Gタンパク質共役受容体

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典型的なGタンパク質共役受容体の模式図。N末端が細胞外に、C末端が細胞内にあり、7つの膜貫通ドメインと細胞内と細胞外にそれぞれ3つずつループがある。

Gタンパク質共役受容体(ジータンパクしつきょうやくじゅようたい、: G protein-coupled receptor、GPCR)は受容体の一種。Gタンパク質結合受容体、あるいは細胞膜を7回貫通する特徴的な構造から7回膜貫通型受容体ななかいまくかんつうがたじゅようたい[1]と呼ばれることもある。細胞外の神経伝達物質ホルモンを受容してそのシグナルを細胞内に伝えるが、その際Gタンパク質[2]と呼ばれる三量体タンパクを介してシグナル伝達が行われる。全タンパク質中最大のスーパーファミリーを形成している。GPCRは多くの疾患に関与しているため、市販薬の数割がGPCRを標的としている[3]。 このGPCRの機構を解明する上で重要な発見をしたブライアン・コビルカロバート・レフコウィッツの2名が2012年のノーベル化学賞を共同で受賞している [4]

歴史[編集]

1986年、網膜に存在する光量子受容体ロドプシンと、心臓に存在するβ2アドレナリン受容体(β2AR)が発見された。この2つの分子は、限局している領域も機序も異なるタンパク質ではあったが、「膜を7回貫通している」という構造的な共通点が存在した。

分類[編集]

GPCR は、アミノ酸配列や機能の類似に基づいて6つのクラスに分類されている[5][6][7][8]

クラス A
ロドプシン様受容体
クラス B
セクレチン受容体ファミリー
クラス C
代謝性グルタミン酸受容体
クラス D
真菌の接合因子受容体
クラス E
サイクリックAMP(cAMP)受容体
クラス F
フリズルド英語版スムーセンド英語版

ロドプシン様クラスA受容体は、さらに19のサブグループに分けられている(A1-A19)[9]。最近、GRAFS という別の分類法が提案された。これは、代謝型グルタミン酸受容体・ロドプシン・接着因子受容体・フリズルド/苦味受容体・セクレチン受容体の5つに分類するものである[10]

ヒトゲノムには約350種類のGPCRがコードされており、これらはホルモンや成長因子をはじめとする内因性リガンドを認識する。ヒトGPCRのうち約150種類は、リガンドや働きが分かっていないオーファン受容体である。

種類[編集]

ムスカリン性アセチルコリン受容体
神経伝達物質アセチルコリンの受容体の一種で、キノコ由来の毒物ムスカリンを結合する特徴がある。
アデノシン受容体
神経伝達物質アデノシンの受容体。カフェインも結合する。
アドレナリン受容体
アドレナリンやその他の構造が類似したホルモン、薬物を結合する。
GABA受容体 (B型)
アンギオテンシン受容体
アンギオテンシンの受容体
カンナビノイド受容体
大麻成分およびアナンダミド等の内在性リガンドを結合する。
コレシストキニン受容体
コレシストキニンの受容体
ドーパミン受容体
ドーパミンの受容体
グルカゴン受容体
グルカゴンの受容体
ヒスタミン受容体
ヒスタミンの受容体
嗅覚受容体
嗅覚細胞にある、におい物質の受容体。(2004年度ノーベル生理学・医学賞対象)
オピオイド受容体
アヘン成分および内在性ペプチド性リガンド(エンケファリンエンドルフィン等)を結合する。
ロドプシン
網膜にある光受容体。
セクレチン受容体
セクレチンの受容体
セロトニン受容体
セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミンまたは5-HT)の受容体(3型を除く)
ソマトスタチン受容体
ソマトスタチンの受容体
ガストリン受容体
ガストリンの受容体
P2Y受容体
ATPなどプリンヌクレオチドの受容体

構造[編集]

GPCR は膜タンパク質 であり、7本の膜貫通ヘリックスを持っている。 細胞外部分はグリコシル化(糖鎖修飾)されていることもある。細胞外ループには二つのよく保存されたシステイン残基が含まれ、ジスルフィド結合によって受容体構造を安定化している。7回貫通型ヘリックスを持つ似たタンパク質には、イオンチャネルとして働くチャネルロドプシン のように、GPCR とはまったく異なる機能を持つものがある。

GPCR 構造の初期のモデルは、バクテリオロドプシン との弱い相同性に基づいていた。バクテリオロドプシンの構造は、1900年代に電子線回折(PDB 2BRD, 1AT9)[11][12]X線結晶回折法 (1AP9)[13]で解かれていた。 2000年に、哺乳類のGPCRの構造がウシの ロドプシン (1F88) で始めて解明された[14]。7つの膜貫通ヘリックスなど大まかな構造はバクテリオロドプシンと似ていたが、ヘリックス同士の位置関係は大きく異なっていた。 2007年に、β2-アドレナリン受容体の構造が解かれ、ヒトの GPCR の構造が始めて明らかになった(2R4R, 2R4S)[15]。この構造は、受容体に抗体を結合して結晶化を補助する方法で得られた。 続いて、受容体の第三細胞内ループを T4 リゾチームで置換した変異体を脂質キュービック相の中で結晶化することにより、より高解像度の構造が得られた(2RH1)[16][17]。 同様の手法で、ドーパミンD3受容体[18]とCXCケモカイン受容体CXCR4[19]の構造も解かれた。 また、シチメンチョウのβ1受容体の熱安定化変異体の構造[20]も報告された。これらのGPCRの構造は、7本の膜貫通ヘリックス部分ではウシのロドプシンとよく似ていた。しかし、ヘリックス同士を結ぶループ領域の構造はそれぞれ異なっていた。

上記の構造はすべて、アンタゴニストや逆アゴニストが結合した非活性型コンフォメーションである。2011年になって、アゴニストが結合した活性型コンフォメーションと思われる構造が報告された。これらについては後述する。

構成[編集]

GPCRの1つであるβ2アドレナリン受容体とGタンパク質(Gs)の複合体の構造。赤色がGPCR(β2R)で、緑色がGα、青色がGβで、黄色がGγである。

Gタンパク質共役受容体(GPCR)はN末端が細胞外に、C末端が細胞内にあり、αヘリックスからなる膜貫通(TM)ドメインが7カ所ある。 一方、GPCRと共役しているGタンパク質はα(約40 kDa)、β(約35 kDa)、γ(約7〜8 kDa)の3つのサブユニットから構成されている。生理的環境においては、β及びγは互いに固く結合しており、Gβγ複合体と呼ばれる。一方、GαにはGTP/GDP結合部位が存在しており、ここにGDPが結合しているとき、Gタンパク質は不活性型として三量体構造Gαβγを取って、Gタンパク質共役受容体と結合している。2011年になってβ2アドレナリン受容体とGタンパク質の複合体の立体構造が解かれた[21]

GPCRの画像[編集]

脚注[編集]

  1. ^ : seven transmembrane receptor、7TM
  2. ^ : large G protein
  3. ^ Filmore, David (2004). “It's a GPCR world”. Modern Drug Discovery (American Chemical Society) 2004 (November): 24–28. http://pubs.acs.org/subscribe/journals/mdd/v07/i11/html/1104feature_filmore.html. 
  4. ^ Royal Swedish Academy of Sciences (2012年10月10日). “The Nobel Prize in Chemistry 2012 Robert J. Lefkowitz, Brian K. Kobilka”. http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2012/press.html 2012年10月10日閲覧。 
  5. ^ Attwood TK, Findlay JB (1994). “Fingerprinting G-protein-coupled receptors”. Protein Eng 7 (2): 195–203. doi:10.1093/protein/7.2.195. PMID 8170923. http://peds.oxfordjournals.org/cgi/reprint/7/2/195. 
  6. ^ Kolakowski LF Jr (1994). “GCRDb: a G-protein-coupled receptor database”. Receptors Channels 2 (1): 1–7. PMID 8081729. 
  7. ^ Foord SM, Bonner TI, Neubig RR, Rosser EM, Pin JP, Davenport AP, Spedding M, Harmar AJ (2005). “International Union of Pharmacology. XLVI. G protein-coupled receptor list”. Pharmacol Rev 57 (2): 279–88. doi:10.1124/pr.57.2.5. PMID 15914470. 
  8. ^ InterPro
  9. ^ Joost P, Methner A (2002). “Phylogenetic analysis of 277 human G-protein-coupled receptors as a tool for the prediction of orphan receptor ligands”. Genome Biol 3 (11): research0063.1–0063.16. doi:10.1186/gb-2002-3-11-research0063. PMID 12429062. 
  10. ^ Bjarnadottir TK, Gloriam DE, Hellstrand SH, Kristiansson H, Fredriksson R, Schioth HB (2006). “Comprehensive repertoire and phylogenetic analysis of the G protein-coupled receptors in human and mouse”. Genomics 88 (3): 263–73. doi:10.1016/j.ygeno.2006.04.001. PMID 16753280. 
  11. ^ Grigorieff N, Ceska TA, Downing KH, Baldwin JM, Henderson R (1996). “Electron-crystallographic refinement of the structure of bacteriorhodopsin”. J. Mol. Biol. 259 (3): 393–421. doi:10.1006/jmbi.1996.0328. PMID 8676377. 
  12. ^ Kimura Y, Vassylyev DG, Miyazawa A, Kidera A, Matsushima M, Mitsuoka K, Murata K, Hirai T, Fujiyoshi Y (1997). “Surface of bacteriorhodopsin revealed by high-resolution electron crystallography”. Nature 389 (6647): 206–11. doi:10.1038/38323. PMID 9296502. 
  13. ^ Pebay-Peyroula E, Rummel G, Rosenbusch JP, Landau EM (1997). “X-ray structure of bacteriorhodopsin at 2.5 angstroms from microcrystals grown in lipidic cubic phases”. Science 277 (5332): 1676–81. doi:10.1126/science.277.5332.1676. PMID 9287223. 
  14. ^ Palczewski K, Kumasaka T, Hori T, Behnke CA, Motoshima H, Fox BA, Trong IL, Teller DC, Okada T, Stenkamp RE, Yamamoto M, Miyano M (2000). “Crystal structure of rhodopsin: A G protein-coupled receptor.”. Science 289 (5480): 739–45. doi:10.1126/science.289.5480.739. PMID 10926528. 
  15. ^ Rasmussen SG, Choi HJ, Rosenbaum DM, Kobilka TS, Thian FS, Edwards PC, Burghammer M, Ratnala VR, Sanishvili R, Fischetti RF, Schertler GF, Weis WI, Kobilka BK (2007). “Crystal structure of the human β2-adrenergic G-protein-coupled receptor”. Nature 450 (7168): 383–7. doi:10.1038/nature06325. PMID 17952055. 
  16. ^ Cherezov V, Rosenbaum DM, Hanson MA, Rasmussen SG, Thian FS, Kobilka TS, Choi HJ, Kuhn P, Weis WI, Kobilka BK, Stevens RC (2007). “High-resolution crystal structure of an engineered human β2-adrenergic G protein-coupled receptor”. Science 318 (5854): 1258–65. doi:10.1126/science.1150577. PMID 17962520. 
  17. ^ Rosenbaum DM, Cherezov V, Hanson MA, Rasmussen SG, Thian FS, Kobilka TS, Choi HJ, Yao XJ, Weis WI, Stevens RC, Kobilka BK (2007). “GPCR engineering yields high-resolution structural insights into β2-adrenergic receptor function”. Science 318 (5854): 1266–73. doi:10.1126/science.1150609. PMID 17962519. 
  18. ^ Chien EY, Liu W, Zhao Q, Katritch V, Han GW, Hanson MA et al. (2010). “Structure of the human dopamine D3 receptor in complex with a D2/D3 selective antagonist.”. Science 330 (6007): 1091-5. doi:10.1126/science.1197410. PMC PMC3058422. PMID 21097933. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/eutils/elink.fcgi?dbfrom=pubmed&tool=sumsearch.org/cite&retmode=ref&cmd=prlinks&id=21097933. 
  19. ^ Wu B, Chien EY, Mol CD, Fenalti G, Liu W, Katritch V et al. (2010). “Structures of the CXCR4 chemokine GPCR with small-molecule and cyclic peptide antagonists.”. Science 330 (6007): 1066-71. doi:10.1126/science.1194396. PMID 20929726. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/eutils/elink.fcgi?dbfrom=pubmed&tool=sumsearch.org/cite&retmode=ref&cmd=prlinks&id=20929726. 
  20. ^ Warne T, Serrano-Vega MJ, Baker JG, Moukhametzianov R, Edwards PC, Henderson R et al. (2008). “Structure of a beta1-adrenergic G-protein-coupled receptor.”. Nature 454 (7203): 486-91. doi:10.1038/nature07101. PMC PMC2923055. PMID 18594507. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/eutils/elink.fcgi?dbfrom=pubmed&tool=sumsearch.org/cite&retmode=ref&cmd=prlinks&id=18594507. 
  21. ^ Søren G. F. Rasmussen, Brian T. DeVree, Yaozhong Zou, Andrew C. Kruse, Ka Young Chung, Tong Sun Kobilka, Foon Sun Thian, Pil Seok Chae, Els Pardon, Diane Calinski, Jesper M. Mathiesen, Syed T. A. Shah, Joseph A. Lyons, Martin Caffrey, Samuel H. Gellman, Jan Steyaert, Georgios Skiniotis, William I. Weis, Roger K. Sunahara, Brian K. Kobilka (July 2011). “Crystal structure of the beta(2) adrenergic receptor-Gs protein complex”. Nature. doi:10.1038/nature10361. PMID 21772288. 

外部リンク[編集]