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フクイベナートル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フクイベナートル
生息年代: 中生代前期白亜紀,
127.0–115.0 Ma
全身骨格復元ディスプレイ(福井県立恐竜博物館
地質時代
約1億2700万年前 - 約1億1500万年前 [注 1]
バレミアン - アプチアン [1]
中生代白亜紀前期(前期白亜紀
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
下目 : テタヌラ下目 Tetanurae
階級なし : マニラプトル形類 Maniraptoriformes
階級なし : コエルロサウルス類 Coelurosauria
マニラプトル類 Maniraptora
上科 : テリジノサウルス上科

Therizinosauroidea

: (未定のクレード)
: フクイベナートル属 Fukuivenator
学名
Fukuivenator
Azuma et al.2016[1]
和名
フクイベナートル

フクイベナートル / フクイヴェナートル / フクイベナトル / フクイヴェナトル[3]学名Fukuivenator)は、約1億2700万年前から約1億1500万年前にかけて(中生代白亜紀前期〈前期白亜紀〉の半ばにあたる、バレミアン期からアプチアン期にかけて)の時代に、アジア大陸の中緯度・東岸部[注 2]の東岸部に棲息していた肉食恐竜。歯の特徴から雑食の可能性も指摘されている。獣脚亜目コエルロサウルス類マニラプトル形類に分類され[1]、長らくドロマエオサウルス科と思われてきたが、2022年には、ほぼ同時期の遼寧省の地層から発見されたベイピャオサウルスファルカリウスなどとの類縁性からテリジノサウルス上科との近縁性が日本古生物学会例会にて指摘された[4]。このグループでは最初期の系統と思われる。paradoxus の1(パラドクスス種 / パラドクサス種[3])のみが知られている。

化石日本福井県勝山市北谷町にある北谷層にて福井県立恐竜博物館2007年(平成19年)夏(7月19日-8月31日)に行った第3次恐竜化石発掘調査[5][6][7]で、8月21日に発見された。2016年(平成28年)2月23日記載[8]。体化石をもとに正式に記載された恐竜としては日本国内で7例目となる[8]

名称

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原始的なテリジノサウルス上科として復元されたフクイベナートル
古いフクイベナートルのマウント

学名を日本語に意訳するなら「逆説の福井の狩人」といったところである[8]

属名の構成要素である "Fukui" は、化石が福井県から産出したことにちなむ。"venator" はラテン語で「狩人」を意味し、獣脚類であることにちなむ。

種小名のほうは、分類学的に混乱させるような形質や発見経緯などをもった種に対して種小名として当てられることが多い慣用的用語である。そのままラテン語の "paradoxus" から来ており、「パラドックスの」「逆説の」という語意をもつ。マニラプトル形類としては原始型と進化派の相反する特徴が本種に混在している、その意外性からこの語が選ばれている。

科学的知見

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化石の産地と産状

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本種のホロタイプ(正基準標本)である FPDM-V8461 は[1]、福井県勝山市北谷町にある発掘現場から発見された。化石が産出した地層は手取層群赤岩亜層群北谷層英語版に属し[1]、露頭の時代は白亜紀前期のバレミアンからアプチアンとされている[1]。この地層からは、放射性同位体年代測定で約1億2700万年から約1億1500万年前の年代が得られている[1]。模式標本は部分的な骨格と頭骨からなる。骨格は日本から発見された恐竜化石の中では最も保存状態が良い[9]。化石は160個もの骨と骨の断片からなり、関節が繋がった状態では発見されなかった[1]。これらの化石はすべて50センチメートル四方の狭い範囲から発見された[1]

形質

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ホロタイプ FPDM-V8461 / 頭蓋骨化石の一部。

全長は約 245 cm[1]、体重は約 25 kgと推定される[1]。顕著な特徴としては、へら状の歯が前上顎骨に生えていること、上顎骨鋸歯の発達しない鋭く曲がった歯が生えていること、頸椎骨が伸長してくび)が長くなっていることが挙げられる[1]。さらに、フクイベナートルの骨学的特徴として、マニラプトル形類の中の原始的特徴と進歩的特徴が混在していることが挙げられる[1]分岐分類学的解析では、フクイベナートルはマニラプトル形類の基底に近いメンバーであるとされた[1]。正確な分岐関係は不明ながらも、基底に近い他のマニラプトル形類―オルニトレステスコンプソグナトゥス科オルニトミモサウルス類―と近縁であると考えられた[1]。フクイベナートルにはドロマエオサウルス科とも共通する特徴があり、それは収斂進化の結果と解釈された[1]。長い首と異歯性、鋸歯の発達しない歯などの特徴から、記載者らはフクイベナートルは純粋な肉食ではなく、雑食適応していたと主張している[1]

系統関係

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フクイベナートルは骨格に様々なグループの獣脚類の形質が見られることから、先述の通りマニラプトル形類に近い系統的位置に置かれていた。その後、新たに発見された部位も含めて福井県立大学恐竜学博物館と中国科学院古脊椎動物古人類学研究所コンピュータ断層撮影による観察を行ったところ、多数のテリジノサウルス類の形質が認められることを発見した。系統解析の結果得られた系統樹では、フクイベナートルはテリジノサウルス上科を含む系統群に置かれ、北アメリカに生息したファルカリウスよりも基盤的位置に置かれた。すなわち、マニラプトル類のうち、テリジノサウルス類の起源に近い位置付けとなったのである[4]

フクイベナートルはファルカリウスよりも肉食性の強い歯や骨格を示すことから、テリジノサウルス類が肉食から植物食へ適応した過程の手がかりとなる可能性がある。またフクイベナートルは嗅球が発達しており、現生の鳥類と異なり当時の獣脚類恐竜が嗅覚に頼っていたことを示唆し、感覚器官の進化過程も示唆される可能性がある[4]

ミグマニキオンの記載論文では、テリジノサウルス類より派生的なマニラプトル類に配置された[10]

コエルロサウルス類
ティラノサウルス上科
グアンロン
タニコラグレウス

コエルルス

オルニトレステス

テリジノサウルス上科
ミグマニキオン
フクイベナートル
オルニトミモサウルス類
アルヴァレスサウルス上科
羽盗類
オヴィラプトロサウルス類
原鳥類
ドロマエオサウルス科
トロオドン科

鳥群

脚注

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注釈

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  1. ^ 放射性同位体に基づく[1]。原文はクエスチョンマーク付き[2]
  2. ^ 現在とは様相が異なる"当時のアジア大陸"の、その中核部分である安定地塊シナ地塊英語版」の東岸部。

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Azuma, Yoichi; Xu, Xing; Shibata, Masateru; Kawabe, Soichiro; Miyata, Kazunori; Imai, Takuya (23 February 2016). “A bizarre theropod from the Early Cretaceous of Japan highlighting mosaic evolution among coelurosaurians”. Scientific Reports (Nature Research英語版) 6 (20478). doi:10.1038/srep20478. https://www.researchgate.net/publication/295812577_A_bizarre_theropod_from_the_Early_Cretaceous_of_Japan_highlighting_mosaic_evolution_among_coelurosaurians_OPEN. オープンアクセス
  2. ^ a b フクイベナートル・パラドクサス < 標本データベース”. 2021年5月14日閲覧。
  3. ^ a b c 山内道朗「勝山の恐竜フクイベナートル テリジノサウルス類と解明 県立恐竜博物館など」『中日新聞』2022年2月4日。2022年2月5日閲覧。
  4. ^ 第三次恐竜化石発掘調査 < 福井県の恐竜発掘”. 福井県立恐竜博物館. 2021年5月14日閲覧。
  5. ^ 2010年度 第3次恐竜化石調査産出化石報告 < 恐竜博物館の調査研究情報”. 福井県立恐竜博物館 (2011年4月22日). 2021年5月14日閲覧。
  6. ^ 柴田正輝、後藤道治「福井県勝山市における第三次恐竜化石発掘調査報告(2007年度)」(PDF)『福井県立恐竜博物館紀要』第7巻、福井県立恐竜博物館、2008年、109-116頁。 
  7. ^ a b c 福井産の小型獣脚類恐竜に学名が付けられました < 恐竜博物館の調査研究情報” (2016年2月26日). 2020年6月16日閲覧。
  8. ^ “Dinosaurs 第48号 特集:新種の小型獣脚類フクイベナートル (PDF). 恐竜博物館ニュース:Dinosaurs (福井県立恐竜博物館) 第48号: 1-8. (2016-07-19). https://www.dinosaur.pref.fukui.jp/archive/Dinosaurs048.pdf 2020年6月25日閲覧。. 
  9. ^ Wang, Xuri; Cau, Andrea; Wang, Zhengdong; Yu, Kaifeng; Wu, Wenhao; Wang, Yang; Liu, Yichuan (2023-06-05). “A new theropod dinosaur from the Lower Cretaceous Longjiang Formation of Inner Mongolia (China)” (英語). Cretaceous Research 151: 105605. doi:10.1016/j.cretres.2023.105605. ISSN 0195-6671. 

関連項目

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外部リンク

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