国定教科書

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

国定教科書(こくていきょうかしょ)とは、教科書教科用図書の編集・発行などの権限を国家が占有する制度である。又、政府が全国一律に発行・配布する教科書も指す。

採用国[編集]

現在、国定歴史教科書を採用している国はタイマレーシアイランミャンマーロシアトルコキューバリビア北朝鮮などである。

日本では1903年(明治36年)から1945年(昭和20年)にかけて採用されたが、戦後は検定制に移行した。韓国では政権交代によって復活したり廃止されたりしたが、現在は2017年に誕生した文在寅政権によって再び廃されることとなった[1]中国では、1980年代後半まで採用されたが、現在では教科用図書検定制度を導入している[2]

国定教科書の制度はすべての学校における学習者に対して同一教材を配布することなどを目的としているが、教科用図書に関して決定を行う行政機関意志が反映され、それが、教科「社会」、特に歴史教育に現れると極端なナショナリズムの増長に繋がり易いといわれている。その結果、自由歴史研究や議論を封殺し偏った歴史観学習してしまうおそれも可能性も指摘されている。

教科用図書検定制度との関連性[編集]

教科用図書検定の制度が「記述の誤りを正す」立場ではなく「行政機関が児童生徒に配布したい図書に対する記述のあり方を強く示唆する」検定を行うと国定教科書の制度に近づくと考えられる[誰によって?]

日本[編集]

日本において「国定教科書」というと、日本で、かつて文部省が発行し、全国一律で用いられた小学校用の教科書を指している。

戦前の国定教科書制[編集]

1872年義務教育制度が始まった頃は、検定済教科書が用いられていた。しかし、教科書疑獄事件の発生を受けて、国定教科書に改められた。

以下、山住正己著『教科書』(岩波新書)より、教科書制度の変遷を振り返る。

  • 1872年(明治5年) 学制公布。(教科書自由発行・自由採択制)
  • 1880年(使用禁止書目の発表)
  • 1881年(開申制・採択教科書を監督官庁に報告すればよい)
  • 1883年(認可制・採択してよいかどうか、許可を受ける必要あり)
  • 1886年(検定制)
  • 1903年(明治36年)〜1945年(昭和20年)(国定制)

教科書に対する国家統制は、自由民権運動の高揚と、それに対抗するような教育政策の反動化、という形で進行した。「開申制」の次の「認可制」は、時間がかかり授業に差し支えて不便、という声をもとに、「検定制」に切り替えられた。数年後、教科書会社と採択側の教育関係者との間で、贈収賄が行われているとして、30数県157人が検挙されるという大事件(教科書疑獄事件)が発生した。

国はそれを機会に、教科書を「国定制」に切り替えた。

戦後の検定制[編集]

日本国憲法下では、「文部省検定済教科書(現在の文部科学省検定済教科書)」を基本とし、文部省検定済教科書の発行が困難である場合に「文部省著作教科書」が発行されるという状況となった。現在でも一部の教科用図書において「文部科学省著作教科書」があるが、これが国定教科書に該当するかどうかは見解が分かれている。

2013年6月、自民党教育再生実行本部[3]教科書検定の在り方特別部会は、(特に歴史・日本史における)いわゆる「自虐史観」に基づく教育を止めるための「教科書法」(仮称)の制定を盛り込んだ「中間まとめ」を提出した[4]

小学校英語必修化との関連性[編集]

学校教育法施行規則によって、初等教育課程小学校の課程、特別支援学校小学部の課程)において、英語が必須化されたときを踏まえて、日本全国において共通教材を使用することが検討されている。

文部科学省が、全国共通教材英語ノート試作板を公表し、心のノートのような副読本としての扱いになるのかどうかは未定である。公立の小学校・公立の特別支援学校においては、英語ノートを使用することが、文部科学省から都道府県および市町村教育委員会を通じて、強く指導される可能性が高い。

歴史教科書問題[編集]

1982年、日本の新聞が歴史教科書検定を誤報したことから中国が反発し、その結果、日本政府は宮澤喜一内閣官房長官談話を発表し、今後、教科書編纂にあたって、中国や韓国などに配慮する近隣諸国条項を創設した。

韓国における国定教科書[編集]

国定廃止から再国定化[編集]

韓国では初等学校のすべての教科、中学校国語国史道徳及び高等学校国語国史で国定教科書が使用されている。高等学校韓国近現代史については検定済教科用図書が使用されている。

盧武鉉政権が2007年に国定制度の廃止を決定し、2010年度から中学校と高等学校では国定教科書は使用されなくなった。

2008年には、韓国でのこれまでの歴史教科書は民族主義的で左翼的な反政府運動が中心に描かれ、実際の多様な韓国史を反映していない「単純で偏狭な」史観であったと批判して、日本統治時代には抗日独立運動だけでなく、経済発展や近代化など肯定的な面や、また、戦後韓国でも北朝鮮の侵略から国を守った李承晩大統領高度経済成長を実現した朴正煕大統領の時代を高く評価し、韓国の発展の明るい面を記述した「新しい歴史教科書」が登場した[5]。この教科書は李栄薫ソウル大学名誉教授ニューライト[6]による研究組織「教科書フォーラム」が編纂したもので、高校の選択科目「韓国近現代史」で使用される予定のものであったが、実際に使用されるには政府検定が必要である[5]

韓国では、高校選択科目「韓国近現代史」以外に、中学高校向けの国定教科書「国史」があった[5]

しかし、ニューライトと強い繋がり[7]を持つ朴槿恵政権になってから、「北朝鮮に同調するような内容で偏向しているものが多い(韓国教育部」、「歴史を正しく学ばなければ魂が正常でなくなり、文化的にも歴史的にも他国に支配されるかも知れない(朴槿恵大統領、2015年11月の国務会議での発言)[8][9]などの理由から再国定化を目指す動きが起こり、革新派は維新時代へ逆行する歴史教科書国定化であると批判している[10]

その後、2015年10月12日、韓国政府は韓国史の教科書を再び国定化することを発表した。新しい国定教科書は2017年の入学生から使用される予定であった。しかし、実際に採用した学校はほとんどなく[11][12][13]、さらに2017年の政権交代によって誕生した文在寅大統領は、選挙中の公約であった国定教科書廃止、検定制度の復活を指示したため、国定教科書が日の目を見ることはなかった[1]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 諸外国における教科書制度及び教科書事情に関する調査研究報告書(財団法人教科書センター/2000年3月発行)(2007年10月24日時点のアーカイブ)または大沢武彦(国立公文書館アジア歴史資料センター)による解説参照。
  2. ^ 日本国政府教育再生実行会議とは無関係。
  3. ^ “自民教科書部会が首相に提言 教科書法の制定を検討”. 産経ニュース. (2013年6月25日). http://www.sankei.com/politics/news/130625/plt1306250007-n1.html 2015年10月8日閲覧。 
  4. ^ a b c “韓国でも新しい歴史教科書 保守派が左翼史観を批判”. 産経新聞 (産経デジタル). (2008年3月26日). オリジナル2008年4月1日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080401234556/http://sankei.jp.msn.com/world/korea/080326/kor0803261957004-n1.htm 
  5. ^ オム・ジウォン (2015年10月19日). “朴槿恵大統領絶賛「ニューライト教科書」の学者がそろって高位職に”. ハンギョレ. http://japan.hani.co.kr/arti/politics/22260.html 2015年11月19日閲覧。 
  6. ^ 『「ニューライト」本分を見失わず使命を果たせ』朝鮮日報2005年11月8日
  7. ^ キャッチ!インサイト 「揺れる韓国の民主主義」2015年12月10日、NHK
  8. ^ 時論公論 「産経新聞前支局長 判決の波紋」2015年12月19日、NHK
  9. ^ キム・ギョンウク、チョン・ジョンユン (2015年10月8日). “国定教科書を強行する韓国政府…維新時代へ逆行する朴槿恵政権”. ハンギョレ. http://japan.hani.co.kr/arti/politics/22152.html 2015年10月8日閲覧。 
  10. ^ “国定教科書希望する学校、3校にとどまる見込み…事実上「使われない教科書」に”. ハンギョレ. (2017年2月16日). http://japan.hani.co.kr/arti/politics/26534.html 2017年6月20日閲覧。 
  11. ^ “数十億ウォン使って0%、“朴槿恵教科書”の惨憺たる失敗”. ハンギョレ. (2017年2月16日). http://japan.hani.co.kr/arti/politics/26541.html 2017年6月20日閲覧。 
  12. ^ “韓国裁判所、文明高「国定教科書研究学校指定」効力停止決定”. ハンギョレ. (2017年3月17日). http://japan.hani.co.kr/arti/politics/26823.html 2017年6月20日閲覧。 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]