地質年代学

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地質年代学(ちしつねんだいがく、: Geochronology)は、鉱物固有の特徴を調べることで、岩石化石堆積物年代測定を行う科学分野。絶対地質年代は放射性同位元素の測定で行えるが、相対地質年代は古地磁気安定同位体比などのツールによって提供される。複数の地質年代(および生層序学英語版)的な指標を組み合わせることにより、年代測定の精度を向上させることができる。

地質年代学は、生層序学とは用途が異なる。生層序学とは、動植物の化石群を特定し、カタログ化し、比較することにより、その化石を含む堆積岩を既知の地質年代に当てはめる。つまり生層序学は、岩石の絶対的な年代決定を直接提供するのではなく、その化石群が共存したことが知られている年代範囲内にそれを配置するだけである。ただし、両方の分野は連携して機能する。地層のそれぞれの層の年代区分と呼称は同じ物が使われる。

地質年代学は、年代層序学で使用される主要なツールであり、すべての化石群の絶対年代を導き出して地球史地球外史で年代を特定しようとする。

年代測定の方法[編集]

放射年代測定[編集]

既知の半減期を持つ放射性同位元素放射性崩壊の量を測定することにより、親物質の絶対年齢を確定できる。この目的のために多くの放射性同位元素が使用されており、崩壊速度に応じて、さまざまな地質年代の年代測定に使用されている。よりゆっくりと崩壊する同位体は、より長い期間では有用だが、引き替えに絶対年の特定精度は低下する。放射性炭素年代測定を除いて、これらの手法のほとんどは、実際には、放射性親同位体の崩壊生成物である放射性核種の存在量の増加を測定することに基づいている[1] [2] [3]。2つ以上の放射測定法を組み合わせて使用すると、より確実な結果を得ることができる[4]。ほとんどの放射測定法は地質学的年代にのみ適しているが、放射性炭素法やアルゴン-アルゴン法などのいくつかの方法は、人類史の初期の年代[5]や有史期間にも拡張できる[6]

一般的に使用される代表的な手法は次のとおり。

フィッショントラック法[編集]

宇宙線生成核種年代測定法[編集]

地形面が作成された年齢(露出年代測定)、または表層堆積物英語版の埋没年代を決定するための技法。露出年代測定では、沖積扇状地などの地表が作成された年代の代用として、大地中の物質と相互作用する宇宙線によって生成されたエキゾチック核種(たとえば、10Be、26Al、36Cl)の濃度を使用する。埋設年代測定では、2つの宇宙線生成要素の異なる放射性崩壊を、堆積物がさらなる宇宙線被ばくによる埋設によって遮蔽された年代測定の代用として使用する。

ルミネセンス測定[編集]

ルミネセンス年代測定法は、石英、ダイヤモンド、長石、方解石などの材料から放出される「光」を観察する。地質学では、光刺激ルミネセンス(OSL)、カソードルミネッセンス(CL)、熱ルミネセンス(TL)など、多くの種類のルミネセンス技法が利用されている。熱ルミネセンスと光刺激ルミネセンスは、陶器や調理石などの「焼かれた」遺物の考古学で使用されており、砂の移動を観察するために使用できる。

増分年代測定[編集]

増分年代測定英語版法では、年ごとの年表を構築できる。これは、固定する(つまり現在の日付にリンクさせる)ことも、浮動(相対日付)にすることもある。

古地磁気年代[編集]

一部の岩石は生成されるときに、地磁気の影響を受けて磁極の方向が分かるように磁化されている。そこで、記録されている古地磁気極(通常、仮想的地磁気極Virtual Geomagnetic Pole《VGP》と呼ばれる)を年代順に地図(地球儀)上に描くと、見かけの極移動曲線(APWP)ができる。このような曲線は、(大陸移動の影響を受けているため)大陸(陸塊)ごとに異なるものが描かれる[8]。それぞれの大陸のAPWPは、年代が不明な岩石の古極の参照用に使用できる。古地磁気年代測定の場合、古極をAPWP上の最も近い点にリンクすることにより、岩石または年齢が不明な堆積物の年代を調べる。古地磁気年代測定の2つの方法が提案されている:(1)角度法と(2)回転法 [9]。最初の方法は、同じ大陸ブロック内の岩石の古地磁気年代測定に使用される。2番目の方法は、地殻変動の影響が計算可能な領域に使用される。

磁気層序学[編集]

磁気層図英語版は、磁気極性の時間スケールと比較することにより、層状堆積および/または火山岩のシリーズの磁気極性ゾーンのパターンから年代を決定する。極性のタイムスケールは、海底の磁気異常の年代測定、地磁気層序断面内の火山岩の放射年代測定、および天文学的層序断面の年代測定によって以前に決定されている。

化学法[編集]

同位体組成、特に炭素-13とストロンチウム同位体の世界的な傾向は、地層を相関させるために使用できる[10]

示準層の比較[編集]

アイスランド中南部のテフラの層。火山学者の手の高さにある明色から暗色への層は、ヘクラ山からのテフラ流紋岩から玄武岩の示準層となっている。

示準層英語版は同じ年代の層序単位である。独特の構成と外観があり、異なる地域に存在しようとも、それらの年齢の同等性について確実性がある。化石の動植物は、海洋と陸上の両方で示準層となる[11]テフロクロノロジーは、未知の火山灰(tephra)と地球化学的に指紋が付けられた年代測定されたテフラとの相関関係を調べる手法である。いくつかの噴火の日付は確定されているため、テフラは考古学の年代測定ツールとしてもよく使用される。

年代順の地質階層[編集]

地球年代学層序学
地質年代区分 年代層序区分 定義数および概年数
累代 eon 累界 eonothem 4累代、各5億年以上
era erathem 10代、数億年程度
period system 22紀、数千万~数億年
epoch series 34世、数千万年
age stage 99期、数百万年
時代と層の対比
後期 late 上部 upper
中期 middle 中部 middle
前期 early 下部 lower

年代学:最大から最小まで:

  1. Supereon[12]
  2. 累代
  3. Chron[13]

脚注[編集]

  1. ^ Dickin, A. P. 1995. Radiogenic Isotope Geology. Cambridge, Cambridge University Press. ISBN 0-521-59891-5
  2. ^ Faure, G. 1986. Principles of isotope geology. Cambridge, Cambridge University Press. ISBN 0-471-86412-9
  3. ^ Faure, G., and Mensing, D. 2005. "Isotopes - Principles and applications". 3rd Edition. J. Wiley & Sons. ISBN 0-471-38437-2
  4. ^ Dalrymple, G. B.; Grove, M.; Lovera, O. M.; Harrison, T. M.; Hulen, J. B.; Lanphere, M. A. (1999). “Age and thermal history of the Geysers plutonic complex (felsite unit), Geysers geothermal field, California: a 40Ar/39Ar and U–Pb study”. Earth and Planetary Science Letters 173 (3): 285–298. doi:10.1016/S0012-821X(99)00223-X. 
  5. ^ Ludwig, K. R.; Renne, P. R. (2000). “Geochronology on the Paleoanthropological Time Scale”. Evolutionary Anthropology 9 (2): 101–110. doi:10.1002/(sici)1520-6505(2000)9:2<101::aid-evan4>3.0.co;2-w. http://www3.interscience.wiley.com/journal/72000094/abstract?CRETRY=1&SRETRY=0. 
  6. ^ Renne, P. R., Sharp, W. D., Deino. A. L., Orsi, G., and Civetta, L. 1997. 40Ar/39Ar dating into the historical realm: Calibration against Pliny the Younger. Science, 277, 1279-1280 Archived copy”. 2008年10月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年10月25日閲覧。
  7. ^ Plastino, W.; Kaihola, L.; Bartolomei, P.; Bella, F. (2001). “Cosmic Background Reduction In The Radiocarbon Measurement By Scintillation Spectrometry At The Underground Laboratory Of Gran Sasso”. Radiocarbon 43 (2A): 157–161. doi:10.1017/S0033822200037954. https://digitalcommons.library.arizona.edu/objectviewer?o=http://radiocarbon.library.arizona.edu/volume43/number2A/azu_radiocarbon_v43_n2a_157_161_v.pdf. 
  8. ^ 3. 岩石の残留磁化から探る地球の営み 大陸の移動・大陸分布の変動”. 京都大学. p. 3. 2020年9月25日閲覧。
  9. ^ Hnatyshin, D., and Kravchinsky, V.A., 2014. Paleomagnetic dating: Methods, MATLAB software, example. Tectonophysics, doi: 10.1016/j.tecto.2014.05.013
  10. ^ Brasier, M D; Sukhov, S S (1 April 1998). “The falling amplitude of carbon isotopic oscillations through the Lower to Middle Cambrian: northern Siberia data”. Canadian Journal of Earth Sciences 35 (4): 353–373. doi:10.1139/e97-122. 
  11. ^ Demidov, I.N. (2006). “Identification of marker horizon in bottom sediments of the Onega Periglacial Lake”. Doklady Earth Sciences 407 (1): 213–216. doi:10.1134/S1028334X06020127. 
  12. ^ 累代の上位概念。現時点では先カンブリア時代しか存在しない。
  13. ^ ICS(International Commission on Stratigraphy)では未使用

参考文献[編集]

  • Smart, P.L., and Frances, P.D. (1991), Quaternary dating methods - a user's guide. Quaternary Research Association Technical Guide No.4 ISBN 0-907780-08-3
  • Lowe, J.J., and Walker, M.J.C. (1997), Reconstructing Quaternary Environments (2nd edition). Longman publishing ISBN 0-582-10166-2
  • Mattinson, J. M. (2013), Revolution and evolution: 100 years of U-Pb geochronology. Elements 9, 53-57.
  • Geochronology bibliography Talk:Origins Archive

関連項目[編集]

外部リンク[編集]