ドラッグ・ラグ

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ドラッグ・ラグ(drug lag、新薬承認の遅延)とは、新たな薬物が開発されてから、治療薬として実際に患者の診療に使用できるようになるまでの時間差や遅延のことである。また、他の国や地域における使用の承認からの遅延を指して使われることもある。これらはいずれも、主として規制当局による承認の遅れに起因するものを指している。

日本においては、日本国外において既にその使用が承認されている薬剤が、国内では使用が承認されていないこと、また承認の遅れを指して使われる。

概要[編集]

ドラッグ・ラグとは、新開発の薬を患者に投入できるまでの時間差、あるいは、海外での新薬を国内承認できるまでの時間差のことである。海外との関係では、標準的に承認されている医薬品について、国内で承認されない状況が続いたり承認が遅かったりする問題と、海外で危険性が指摘されているにもかかわらず使用の継続が認められる問題をさす。

その共通の問題点は、新薬の安全性という社会的利益(公共の福祉)と保険適用の遅延や排除(保険者の経済的利益)と、新薬のタイムリーな投与、また、患者利益と社会利益の対立の構造についてのバランスの問題である。

前者において、ドラッグ・ラグの原因は、製造設備や輸入価格が原因となる場合と、法制度的に承認が遅れて使用できない場合や販売権など商業法上の問題などの法制、法律的な障害の場合がある。しかし、現在一番問題とされるのは、法制的な問題の内、国内で承認されない状況が続いたり承認が遅かったりする場合であり、大抵は保険診療制度の上で、保険診療が受けられない患者の医療費負担の問題が最大のものである。しかし、一部条件付きながら保険診療制度化での未承認薬の使用は可能となった(保険外併用療養費、旧特定療養費)。

また、後者に関しては医薬品の評価に関してさまざまな問題が指摘されているが、サリドマイドや血液製剤などの薬害問題に象徴される国の対応の遅れが指摘されている。

日本におけるドラッグ・ラグ[編集]

日本においては、諸外国より新薬認可が遅い原因を体制面の不備にあると指摘する意見がある。すなわち、諸外国においては、治験を担当する医師と製薬企業とが直接契約を結び、治験の報酬は直接医師に入るシステムになっている場合が多い。しかし日本では直接契約が認められておらず、治験業務に対する病院内での評価は一般に低く、医師が多忙な診療の合間をぬって治験を多く手がけたとしても、それが業績として評価される仕組みは一部の例外(国立病院機構など)を除き、存在しない。

日本で患者を1名集めるのにかかる時間は米国の18.3倍というデータもある[1]。その他にも種々の要因があるものの、1症例あたりに換算した治験費用は、米国の2倍以上になるとも言われコスト面の問題も指摘されている[1]

しかし、最近では、治験に対する医師の理解が進みつつあることや、治験コーディネーターと呼ばれる職種の活躍などにより、日本の治験の質も改善している。厚生労働省2006年10月、「有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会」を発足、定期的にヒアリングなどを行っている。また、厚生労働大臣(当時)舛添要一は、「平成23年までに、新薬の審査にかかる時間を欧米並みに短縮する」と発言している。さらに、日本単独ではなく世界規模で治験を行う「国際共同治験」への関心も高まっている。

米国におけるドラッグ・ラグ[編集]

米国におけるドラッグ・ラグとは新薬の安全性(公共の利益)と、重態な患者への早期の治療薬の配布との問題としての面が大きい。

当初アメリカでは、新薬は開発会社や販売代理店が公正な検証を行って販売をする建前だったが、1960年代の欧州でのサリドマイド薬害から、新薬の安全性にたいする規制が政策的に行われた。しかし、1980年代後半のエイズという全く未知の病気の流行後、逆に慎重な規制がなんら薬の存在しない状態を作り出し、重症患者の治療を阻害しその治療を致命的に遅延させる原因として、ドラッグ・ラグが政治問題化した。これは、製薬会社の新薬のタイムリーな販売による利益とも合致し、治験という名目で大量の患者に同意の下、安全性に対して十分なデータの蓄積がない新薬による、実験という形での治療がなされた。これによって重症な患者に対してのドラッグ・ラグの解消がなされた。欧州での薬品認可との時間差については、現在も議論と改善の方法が考えられている。

関連書籍[編集]

  • 日本公定書協会「ドラッグラグの現状と解決に向けた提言」(じほう)

脚注[編集]

  1. ^ a b 厚生労働省・第1回有効で安全な医薬品を迅速に提供するための検討会資料

関連項目[編集]

外部リンク[編集]