庭掃

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庭掃(左)、農人(右)の歌合(『三十二番職人歌合』、1494年、その1838年の模写)。帯刀した老人と、助手の童子である。

庭掃、または庭掃き(にわはき)は、中世12世紀 - 16世紀)期に存在した日本の清掃作業者である[1][2]。第一義的には「庭の掃除」でありその行為者を指す語であるが、この時代の日本においては、掃除清掃に従事する行為・者を指した[1][2]

江戸時代17世紀 - 19世紀)にも、「かわた」が「庭掃」と呼ばれる職能を兼務する事例が信濃国に存在しており、これについても本項で触れる[3]

略歴・概要[編集]

二条邸押小路烏丸殿)を掃く庭掃(『洛中洛外図屏風』、1520年代)。

平安時代中期、10世紀末に書かれた『枕草子』や、平安時代後期11世紀後半に成立したとされる作り物語狭衣物語』に、すでに慣用句として「芹摘む」という語が登場する[4][5]。これは、禁中(御所)の「庭掃」が皇后に恋焦がれて芹(セリ)を摘むが、恋はかなわず焦がれ死んだ故事に由来するものとされており[4][5]、遅くとも10世紀には「庭掃」が存在したことを意味する。

鳥羽天皇の時代(12世紀初頭)、藤原宗忠日記中右記』のユリウス暦1114年4月24日永久2年旧暦3月18日)の項に「又召次並鳥羽殿庭掃事、仰云、任法可行」とあり、京都近郊、山城国紀伊郡鳥羽(現在の京都市南区上鳥羽・同市伏見区下鳥羽)に存在した広大な鳥羽殿(鳥羽離宮、一部を除き現存せず、跡地は鳥羽離宮公園・安楽寿院等)の「庭掃」について言及されている[1]

猿楽の世界から世阿弥が登場する14世紀後半より以前に成立したとされる『綾太鼓』(あやのたいこ、現在の雑能綾鼓』)には、主役(シテ)として、女御(ツレ)に恋する「庭掃」の老人が登場する[6]。これはのちに三島由紀夫が書いた戯曲綾の鼓』(『近代能楽集』、1951年)では、「老小間使」として描かれる役どころである。

室町時代15世紀末の1494年(明応3年)に編纂された『三十二番職人歌合』の冒頭には、「いやしき身なる者」として、「農人」(のうにん)とともに「庭掃」として紹介され、庭箒を手にして直垂を着用した老人と、草を入れたをもち小袖を着用した童子の姿が描かれている[7][8]。この歌合に載せられた歌は、

  • 名にたてる こや庭はきの 家の風 花をわが世の 朝きよめかな

というものであった[1]。ここに描かれた「庭掃」も「農人」も、いずれも帯刀している[8]鈴木棠三は『日本職人辞典』において「庭掃」を、「所謂下男の事である」と記しているが[9]遠藤元男によれば、衣裳・装束や年少者の労働力を伴っている点から、「庭掃」とは下男・下僕のような存在ではなく、清掃に関する技術的な側面も含めた労務を提供した職業であった、と指摘している[8]。15世紀は、重商主義的社会であり、農本主義的価値観が退けられ、「農人」が賎視されるとともに同じ土を扱う「庭掃」が対になって描かれているのであろう、という指摘もある[10]原田伴彦は、同歌合における「庭掃」を「即ち庭者」としている[11]庭者、あるいは庭の者(にわのもの)とは、武家の庭掃除等を行う下級役人であり、室町幕府では庭奉行の配下にあった[12]

16世紀に入り、1520年代大永年間)の京都市内・郊外の光景を、細川高国が発注して狩野元信が描いたとされる『洛中洛外図屏風』の右隻3扇には、二条邸押小路烏丸殿、現存せず、現在の京都市中京区二条殿町近辺)を掃く「庭掃」の姿が登場する[2]。この人物は裸足のようである[2]

近世(17世紀 - 19世紀)の時期、信濃国(現在の長野県)の東部から北部・中部地域にかけて、「庭掃」と呼称・自称する穢多身分の者たちがいたことが指摘されている[3]。例えば慶安2年(1649年)上田藩では「かわた」を城下に集住させ、本来の皮革業や警察(与力同心)の下働き、刑場での刑吏の他、「庭掃」として寺社や城、領主屋敷の清掃役を命じている[3]。また明和9年(1772年)の同領内の宗門改め帳では、村の真言宗寺院の「庭掃」を乞食が代々務めている事例がある。江戸幕府ではこの時代、「庭者」(庭の者)は、若年寄の支配下に置かれた[12]

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d 庭掃Yahoo!辞書、2012年9月12日閲覧。
  2. ^ a b c d 庭掃き(右3)国立歴史民俗博物館、2012年9月12日閲覧。
  3. ^ a b c 斎藤、p.47-58.
  4. ^ a b デジタル大辞泉『芹摘む』 - コトバンク、2012年9月12日閲覧。
  5. ^ a b 大辞林 第三版『芹摘む』 - コトバンク、2012年9月12日閲覧。
  6. ^ 世界大百科事典 第2版『綾鼓』 - コトバンク、2012年9月12日閲覧。
  7. ^ 小山田ほか、p.142.
  8. ^ a b c 遠藤、p.178.
  9. ^ 鈴木 [1985]、p.212.
  10. ^ 網野・石井[2000]、p.133.
  11. ^ 原田、p.24.
  12. ^ a b デジタル大辞泉『庭の者』 - コトバンク、2012年9月12日閲覧。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]