ジュネーブ宣言

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ジュネーブ宣言(ジュネーブせんげん)とは、1948年9月の第2回世界医師会総会で規定された医の倫理に関する規定であり、ヒポクラテスの誓いの倫理的精神を現代化・公式化したものである。1968年、1984年、1994年、2005年、2006年の改定を経て、現在の2017年版[1]に至る。

2017年版のジュネーブ宣言の主だった変更は、「Patient autonomy」つまり医療倫理の基本原則の一つである患者の自主尊重原則自己決定権といった患者の権利が登場し、患者を客体から主体に改めて患者中心としたスタンス・方針への重点転換である。また、時代に合わせウェルビーイングといった新しい言葉も現れた。

最新2017年版のジュネーブ宣言全文[編集]

以下に、2017年版を世界医師会(WMA)のサイトより引用する(日本語は直訳し、追記した)。

医師の誓い

The Physician’s Pledge

いち医療専門職として、

AS A MEMBER OF THE MEDICAL PROFESSION:

  • 人類への奉仕に自らの人生を捧げることを厳粛に誓う

I SOLEMNLY PLEDGE to dedicate my life to the service of humanity;

THE HEALTH AND WELL-BEING OF MY PATIENT will be my first consideration;

I WILL RESPECT the autonomy and dignity of my patient;

  • 人間の命に対し最大限の尊敬を維持する

I WILL MAINTAIN the utmost respect for human life;

  • 年齢、疾患または障碍、信条、民族、ジェンダー、国籍、政治的志向、人種、性的志向、社会的地位あるいはその他いかなる要因も、己の責務と患者との間に介入させない

I WILL NOT PERMIT considerations of age, disease or disability, creed, ethnic origin, gender, nationality, political affiliation, race, sexual orientation, social standing or any other factor to intervene between my duty and my patient;

  • 信頼の上で知り得た患者の秘密は、患者の死後においても尊重する

I WILL RESPECT the secrets that are confided in me, even after the patient has died;

  • 良き医学慣行に従い、良心と尊厳をもって専門職を実践する

I WILL PRACTISE my profession with conscience and dignity and in accordance with good medical practice;

  • 医療専門職としての名誉と高貴な伝統を育む

I WILL FOSTER the honour and noble traditions of the medical profession;

  • 教師、同僚ならびに生徒たちに、しかるべき尊敬と感謝の念を捧げる

I WILL GIVE to my teachers, colleagues, and students the respect and gratitude that is their due;

  • 患者の利益と医療の進歩のため、医学的知識を分かち合う

I WILL SHARE my medical knowledge for the benefit of the patient and the advancement of healthcare;

  • 最高水準のケアを提供するため、自身の健康、ウェルビーイング、およびその能力に注意を払うものとする

I WILL ATTEND TO my own health, well-being, and abilities in order to provide care of the highest standard;

  • たとえ脅迫の下であろうとも、人権と自由権を侵害するために私の医学的知識を用いない

I WILL NOT USE my medical knowledge to violate human rights and civil liberties, even under threat;

  • ここに自由意思のもと名誉にかけて、厳粛に以上のことを誓約する

I MAKE THESE PROMISES solemnly, freely, and upon my honour.

— 2017 WMA Declaration of Geneva [1]

2006年版のジュネーブ宣言全文[編集]

2006年版のジュネーブ宣言の主だった内容は、

  1. 全生涯を人道のために捧げる
  2. 人道的立場にのっとり、医を実践する。(道徳的・良識的配慮)
  3. 人命を最大限に尊重する。(人命の尊重)
  4. 患者の健康を第一に考慮する。
  5. 患者の秘密を厳守する。(守秘義務)
  6. 患者に対して差別・偏見をしない。(患者の非差別)

といったことが定められている。初版にあった受胎後の生命の尊重に冠する記載は、現在の版では削除されている。まだ、ターミナルケアなどの概念ができる前の規定なのでQOLといった概念は登場していない。多くの国で国家資格である医師の届出義務をみるとこういった考え方が生かされていることがうかがえる。例えば、麻薬中毒の患者が来たとしても医師にそれを警察に届出する義務は全くない。麻薬を手にしている犯罪者であっても治療を行うという姿勢のあらわれである。

以下に、2006年5月、ディボンヌ・レ・バンにおける第173回理事会で編集上修正された版[2]の直訳を示す。

医療専門職の一員としての任を得るにあたり、

  • 私は、人類への貢献に自らの人生を捧げることを厳粛に誓う。
  • 私は、私の恩師たちへ、彼らが当然受けるべき尊敬と感謝の念を捧げる。
  • 私は、良心と尊厳とをもって、自らの職務を実践する。
  • 私の患者の健康を、私の第一の関心事項とする。
  • 私は、たとえ患者が亡くなった後であろうと、信頼され打ち明けられた秘密を尊重する。
  • 私は、全身全霊をかけて、医療専門職の名誉と高貴なる伝統を堅持する。
  • 私の同僚たちを、私の兄弟姉妹とする。
  • 私は、年齢、疾患や障害、信条、民族的起源、性別、国籍、所属政治団体、人種、性的指向、社会的地位、その他いかなる他の要因の斟酌であっても、私の職務と私の患者との間に干渉することを許さない。
  • 私は、人命を最大限尊重し続ける。
  • 私は、たとえ脅迫の下であっても、人権や市民の自由を侵害するために私の医学的知識を使用しない。
  • 私は、自由意思のもと私の名誉をかけて、厳粛にこれらのことを誓約する。
— 2006年版のジュネーブ宣言

注釈[編集]

  1. ^ Autonomyの訳語について

日本においては、「Autonomy(オートノミー)」の訳語として「自律性」が用いられ「自律性尊重原則」などとなっている場合がある。しかしながら、医療倫理のページ文中の定義でも触れられているように、自律はこの文脈では誤りであり、「自分を律する」または「自律性を育てる」の「自律性」は誤訳である。欺瞞ともいえる。調べた所、中国語圏では「自主原則」と訳している。詳細は「オートノミー」のページにある通り。原語の由来は「自ら治む"autos" (self=己で) and "nomos (rule=統治・支配)」であり、単語の定義的には「Autonomy is the capacity of a rational individual to make an informed, un-coerced decision; or, in politics, self-government」つまり、「合理的な個人として、よく情報を与えられた上でなおかつ他から影響されない自由な意思決定をすることが可能なキャパシティー(能力を与えられている状態=権利)。政治においては自治」

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b WMA - The World Medical Association-WMA Declaration of Geneva” (英語). 2019年5月28日閲覧。
  2. ^ WMA - Policy(2006年6月20日時点のアーカイブ

関連項目[編集]

外部リンク[編集]