断食

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断食(だんじき、英語fasting)とは、自由意志によって、一定の期間中、全ての摂食あるいは特定の食物以外の摂食を断つ、人間行為を言う。

類似の語として絶食(ぜっしょく)があるが、自由意志によって行われる人間に独特の行為である断食に対して、絶食は、第1義に、動物ヒトを含む)が外部環境によって強いられる摂食不能の状況[1]、あるいは、習性によって行われる摂食断ちという生態的行為[2]である。また、後者は第2義には、苛烈な行為として人間や比較的高度な知能を有する動物[3]が行う意図的な摂食絶ちであり、そのような絶食はそのままでは餓死という形での自死に至る。さらには、処罰私刑体罰の一環として他者が強いる絶食もあり、この場合、強いられた者は栄養失調や餓死に至る。もっとも、絶食には断食の一種としての別義もあり、これについては本項にて後述する。

概要[編集]

断食では食事は断つもののだけは飲む場合もある。食料を摂らないことを絶食(ぜっしょく)または不食(ふしょく)とも言う。 以下のように、様々なことを目的とした断食がある。

一定期間(一般に48時間から72時間[要出典])食糧の供給を停止すると、体は体内に蓄積していた栄養を消費する。この栄養が続く範囲なら、食事を摂取しなくても生命を維持できる。

断食(絶食)の物理的な効果[編集]

食べ物を摂らない場合、人間の体はエネルギーを取得する方法を探すようにできている。グリコーゲン脂肪に蓄えられた脂肪酸、さらには蛋白質の組織からブドウ糖を引き出す。

体や脳、神経組織は新陳代謝のためにブドウ糖が必要である。まず一日二日断食すると、筋肉からグルコースが生成されるようになる。さらに断食を続けると代謝が変わり、脂肪から脂肪酸をつくりそれがエネルギー源となる。筋肉や心臓、肝臓は脂肪酸を直接エネルギー源とすることができる。このことで筋肉の減少ペースが落ちる。しかし脳は脂肪酸を栄養とすることができないので、断食して三日ほどたつと肝臓において脂肪酸などを分解してケトン体アセトン他)が生成されるようになる。それによって脳やその他の臓器はグルコースではなくケトン体を主要なエネルギー源とするようになる。

当然だが、脂肪や蛋白質を分解しつくせば死に至る。運動状態や外的状態にも大きく変化するが、適温状態で安静にして水分を適切に摂取した場合、餓死するには一ヶ月以上要する。ただし、水分、塩分の補給のない場合、筋肉が痙攣を起こし易く、心臓など循環系臓器にそれを起こした場合は、この限りではない。つまり、水分、塩分の補給さえあれば、平均体重の者の場合、理論的に一ヶ月は断食を行うことができる。仮に、体重70kg、体脂肪率20%とし、脂肪カロリーを9kcal/g、低下した基礎代謝を1200kcal/日とすると、70 kg x 0.2(体脂肪率)x 9 kcal/g / 1200 kcal/日 = 105日、となり3ヶ月半ほど生存することができる。

起き得るデメリット[編集]

  • エネルギーの供給を絶つことにより、エネルギー不足と身体が判断し、身体の組織が破壊される。脂肪だけでなく筋肉、骨、毛髪なども、その対象になる。実際、上記のいずれの宗教的断食もそれが元で死に至ることはほとんどない。
  • 断食をすることでエネルギー不足になり、身体がエネルギーをため込もうとする。その結果、リバウンドがおきる(#断食(絶食)ダイエット参照)。
  • 3食をバランスよく食べたほうが、身体によいとの意見は近代栄養学に多い。

医療手段としての断食(絶食)[編集]

断食は多くの現代病に効果があるという主張がある。その論拠としては、人間の体は、消化吸収することがない状態に入ると、自然に体にたまった毒素を排泄する作用、デトックス効果があるということである。例として、カネミ油症事件における油症患者のダイオキシン類の排泄量が増え、症状が軽減することが観察されている[7]

他に全身麻酔下における外科手術の準備として絶食を行う。挿管による強制換気で胃内容物を嘔吐する危険があるため、原則として手術の数時間前から患者は飲食を禁じられる。大腸癌の手術等、腸管を切除・切開する手術においては腸管内容物が無いのが望ましいため、事前に下剤の投与及び絶食を行うことが多い。 また健康診断の際に食事によって指標が変わらないようにするために絶食を求められる。


食後7時間程度で発生する空腹期強収縮、および断食明けの食事を摂取したことに伴う胃・大腸反射により、便通に改善がみられる。 なお、断食をするとある時点で宿便(腸のひだに溜まった便)が排泄されるという話があるが、現在では科学的根拠がなく、内視鏡でも確認されていない。


宗教的な断食[編集]

宗教行為など精神的な理由から断食を行うことがある。宗教的な断食、精神的な理由の断食は紀元前から人間の習慣として存在する。『新約聖書』、『旧約聖書』、『マハーバーラタ』、『ウパニシャッド』、『クルアーン』でも言及されている。

イスラム教ラマダーン月における断食(日の出から日没までの半日は一切の飲食をしない)が特に有名である。また、ユダヤ教キリスト教にも定期的な断食がある。仏教では、煩悩を克服・滅却するために断食を行うことがある。

宗教的探求の手法のひとつとして行われる場合がある。数日の断食においても、意識がすっきりして来たり、五感が敏感になったりするなどの覚醒効果があるとされる。空腹による幻覚の効果と考えられている。

バハーイー教[編集]

バハーイー教では、バハーイー暦の高尚の月(3月2日から3月20日)の間、日の出から日没までの間行われる。断食の間は完全に食物と飲み物を断ち、喫煙も禁止されている。断食は祈りの義務と共に最も重要な義務の1つであり、15歳以上の者は断食をしなければいけない。

仏教[編集]

上座部仏教[編集]

上座部仏教の僧侶は律(vinaya)に従い、正午の食事以降は物を食べない。これは断食とは考えられておらず、むしろ瞑想を補助する修行の手段である。仏教において断食は苦行であり、中道から逸脱したものとして拒絶されると一般的に考えられている。

大乗仏教[編集]

大乗仏教の僧侶は経典上は食事に関して制限されていないが、慈愛の心を育む必要から肉食を避けている。その結果として精進料理のように肉を含まない料理が生み出された。

天台宗[編集]

比叡山延暦寺で行われる修行の一つ、千日回峰行においては、堂入りと呼ばれる荒行が行われる。足かけ九日間にわたって断食・断水・断眠の中、真言を唱え続ける。命をも落としかねない荒行であり、生還しても平均して15kgは体重が落ちるという。

肉食について[編集]

なお、仏教では肉食(にくじき)を制戒していると一般的にいわれる。しかし、釈迦が最後に純陀によって供養されたスーカラマッタヴァという料理が一説には豚肉料理であったともいわれることや、釈迦在世の初期仏教で、提婆達多の分派をめぐる問題から知られるように、釈迦は肉食禁止そのものは賛成しなかった。したがって上座部の仏教徒においては「柔らかい豚肉」とする事に抵抗を感じなかったといわれる。したがって完全な肉食禁止はない。

キリスト教[編集]

キリスト教では、いくつかの宗派や教会において断食が行われている。一方、他の宗派では外部の習慣であるとして行われていない。

『聖書』における断食の記述[編集]

  • モーセは神の山にいる40日間断食をした。(「出エジプト記」34章28)
  • ダビデは家臣ウリヤの妻バト・シェバとの間にできた息子が、姦通とウリヤを殺害した罰として神によって病気にされたとき、断食をした。それにも拘らず、息子が死ぬと断食をやめた。(「サムエル記」12章15-25)
  • イエスは40日間荒野で断食した。(四旬節参照)

カリスマ系教会[編集]

カリスマ系教会において断食はより神に近づく探求のために実行される。週に1日か2日、定期的に実行される。ジョン・ウェスレーチャールズ・ウェスレージョージ・ホワイトフィールドが始めた、初期のメソジストのようなホーリネス運動では健康法の一種として定期的な断食を行った。

正教会[編集]

正教会では、大斎をはじめとして年に4回の断食(斎)の期間があり、暦の中で重要な位置づけにある。断食の期間は動物や魚の製品、オリーブ油(または全ての油)、ワイン蒸留酒を断つ。一方でタコ貝類などは禁止されていないため、正教徒が多い地中海地域ではこれらを使った料理が発達している。

断食は耐えるものではなく、自分の不節制を認識し、他人へ施すことで神により近づくための経験である。断食によって節約したお金は地域のチャリティーや直接貧しいものへ与えられる。多くの教徒にとって祈りと施しの無い断食は役に立たない、あるいは有害であると考えられている。

末日聖徒イエス・キリスト教会[編集]

末日聖徒イエス・キリスト教会(通称はモルモン教)では断食の間は食物と飲物を完全に断つ。通常は月の初めの日曜日が断食の日に設定されており、2食を断つことが推奨されている。多くの信者は前日の土曜日の夕食から断食を開始する。断食によって節約されたお金は困っている人を助けるための断食献金として教会に寄付される。

プロテスタント教会[編集]

プロテスタント教会では、宗教改革の際に断食は外部の習慣であり個人の救済は決して得られないと批判した。

一方でアングリカン・コミュニオンと統一メソジスト教会のようないくつかのアメリカのプロテスタント宗派は2回の悔悟の季節、四旬節降臨節の一部として断食することを奨励している。

ローマ・カトリック教会[編集]

ローマ・カトリック教会の断食は、1日の食事を十分な量(動物の肉を含む場合もある)を1回と少量を2回(朝食と夕食)にする。食事の間で固形物を食べるのは許されていない。また、小斎の期間は動物の肉を食べない。

ヒンドゥー教[編集]

ヒンドゥー教において、断食は欠くことのできない重要な要素である。個人個人の考えと地方の慣習に基づき、異なる種類の断食がある。

  • エカダシ(14日間周期の月相の11日目)またはプルニマ(満月の日)のような特定の日に断食を行う。
  • 個人の信念や信仰している神によって1週間の特定の日に断食を行う。

断食の方法はばらつきが大きい。厳密なものは前日の日没から翌日の日の出の48分後まで食物と水を断つ。それ以外に1日に1食に制限する、ある種類の食物を食べない、ある種類の食物のみを食べる等の方法がある。どの場合でも、断食期間中はヴェジタリアンでない者も含めて動物の製品(肉、卵を含む)を食べたり、触れたりしてはいけない。

イスラム教[編集]

イスラム教ではラマダーンの月の間、日の出から日没まで断食が行われる。断食中は食べること、飲むこと、喫煙、性交が禁止される。ラマダーンはイスラム暦の月の1つで、断食はイスラム教の信仰で最も重要な活動の1つである。

断食によってアッラーフ(神)が命じたこと行い、逆に禁止された全てから遠ざけることでタクワ(神を意識すること)を増やす。断食を行うムスリムは多くの罪から助けられ、ジャハナム(地獄)から守られる。

イスラム教の断食は単に食べ物と飲み物を断つだけではないと考えている。断食は嘘をつく、騙す、下品な話、口論、喧嘩、淫らな思考をしないことも意味する。つまり、断食中は良い振る舞いをすることになる。また、断食によって貧乏で空腹な兄弟が感じるものを感じることで連帯感を生む。その上、ラマダーンの月は寄付を行い、日没後に食事を共にする。

ラマダーン以外にも自発的な断食がある。

ジャイナ教[編集]

ジャイナ教では様々な断食の形がある。1つの形式は翌日の夜明けまで食べ物と飲み物を断つ。別の形式では食べ物を断ち、沸騰している水は飲んでもよい。そのほかに、食べ物の種類を制限する形式もある。スパイスとして塩とコショウのみを用いて、レンズマメと味気ない食べ物だけを食べる。

ジャイナ教の教えによれば、断食によって欲望と情欲を抑えることでを取り除く助けになる。

また断食により自発的に死に至るサンサーラという儀式がある。ジャイナ教において、サンサーラは自殺ではなく完全に知識と意図を持って行う儀式である。サンサーラの性質上、長い時間をかけて人生を振り返る時間が与えられる。自分の人生が目的を果たしたと感じた場合、誓いを立てる。サンサーラの最終的な目的は肉体の浄化と欲望を捨てることである。

ユダヤ教[編集]

ユダヤ教の断食は食べ物と水などの飲み物を完全に断つ。食べ物の匂いをかいだり、薬を飲んだり、歯を磨くことさえも禁止されている。年に6回(ヨム・キプルティシュアー・ベ=アーブゲダリヤの断食テベトの10日タンムズの17日エステルの断食)の断食を行う。

安息にすることが聖書により定められているため、ヨム・キプル以外の安息日に断食を行うことは禁止されている。

ヨム・キプルはトーラーで明確に決まっている[要出典]唯一の断食の日である。ヨム・キプルは1年で最も大事な日とされている。バル・ミツワーになった男性あるいはバト・ミツワーになった女性は断食を義務として行う。ラビから許された命にかかわる重い病や出産直後の女性だけは断食を免除される。ヨム・キプルは安息日と同じように仕事を行ってはいけないという制限がある。家の外に物を運ぶ、電気を使う、料理をする、車に乗る、電話を使う、書き物をすることは禁じられている。

さらにティシュアー・ベ=アーブにも断食が行われる。ヨム・キプルとティシュアー・ベ=アーブでは男女ともに日没から次の日没まで丸一日断食が行われる。それ以外の4回の断食では日の出から日没まで断食が行われ、男性は必ず断食しなければいけないが女性は病気や弱っていて断食が困難であればラビによって免除される。

シク教[編集]

シク教では医療的な理由による断食を除き、断食を推進していない。シク教の教祖は、断食は個人に対して精神的な利益にならないとしている。シク教の教典であるグル・グラント・サーヒブでも断食や日々の儀式、自己規律は報われないとされている。そのため、多くのシク教徒はいかなる種類の断食も行ったことが無い。

抗議手段としての断食[編集]

断食を扱った作品[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 例えば、ホッキョクグマは、流氷が消えてアザラシ狩りが行えない夏季の間、ほぼ絶食状態で過ごす。ヒトであれば、飢饉による絶食が典型例である。
  2. ^ 例えば、子育て中のヒグマの母親は、冬ごもりの期間中は絶食状態にある。
  3. ^ 類人猿ハクジラ類、一部の鳥類など。
  4. ^ 甲田光雄『奇跡が起こる半日断食』マキノ出版(ビタミン文庫) 、2001、ISBN 4837611567
  5. ^ 渡辺正『朝食抜き!ときどき断食!』 講談社プラスアルファ新書、2003、ISBN 4062722313
  6. ^ 石原結實『「半断食」健康法』講談社、2004、ISBN 4062722828
  7. ^ 小栗一太、赤峰昭文、古江増隆 『油症研究 30年の歩み九州大学出版会、2000年6月。ISBN 4-87378-642-8。298-302頁。

関連項目[編集]