暴力装置

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暴力装置(ぼうりょくそうち)とは、国家権力によって組織化され、制度化された暴力の様態を意味する社会学用語[1]。通常、軍隊警察の持つ実行力へ言及する際に用いられる。

概説[編集]

現状において国際政治における戦争も各国内における犯罪も根絶されていない以上、個々の市民から暴力を没収して一元管理することは国家の安定した成立のために不可欠であり、そのために国家には法に基づいた実力行使を許された機関と構成員が必要である。これが「暴力装置」である。

一方、市民や外国人が国家や地方自治体の意志に関係なく(警察力の規制を逃れて)暴力を恣意的に行使できる状態が、失敗国家に見られる典型的特徴である。

定義[編集]

「暴力装置」という言葉は、政治学や社会学において国家の物理的強制機能を指す用語[2][3][4][5][6][7]だが、あくまで法学・政治学上の用語であり、一般的には「軍隊」及び「警察」(もしくは「治安機関/治安組織」)と呼び、より専門的な用語としては「法執行機関」と呼ぶ。

軍隊や警察の他に、法に基づいた実力行使が許されている機関、例えば日本では海上保安庁入国管理局国税庁査察部、アメリカ合衆国ならアルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局連邦保安官も暴力装置、かつ法執行機関である。消防も延焼拡大阻止のために私有の家屋や山林を破壊することが許されている暴力装置であり、放火事案を警察が捜査することに密に協力していることから、法執行機関でもある。[要出典]

歴史[編集]

国家を機械や装置に例える表現は、過去に共産主義思想家や革命家によって行われてきた。カール・マルクスは、著書『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』においてナポレオンの革命によって完成された国家を「Maschine」(装置)として例えている[8][9]。また、ロシア革命を主導したウラジーミル・レーニンは、著書『国家と革命』の中で「чиновничьего и военного аппарата」(官僚・軍事装置)という言葉を用いた[10][11]

これらを受け、日本の左翼理論家・運動家だった神山茂夫(1905-1974)がマルクス、レーニン、スターリンらの革命的国家理論の理解のための総括の中で「暴力装置」という語を用いた[12]。以降、日本では安保闘争を通じて自衛隊を違憲とする立場の左翼の活動家などにより「暴力装置」という表現が使われてきた[13][14][15]

日本の政治家による「暴力装置」発言[編集]

「暴力装置」という語は法執行機関による公権力の濫用について批判的に言及する際にも用いられるため、政治家が不用意に使用すると問題視される場合がある。

2010年11月18日に開催された参議院予算委員会にて、当時の民主党政権における現職の内閣官房長官であった仙谷由人は、「暴力装置でもある自衛隊、ある種の軍事組織だから特段の政治的な中立性が確保されなければならない」と述べたが、自民党などからの猛抗議を受け、「実力組織と言い換える。自衛隊の皆さんには謝罪する」と撤回して謝罪した[16][17]。また仙谷は、2005年10月03日に早稲田大学大隈塾にて講演した際、「憲法に自衛隊が存在することの根拠を書」くべきとの文脈で以下のように述べた[18]

「私の感覚では、良いか悪いかは別として自衛隊の存在を国民の8割くらいが認めているのではないでしょうか。確かに暴力装置としての大変な実力部隊が存在し、法的に言えば自衛隊法や防衛庁設置法でもって定めているのです。それならば、これが違憲の法律だと言わないのならば、憲法に自衛隊が存在することの根拠を書かないというのは、憲法論としても法律論としても如何なものかというのが本当は論点の核心にならなければいけない。しかしながらそれは殆ど素通りをして、憲法の文言を変えて自衛隊を憲法上の存在とすることによって軍国主義化するとか、そうでないとか、戦争をすることになるか否かという議論ばかりが現在まで延々と続けられてきた。衆議院の憲法調査会を5年間やりましたけれども、そういう両極端の議論を100回繰り返しても物事は何も進まないと私も随分発言しましたけれども、それがまだまだ主流になってこない。」

2009年03月30日に開催された民間のシンポジウムにて、当時の自民党公明党政権における現職の農林水産大臣であった石破茂防衛大臣・防衛庁長官を複数回に渡って務めた安保防衛のエキスパートとして知られる)は、「国家の定義というのは、警察と軍隊という暴力装置を合法的に所有するというのが国家の1つの定義」と述べ[19][20]、「暴力装置」という用語を使用して警察や軍隊などを説明した。なお、このシンポジウムには、民主党の当時の副代表であった岡田克也ら複数のパネリストも参加していたが、この現職の大臣である石破が警察や軍隊を「暴力装置」と表現した点について、特に誰からも問題視されなかった。また石破は、遡ること2006年に清谷信一との共著で出版された『軍事を知らずして平和を語るな』(KKベストセラーズISBN 4584189676)においても以下のように述べていた[21]

「国家という存在は、国の独立や社会の秩序を守るために、暴力装置を合法的に独占・所有しています。それが国家のひとつの定義だろうと。暴力装置というのは、すなわち軍隊と警察です。日本では自衛隊と警察、それに海上保安庁も含まれます。」

これらの例は、国家や警察・海上保安庁や軍隊・自衛隊を指すという点で、定義的に極めて正確であり、その実態を端的に表現した文脈で使用されたものである。が、発言者の立ち位置や「暴力」という語感から誤解を招くことも有り得るため、特に学術的でない場で用いる際には、注意が必要である。また、2010年12月3日の閣議菅内閣は、「憲法の下で認められた、自衛のための実力組織である自衛隊を表現する言葉としては不適切だ」との内容を含む答弁書を決定した[22][23]

脚注・出典[編集]

  1. ^ 社会学小辞典【新版増補版】(2009年8月5日新版増補版第3刷) P.976
  2. ^ 平凡社「世界大百科事典」栗原彬阿部斉の項目を参照。
  3. ^ 寺島実郎責任監修リレー講座「世界の構造転換と日本の進路」第3回「対テロ戦とアフガニスタンの安定化、日本はどう向き合うべきか?」伊勢崎賢治
  4. ^ II 政治的暴力の概念 政治的暴力と人類学を考える(グアテマラの現在) 池田光穂
  5. ^ 自衛隊は「暴力装置」である 池田信夫blog 2010年11月19日 00:08 法/政治
  6. ^ 暴力装置 大屋雄裕ブログ・「おおやにき」2010年11月18日 17:49
  7. ^ 加藤秀治郎ほか『新版 政治学の基礎』一芸社、2001年、13頁
  8. ^ Karl Marx - Der achtzehnte Brumaire des Louis Bonaparte - VII
  9. ^ 「すべての変革はこの装置を破壊はしないで、さらにこれを完全にした。」(原文は旧字体)(改造社編「マルクス=エンゲルス全集」改造社、1928年12月8日、213頁より引用)
  10. ^ Ленин. Государство и революция
  11. ^ 「官僚的ならびに軍事的装置」(レーニン『国家と革命』国民文庫社、1952年10月25日初版、50頁より引用)(但しこの箇所は改訳以降「官僚・軍事機関」に修正されている)
  12. ^ 「国家は具体的は暴力装置、即ち常備軍、警察等、監獄等によって構成され」(原文は旧字体)(神山茂夫「天皇制に関する理論的諸問題」民主評論社、1947年6月10日、20頁より引用
  13. ^ “仙谷氏「暴力装置」発言 謝罪・撤回したものの…1/2”. 産経新聞. (2009年11月18日). http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101118/plc1011182236025-n1.htm 2010年11月19日閲覧。 引用『レーニンが「国家権力の本質は暴力装置」などと、暴力革命の理論付けに使用したため、全共闘運動華やかなりしころには、主に左翼用語として流通した。』[リンク切れ]
  14. ^ “仙谷氏「暴力装置」発言 謝罪・撤回したものの…2/2”. 産経新聞. (2009年11月18日). http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101118/plc1011182236025-n2.htm 2010年11月19日閲覧。 引用『仙谷氏は著書の中で、「若かりし頃(ころ)、社会主義を夢見た」と明かし』『「ちょっと言葉が走った。ウェーバーを読み直し、改めて勉強したい」』[リンク切れ]
  15. ^ “asahi.com(朝日新聞社):仙谷氏「自衛隊は暴力装置」参院予算委で発言、撤回 - 菅政権”. 朝日新聞. (2010年11月18日). http://www.asahi.com/special/minshu/TKY201011180169.html 引用『「暴力装置」の表現は、かつて自衛隊を違憲と批判する立場から使用されてきた経緯がある。』
  16. ^ “「自衛隊は暴力装置」仙谷官房長官、撤回し謝罪”. YOMIURI ONLINE(読売新聞. (2010年11月18日). http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20101118-OYT1T00489.htm 2010年12月1日閲覧。 
  17. ^ “仙谷氏 止まらぬ問題発言「自衛隊は暴力装置」”. スポーツニッポン新聞社. (2010年11月19日). http://www.sponichi.co.jp/society/special/2010politics/KFullNormal20101119158.html 
  18. ^ 戦後日本政治の流れを振り返る
  19. ^ “集団的自衛権と国連観に違いがみえた”. asahi.com(朝日新聞. (2009年3月30日). http://www.asahi.com/international/aan/hatsu/hatsu090414d.html 2010年12月1日閲覧。 
  20. ^ この定義自体はマックス・ヴェーバー暴力の独占の考え方に近い。
  21. ^ 「暴力装置」は「差別用語」か? 2010年11月19日 清谷信一
  22. ^ 民主党政権の政治主導に関する質問に対する答弁書 平成二十二年十二月三日受領 答弁第一九八号 防衛省HP
  23. ^ “仙谷氏の「暴力装置」発言は不適切…政府答弁書”. YOMIURI ONLINE(読売新聞. (2010年12月3日). http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20101203-OYT1T00862.htm 2010年12月4日閲覧。 

関連項目[編集]