不可能な色
不可能な色(ふかのうないろ)は、通常色覚と定義づけられるような、様々な波長と強度の可視光線の組み合わせからなる光によって知覚されるような色ではないものの、ある条件下で見ることが可能な想定上の色である。
種類[編集]
不可能な色には大きく2つの種類が存在する。
- 人間の網膜を構成する3種類の錐体細胞(主に赤、緑、青の波長に感度を持つ)が、通常の可視光線のスペクトルでは刺激し得ないような組み合わせの値としてそれぞれ反応を示した際に知覚される色。
- 脳の視覚野によって、両目や片方の目の複数箇所の色覚を処理した結果として知覚される色。例えば、右目で青、左目で黄色を見たときに見える色。[1](この色は、実際に2つの色の絵の具を混ぜ合わせた結果見える色ではないことに注意。)
Imaginary Color(想像上の色)[編集]

Imaginary Color(想像上の色)とは、通常の環境下で、いかなる光のスペクトラムによっても生み出すことの出来ない錐体細胞の反応量の組み合わせに対応する、色空間上の点として定義づけられる色である[2]。したがって、物理的に存在する物体はimaginary colorを持ちえない。
M錐体(3種類の錐体細胞のうち、中波長領域に感度を持つもの = middle-wavelength)が感度を示す波長領域は、S(短波長 = short-wavelength)錐体やL(長波長 = long-wavelength)錐体のそれと重なり合っている。したがって、M錐体が反応する波長の光は、S錐体やL錐体に対してもある程度の刺激を与えることになる。したがって、(一部の赤外線などは別として)一種類の錐体細胞だけに刺激を与えるような波長や分光分布は存在しない。しかし仮にM錐体のみが反応を示すような場合があったとすれば、脳は物理的に可能な緑よりも「より鮮やかな」緑を知覚することになる。そのような光は、可視光のうち赤や青といった緑以外の波長領域が負の値となるようなスペクトラムを持つということを意味し、実際には不可能である。そのような「超緑」は、例えばCIE 1931色空間の色度図上においては、緑色のついた領域のさらに上側の領域として定義づけることが出来る。
Chimerical Color(キメラ色)[編集]
Chimerical color(キメラ色)とは、鮮やかな色を錐体細胞が疲労を起こすまでじっと見つめ続け、その錐体細胞の感度が変化した後に著しく異なる色を見たときに感じる色である。例えば、原色を見つめ続けたあとに白を見ると、その反対色を残像として見ることが出来る。キメラ色は、片目でも両目でも見ることができ、実際には不可能ななずの色の組み合わせ(補色同士や、無彩色と有彩色)を同時に知覚できるようなものをいう。キメラ色には以下のようなものがある。
- スティギアン・カラー(stygian color):黒いにも関わらず、彩度のある色。例えば、明るい黄色を見つめた後に黒を見たときに、その黒の上に補色として現れる青が「スティギアン・ブルー」である。
- 自光色(self-luminous colors):紙のように本来光を反射するだけの物体が、あたかも光を発しているかのように見える光。例えば、赤い自光色を見るには、補色の緑を見つめた後に白を見る。すると、白いにも関わらず、白よりも明るい赤が現れる。
- 誇張色(hyperbolic colors):現実にはありえないほど鮮やかな色。例えば、オレンジの誇張色を見るには、補色のシアンを見つめた後にオレンジ色を見る。すると、彩度100%のオレンジよりも鮮やかなオレンジが現れる。もしくは、明るい太陽光の元、鮮やかなマゼンタを2分前後見つめると、一時的に赤と青に対する感度が鈍化する。その状態で緑の葉を見つめると、不自然なほどに鮮やかな緑を見ることができる。

脚注[編集]
- ^ Crane, Hewitt D.; Piantanida, Thomas P. (1983). “On Seeing Reddish Green and Yellowish Blue”. Science 221 (4615): 1078–80. doi:10.1126/science.221.4615.1078. JSTOR 1691544. PMID 17736657.
- ^ MacEvoy, Bruce (2005年). “Light and the eye”. Handprint. 2007年5月5日閲覧。