ポジティブ心理学

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ポジティブ心理学(ポジティブしんりがく、英語: positive psychology)とは個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する、近年注目されている心理学の一分野である。ただ精神疾患を治すことよりも、通常の人生をより充実したものにするための研究がなされている。即ち、ポジティブ心理学は、デベロップメント・カウンセリングの一分野である。

現代のポジティブ心理学は、1998年にマーティン・セリグマン教授が、アメリカ心理学会の会長に選ばれた際に、今後取り組む課題としてポジティブ心理学の創設を選んだことによって開始された。マーチン・セリグマン教授は、「ポジティブ心理学の父」と呼ばれている。

歴史的経緯[編集]

マーティン・セリグマン教授は、学習性無力感の研究を通して、1975年にはうつ病の無力感のモデルの理論的な基礎を形成し、その後1990年代には楽観主義に関する著述が増え、学習性無力感と楽観主義は表裏一体の概念であり、新しい概念ではないとしている[1]

ある時セグリマン教授は、それまでの心理学が、病気を治すための努力はしてきたが、「どうすればもっと幸福になれるか」については、あまり研究してこなかったことに気がついたのである。

ポジティブ心理学は、人間性心理学の流れを汲んでおり、エイブラハム・マズローカール・ロジャースエリッヒ・フロムらの考えを実証している側面がある。

研究者[編集]

近年の実証的研究家には、マーティン・セリグマンエド・ディーナーミハイ・チクセントミハイジョナサン・ハイトC・R・シュナイダークリストファー・ピーターソンバーバラ・フレデリクソンドナルド・クリフトンアルバート・バンデューラシェリー・テイラーチャールズ・S・カーバーマイケル・F・スキナーなどが挙げられる。

幸福感に影響を及ぼす要因[編集]

研究によれば、幸福感のかなりの部分は、人間の意思でコントロールできる

ウィキペディア(英語版)によれば、幸福感に影響を及ぼす要因は、以下のようである。

年齢
20歳代や70歳代の人は、中年の人よりも、幸福感がより強い。年をとった人は、若い人よりも、自分の人生に満足している。
お金
貧しい人は、お金により幸福感が増す。しかし、中流に達すると、それ以上お金が増えても、幸福感はあまり変わらない。ある研究によれば、年収が7万5千ドルを超えると、お金が増えても幸福感はほとんど増えない(イースタリンの逆説)。宝くじに当たると、短期的には幸福感が増すが、持続せず、時間が経つと元の幸福感に戻ってしまう。
教育や知性
高度な教育や高い知能指数は、幸福感を増さない。セリグマン教授は、次のように述べている。「好奇心や勉強習慣などの知的な徳は、親切心や感謝の念や愛する能力などの対人的な徳ほどには、幸福感と関係を持っていない」。
育児
研究によれば、子供が生まれると、両親の満足度はむしろ低下する。子供を持つ喜びは、親としての責任により、かすんでしまう。しかし長期的には、子供を持つと、人生に生きる意味が与えられる。
気候
気候は、幸福感には影響を及ぼさない。気候の異なる場所で幸福感を比較しても、差はない。
遺伝
一卵性双生児は、離れて育てられても、幸福感はほとんど同じレベルである。遺伝は、幸福感のレベルを決定する上で、大きな役割を演じる。幸福感の50%は、遺伝によって決定される。幸福の遺伝子5-HTTがある。幸福感の10%は、収入などの客観的要因で決定される。自分の意思で決定できるのは、残り40%ほどの部分である[2]
ストレス
失業や配偶者の死により、幸福度は低下し、元のレベルに回復するまでに5年から8年ほどかかる。
一般的には、女性のほうが男性より幸福感が強い。女性は、夫や子供に恵まれるという人生の目標を、より早い時期に達成する。男性は、家族や経済で繁栄するという人生の目標は、より遅い時期に達成する。
結婚
結婚している人は、独身の人よりも、幸福のレベルが高い。ただし一部には、幸福のレベルは同じだとする研究報告がある。
性格
外向的な性格の人は、内向的な人より幸福感が強い。外交的な性格のほうが、人間関係を作りやすいからだと考えられている。
社会的ネットワーク
幸福は、社会的なネットワークを通じて、人から人へ伝播する。幸福は、友人や同胞や配偶者や隣人などの、親しい人間関係を通じて伝播する。幸福は、ウイルスのように伝染する。同様に、不幸も伝播する。
文化
文化により幸福感は大きく異なる。幸福から不幸までを1から7までの数字で評価してもらうと、中国では平均3.3であるが、ブラジルでは平均6.2である。その国の豊かさと、個人主義か集団主義かが、幸福感に影響を及ぼす。

幸福感を増す利点[編集]

主観的に幸福な人は、そうでない人に比べて、病気が少なく、寿命が長く、収入が多い[3][4][5][6][7]。幸福になれば、人は生産的で、行動的で、健康で、友好的で、創造的になる[8]。そしてその幸福感は、家族や友人に伝播して行く。

幸福感を増すための方法[編集]

以下のようなことを行えば、幸福感が増す。[8][9][10][11]

週に1回、自分の幸福を数える時間を持つこと
不幸にとらわれるのではなく、自分の幸福に目を向ける。1日に1回行うと効果が少なくなるので、週に1回行うと良い。またこれにより、「幸福順応」を避けて、他の人への感謝の念を増やすことができる
他の人に親切にすること
同僚や通りすがりの人に支援の手を差し伸べる。こうした利他的行動を行うと幸福感が増す。
感謝の手紙を書くこと
これにより短期的には幸福感が増すが、あまり長続きしない。
自分の強みが何であるかを知って、それを生かすようにすること
自分の長所に注目する。自分の強みを知るための質問紙が作られている[12]。自分の強みを知るだけでなく、それを日常生活に生かす努力が必要である。
他の人に多くを与えること
人に親切にするとは、人に何かを与えることである。ボランティア活動など、自分の時間を与えることでも良い。情報でもよい。
他の人と一緒にいること
家族や友人と一緒にいる時間の長い人は、そうでない人に比べて幸福感が強い。家族や友人との人間関係を大切にして、長い時間を一緒に過ごして、それを心から楽しむと、幸福感が強くなる。
一日の終わりに、その日の良かったことを3つ書き出すこと
物事の印象は、ピーク時と終了時で決まる。1日の終了時に、その日の良い事に注目する。そして、この良い事はなぜ起きたかを考える。この方法により、持続する幸福感を得ることができる。セリグマン教授が勧める方法である。
他人と自分を比較しないこと
自分の給料に満足していても、知人が自分よりもっと多い給料をもらっていることを知ると、とたんに不幸になってしまう。人は自分が幸福であるほど、まわりの人との比較に関心を払わなくなる。自分が満足できる仕事を持ち、家族や友人と良好な関係にあれば、比較による不幸から逃れることができる[13]
生涯にわたる目標や夢に全力を傾けること
人生の目標を追い求めることで、多くの満足感や喜びが得られる。「フロー」状態の時間が長いと、幸福感が増す。「フロー」状態が得られる活動を選んで取り組む[8]

ポジティブ心理学の用語[編集]

レジリエンス
回復力。再起力。逆境に直面しても力強く成長できる資質[14]
フロー
何かに没頭した状態。現在のことに心から熱中している状態。自分が「流れていく」状態[8]
幸福順応
幸福な状態になっても、その状態に慣れてしまって、次第に幸福を感じなくなること
ピーク・エンドの法則
物事の印象は、ピーク時と終了時によって決まるという理論。ノーベル賞心理学者カーネマンによる。

参考文献[編集]

  1. ^ クリストファー・ピーターソン、スティーブン・F・マイヤー、M.E.P.セリグマン 『学習性無力感-パーソナル・コントロールの時代をひらく理論』 二瓶社、2000年、202-203、328。ISBN 4-931199-69-0Learned Helplessness: A Theory for the Age of Personal Control
  2. ^ Time The New Science of Happiness
  3. ^ ポジティブ心理学入門 宇野カオリ
  4. ^ 坪田一男 慶應ヘルスサイエンスニューズレター Vol.1
  5. ^ Happy People Live Longer 幸福な人は長生きする
  6. ^ USA-TODAY Happy? You may live 35% longer, tracking study suggests 幸福ですって? 追跡調査によれば、あなたは35%も長く生きるはずです。
  7. ^ Why bother to improve happiness? Centre for Confidence and Well-being なぜ幸福度を高めるために気を使わなければならないか
  8. ^ a b c d ISBN 4534049250 『幸せがずっと続く12の行動習慣』 リュボミアスキー
  9. ^ ISBN 4757210442 『世界でひとつだけの幸せ』 セリグマン
  10. ^ Happiness fact sheet
  11. ^ Centre for Confidence
  12. ^ Authentic Happiness ペンシルバニア大学のセリグマン教授のホームページ内(日本語あり)
  13. ^ ISBN 4166608517 『ごきげんな人は10年長生きできる』 p72
  14. ^ ISBN 4393365208 『ポジティブ心理学入門』 p239

外部リンク[編集]

解説
学会など