通過儀礼

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通過儀礼(つうかぎれい、Initiationrite of passage)とは、出生、成人、結婚、死などの人間が成長していく過程で、次なる段階の期間に新しい意味を付与する儀礼。人生儀礼ともいう。イニシエーションの訳語としてあてられることが多い。通過儀礼を広義に取り、人生儀礼を下位概念とする分け方もある。 イニシエーションとして古来から行われているものとしては割礼抜歯刺青など身体的苦痛を伴うものである事が多い。 こうした事例は文化人類学の研究対象となっている。

日本における通過儀礼

近世日本の武家階級では、元服というものがあり、服装、髪型や名前を変える、男子は腹掛けに代えてふんどしを締める(褌祝)、女子は成人仕様の着物を着て厚化粧する、といったしきたりもあった。地域・社会によっては男子の場合、米俵1俵(60キログラムから80キログラム)を持ち上げることができたら一人前とか、地域の祭礼で行われる力試しや度胸試しを克服して一人前、1日1反の田植えができたら一人前などという、年齢とは別の成人として認められる基準が存在した例もある。女子の場合には子供、さらに言うならば家の跡継ぎとなる男子を出産して、ようやく初めて一人前の女性として周囲に認めてもらえる場合もあった。

男子の場合、明治徴兵令施行から太平洋戦争が終結した1945年までは、「国民皆兵」の体制が取られ、徴兵検査がその通過儀礼となった。徴兵検査で一級である甲種合格となることは「一人前の男」の公な証左であり憧れの対象でもあった[1]。徴兵検査により健康状態や徴兵上の立場が明らかにされることは、当事者の社会的・精神的立場にも影響を与えた。現役兵役に適さないとされる丙種合格であった山田風太郎は、自らを「列外の者」と生涯意識する要因になったと述べている[2]1938年には結核による丙種合格判定も要因の1つとなって日本犯罪史に残る大量殺人事件・津山事件が起きている。しかしながら、身内レベルでは、入営を免れる丙種合格を望む風潮もあり、また「甲種合格と認められつつ籤逃れ(入営抽選漏れ)がよい」と望む考えも暗にあった[3]昭和時代での甲種合格率は3分の1前後、甲・乙に満たない丙種以下の割合は、時期により変動するが、15 - 40%程度であった[4]。入営後は新兵教育という名目のいじめやしごきという形で通過儀礼がおこなわれた(詳細は兵 (日本軍)を参照)。

現代の日本においては、幼少時の七五三や、老年期の還暦喜寿の祝いなど、一定の年齢に到達することで行われる通過儀礼は残っているものの、「その人物を地域社会が一個の成人として認める通過儀礼」が過去ほど明確には意識されてはいない。18歳で普通自動車運転免許の取得が可能になる、20歳で選挙権、25歳で被選挙権の行使が可能になるなど、法律により一定年齢に達することで自動的に権利が与えられるものはあるが、儀式としては成人式以外に通過儀礼と呼べるものはない。ただし、自動車運転免許は公共交通至便の大都市圏では取得しない例もさして珍しくないが、郊外・農村部などモータリゼーションが進展している地域では、自動車運転能力の有無が就職のみならず、日常生活にまで関わる死活問題となることも多く、それゆえ地域社会で運転免許の取得が社会人になるための事実上の通過儀礼として見なされていることは珍しくなく、就職活動などに際しても運転免許を持っていないことで身体障害などを疑われて不採用となることもあるなど、戦前の徴兵検査における丙種合格以下の者と似た社会的疎外を受ける一因になることがある[要出典](2002年6月施行の道路交通法改正で欠格条項が大幅に緩和され、多くの身体障害者において運転免許取得が可能になったが、それ以前は身体障害者の運転免許は欠格条項が壁となり取得までに極めて多くの困難を伴ったり、あるいは不可能なものであった)。

キリスト教社会における通過儀礼

カトリック教会における秘跡は、通過儀礼としての性質を併せ持っているものが多い。洗礼(幼児洗礼)や初聖体堅信などは典型的な例である。プロテスタント教会における幼児洗礼や信仰告白、正教会における聖洗も同様である。

なお、プロテスタント教会であっても幼児洗礼を行わないバプテスト派の洗礼(浸礼という)は、通過儀礼というよりは入会儀式の性格が強い。

通過儀礼の観光化

通過儀礼を観光化・娯楽化したものとしては、バヌアツ共和国バンジージャンプなどが有名である。

関連文献

フランスのファン・ヘネップによる研究(『通過儀礼』1909年)が有名である。

脚注

  1. ^ 日本の徴兵制
  2. ^ NHKアーカイブス あの人に会いたい 山田風太郎
  3. ^ 社会学研究9「社会構造とライフコース」講義記録(9)
  4. ^ 戦後日本における社会保障精度の研究 厚生省史の研究労働安全衛生と福祉国家