つわり

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つわり、または、おそ(どちらも漢字表記は「悪阻」)とは主に妊娠初期に起こる吐き気嘔吐のこと。

つわりは母体に対し、筋肉・神経系統を挙上させる(体内に胎児のための領域・スペースを作る)働きがあるため、嘔吐感を無理に我慢する必要はない。

概要[編集]

通常は胎盤が完成する妊娠3、4か月から5か月頃にかけて自然に治まることが多いが個人差があり、稀に出産直前まで続いたり、一旦治まった後にぶり返す場合もある。

以前は妊娠高血圧症候群に分類されていたが、現在では直接的に生死にかかわる症状とは考えられていない。しかしながら、重症化するとまったく飲食が出来ず衰弱したり、昏睡に至ることもある。脱水症状が進み尿からケトン体が検出されるほど重症化した場合には、ウェルニッケ脳症の発症を予防するために、輸液ビタミン剤補給などによる入院治療が必要となる。治療が必要になった場合は妊娠悪阻といわれる。

妊娠悪阻があまりにも重篤で母体に危険がある場合などには、医師が中絶を勧めることもある。

原因[編集]

ホルモンの一種であるヒト絨毛性ゴナドトロピン (hCG) が関係しているとの説[1]、妊娠で体質がアルカリ性から酸性に変わるため、など諸説あるが、医学的には立証にいたっていない。また、症状は心理的な要因にも大きく左右されるとの説もある。

防衛機構[編集]

つわりは、妊婦が摂取した有毒物から胎児を守るための、進化の過程で獲得された形質かもしれない。以下の証拠がこの理論を裏付けている。

  • つわりを経験する妊婦は非常に多い。この事実から、つわりとは機能的適応であると考えるのが自然であろう。逆に言えば、つわりを病気として扱う考え方は不適切であろう。
  • 3か月前後の胎児がもっとも有毒物の悪影響を受けやすいが、その時期は妊婦がつわりに最も過敏になる期間でもある。
  • 食物に含まれる有毒物の濃度と、嫌悪感を引き起こす匂いや味との間に妥当な関連性がある。

つわりを経験しない妊婦は流産しやすい。そのような妊婦は、胎児に有害な物質を摂取する傾向が強いからかもしれない。

胎児を守ること以外にも、つわりは妊婦自身を守る役割があるのかもしれない。妊婦の免疫系は妊娠中は抑えられている。これは、胎児の組織に対して母体が拒絶反応を起こす可能性を低くするためであろう。このような事情があるため、妊婦にとって寄生生物や有害なバクテリアを含む動物性食品は、通常以上に危険である。つわりは、肉や魚などの動物性食品によって引き起こされる場合が多いという証拠がある。

もし、つわりが毒物摂取を忌避するための防衛機構ならば、嘔吐抑制薬を処方することは、有害な食物に起因する先天的異常や流産などの想定外の副作用を引き起こすことにつながるかもしれない。

症状[編集]

つわりの症状は多彩で個人差が大きいため、一般的なつわりの症状を記す。

  • 吐き気、嘔吐、唾液の増加、全身倦怠感、頭痛、眠気など。
  • 匂いに敏感になる(米飯たばこの残り香など)。
  • 食べ物の好き嫌いが変化し、食欲が減退、または増進する。
    • ※早朝空腹時に強く出る傾向があると考えられている。このことから英語ではMorning sicknessと言う。

対策[編集]

  • 枕もとにクッキーなどをおいて低血糖を防ぐ。
  • 好物だけでもよいので水分と食事の摂取を心がける。
  • 身の回りから自分の嫌いなものを遠ざけたり、ストレスのたまらない生活を送ること。
  • 生姜が嘔気症状の改善に効果があるとの報告がある。[2][3][4][5]

医学的介入[編集]

つわりは妊娠5週頃から出現し、16週頃には軽快するのが通常であるが、妊娠後期や出産直前まで続くケースもある。この期間は胎児の器官形成期であるため、安易な薬物投与は胎児奇形を招く(催奇性)リスクがある(代表例にサリドマイドがある)。吐き気止めとしてよく用いられる消化管機能改善薬メトクロプラミド(プリンペラン®)ですら(催奇形性は確認されていないものの)安全性は確立していない。少量・短期間投与にとどめるべきと考えられている。漢方薬が比較的安全に投与可能といわれており、よく利用されている。点滴治療では維持液にビタメジン、タチオンなどを加えることが多い。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ hCG自体がどのような作用をしてつわりを起こすかは未だ解明されていない。
  2. ^ Obstetrics & Gynecology, 97(4), April 2001, 577-582,
  3. ^ Obstetrics & Gynecology, 103(4), April 2004, 639-645,
  4. ^ Obstetrics & Gynecology, 105(4), April 2005, 849-856,
  5. ^ Midwifery, 25(6), December 2009, 649-653