李栄薫

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李栄薫
各種表記
ハングル 이영훈
漢字 李榮薰
発音: イ・ヨンフン
ローマ字 Lee Yong-hoon
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李 栄薫(イ・ヨンフン、1951年9月10日 - )は大韓民国の経済史学者。ソウル大学経済学教授・落星台経済研究所所長。経済史学会会長・韓国古文書学会会長も務めていた。

略歴[編集]

研究内容[編集]

  • 安秉直李大根らと李氏朝鮮時代から現代にかけての韓国の経済史を研究している。特に植民地支配下の朝鮮経済の研究で知られ、「日本による植民地時代に韓国が土地と食糧を収奪されたという韓国史教科書の著述は歪曲されたものだ」という主張を提起し、「私たちが植民地時代について知っている韓国人集団的記憶は多くの場合、作られたもので、教育されたものだ」としている[3]
  • この研究の結果から、日本統治下の朝鮮において、日本資本の主導下で資本主義化が展開し、朝鮮人もこの展開に比較的積極的に適応していき、資本家労働者に一定の成長が見られたと主張している。
  • また、李氏朝鮮時代の朝鮮の経済状況を調査、数量化して追跡した。これによって19世紀に朝鮮は経済停滞に陥っていたことを主張し、李氏朝鮮時代に朝鮮は経済発展を続け、資本主義化の萌芽が見られるに至ったという従来の資本主義萌芽論を批判した。これらの主張から、たびたび韓国では植民地支配を肯定する植民地近代化論者・新チンイルパだと批判されている。
  • 北朝鮮に対して極めて否定的であり、「民主主義市場経済に基づく南の国家と、筆者が見たところ韓国史がかつて経験した国家的農奴制の再来に等しい、国家理性の発達水準が支配階級首都に集住した高麗時代へと後退したようにすら見える、北の国家と一つになるという突飛な国家工学が国民大衆からあれだけ広範囲かつ献身的な支持を引き出していることは、ある有能な政治指導者の巧妙な大衆操作のせいでしかないとは言い切れず、有史以来、韓国人は一つの共同民族体だったという、どうやっても証明できない神話怪力としか説明しようがない[4]。」「自由民主主義に立脚した統一の原則が明確に示されないまま、南北朝鮮のトップが互いに抱き合っている写真を幾度となく見せつけ、あたかも統一の日が迫っているかのように語られています。その統一とは、いったい全体、誰のための統一でしょうか。統一するのであれば、まずは北朝鮮の首領体制が解体される必要があるという批判は教科書にはみえません[5]。」と述べている。
  • 民族問題研究所親日人名辞典編纂委員会が第2回親日人名辞典を発表したのを受けて「日帝時代に文明について学習した人たちや、韓国に現代文明を根付かせた人物たちをすべて否定するものだ。結果的に現代の韓国に生きる自分たちの歴史を否定するという矛盾を内包している」と述べた[6]
  • 「朝鮮後期の土地所有の基本的な構造と農民の経営」という論文で1985年に博士号を取得している[1]
  • 「解放前後史の再認識」の編集に参加し、その内容の概略を「解放前後史の再認識特講」として、2006年6月に韓国教育放送公社ラジオで放送した。2007年、それを3倍の分量に増補してキパラン出版社より『大韓民国の物語 解放前後史の再認識講義』を出版する。同書は2009年文藝春秋社から『大韓民国の物語』として翻訳出版された。
  • 2013年に出版した自由民主主義市場経済韓国憲法秩序を基礎にした正統史観で李承晩などの建国勢力と朴正煕の産業化勢力などを叙述した『대한민국 역사』(大韓民国歴史)において、左派が李承晩や朴正煕など建国・産業化勢力を蔑視し、共産主義金日成北朝鮮政権を美化するイデオロギーを拡散させていることについて反論しながら、成功を収めた韓国の現代史を浮き彫りにさせ、右派の現代史の確立に新たな地平を切り開いたこと評価をして、全国経済人連合会(ko:전국경제인연합회)が主催する市場経済対象著述部門大賞受賞者に選ばれた[7]
  • 2016年2月26日韓国大統領直属国民大統合委員会の「和合と共生フォーラム」委員長に就任[8]
  • 趙廷来の作品『アリラン』について、「商品化された民族主義[9]」の事例として、批判をおこなっている[10]

評価[編集]

日本における評価[編集]

  • 永島広紀は、李は韓国近代経済史研究におけるトップランナーの一人であり、「かつての民族至上主義的な右派とは明確に一線を画する保守論客」と評している[11]
  • 小倉紀蔵は、李は著名な歴史家の一人であり、「真に勇気のある韓国人がここにいる、という感じだ。これまでは歴史について韓国人がどんなに声高に語っていても、つねに『民族』に遠慮している。『民族』をこわがっている。『民族』の代表者になってしまっている。『個人』の意見を堂々と語っていない。そんな印象を受けていたからだ。もっと自由に語ってもいいはずなのに、できなかった。」と評している[12]
  • 三輪宗弘九州大学教授)は、李の著書『大韓民国の物語』は高邁かつ知的レベルが高いとしたうえで、「李栄薫の知性勇気自由な発想に敬意を払いたかった」「韓国の歴史清算の動きに敢然と立ち向かった知性と勇気」「偽りの歴史で過去を清算し、断罪するようなことがまかり通る国には未来はないという、韓国に対する愛国心が満ち溢れています。」「聡明な頭脳」「李栄薫の寸鉄の鋭きを持ち合わせたレーダーは、韓国の病理をスクリーンに鮮やかに映し出してくれます。」「李栄薫の保守主義が本物であると私は思いました。錦の御旗の正義感を謳う研究者とは質が違うのです。」「日本と韓国の歴史認識が共通の基盤に立てる可能性を引き出した、勇気と知性に満ちた本書に出会え、日韓の歴史認識が怨念から事実に基づいた史実の解明につながる日が近づいたと感じました。」「韓国の民族主義を批判するのは李栄薫教授グループの知性にお任せし、いや韓国の良心にゆだね」「素晴らしい歴史家」「江戸時代の天才棋士本因坊秀策の華麗な打ち回し」と称賛している[13]
  • 鈴木琢磨毎日新聞編集委員)は、これほどの実力を持った知識人が日本では知られておらず、ようやくという感じだという。そして、事実を堂々と開陳され「痛快」の極みであり、委縮していた脳みそが伸びるような、凍っていた歴史が春の日差しに融けだすかのような初めての体験であり、とびきりの上等の教養人であり、専門馬鹿ではなく、知的でユーモラス、同胞を愛しながら溺れず、視野が広く、自らの言葉で歴史を語る感覚は、司馬遼太郎と通じる部分があるという。そして、放っておいたら重症になるかもしれない歴史問題という風邪を退治したい純粋な一念、日本にも広がっているその風邪を翻訳という形で往診に来てくれて慶賀にたえないと評している[14]
  • 下川正晴は、「いつも本質的な話をする、勇気のある学者」と評し、李の著書『大韓民国の物語』を「韓国に関心のある日本人は、ぜひ読まれた方が良い」と推薦している。なお、永島広紀が翻訳して文藝春秋が出版したのは、下川が韓国外国語大学客員教授を務めていたときに紹介したという[15]

韓国における評価[編集]

  • 慰安婦について「従軍慰安婦は売春業」「朝鮮総督府が強制的に慰安婦を動員したと、どの学者が主張しているのか」などの挺身隊関連の発言に対し、韓国挺身隊問題対策協議会(常任代表申蕙秀)から教授職辞任を要求された[16]。最終的に元慰安婦に対し、2004年9月にナヌムの家にて韓国式の土下座(地面に額を押し付け屈服の意を表明する)をした上で謝意を伝えつつ「日本に協力した多くの韓国人がおり、植民地解放以降も女性たちの性の搾取が国家により行われてきたため、それを正すことが必要」との自身の見解を述べたが、元慰安婦らに数十分におよび罵倒された[17]

著書・論文[編集]

  • (朝鮮語) 『대안교과서 한국근현대사』(共著、2008年、도서출판 기파랑)
  • 『大韓民国の物語 韓国の「国史」教科書を書き換えよ』(2009 永島広紀 訳 文藝春秋) ISBN 4163703101
  • 「韓国の歴史教科書を書き換えよ」 (『文藝春秋』2009年5月号 2009/4/10)
  • (朝鮮語) 『대한민국 역사』(2013年、도서출판 기파랑) ISBN 9788965239062
  • New Daily に寄稿した論文

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 이영훈(李榮薰, Rhee, Young Hoon) Daum Communications. Kyobo Book Centre
  2. ^ “九州大学韓国研究センター 歴代客員教授”. http://rcks.kyushu-u.ac.jp/?page_id=127 2016年8月26日閲覧。 
  3. ^ “ソウル大教授「日本による収奪論は作られた神話」”. 朝鮮日報 (朝鮮日報JNS). (2004年11月20日). オリジナル2007年7月17日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20070717210016/http://www.chosunonline.com/article/20041120000000 
  4. ^ 李栄薫「民族史から文明史への転換のために」『国史の神話を越えて』95頁、2004年、ヒューマニスト
  5. ^ p55 『大韓民国の物語』 文藝春秋 2009/02 ISBN 4163703101
  6. ^ “「親日派人名辞典」収録4776人のリストを公開”. 朝鮮日報 (朝鮮日報JNS). (2008年4月30日). オリジナル2008年5月2日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20080502152725/http://www.chosunonline.com/article/20080430000011 
  7. ^ “전경련 시장경제대상에 이영훈 서울대 교수”. メディアペン. http://www.mediapen.com/news/view/12293 2016年8月22日閲覧。 
  8. ^ “국민대통합위 '화합·상생 포럼' 출범…위원장에 이영훈 교수”. アジア経済. http://view.asiae.co.kr/news/view.htm?idxno=2016022620005828555 2016年8月22日閲覧。 
  9. ^ 李 2009, p. 86
  10. ^ viewsnews 2007
  11. ^ p344「訳者あとがき」 大韓民国の物語 李榮薫永島広紀文藝春秋 2009/02 ISBN 4163703101
  12. ^ 読売新聞』2009年5月4日文化面
  13. ^ “『李栄薫教授の勇気と知性 : 『大韓民国の物語』を読んで”. 大阪経済大学日本経済史研究所『経済史研究13』. http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/16521/ks_13.pdf 2016年8月27日閲覧。 
  14. ^ “『大韓民国の物語・韓国の「国史」教科書を書き換えよ”. 統一日報. http://news.onekoreanews.net/detail.php?number=48124&thread=10 2016年10月28日閲覧。 
  15. ^ “「戦後70年談話」、韓米日の学者の分析(前)”. データ・マックス. http://www.data-max.co.jp/20151005_ibsm01/ 2016年10月29日閲覧。 
  16. ^ “李栄薫ソウル大教授「従軍慰安婦は売春業」”. 朝鮮日報 (朝鮮日報JNS). (2004年9月3日). オリジナル2007年5月17日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20070517204644/http://www.chosunonline.com/article/20040903000051 
  17. ^ “「慰安婦発言で物議」 李栄薫ソウル大学教授がナヌムの家を謝罪訪問”. 朝鮮日報 (朝鮮日報JNS). (2004年9月6日). オリジナル2007年5月4日時点によるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20070504032129/http://www.chosunonline.com/article/20040906000060 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]