タムシバ

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タムシバ
Willow-leafed Magnolia - Magnolia salicifolia (33382454554).jpg
タムシバ
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : モクレン類 Magnoliids
: モクレン目 Magnoliales
: モクレン科 Magnoliaceae
: モクレン属 Magnolia
: ハクモクレン節[2] Magnolia sect. Yulania[3]
: タムシバ M. salicifolia
学名
Magnolia salicifolia (Siebold & Zucc.) Maxim.1872[4][5]
シノニム
和名
タムシバ(田虫葉)、カムシバ(噛柴)[7][8]、サトウシバ(砂糖柴)[9]、ニオイコブシ[7][10]
英名
Japanese willow-leaf magnolia[1], willow leafed magnolia,
anise magnolia

タムシバ(田虫葉[11][12]学名Magnolia salicifolia)は、モクレン科モクレン属に属する落葉高木から低木の1種である。別名、カムシバ、ニオイコブシなどともよばれる。葉はやや細長い披針形であり、早春の葉が展開する前に白い6花弁をもち芳香がある花が咲く。日本固有種であり、本州四国九州に分布するが、世界各地で観賞用に植栽されることもある。精油を含み、つぼみは辛夷しんいとして生薬にされることがある。

コブシに似るが、樹高がやや低いこと、が細長く葉裏が白色を帯びる点、葉芽の鱗片が無毛である点、花の基部に葉がつかない点、萼片が比較的大きく(花弁長の1/3から1/2)無毛である点などで異なる。

名称[編集]

和名「タムシバ」の由来は2説あり、葉にタムシ状の斑点ができるためという説[11]、あるいは、葉を噛むと独特の甘味があるため「カムシバ(噛む柴)」の名がつき、これが転じて「タムシバ」となったともされる[11][13][14]

別名として、カムシバやサトウシバ、ニオイコブシなどがある[11]。ニオイコブシの別名は、葉を切ると芳香が漂うので名付けられたものである[15]

学名種小名である salicifolia は「ヤナギの葉」の意味であり、タムシバの細長い葉の形を示している[16]

特徴[編集]

落葉広葉樹低木から小高木で、高さ3メートル (m) から大きなものは10メートル (m) ほどになる[7][11][17](下図1a, b)。樹高はコブシよりやや低い[15]樹皮は灰褐色で平滑、縦に皮目がならぶ[7]。本年枝は緑褐色で無毛[7]。一年枝は緑褐色で、托葉痕が枝を1周する[18][7]

1a. 樹形
1b. 樹形
1c. 葉

互生し、葉身は披針形から卵状披針形で長さ6 - 14センチメートル (cm) 、幅2 - 5 cm、全縁で基部はくさび形、先端は次第に尖り、裏面は白色を帯び若いときに微細な毛があり、質は薄い[7][11][17][19](上図1c)。コブシにくらべて葉が細長く、葉裏が白色を帯びる点で異なる[13][7]。また葉などをもむと強い香りがし、かむと甘い[7][17]葉柄は長さ 1 - 1.5 cm[7][17]葉芽は小さく、無毛[7][19](下図1d)。頂芽である花芽は長卵形、長さ 1.7 - 2 cm、長く白い軟毛で覆われる[7](下図1d)。側芽葉芽である[18]。モクレン属共通の特徴で、冬芽の芽鱗は托葉2枚と葉柄基部が合着して、帽子状になる[18]。葉痕はV字形や三日月形で、維管束痕は3 - 7個みられる[18]

1d. 葉芽、花芽、花
1e. 花
1f. 雄しべ群と雌しべ群

花期は4 - 5月、が展開する前に直径 6 - 10 cm ほどの芳香がある両性花が咲くが[11]、高緯度や高地では開花が6月ごろになることもある[7][17][19](上図1d, e)。花被片は広く開き、ふつう9枚が3枚ずつ3輪につき、外側の3枚は萼片状で白色で小さく(内側の1/3から1/2長)[11]、内側の6枚は大きく長さ 4.5 - 6.5 cm、花弁状で白色[7][17][19](上図1e)。雄しべは棒状で赤褐色、多数、らせん状につき、花糸は短い[7][17](上図1f)。雌しべは緑色、多数でらせん状につく[7][17](上図1f)。コブシと異なり、花の基部に小型の葉がつくことはないが、葉の出現には個体差があるため花の咲き始めでは見分けにくい場合がある[17][13]。花は雌性先熟であり、マルハナバチハナバチケシキスイオドリバエハナアブなどによる送粉が報告されている[19]。花の匂いの主成分は、1,2-ジメトキシベンゼンである[20]

1g. 果実(未熟)

果実は8 - 9月ごろに熟す[7][19]。花後、花托は伸長し、個々の雌しべは無毛の袋果になり、これが集まった集合果は長楕円形でこぶし状、長さ 7 - 8 cm[7][17](右図1g)。各果実は裂開し、赤い種子が珠柄に由来する白い糸で垂れ下がる[7][17]。種子はげっ歯類により散布される[19]染色体数 2n = 38[17]

種子形成以外にも、萌芽更新伏条更新を行い、株状構造を形成することもある[19]

分布・生態[編集]

2. 兵庫県西ヶ嶽のタムシバ(高木型)

日本固有種であり、本州四国九州温帯から暖帯上部に分布するが、日本海側に多く、東北や関東地方太平洋側には少ない[4][7][17][19]

タムシバは山腹から尾根に生育し、平坦地や沢筋に多いコブシシデコブシとは生育環境が異なる[21]。ただしこれらの種が側所的に生育する場所では、種間交雑が起こることもある[19]

下記のように、東北から中部地方日本海側に分布するもの(低木型)と、中部地方太平洋側から近畿、中国地方、四国、九州に分布するもの(高木型)が遺伝的に分けられることが示されている。

長崎県レッドデータブックでは、準絶滅危惧種に指定されている[22]

オトシブミエゴツルクビオトシブミは、タムシバを食樹とすることがある[23]白山山系では、ツキノワグマがタムシバの花を採食することが報告されている[24]

人間との関わり[編集]

タムシバは海外では観賞用に栽培されたり、品種作出の片親とされることがあるが、日本では園芸で利用されることは少ない[19]

シモクレンコブシ、タムシバなどモクレン類のつぼみ(花芽)を風乾したものは「辛夷しんい」とよばれ、鼻炎や頭痛、熱、咳などに対する生薬とされることがある[19][25][10]。またタムシバは強い香りをもつため、抽出された精油成分が「ニオイコブシ」の名でアロマオイルとして流通している[19]

タムシバの辛夷の精油には多様性があり、リナロールサフロールを主成分とするタイプI、リモネンリナロールを主成分とするタイプII、シトラールを主成分とするタイプIIIが知られている[26]。このような違いは地理的な違いに一致しており、タイプIは東北北部から太平洋側、北関東、タイプIIは東北日本海側から北陸、タイプIIIは長野県南部以西から採取される。下記のように、このような違いはタムシバ種内における遺伝的な差異と対応していると考えられている[19]

分類[編集]

タムシバは、形態的特徴、遺伝的特徴、および分布域によって2つの型、低木型と高木型に分けられることが報告されている[19][27]。低木型は斜上し樹高数メートル程度であり、雄しべ数/雌しべ数の比が大きく(50–70/15–40)、葉は大きく、幅広く、薄く、波打っている。一方、高木型は直立して樹高が林冠に達し、雄しべ数/雌しべ数の比が小さく(40–60/30–50)、葉は小さく、狭く、厚く、波打たない。低木型は東北から中部地方日本海側に分布し、高木型は中部地方太平洋側から中国地方、四国、九州に分布する。低木型と高木型は遺伝的にも分かれることが示されており、また上記のように花芽の精油成分も低木型(タイプIとII)と高木型(タイプIII)は異なることが示唆されている(上記参照)。分類学的には、高木型を基本変種(Magnolia salicifolia var. salicifolia)、低木型を変種ヒロハタムシバ(Magnolia salicifolia var. tokumotona)とすることが提唱されている[28]

コブシとの雑種はシバコブシ(Magnolia × kewensis)、シデコブシとの雑種は Magnolia × proctoria とよばれる[17]。タムシバとシデコブシの交雑個体は全てタムシバを母樹としたものであることが知られており、逆方向の交雑ではほとんど種子が形成されないことが示されている[29]。遺伝子浸透の方向は、シデコブシからタムシバへ一方向的である[29]

モクレン属を複数の属に細分する場合は、タムシバは Yulania に分類されることがある(Yulania salicifolia (Siebold & Zucc.) D.L.Fu[4][1]。しかし2022年現在、タムシバはふつうモクレン属に含められ、モクレン属のハクモクレン節[2](section Yulania)に分類される[3]

脚注[編集]

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出典[編集]

  1. ^ a b c GBIF Secretariat (2022年). “Magnolia salicifolia (Siebold & Zucc.) Maxim.”. GBIF Backbone Taxonomy. doi:10.15468/39omei. 2022年2月20日閲覧。
  2. ^ a b 東浩司 (2003). “モクレン科の分類・系統進化と生物地理: 隔離分布の起源”. 分類 3 (2): 123-140. doi:10.18942/bunrui.KJ00004649577. 
  3. ^ a b Wang, Y. B., Liu, B. B., Nie, Z. L., Chen, H. F., Chen, F. J., Figlar, R. B. & Wen, J. (2020). “Major clades and a revised classification of Magnolia and Magnoliaceae based on whole plastid genome sequences via genome skimming”. Journal of Systematics and Evolution 58 (5): 673-695. doi:10.1111/jse.12588. 
  4. ^ a b c d e f g h Magnolia salicifolia”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年2月20日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Magnolia salicifolia (Siebld et Zucc.) Maxim. タムシバ(標準)” (日本語). BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月31日閲覧。
  6. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Yulania salicifolia (Siebld et Zucc.) D.L.Fu タムシバ(シノニム)” (日本語). BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月31日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 勝山輝男 (2000). “タムシバ”. 樹に咲く花 離弁花1. 山と渓谷社. pp. 372–375. ISBN 4-635-07003-4 
  8. ^ 噛柴”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年2月20日閲覧。
  9. ^ 砂糖柴”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年2月20日閲覧。
  10. ^ a b タムシバ 日本薬学会
  11. ^ a b c d e f g h 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 90.
  12. ^ タムシバ(田虫葉)”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年2月20日閲覧。
  13. ^ a b c 薬草園だより vol.2013.4月創刊号”. 神戸学院大学薬学部附属薬用植物園. 2022年3月1日閲覧。
  14. ^ たむしば”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年2月20日閲覧。
  15. ^ a b 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 167.
  16. ^ 笹川通博「植物観察記(2)タムシバとヤマグルマ」『新潟県植物保護』第25号、新潟県植物保護協会、1999年4月、 12-14頁、 NAID 120006741072
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m n 大橋広好 (2015). “モクレン科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 71–74. ISBN 978-4582535310 
  18. ^ a b c d 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 238.
  19. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 玉木一郎「日本の森林樹木の地理的遺伝構造 (28) タムシバ (モクレン科モクレン属)」『森林遺伝育種』第9巻第3号、森林遺伝育種学会、2020年、 105-109頁、 doi:10.32135/fgtb.9.3_105
  20. ^ 東浩司「モクレン科の花の匂いと系統進化」『分類』第4巻第1号、日本植物分類学会、2004年、 49-61頁、 doi:10.18942/bunrui.KJ00004649594ISSN 1346-6852NAID 110006342785
  21. ^ タムシバ”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2022年2月20日閲覧。
  22. ^ タムシバ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年2月20日閲覧。
  23. ^ 上原千春, 鈴木邦雄「本州中部地方に生息するオトシブミ類(鞘翅目,オトシブミ科) の寄主植物」『富山市科学文化センター研究報告』第21号、富山市科学文化センター、1998年3月、 77-97頁、 ISSN 0387-9089NAID 120006632113
  24. ^ 八神徳彦「石川県におけるクマ剥ぎ被害軽減に向けたとりくみ」『石川県林業試験場研究報告』第34号、石川県林業試験場、2003年3月、 36-41頁、 ISSN 03888150NAID 40005853192
  25. ^ 春を告げる香り高い「ハクモクレン」”. 生薬ものしり事典. 養命酒製造株式会社. 2022年2月6日閲覧。
  26. ^ 長沢元夫、村上孝夫、池田恵子、久田陽一「辛夷の精油成分の地理的変異に関する研究」『藥學雜誌』第89巻第4号、日本薬学会、1969年、 454-459頁、 doi:10.1248/yakushi1947.89.4_454ISSN 0031-6903NAID 110003654090
  27. ^ 高橋和規「モクレン科タムシバの種分化 (PDF) 」 『森林総合研究所関西支所研究情報』第98巻、2010年、 2頁。
  28. ^ 高橋和規 著「タムシバ」、日本樹木誌編集委員会編 編 『日本樹木誌 1』日本林業調査会、2009年、479–496頁。 
  29. ^ a b 玉木一郎「日本の森林樹木の地理的遺伝構造 (12) シデコブシ (モクレン科モクレン属)」『森林遺伝育種』第5巻第2号、2016年、 83-87頁、 doi:10.32135/fgtb.5.2_83

参考文献[編集]

  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、238頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 西田尚道監修 学習研究社編 『日本の樹木』 5巻、学習研究社〈増補改訂 ベストフィールド図鑑〉、2009年8月4日、90頁。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 平野隆久監修 永岡書店編 『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、167頁。ISBN 4-522-21557-6 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]