ゴールデンバット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ゴールデンバット
最前列がゴールデンバット

ゴールデンバット(Golden Bat)は、日本たばこ産業から発売されていた紙巻きたばこの銘柄。2019年に終売となった。現在は北海道限定販売のリトルシガーである「ゴールデンバット・シガー」に銘柄名が受け継がれている。

概要[編集]

「バット」の通称で古くから親しまれてきた銘柄である。日本でたばこの専売制が開始されて間もない1906年明治39年)9月に、のちに日本専売公社となる当時の大蔵省専売局が発売した。 1973年に「朝日」が生産打切りとなって以来、日本国内で販売されるたばこの中では現役最古の銘柄[1] として有名で、2006年に発売から100周年を迎えた。

大衆向けの紙巻きたばこで、細身の巻径が特徴であった。発売当時から爆発的に流行ることはないが、等級の低い葉を用いることからたばこ税「旧3級品」に分類されて課税額が低く、根強い愛用者が途切れぬことから例外的なロングセラーとなる。

国内発売の前年である1905年(明治38年)から海外向け輸出品として生産され、当初は中国向けの輸出用ブランドとして企画されたことから、中国で幸運の象徴とされるコウモリをブランドシンボルに採用した。東京高等工藝学校の教員宮下孝雄1891年1972年)が考案した、灰緑色系の地に金色のコウモリをあしらった古風なパッケージデザインは広く知られており、発売当時を基本に変遷しているが近年は懐古的な好デザインとして再評価されている。外装に身体への警告文を記載するため、2005年に体裁が大幅に変更されて銀紙に札付きのパッケージとなり、たばこ本体も一般たばこと同等の巻径へ太く変更された。

1906年の発売時は10本入り4で、発売後しばらくは吸い口付き煙草の中級品であった「朝日」より価格が高かったが、1920年代に両切煙草の最新式製造機が出現したことによって両切の生産性が飛躍的に上昇し、それに伴ってゴールデンバットの価格が安値安定し、20年代後半から30年代にかけて販売数が爆発的に増えた[2]。低所得者の煙草として愛用されていたことから、1925年の値上げの際には政府に対して激しい非難が浴びせられた[2]

その後は最低価格帯の紙巻きたばことして生産体制が維持された。1945年まで軍隊専用として生産されていた「ほまれ」(両切り紙巻の金鵄が15銭の時代に7銭だった)[3]を除けば、2016年4月の価格改定前まで日本で最も安価な紙巻きたばこであり続けた。

第二次世界大戦直後も大衆品として人気を集め、1950年(昭和25年)4月-9月の半年間では160億4400万本を売り上げ、ブランド別では1位を記録した[4]

発売110周年を迎えた2016年に、しんせいとともにフィルター付きになり、タールは18ミリグラムから15ミリグラムへ、ニコチンは1.1ミリグラムから1.0ミリグラムに変更された。「旧3級品」に設けられているたばこ税の軽減措置が2016年4月以降、段階的に縮小・廃止されるために値上げされ、2018年4月1日より一箱330円となり、2019年10月以降、「わかば」「エコー」と共に在庫限りで生産終了することが発表された[5]

逸話[編集]

金鵄の箱。呉市海事歴史科学館にて撮影。

文芸作品にしばしば「バット」の名が登場し、芥川龍之介太宰治[注 1]中原中也[注 2]など作家に愛好者が多い。内田百閒は「朝日」「ピース」など高級煙草を好んだが、「たまに吸いたくなる」銘柄としてバットを挙げている。博物学者の南方熊楠も喫煙しており、空箱は採集した粘菌の標本入れに利用していた逸話がある。

太平洋戦争前後の1940年(昭和15年)から戦後の1949年(昭和24年)までは「ゴールデンバット」の名称が敵性語とされ、神武天皇の神話に基づいた「金鵄(きんし)」に変更された[6]。戦時中のタバコ類大幅値上げを題材にして唱歌「紀元二千六百年」の替え歌が作られたが、その冒頭は「金鵄あがって15銭」であった。

1944年7月28日からは、特別配給用の金鵄についてバラ売りが行われるようになった。戦時中の混乱にあってタバコは製造できていたものの、包装用箱が製造できなくなったためである。1本あたりの価格は2銭2厘5毛となるため、単位の端数発生を避けるために4本もしくは8本売りされた。ばら売りに当たっては空箱か煙草入れの持参が呼びかけられた[7]

1945年10月19日には戦後初の宝くじが発売された際には、外れくじ4枚と金鵄10本が交換できる制度も作られた[8]

屑たばこの俗説[編集]

安価さ、製造ロット、セロファン外装が無い紙製パッケージによる湿度の影響などにより風味が均一化しておらず、「他のたばこ製造時にこぼれた屑たばこを集めて紙巻した」との風説も散見するが、上級煙草に使用しないことから課税上の等級が低くなるたばこ葉脈が主な原料ゆえに、風味が一定せずバラつきが生じているだけである。

派生商品[編集]

1997年にフィルターつきのボックスタイプが全国発売された。パッケージデザインを現代的にアレンジしてCMや広告告知されたが、価格、タール、ニコチン値などは一般的で、日本最古のブランドを利用した新規銘柄に近いものであった。2004年7月から宮城県内でゴールデンバット・ボックス(紅茶風味)とゴールデンバット・メンソール・ボックス(カシス風味)が販売されたが定着せず、2005年1月に終売した。 2019年にはリトルシガー(税法上は葉巻規格)のシガー2商品が北海道限定で発売された。既存の葉巻規格の商品は全て海外生産・日本たばこアイメックスからの発売に切り替わっているため、JT本体では久々の葉巻規格商品の販売となる。

製品一覧[編集]

現行販売製品[編集]

製品名 発売年月日 価格 本数 タール ニコチン 販売地域 備考
ゴールデンバット・シガー 2019年2月18日 500円 20本 北海道
ゴールデンバット・シガー・メンソール 2019年2月18日 500円 20本 北海道

販売終了製品[編集]

製品名 発売年月日 終了年月 価格 本数 タール ニコチン 販売地域 備考
ゴールデンバット・ボックス 1997年2月3日 2003年5月 290円 20本 11mg 1.0mg 全国
ゴールデンバット・ボックス 2004年7月1日 2005年2月 300円 20本 8mg 0.6mg 宮城県
ゴールデンバット・メンソール・ボックス 2004年7月1日 2005年2月 300円 20本 8mg 0.6mg 宮城県
ゴールデンバット 1906年9月1日 2019年10月 420円 20本 15mg 1.0mg 全国[注 3]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 1939年発表の私小説的短編「富嶽百景」では、逗留していた御坂峠の茶屋で「机のまへに坐つて、とりとめのない楽書をしながら、バットを七箱も八箱も吸ひ……」というくだりがある。
  2. ^ 一人煙草をふかしながらの夜道の峠越えを描写した詩「七銭でバットを買って」(1932年作)は有名。他にもいくつかの作品で「バット」の名が出てくる。
  3. ^ 2018年12月までは沖縄県を除く

出典[編集]

  1. ^ たばこ「朝日」も来春で姿消す『朝日新聞』1976年(昭和51年)12月21日朝刊、13版、3面
  2. ^ a b 第6章 煙草消費の変容と煙草専売の運営 戦間期日本の家計消費 世帯の対応とその限界、西川邦夫、東京大学社会科学研究所研究シリーズ No. 57、東京大学社会科学研究所、2015、p85
  3. ^ 「金鵄」十五銭に、全面的に大幅値上げ(昭和18年1月17日 毎日新聞(東京)『昭和ニュース辞典第8巻 昭和17年/昭和20年』p577 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
  4. ^ 「よく売れたバット タバコ売上 半年で七百億円」『日本経済新聞』昭和25年10月7日3面
  5. ^ “JT、「わかば」「エコー」「ゴールデンバット」銘柄廃止へ”. 産経ニュース. (2019年7月24日). https://www.sankei.com/article/20190724-VYPIUCAPYBO4HDFOFGEARDGAXQ/ 2019年7月24日閲覧。 
  6. ^ ゴールデンバットはなぜコウモリ? - タバコワールド(JTウェブサイト)
  7. ^ 「金鵄」のバラ売り始める(昭和19年7月28日 毎日新聞(東京)『昭和ニュース辞典第8巻 昭和17年/昭和20年』p577 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
  8. ^ 一等十万円、副賞綿生地、戦後初売り出し(昭和20年10月20日 毎日新聞(東京)『昭和ニュース辞典第8巻 昭和17年/昭和20年』p573

関連項目[編集]

外部リンク[編集]