創薬

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創薬(そうやく、drug discovery)[1]とは医学生物工学および薬学において薬剤を発見したり設計したりするプロセスのことである。

以前は、大半の薬剤が伝統治療薬(生薬)の有効性成分の同定や宝探しのようにして発見されたものであった。今日における創薬アプローチは疾病感作分子生物学生理学の見地で解明された制御機序や、その見地において見出された創薬対象の特性を理解することで薬剤を発見する手法である。

創薬のプロセスは、創薬標的の同定、合成、特徴付け、薬効のスクリーニングおよびアッセイの順に進展する。これらの試験で有用性を有する化合物を見出すと、前臨床試験医薬品開発プロセスに進む。テクノロジーや生物システムの解明が進んでいるのにもかかわらず、創薬はまだ15年以上の長期間を要す上に新薬発見の成功率は低い。[2]

創薬に予想もしない恩恵をもたらす可能性を秘めた暗号であるヒトゲノム情報は治療標的のボトルネックを計算機上で排除すると信じられている[3]

創薬標的: 新規および既存[編集]

「標的」の定義づけ自体は製薬企業内で行われた議論によって形成される。しかしながら、 新規と既存との標的の区分は標的がどのようなものであるかを完全に把握しなくても判別されている。このようにして判別された区分は典型的には製薬企業が創薬や開発に従事している低分子治療薬の区分になっている。

「既存標的」は健常な状態の生理学的な標的機能も、ヒトの病理学的な標的機能も科学的な理解が良くなされており、長期にわたる発表履歴に裏打ちされている。既存であるということは、薬剤の作用機序が標的の完全に把握された詳細を通じて作用が考察されることをほのめかすわけではない。むしろ、「既存である」ということは直接的にはそれぞれの機能に関する情報について標的を取り巻く情報の量の多い少ないに関連している。

多くのこの種の情報は利用可能であるが、それに対して(通常は)各標的に対して臨床的な開発を施すための資金には限りがある。この種の機能情報を集約するプロセスは、製薬業界用語で「ターゲットバリデーション」(w:en:target validation)と呼ばれる。製薬企業が内部的に所有しているものも含めて、既存の標的は過去に医薬品開発の活動の積み重ねに経験付けられている。たとえばこのような経験の積み重ねは標的に対して低分子治療薬の化学的開発実現性に関する情報を提供する。そして他社へのライセンス供与の機会を提供し、低分子治療薬候補を考慮する際にその経験が選択の幅を提供する。

一般には、「新規標的」は創薬活動の主題としてなった標的のうち「既存標的」以外のものすべてである。典型的には新規標的は、新規に発見された蛋白質であったり、基礎研究により新たに機能が判明した蛋白質などが含まれる。創薬において今日選択される主な標的は蛋白質である。それらの蛋白質クラスの2つの主流は次のものである:Gタンパク質共役受容体(GPCR)とプロテインキナーゼである。

スクリーニングとデザイン[編集]

個々の疾病毎に選択された標的に対する新薬発見のプロセスはハイスループットスクリーニングw:en:high-throughput screeningHTS)により進展するが、それは膨大な化学物質ライブラリーに対して試験を実施し、その過程で標的に変更を促す働きも有している。例えば、標的が新規GPCRであれば試験化合物は受容体を阻害あるいは刺激する性質[4]でスクリーニングされる。プロテインキナーゼの場合、化合物はキナーゼの酵素阻害作用で試験される。

HTSのもう一つの重要な機能に選択された標的に対して選択性を示すかどうかを見るという点がある。理想的には発見された化合物は選択された標的ただ一つに影響し関連した他の標的には影響しないというものである。最終的にはスクリーニングの実施により、選択された標的対するヒット化合物は関連する他の標的に対する影響を試験される。このプロセスをクロススクリーニング(Cross-screening)と呼ぶ。クロススクリーニングは重要である。なぜならば関連性のない多くの標的に対してヒットする化合物は的外れの毒性臨床段階で化合物が示すことを引き起こすからである。

早期のスクリーニングで完璧な候補化合物が出現することはほとんど起こりそうもないことである。たいていは、ある程度の薬理活性をもったいくつかの化合物が発見される。そしてそれらが共通の化学構造を持つ場合は、単一かあるいは複数のファーマコフォアw:en:pharmacophore)が見出されることがある。この時点で、医薬品化学者構造活性相関w:en:structure-activity relationshipSAR)を試みて幾つかの性質を改善してリード化合物を仕立てるのである。その改善とは次のようなものである:

  • 選択された標的に対する活性を増大する。
  • 無関係の標的に対する活性の低減させる。
  • 分子特性が薬に適した性質やADMEの改良を行う。

このプロセスは幾つかの試行錯誤的なスクリーニングの実施が必要となることがある。その過程において、望ましくは、新しい分子の性質が改良され、In vitro試験や In vivo試験を実施する上で採用された病理モデルの活性の点で好ましい化合物になっていることである。

概してHTSは、一般には新規な創薬の為の手法であるが、その目的だけに使用されるわけではない。HTSが幾つかの望ましい特性を持つ分子から出発することもある。その場合の分子は天然物w:en:natural product)から抽出されたり、改良された上市されている薬(「ゾロ新」、"me too" drugと呼ばれる)からであったりする。HTS以外の方法としてはパーチャルスクリーニングw:en:virtual high throughput screening)と呼ばれる手法があり、コンピューターが機械的に発生させた分子モデル(バーチャルライブラリー)を使い創薬標的にバーチャルライブラリーをドッキングスタディを施すことでスクリーニングとすることがしばしば行われる。

他の重要な手法としては医薬品設計w:en:drug design)による創薬があげられる。標的の生物学的、物理的特性に関して研究し、一連の化合物が活性部位w:en:active site)に適合するか否かを予測する。そして新規のファーマコフォアの存在は医薬品設計の試みを迅速に達成しうる要素である。

能力や選択性や薬剤に適した特性の面で十分標的を満足しうる一連のリード化合物が見つかると、一つないしは二つの化合物が医薬品開発の段階に供せられる。一連のなかでの最も適した化合物は一般にはリード化合物と呼ばれる。そしてリード化合物以外の設計された化合物は「バックアップ(化合物)」になる。  

関連項目[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ 日本において「創薬」という造語が使われ始めたのは1990年代からであり、それ以前は創薬という語は使われたことは無い。それ以前はプロセスを細分化することなく、臨床開発まで含めた一連のプロセスを医薬品開発と呼ぶのが通常であった。
  2. ^ Nature Reviews Drug Discovery 9, 203-214 (March 2010)
  3. ^ 時代が要請したヒトゲノム情報"競争"により生じた複数の信頼できるゲノムデータベースがこの要求を現実させる。
  4. ^ 記事 アンタゴニストアゴニストに詳しい

参考文献[編集]

  • Shayne Cox Gad (2005), Drug Discovery Handbook, Wiley-Interscience, ISBN 0-471-21384-5(英語)
  • Madsen U. (2002), Textbook of Drug Design and Discovery, CRC, ISBN 0-415-28288-8(英語)

外部リンク[編集]