ウェルビーイング

ウェルビーイング(英: Well-being、英: wellbeing、英: wellness、ウェルネス)とは、個人またはグループの状態(コンディション)を指す概念である。つまり、あるウェルビーイングが高レベルの時、その状態(コンディション)は良好であることを意味するようになる。あえてここで変な英語を変な日本語に訳すとウェルビーイングは「良好性」や「良好性状態」(ただし良好であるとは限らず)となる。
用語[編集]
ウェルビーイングは医療や看護、健康分野で頻出する単語でありながら、その特殊な由来もあり、一言で日本語に翻訳するのは難しいため、公式文書などでもしばしば単に「幸福」「福利」「安寧」などと訳されてしまい、本来の意味がなかなか正しく伝わらない。
定義[編集]
Huseyin Naci, PhD と John P. A. Ioannidis, MD, DSc による定義[1]:
直訳:
Wellness refers to diverse and interconnected dimensions of physical, mental, and social well-being that extend beyond the traditional definition of health. It includes choices and activities aimed at achieving physical vitality, mental alacrity, social satisfaction, a sense of accomplishment, and personal fulfillment.[2][3][4]
背景[編集]
元々は、1948年にWHO(世界保健機関)が出した憲章において、
直訳:
「健康とは、身体面、精神面、社会面における、すべての well-being(良好-性)の状況を指し、単に病気・病弱でない事とは意味しない」
“Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.”[5]
という文があり、"well-being"というのが「変な英語表現」でもあったため、そこから逆にインスパイアされ、欧米においてウェルビーイングやウェルネスという言葉が「身体だけではなく、精神面・社会面も含めた新たな"健康"」を意味する単語として使われるようになり、その後の健康ブームにも乗って広まっていった[5]。
意味[編集]
(1)新しい「健康」の概念[編集]
ウェルビーイングは、上記WHOの定義した「身体だけではなく、精神面、社会面も含めた(新しい・本当の意味での)健康」自体を意味する場合がある。通常のヘルス(健康)の代わりにウェルビーイングを使う文脈では、この「(WHOが定義した)健康」をあえて指していることが多い。そして、その「健康」の向上に向けて「実践すること」までを含めたものが「ウェルネス」、と前述の定義に書かれている。
(2)「身体的、精神的、社会的に良好な状態」[編集]
元のWHOの文では、「健康とは、身体面・精神面・社会面、全部におけるウェルビーイングの状況(state)である」と書いてあるだけで、その状況が良いものとも悪いものとも実際には書いていない。しかしながら、ウェルビーイングの字面のwellから「良好」として捉えられ、beingも「であること」とも意味するため、単語で切り取って、一般には下記のような意味で通用している。
「ウェルビーイング」(well-being)とは、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」と翻訳されることも多い言葉です。1946年の世界保健機関(WHO)憲章の草案の中で、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあることをいいます(日本WHO協会:訳)」と用いられています。[6]
これも、元が「変な英語表現」であるため、ウェルビーイング=「(身体的、精神的、社会的に)良好な状態にあること」というのが、必ずしも誤用とも言えないところもあるのである。二重に掛けている上手い表現というか、転じてこの意味になった、ともいえる。
(3)「良好性」[編集]
しかしながら、本来WHOの文で厳密に言えば、身体の「体調」ならぬ精神の「"精神調"」や友人関係の「"友関係調"」、懐具合の「"懐調"」と言ったぐあいに色々なウェルビーイング(良好性)というものが存在するのだ、という事を表している。これが前述の定義に出てくる、ウェルビーイングの多様な側面=色々な種類のウェルビーイング(良好性)という事である。病気で言えば、色々な「症状」があって、それぞれ程度も違う。健康には、色々な「ウェルビーイング(良好性)」があって、それぞれ程度も違う、という事である。
よって、「社会的なウェルビーイング(良好性)が低い」、というような表現も使われる。別のページでは、人生の「充実度」といった表現で使用されていたのも興味深い。
残念な意味[編集]
単なる「幸福」「福利」「安寧」と言った翻訳は、ウェルビーイングという言葉を敢えて選択した原文の筆者の意図を正確に伝えきれておらず、残念な例である。かと言って、カタカナで「ウェルビーイング」と書いてもすべての人に伝わるとも限らず、特に紙の書面にする場合は(クリックしてこのページへ飛ばすわけにも、その場で検索できるとも限らないので)仕方がない場合もある。
用例[編集]
2017年に更新された「ジュネーブ宣言」で、
患者の健康とウェルビーイングを第一に考慮するものとする
THE HEALTH AND WELL-BEING OF MY PATIENT will be my first consideration;
とする文が追加された。
ウエルネス(代替医療)[編集]
このウエルネスとは、「医学的なウェルネス(健康)」とも、ここで言う「心理学等の科学的研究分野でもあり、特定分野で一般に使うウェルネス・ウェルビーイング」とも違う、「疑似科学的なウエルネス (代替医療)」といわれるもの。
1970年代のアメリカのカリフォルニアにおいて、当時のヒッピー文化の影響を受けた「自然派」的な健康ムーブメントによりウェルネスが「再発見」され、John Travis氏などを中心に昌道者がおり、フォロワーも居る[5]。しかしながら、この文脈における「ウエルネス」は「代替医療」と言われる分野であり、疑似科学的と批判されもしている形態である。Wellness (alternative medicine) - 英語版ウィキペディア。日本語版のページはこちら「ウエルネス」。
こちらは、医学・健康科学的な「ウェルネス(健康)」とも、(本来の)「ウェルネス・ウェルビーイング」とも異なるので、注意が必要となる。
獲得するには [編集]
2014年に国民保健サービス(NHS)は、精神的ウェルビーイングの獲得する方法として、以下5つを推奨している[7]。
- 地域や家族とつながりを持つこと。
- 身体的運動を行うこと。自分が楽しめ生活の一部になるようなもので。
- スキルを得ようと学ぶこと。料理、楽器、自転車修理などからでよい。
- 他の者に与えること。言葉や笑顔のような小さなものからでよい。
- 今この瞬間に注目すること(マインドフルネス)。
関連項目[編集]
- 人生の満足
- 生活の質(QOL)
- 主観的幸福
- ウェルネス≒≠ヘルス
出典[編集]
- ^ Naci, Huseyin; Ioannidis, John P. A. (2015-07-14). “Evaluation of Wellness Determinants and Interventions by Citizen Scientists”. JAMA 314 (2): 121–122. doi:10.1001/jama.2015.6160. ISSN 1538-3598. PMID 26068643 .
- ^ a b Huseyin Naci; John P. A. Ioannidis (June 11, 2015). “Evaluation of Wellness Determinants and Interventions by Citizen Scientists”. JAMA 314 (2): 121–2. doi:10.1001/jama.2015.6160. PMID 26068643.
- ^ a b Scott Barry Kaufman sees well-being as influenced by happiness and meaning.
- ^ a b Kaufman, Scott Barry. “The Differences between Happiness and Meaning in Life” (英語). Scientific American Blog Network. 2019年5月28日閲覧。
- ^ a b c Zimmer, Ben (2010年4月16日). “Wellness” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331 2019年5月28日閲覧。
- ^ “「ウェルビーイング」とは? - 『日本の人事部』” (日本語). jinjibu.jp. 2019年5月28日閲覧。
- ^ “Five steps to mental wellbeing”. 国民保健サービス. 2018年11月20日閲覧。