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ヒナノウスツボ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヒナノウスツボ
静岡県伊豆半島 2021年9月上旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク上類 Superasterids
階級なし : キク類 Asterids
階級なし : シソ類 Lamiids
: シソ目 Lamiales
: ゴマノハグサ科 Scrophulariaceae
: ゴマノハグサ属 Scrophularia
: ヒナノウスツボ
S. duplicatoserrata
学名
Scrophularia duplicatoserrata (Miq.) Makino (1906)[1]
和名
ヒナノウスツボ(雛の臼壺)[2]

ヒナノウスツボ(雛の臼壺、学名:Scrophularia duplicatoserrata )は、ゴマノハグサ科ゴマノハグサ属多年草。別名、ヤマヒナノウスツボ[2][3][4][5]。植物体全体に弱々しい感じがする[4]

特徴

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地下茎はやや塊状に短く肥大し、やや木質化し、細いがある。はやや角ばった4稜があるが、やや軟弱で毛は無く、高さは40-100cmになり、上部は分枝する。は対生し、葉質は薄く、葉身は卵状長楕円形または卵形で、長さ6-11cm、幅3-5cmになる。葉の先端はとがり、基部はやや浅い心形になることが多く、縁にはとがった重鋸歯がある。葉柄にはやや翼があり、長さ1-3cmになる[2][3][4][5]

花期は7-9月。茎の先に円錐花序をつけ、まばらに多くのをつける。花柄は細く長く腺毛が散生する。は鐘形で、萼裂片は5つに深く裂け、緑色で裂片は卵形または狭卵形で先は鈍頭。花冠は暗赤紫色、長さ6-9mm、ふくらんだ壺形で先は唇形になり、上唇はやや大きく2裂し、下唇は3裂し、下唇の中央裂片は反り返る。雄蕊は4個あって花冠下唇側につき、その上にへら状の仮雄蕊が1個ある。雌蕊は1個で花柱は花外に伸び出す。果実は、長さ6-7mm、幅5-6mmの球形の蒴果になり、胞間裂開する。種子は楕円形でごく小さい[2][3][4][5]

雌蕊先熟

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雌蕊先熟で、花が開くと花柱が花の外に伸び、受粉して下垂する。この時、自花の葯から花粉は出ていない。その後雄蕊が伸びて葯の縁が裂け、花粉を出す。これによって同一の花からの受粉が避けられる[5][6]

分布と生育環境

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日本固有種[7]。本州の東北地方南部以西、四国、九州に分布し[5]、山地の日陰の林中に生育する。湿った場所を好み、沢沿いに生えることが多い[4]

名前の由来

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和名のヒナノウスツボは「雛の臼壺」の意で、小さな壺形の花をに見立てたもの[4][5]1856年(安政3年)に出版された飯沼慾斎の『草木図説』に「ヒナノウスツボ」の名前がある[8]

種小名 duplicatoserrata は、「重鋸歯のある」の意味[9]

下位分類

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ナガバヒナノウスツボ Scrophularia duplicatoserrata (Miq.) Makino var. surugensis (Honda) Honda ex H.Hara (1949)[10]シノニム Scrophularia musashiensis Bonati var. surugensis Honda (1931)[10][11] - 葉は狭卵形、披針形または楕円状披針形で、長さ5-10cm、幅2-3cm、葉柄が長く、腋生の花序がよく発達する。静岡県長野県愛知県に分布する[11][7]。1930年に、静岡県高根山秋葉山で標本が採集されている[11]

分類

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同属に、似た花をつけるゴマノハグサオオヒナノウスツボエゾヒナノウスツボハマヒナノウスツボサツキヒナノウスツボがある[5]。このうち、山地に生え、花期が夏から秋であるものにオオヒナノウスツボ Scrophularia kakudensis Franch. (1879)[12]がある。同種は茎が角ばり上部にに軟毛が生えることがあり、葉質はやや厚く、鋸歯はとがる。花柄は太く、果実は卵形になり、日当たりの良い湿った草地、湿原、林縁などに生える。それに対し、本種は、茎は角ばるもののやや軟弱で無毛、葉質は薄く、鋸歯は重鋸歯になる。花柄は細く花はまばらつき、果実は球形になり、林中の日陰に生え、沢沿いなどの湿った場所に多い[2][3][4][5]

ギャラリー

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脚注

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  1. ^ ヒナノウスツボ 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  2. ^ a b c d e 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.413
  3. ^ a b c d 『原色日本植物図鑑・草本編I(改訂59刷)』p.154
  4. ^ a b c d e f g 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1045
  5. ^ a b c d e f g h 大橋広好 (2017)「ゴマノハグサ科」『改訂新版 日本の野生植物 5』p.94
  6. ^ 『写真で見る植物用語』p.110
  7. ^ a b 『日本の固有植物』p.130
  8. ^ 飯沼慾斎 草木図説前編20巻(11)、コマ番号63/82、国立国会図書館デジタルコレクション-2021年9月14日閲覧
  9. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1491
  10. ^ a b ナガバヒナノウスツボ 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  11. ^ a b c Honda 1931.
  12. ^ オオヒナノウスツボ 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)

参考文献

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  • 北村四郎・村田源・堀勝著『原色日本植物図鑑・草本編I(改訂59刷)』、1983年、保育社
  • 岩瀬徹・大野啓一著『写真で見る植物用語』第2版、2008年、全国農村教育協会
  • 加藤雅啓・海老原淳編著『日本の固有植物』、2011年、東海大学出版会
  • 門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
  • 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
  • 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 5』、2017年、平凡社
  • 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  • Honda M. (1931). “Nuntia ad Floram Japonicae X”. 植物学雑誌 (日本植物学会) 45 (530): 43-45. doi:10.15281/jplantres1887.45.43. ISSN 0006-808X. NAID 130004211239. https://doi.org/10.15281/jplantres1887.45.43. 
  • 飯沼慾斎 草木図説前編20巻(11)、コマ番号63/82、国立国会図書館デジタルコレクション-2021年9月14日閲覧