PCCS
PCCS(Practical Color Coordinate System、日本色研配色体系)とは、色彩調和を目的に日本で開発された表色系である。多くの場合、顕色系の表色系として分類される[1][2][3]。1966年(昭和41年)に一般財団法人日本色彩研究所が開発・発表した[4][5]。
マンセル表色系などと同様に色の三属性による表記も可能だが、「彩度」と「明度」を複合した『トーン』の概念が存在し2属性での表記も可能な点が特徴的で[1][3][5]、色の2属性表記で実際の色をイメージしやすいため配色を考えるのに適している[5][3]。「色相(ヒュー)」と「トーン」で体系付けられるため『ヒュートーンシステム』とも呼ばれる[2][3][5]。
色相(Hue)
[編集]心理四原色を骨格とした24の色相が、知覚的に均等になるように配列されている[3][5][6]。色相の構成は以下の手順で成り立っている[3][5][6]。
- 心理四原色の赤・黄・緑・青を円周上に配置する。(下図●、計4色)
- 心理四原色の心理補色を円の対向位置に配置する。(下図○、計8色)
- 知覚的に均等になるように4色を加える。(下図△、計12色)
- それぞれの中間色相を加える。(計24色)
12色相として用いる場合、4.で追加した中間色相を除いた12色相(●○△があるもの、偶数番号)を用いる。
手順 | 色 | 番号:略号 | 名称 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1:pR | 紫みの赤 | |||
● | 2:R | 赤 | ||
3:yR | 黄みの赤 | 色光3原色の赤に近い[6]。 | ||
△ | 4:rO | 赤みの橙 | ||
5:O | 橙 | |||
○ | 6:yO | 黄みの橙 | ||
7:rY | 赤みの黄 | |||
● | 8:Y | 黄 | 色材3原色のイエローに相当[6]。 | |
9:gY | 緑みの黄 | |||
△ | 10:YG | 黄緑 | ||
11:yG | 黄みの緑 | |||
● | 12:G | 緑 | 色光3原色の緑に近い[6]。 | |
13:bG | 青みの緑 | |||
○ | 14:BG | 青緑 | ||
15:BG | 青緑 | |||
△ | 16:gB | 緑みの青 | 色材3原色のシアンに相当[6]。 | |
17:B | 青 | |||
● | 18:B | 青 | ||
19:pB | 紫みの青 | 色光3原色の青に近い[6]。 | ||
○ | 20:V | 青紫 | ||
21:bP | 青みの紫 | |||
△ | 22:P | 紫 | ||
23:rP | 赤みの紫 | |||
○ | 24:RP | 赤紫 | 色材3原色のマゼンタに相当[6]。 |
複数の色を比較するとき、色相差(色相番号の差)によって以下の関係性に分類される[7]。
色相差 | 関係性 | 赤(■ 2:R)を基準にしたときに該当する色相 |
---|---|---|
0 | 同一色相 | ■ 2:R |
1 | 隣接色相 | ■ 1:rP、■ 3:rY |
2・3 | 類似色相 | ■ 4:rO、■ 5:O、■ 23:rP、■ 24:RP |
4~7 | 中差色相 | ■ 6:yO、■ 7:rY、■ 8:Y、■ 9:gY、■ 19:pB、■ 20:V、■ 21:bP、■ 22:P |
8~10 | 対照色相 | ■ 10:YG、■ 11:yG、■ 12:G、■ 16:gB、■ 17:B、■ 18:B |
11 | 隣接補色色相 | ■ 13:bG、■ 15:BG |
12 | 補色色相 | ■ 14:BG |
明度と彩度
[編集]明度(Lightness)
[編集]マンセル表色系の明度表記にあわせて、最も明るい白を9.5、最も暗い黒を1.5として0.5刻みの17段階で定義している[5][8]。色相によって彩度が最高値のときの明度が異なり、最も明るい色相の黄(■ 8:Y)は明度は8.0、最も暗い色相の青紫(■ 20:V)は3.5となっている[3][8]。
彩度(Saturation)
[編集]他の表色系と区別するため頭文字の「s」を付して表記し[8]、無彩色が0s、純色が10sの10段階で定義しているが[8]、色票では10sが表現できないため9sが事実上の純色として扱われている[5]。各色相の最高彩度を統一している点はマンセル表色系と異なる。
トーン
[編集]明度と彩度の複合的な概念で、有彩色は12種類、無彩色は5種類のトーンに分けられる[3][9]。一覧表示する際は縦軸を明度、横軸を彩度として掲載されることが多く、以下は赤みの橙(■ 4:rO)を例にした等色相面(トーンマップ)のイメージと、トーンの名称の一覧[10]。また、それぞれのトーンにはイメージする形容詞が設定されており[5]、その一例を記載している。
9.5 | W | p | lt | ||
ltGy | b | ||||
ltg | sf | v | |||
5.5 | mGy | s | |||
g | d | ||||
dkGy | dp | ||||
dkg | dk | ||||
明度1.5 | Bk | ||||
彩度0s | 1~3s | 4~6s | 7~8s | 9s |
区分 | 色 | 記号 | 名称 | イメージの一例 |
---|---|---|---|---|
明清色 | p | ペール | 薄い | |
lt | ライト | 浅い | ||
b | ブライト | 明るい | ||
純色 | v | ビビッド | さえた | |
暗清色 | dp | ディープ | 濃い | |
dk | ダーク | 暗い | ||
dkg | ダークグレイッシュ | 暗い灰みの | ||
中間色 | ltg | ライトグレイッシュ | 明るい灰みの | |
sf | ソフト | 柔らかい | ||
s | ストロング | 強い | ||
d | ダル | 鈍い | ||
g | グレイッシュ | 灰みの |
vは純色[3][5]。上方に位置する3種類(b・lt・p)は純色に白のみを混ぜた色で「明清色」と呼ばれ、対して下方の3種類(dp・dk・dkg)は純色に黒のみを混ぜた色で「暗清色」と呼ばれる[3][5]。中間の5種類は白黒の混色(灰色)を混ぜた色で「中間色」と呼ばれる[3][5]。
なお、上記のトーンマップは代表色(vトーン)の明度が中央値と同じ5.5の赤みの橙(■ 4:rO)を採用しているため上下対称に近い形をとるが、高彩度での明度が高い黄(■ 8:Y)であれば高彩度のトーンが全体的に上に、明度が低い青紫(■ 20:V)であれば下に大きく歪んだ形をとる。そのため同じトーンであっても、色相によって明度が異なる場合がある(後掲「色彩調和の形式」を参照)。そのためPCCSの色立体は最高彩度ごとに明度が異なる歪んだ形状をとるが、マンセル表色系とは異なり各色相の最高彩度は9sで統一されているため、上下から見ると真円に近い形状となっている。
色の表記方法
[編集]色相・明度・彩度の3属性で表記する場合、有彩色は色相・明度・彩度の順に「-」で繋いで表記する[3][5][8]。無彩色は無彩色を示す「n」を用いて、彩度は省略して明度のみを付記する[3][5][8]。
色相とトーンの2属性で表記する場合、有彩色はトーン・色相番号を順に表記する[3][5][9]。無彩色は灰色を示す「Gy」を用いて明度を付記するが、白や黒の場合は単に『W』『Bk』と表記し明度は付記しない[3][5][9]。
以下は、同じ色を3属性と2属性の2種類の表記方法で表現した場合の例と、参考としてマンセル表記の例。色彩調和を目的としたPCCSでは2属性表記が主に使われる(後掲「色彩調和の形式」を参照)。
色 | 3属性の表記 | 2属性の表記 | マンセル表記 |
---|---|---|---|
12:G-5.5-9s | v12 | 3G 5.5/11 | |
2:R-8.5-2s | p2 | 4R 8.5/2 | |
n-5.5 | Gy-5.5 | N 5.5 | |
n-9.5 | W | N 9.5 | |
n-1.5 | Bk | N 1.5 |
色彩調和の形式
[編集]色 | 3属性の表記 | 2属性の表記 |
---|---|---|
6:yO-5.0-8s | dp6 | |
12:G-5.0-8s | s12 | |
22:P-5.0-8s | b22 |
これらは明度と彩度が同じ数値であるため3属性の表記では似た印象を受けるが、色相によっては明度と彩度の分布に偏りがあるためトーンは一致しない。色彩調和を考える場合は色相やトーンを基準に考えるため[7]、それらの要素を比較しやすい2属性の表記が多く用いられる[5]。上の3色と同じトーンで色相を統一、あるいは同じ色相でトーンを統一した色の組み合わせの例は次のとおり。
色 | 3属性の表記 | 2属性の表記 | 色 | 3属性の表記 | 2属性の表記 |
---|---|---|---|---|---|
12:G-4.0-8s | dp12 | 6:yO-6.5-8s | s6 | ||
12:G-5.0-8s | s12 | 12:G-5.0-8s | s12 | ||
12:G-6.5-8s | b12 | 22:P-3.5-8s | s22 |
こういった色相やトーンを統一する形式は「同系の調和」と呼ばれ、隣接・類似した色相やトーンを用いた形式の「類似の調和」とともに共通性があるために調和すると考えられている[7]。それとは逆に対照的な色相やトーンを用いる形式は「対照の調和」と呼ばれ、色味の違いが明瞭であるために調和すると考えられている[7]。以下は「対照の調和」の一例。
色 | 3属性の表記 | 2属性の表記 | 色 | 3属性の表記 | 2属性の表記 |
---|---|---|---|---|---|
4:rO-6.5-8s | b4 | 4:rO-6.5-8s | b4 | ||
16:gB-5.5-8s | b16 | 4:rO-2.0-2s | dkg4 |
脚注
[編集]- ^ a b “PCCS”. 日本色研事業. 2021年6月29日閲覧。
- ^ a b 槙究著『カラーデザインのための色彩学』(2006年、オーム社)
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 色彩活用研究所サミュエル監修『色の事典 色彩の基礎・配色・使い方』(2012年、西東社)
- ^ “研究所のあゆみ”. 日本色彩研究所. 2021年6月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q “PCCSとは”. DIC color & comfort. 2021年6月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “PCCSの色相”. 日本色研事業. 2021年6月29日閲覧。
- ^ a b c d “PCCSを用いた色彩調和の形式”. 日本色研事業. 2021年6月30日閲覧。
- ^ a b c d e f “PCCSの明度と彩度”. 日本色研事業. 2021年6月29日閲覧。
- ^ a b c “PCCSのトーン”. 日本色研事業. 2021年6月29日閲覧。
- ^ “赤みの橙のイメージ 3:yR-4:rO”. IROUE. 2021年6月30日閲覧。