覆面レスラー

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レイ・ミステリオ
メキシコ出身の覆面レスラー、ミル・マスカラス

覆面レスラー(ふくめんレスラー)は、素顔がわからないように頭部や顔などの一部または全体を覆面で覆い活動するプロレスラーのことである。マスクマンとも呼ばれる。多くの場合、顔のみではなくリングネームを用いることなどでその正体も隠されている。

覆面レスラーの正体

覆面レスラーはメキシコルチャリブレに多く存在する。ルチャリブレに伝統的に覆面レスラーが多い理由の一つとして、昼間は他の職業についているため、夜に試合を行う場合が多く、正体を隠す必要があったためである。また、かつてアメリカでは試合をするプロレスラーにライセンスが必要で、それを持っていないために正体を隠していた例もある(ザ・デストロイヤー)。ただし今日では、特に理由がなくても覆面を利用するレスラーも多い。ヨーロッパのプロレスにはあまり存在しないといわれる。

日本に初めて来た覆面レスラーは1956年に来日したメキシコのラウル・ロメロであり[1]1959年に来日したミスター・アトミックが大人気を博した。日本でデビューした初の覆面レスラーは小林省三(ストロング小林)の覆面太郎(1967年デビュー)といわれている。

ミル・マスカラスに代表されるメキシコのプロレスや、ザ・デストロイヤーの影響で日本の団体でも覆面レスラーは多く存在する。海外武者修行からの帰国や長期休養明けを機に覆面レスラーになったり、既存レスラーのてこ入れ策としてギミック変更の一環で行われる。

日本の覆面レスラーの特徴としては、デビュー以降は比較的早い段階でその正体がわかることが多い。獣神サンダー・ライガーの様に、所属団体がその正体を公式に明かすことはしなくても多くのファンが知っている場合も存在する。またザ・グレート・サスケなど、当初から正体を明らかにしていた覆面レスラーも存在した(ただし現在は本名非公開)。三沢光晴の2代目タイガーマスクなどはデビュー戦の段階で多くのファンに正体がわかっており、ミサワ・コールが起こっていた。また、前述のタイガーマスクや獣神サンダーライガーのようにTV番組のタイアップや人気キャラクターなどをモチーフにする場合も多い。ウルトラマンウルトラセブンは海外にまで飛び火する人気を誇ったため、メキシコを中心に活躍するマスクマンまで登場した(新日本プロレスに来日したウルトラマン全日本プロレスがメキシコから来日と謳ったウルトラセブンなど)。

地方発のプロレス団体には覆面レスラーを多数起用して旗揚げするケースも多い。特に設立者自らが覆面レスラーである場合がほとんどで、彼等は団体の人気を一手に引き受ける「顔役」となるケースが大半である。大阪プロレスのブラックバファローくいしんぼう仮面は、元みちのくプロレスのスペル・デルフィンが中心となって打ち立てたキャラクターである。

大多数の覆面レスラーはマスク自体にレスラーとしてのアイデンティティーがあると考えているため、マスクに手をかけられたり剥がされたりすることを極端に嫌う。レスラーとして路線変更をする場合前出の三沢光晴や平田淳嗣(スーパー・ストロング・マシーン)のように自らマスクを脱ぎ捨てる場合がある。前出のブラックバファローはマスクを脱ぎ捨てた後もリングネームを変えずに活動する稀有なケースである。マスクを剥ぐ・剥ごうとする行為はほとんどの団体で反則とされているが、小林邦昭のようにあえてそれをやることでヒールとしてのイメージ確立を図ることもある。

過去に覆面レスラーが地方議員になった例として、ザ・グレート・サスケ(岩手県議)、スペル・デルフィン(和泉市議)、スカルリーパー・エイジ(大分市議)があるが、サスケとデルフィンは議会の別室で素顔の本人確認をすること等を条件に覆面姿の議場入場は認められたが、エイジは覆面姿での議場入場は認められなかった。

覆面の利便性

覆面はギミックの中でも見た目が派手なため、地味なレスラーや普段目立っていないレスラーに覆面を着用させ、注目を集めるために使われることもある。他にも一人のレスラーが素顔と覆面、または二種類以上の覆面を使い分けて一人二役を演じることも少なくない。これを利用して所属選手数の少ない団体ではレスラーがギミックを使い分けて一回の興行で2試合出場することもある。

また、覆面をかぶることで素の自分とは異なるキャラクター・人格になりきり、素顔の時には出せなかった実力が発揮できる効果もある。地力はあるものの、性格が優しかったり引っ込み思案なレスラーが、覆面の力でトップレスラーになるケースも多い(ペイントレスラーにも同様のことが言える)。一方で救世忍者乱丸のように義眼など顔の障がいを隠すために着用する場合もある。

変わった例として、新日本プロレスが1973年に招聘したエル・サントは、メキシコの大物覆面レスラーのエル・サントとは全くの別人であった。正体のレスラーはメキシコに帰国した際、日本遠征中エル・サントを名乗ったことがばれて大いに顰蹙を買ったという。なお、新日本に「オリジナルのエル・サントが来る」と誤解させる意図があったかどうかは不明。さらに変わった例として、キラー・コワルスキーは晩年頭が薄くなってカツラを着用していたが、カツラが取れると困るというので覆面をかぶって試合をしたことがあった。

覆面を賭けた試合

メキシコのルチャリブレでは、レスラー同士の因縁を決着するストーリーとして、覆面(マスカラ)や(カベジェラ)などを賭けて試合を行うことがある。これらを賭けて行われる試合はコントラ・マッチと呼ばれ、覆面レスラー同士がそれぞれの覆面を賭ける場合は「マスカラ・コントラ・マスカラ」片方のみが覆面レスラーで、他方が髪を賭ける場合は「マスカラ・コントラ・カベジェラ」となる。マスクを脱いだレスラーは基本的に以降は素顔で活動するのが通例であるが、レイ・ミステリオK-ness.など、再びマスクを被るレスラーもいる。

試合前に「もし負けてマスクを脱ぐようなことがあれば引退する」と豪語するレスラーもいるが、プロレスの世界では引退は言葉通りにならないことが多く、大半は(別キャラクターということを前提として)現役を続行している。

覆面の種類

覆面が誕生した当時は、デザインも非常にシンプルなものだった。しかし覆面レスラーが認知されるにつれ、ラメ入りの生地やフェイクファーなどの飾り、目や口の部分にメッシュ素材(中からは外が透けて見えるが、外からは中が見えにくい)を使うなど、その意匠も凝ったものになってきた。こうした覆面はファン向けにレプリカが作られることも多く、特に本物と同じ素材で作られたものは数万円で売られる。

またミル・マスカラスのように、覆面のデザインやカラーリングをあえて統一せず、多彩な種類で見る側の目を楽しませるものもいた。マスカラスは試合用の覆面の上にオーバーマスクをかぶり、入場後そのオーバーマスクを観客席に投げ入れるというファンサービスも行っていた(現在はレイ・ミステリオ、BUSHIがほぼ同じパフォーマンスを行っている)。丸藤正道など普段は素顔で試合をする選手でも、入場パフォーマンスとして覆面を被り、試合前に脱ぎ捨てる場合もある。

なお試合以外で覆面レスラーとして公の場に出る際には、プライベート用の覆面を着用することが多い。プライベート用は食事がとりやすいよう口の部分が大きく開き、着脱しやすいようヒモではなくファスナーで締める、などの工夫が見られる。一方でタランチェラのように試合以外では素顔になる選手も稀に存在する。

脚注

  1. ^ ミック博士の昭和プロレス研究室