹雄内閣官房長官が同月3日付けで臨時代理に就任(翌4日内閣総辞職)したが、この際小渕首相に臨時代理を指定することが時間的・医学的に可能であったのかどうか論争となったことを受け、内閣法の運用の改善を図ったものである。小渕内閣(改造前後全てを含む。)においては上記3の方式がとられていたが、実際には脳梗塞による本件臨時代理を除く全12回の海外出張において臨時代理は全て内閣官房長官たる国務大臣(野中広務・青木幹雄)が指定されていた。しかし、死亡や重病による臨時代理の際はそれまでとは別に大物大臣が臨時代理となる例があり、この件でも事実そのような密談があったとの噂が流れ、青木国務大臣の臨時代理就任の正当性が問題となったものである。
- 旧来の判断基準「組閣時等の無期限臨時代理指定=副総理」をそのまま当てはめれば内閣官房長官を務める国務大臣が副総理と言えなくもないが、半ば自動的な第1順位への指定であり大物・副首相格の政治家とは限らないため現在では副総理の俗称は用いられなくなった。ただし、次の場合には当該大臣を副総理として処遇しようとする総理の意向が(単に口頭指示等にとどまらず)官報への辞令掲載などで明確化されることから、副総理の呼称が用いられる可能性がある。
- 補職前の素(す)の国務大臣としての序列(官報辞令・閣議署名書等での順序)において、通例筆頭となる国務大臣(総務大臣)の位置よりも前に別の大物国務大臣が列せられた場合(ただし、内閣総理大臣臨時代理予定者第1順位に指定されなかった場合は判断が微妙となる。)
- 内閣官房長官以外の大物国務大臣が内閣総理大臣臨時代理予定者第1順位として指定された場合(この場合は素の国務大臣としての序列が筆頭かどうかは問わない。)
- 法改正により「内閣副総理大臣」または「副総理大臣」が正式に設置された場合は、当然、副総理または副首相と呼ばれることになろう。
- たとえ組閣時から無期限の臨時代理予定者として指定されている上記1のような場合でも、これはあくまで代理「予定者」としての指定であり、総理が不在となる期間以外に「内閣総理大臣臨時代理」の呼称を使用することはできない。公的呼称でない「副総理」を常時自称することは法的には問題ないが、前述のとおり2000年4月以降は特定の大臣を副総理と呼べる事例が生じにくい状態となっているため、仮に自称しても報道等で採用されることはないものと考えられる。
- 2005年10月31日現在、第3次小泉改造内閣においての内閣総理大臣臨時代理は、1位:安倍晋三(内閣官房長官)・2位:谷垣禎一(財務大臣)・3位:麻生太郎(外務大臣)・4位:与謝野馨(金融・経済財政担当大臣)・5位:中川昭一(農林水産大臣)の順で指定されている。
ちなみに、戦前において総理大臣が死亡、辞表受理によって空位になった場合は天皇が国務大臣を『臨時兼任内閣総理大臣』(臨時首相)に選任して、後継総理の組閣までその職務を代行する制度があったが、現在では内閣総理大臣臨時代理(死亡時)又は辞職した総理がその職務を行うため、こうした制度は無い。
他の大臣の臨時代理と事務代理
- 各省大臣(=主任の大臣)の外遊時等には、直属の副大臣ではなく、他の大臣(または内閣総理大臣自ら)がその臨時代理を務める(例:総務大臣臨時代理)。この場合の人選の権限は外遊等をする大臣自身にはなく、内閣総理大臣が指定する。
- 各省大臣以外の「内閣官房長官・国家公安委員会委員長・防衛庁長官・内閣府特命担当大臣」の代理も、やはり直属の副大臣・副長官ではなく他の大臣が務めるが、この場合は「臨時代理」でなく「事務代理」と呼ばれる(例:防衛庁長官事務代理)。ただし、内閣総理大臣自らが代行する場合は「事務代理」でなく「事務取扱」と称することになっている(例:防衛庁長官事務取扱)。
- ※上記「特命事項の担当大臣」の項で言及した担当大臣のうち、内閣官房(まれに省)の重要事項担当大臣については、内閣府特命担当大臣と異なり外遊時等に代理発令がされることはない。厳密には、総理の口頭指示等による一時的代行はあるのかも知れないが、少なくとも辞令のような公に分かる形で官報掲載された例はない。
- 中央省庁再編により旧・政務次官を格上げして新設された副大臣であるが、直属上司である大臣・長官等の代理には他省庁の大臣が指定される。これは、「国務大臣の代理には他の国務大臣が就く」という内閣法上の原則に基づくもので、閣僚でない副大臣に法令への連署等をする最高権限がないためである。ただし、「内閣の一員たる国務大臣の権限」が必ずしも要請されない行為(例:省庁の代表者として式典で祝辞を述べる等)の場合は、にわか代理大臣でなく、本来の直属副大臣や政務官が代行(参席・代読等)するのが一般的である。
- 内閣法には第9条に「臨時に、内閣総理大臣の職務を行う。」、第10条に「臨時に、その主任の大臣の職務を行う。」とあり、一方で内閣府設置法と国家行政組織法には「副大臣(副長官)は・・・職務を代行する。」とある。「行う」と「代行する」という似て非なる文言で区別がなされており、副大臣・副長官の「代行する」権限が「省庁組織の長としての大臣権限」に限られ、より広汎な「主任の国務大臣の権限」までは及ばないと解する根拠の一つとなっている。
戦後の歴代副総理等
吉田 幣原喜重郎(日本進歩党) 復員庁総裁 片山 芦田 均( 民主党 ) 外務大臣 芦田 西尾 末廣(日本社会党) 国務大臣 吉田 林 譲治( 自由党 ) 厚生大臣 〃 緒方 竹虎( 自由党 ) 北海道開発庁長官 鳩山 重光 葵(自由民主党) 外務大臣 石橋 岸 信介(自由民主党) 外務大臣 岸 石井光次郎(自由民主党) 行政管理庁長官兼北海道開発庁長官 〃 益谷 秀次(自由民主党) 行政管理庁長官 田中 三木 武夫(自由民主党) 環境庁長官 三木 福田 赳夫(自由民主党) 経済企画庁長官 大平 *伊東 正義(自由民主党) 内閣官房長官 中曽根 金丸 信(自由民主党) 国務大臣 竹下 宮澤 喜一(自由民主党) 大蔵大臣 宮澤 渡邉美智雄(自由民主党) 外務大臣 〃 後藤田正晴(自由民主党) 法務大臣 細川 羽田 孜( 新生党 ) 外務大臣 村山 河野 洋平(自由民主党) 外務大臣 〃 橋本龍太郎(自由民主党) 通商産業大臣 橋本 久保 亘(参議院社会民主党)大蔵大臣 小渕 *青木 幹雄(参議院自由民主党)内閣官房長官
- 女性閣僚の一覧
- 民間人閣僚の一覧
氏名の前に「*」を付した者は、事前に指名されていたいわゆる「副総理」には当たらないが、総理の職務遂行不能(死亡等)により内閣総理大臣臨時代理を務めた者を表す。
大臣と副大臣・大臣政務官等の任命方式・権限の差異
- 大臣は、1)内閣総理大臣から任命・天皇から認証される「国務大臣」としての官記(国務大臣に任命する)、2)総理から担当事務を命ぜられる「各省大臣・長官等」としての補職の辞令(例:総務大臣を命ずる、内閣府特命担当大臣を命ずる)、という二段階の任命方式が採られている。閣議においては例えば防衛庁長官である国務大臣が司法改革など他省庁の閣議案件について(あくまで理論上ではあるが)深く意見を述べたり、当該他省庁の官僚に「一国務大臣として」何らかの指摘・要求等をすることも可能であり、「国務大臣」としての関与権限は国政全般に及ぶものとされる。
- 一方、副大臣(防衛庁副長官を含む)と大臣政務官(防衛庁長官政務官含む)は、特定の省庁名を冠された官記又は辞令(例:内閣府副大臣に任命する、総務副大臣に任命する、財務大臣政務官に任命する)だけを受ける。副大臣は国務大臣と同様認証官であるため天皇の認証のある官記を受けるが、大臣政務官はそうでないという違いはあるが、どちらも国務大臣のような国政全般への関与を可能とする権限付与(二段階の辞令)は行われていない。
- 閣議では、各大臣は各省庁や特命事項の担当大臣としてだけでなく、広く天下国家を論じる国務大臣の一人として参画する。一方、副大臣会議では、副大臣は各府省庁の調整代表の高官として参加しており、国政全般を論じたり他府省庁の副大臣の提出した案件に対して必要以上の関与をすることはできない。
- 一部に、国務大臣の表記にならって「国務副大臣」のような表記をする向きがあるが、広汎な国務大臣の権限に比べ副大臣の地位・権限が限定的であることと矛盾する。「国務副大臣」の名称はいかなる法令にも存在せず、そのような辞令が発せられたこともない。防衛庁副長官を含む各府省副大臣の総称は単に「副大臣」とするのが正しく、各種法令でもそのような取扱いがなされている。大臣政務官についても同様で、「国務大臣政務官」とするのは法的には誤りとなる。
国務大臣の罷免例については罷免を参照のこと。
国務大臣の権威性とその歴史
大臣とは古来からの日本固有の高官職名である。明治期に太政大臣、左大臣、右大臣、内大臣、准大臣といった大臣職が改められ、内閣制度の発足とともに、内閣構成者としての内閣総理大臣及び国務大臣として新たな大臣の職掌が整備された。明治以降も昭和初期まで内大臣・宮内大臣の職が置かれたが、これは閣外の職位であり、国務大臣には含まれず内大臣府・宮内省にあって天皇を補佐する役目であった。
終戦後の昭和30年以降、自由民主党の結党以来、55年体制以降、派閥の論理で大臣が選任されてきた。政治家にとって大臣の職は権威の象徴であり、当選回数5回の議員から派閥の均衡によって調整され、人格や能力もあるが、それ以上に派閥の力学で主に大臣が選抜されてきた。当選回数5回以上に達し、大臣を拝命していない政治家は大臣待望組といわれ、大臣になるために執念を燃やしたり、その地位にとらわれることを俗に「大臣病」といった。