デザイナーベビー

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デザイナーベビー英語: designer baby)とは、受精卵の段階で遺伝子操作などを行うことによって、親が望む外見や体力・知力等を持たせた子供の総称[1][2]。親がその子供の特徴をまるでデザインするかのようであるためそう呼ばれる[1][2]デザイナーチャイルドdesigner child)、ジーンリッチgene rich)、ドナーベビーdonor baby)とも呼ばれる。

概要[編集]

デザイナーベビーは、遺伝子を選択して目や髪の色といった特定の特徴を持つ子供の生まれる確率を上げる技術である[1][2]。1990年代から受精卵の遺伝子操作は遺伝的疾病を回避することを主目的に論じられてきたが[3]、親の過干渉(「より優れた子供を」や「思いどおりの子供を」等) [注釈 1]を受け入れ、外見的特長や知力・体力に関する遺伝子操作も論じられるようになってきた[1][4][5][6]

一方で、子どもが特定の性質を持つように事前に遺伝子を設計することは、技術的にも倫理的にも強く問題視されている[1][4]北里大学医学部臨床遺伝学教授の高田史男は『身長や知能など親の「パーフェクトベビー願望」をかなえる検査が、ビジネスの世界で歯止めなく広がるのは危険だ[1]。生活習慣病やがんなどのリスクは確定的なものではなく、多数の遺伝と環境因子が関わるという理解が必要だ』と懸念を示している[1]

報道された事例[編集]

  • 2013年9月24日アメリカ合衆国の個人向け遺伝子解析大手企業である「23アンドミー」の「デザイナーベビー」につながる自分と、精子や卵子の提供候補者ごとに遺伝情報を解析して、望み通りの子どもが生まれる確度を予測するシステムがアメリカ特許商標庁に認められた[1][2]。同社はGoogleの共同設立者らが出資[1]2007年から、唾液に含まれるDNAの遺伝子配列のわずかな違いを分析して、アルツハイマー病糖尿病など約120の病気のリスクのほか、目の色や筋肉のタイプなど計250項目を判定する事業を展開している[1][2]。2013年時点で、価格は99ドル(約1万円)で、利用者は50ヵ国以上、日本人を含め40万人を超えている[1][2]
  • 2015年2月24日イギリスの議会上院が、母系遺伝であるミトコンドリア遺伝子の異常による疾患であるMELASの治療のために、ミトコンドリアDNAに異常のある女性の受精卵から核を取り出し、正常なミトコンドリアDNAを持つ女性の脱核した卵子に移植するという手法で、3人の遺伝子をもつ受精卵を誕生させ、MELASの子供への遺伝を防止する技術を承認した[4]。この治療法は、ミトコンドリア脳筋症の根治的治療法として期待される一方で、英国上院での審議では「デザイナーベビー」につながるとの倫理上の懸念から反対意見や慎重論が根強かった[4]
  • 2015年4月、中華人民共和国ゲノム編集を用いて世界初のヒトの受精卵を用いて遺伝子操作実験を行った研究が国際的に物議を醸し[7][8]た。
  • 2018年11月27日に中国の南方科技大学賀建奎副教授はゲノム編集によって双子の1人を1対の両方の遺伝子を改変し、もう1人は片方の遺伝子のみ操作して後天性免疫不全症候群(AIDS)に耐性を持たせた女児「露露」(ルル)と「娜娜」(ナナ)の出産を発表し、後に中国当局の調査で遺伝子操作行為を行ったことが事実と認定された(賀建奎事件[9]。アメリカの著名な科学者や中国政府には賀に資金面や研究面で協力したとする疑惑も持ち上がり[10][11]、さらに賀は同様の遺伝子操作が脳機能と認知能力の強化をもたらしたとする動物実験に言及していたことから、人間強化の一種である知能増幅を行った可能性も懸念された[12][13]。これを受けて世界保健機関(WHO)はゲノム編集の国際基準を作成するための専門家委員会設置に動き[14][15]日本医師会日本医学会のような日本や各国の学会も非難[16]するなど「世界初のデザイナーベビー」であるとして世界的な波紋を呼んだ[17][18]

デザイナーベビーの登場するフィクション[編集]

多数の作品が執筆・撮影されており、どこまでを記述すべきかの基準がはっきりしない為、個々の作品名の列挙は行わない。これらの作品において、その意味を持たせた“デザイナーベビー”以外の単語・造語を使用する場合も多い為、その概念に比べて、“デザイナーベビー”という用語の認知度は、相対的に低くなっている。通常の文脈では人間以外の生物の遺伝子を導入することまったく新規の遺伝子をデザインし埋め込むことといったSFレベルの超技術はデザイナーベビーの概念に含まれない場合が多い。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ パーフェクト・チャイルド・シンドロームと呼ぶことがある

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k “デザイナーベビー? 遺伝子解析、好みの赤ちゃん 米で手法特許、倫理面で批判”. 朝日新聞. (2013年10月20日). オリジナルの2015年1月31日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150131062558/https://www.asahi.com/articles/TKY201310190592.html 2018年1月8日閲覧。 
  2. ^ a b c d e f “「遺伝子操作ベビー」誕生への新たな一歩”. ウォール・ストリート・ジャーナル. (2013年10月4日). http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702304676604579114432346414044 2015年2月25日閲覧。 
  3. ^ “ワードBOX >デザイナーベビー”. 西日本新聞. (2015年2月25日). http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/word/7404 2015年2月25日閲覧。 
  4. ^ a b c d “世界初「親3人」体外受精、英議会が承認 来年にも誕生”. 朝日新聞. (2015年2月25日). http://www.asahi.com/articles/ASH2T2HBMH2TUHBI00B.html 2015年2月25日閲覧。 
  5. ^ クローン人間以上に切迫した「デザイナーベビー」の問題
  6. ^ デザイナーベイビーは生まれている?
  7. ^ ヒト受精卵に世界初の遺伝子操作-中国チーム、国際的な物議”. ウォール・ストリート・ジャーナル (2015年4月24日). 2015年12月25日閲覧。
  8. ^ Lanphier, Edward, et al. (2015). “Don't edit the human germ line”. Nature 519 (7544): 410. doi:10.1038/519410a. 
  9. ^ 中国でゲノム編集された双子の実在を確認、臨床実験を行った中国の科学者は警察の捜査対象に”. GIGAZINE (2019年1月22日). 2019年2月24日閲覧。
  10. ^ 「遺伝子編集した双子の誕生に中国政府が援助していた」との報道”. ニューズウィーク (2019年2月27日). 2019年3月2日閲覧。
  11. ^ 遺伝子編集ベビー誕生に大物科学者らが関与の疑いスタンフォード大も調査へ”. MITテクノロジーレビュー (2019年2月20日). 2019年1月25日閲覧。
  12. ^ ゲノム編集の双子、脳機能も強化? マウス実験から示唆”. 朝日新聞 (2019年2月26日). 2018年11月29日閲覧。
  13. ^ 遺伝子編集ベビー問題 科学者らが指摘する隠された「もう1つの狙い」”. MITテクノロジーレビュー (2019年2月26日). 2018年11月29日閲覧。
  14. ^ WHO、国際基準作成へ ゲノム編集、来月に諮問委”. 共同通信 (2019年2月15日). 2019年4月12日閲覧。
  15. ^ ゲノム編集で専門委設置 WHO、倫理面も検討”. 日本経済新聞 (2018年12月16日). 2019年2月26日閲覧。
  16. ^ 中国「ゲノム編集出産」 日本の学会からも強い非難”. 毎日新聞 (2018年11月30日). 2019年2月26日閲覧。
  17. ^ 特報:世界初「遺伝子編集ベビー」が 中国で誕生、その舞台裏”. MIT Tech Review (2018年11月28日). 2018年11月29日閲覧。
  18. ^ Chinese scientist claims world's first gene-edited babies, amid denial from hospital and international outcry”. CNN (2018年11月26日). 2018年11月27日閲覧。

関連項目[編集]