水素イオン指数
酸と塩基 |
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水素イオン指数(すいそイオンしすう)または水素イオン濃度指数とは、物質の酸性、アルカリ性の度合いを示す物理量である。pH(potential Hydrogen, power of Hydrogenの略)という記号で表される。pHの読みはピーエイチ(英語読み)、またはペーハー(ドイツ語読み)。日本では1957年にpHのJISを制定する際に読みがピーエイチと定められ、現在の法令[1]およびJIS[2]ではピーエッチと定められているが、ペーハーの読みも年配者を中心に依然用いられる事が多い。
特に断らない場合は水溶液中での値を指す。なお、pH=7 の場合は中性と呼ばれる。pHが小さくなればなるほど酸性が強く、逆にpHが大きくなればなるほどアルカリ性が強い。
定義
水素イオン指数pHは、水素イオン活量を と表すとき、次式により定義される。なお、対数 (log) は底を10とする常用対数を使用する。
また希薄水溶液中においては水素イオン活量は水素イオン濃度 [ H+ ] にほぼ等しいと近似されるため、濃度で表すことが多い。
酸性の場合、水素イオン活量が水酸化物イオン活量より大きくなり、中性の場合は水素イオン活量と水酸化物イオン活量とが等しくなり、そしてアルカリ性の場合は水素イオン活量より水酸化物イオン活量が大きくなる。
水素イオン指数pHと同様にして、水酸化物イオン指数: pOHを次式により定義することができる。
希薄水溶液中においては水酸化物イオン活量 も水酸化物イオン濃度 [ OH− ] にほぼ等しいと近似されるため、濃度で表すことが多い。
水素イオン活量 と水酸化物イオン活量 の積(水のイオン積)は25℃、1 atm でほぼ 1 × 10−14 (mol dm−3)² (実際の測定値は 1.008 × 10−14 (mol dm−3)²)で一定なので、次式の関係が成り立つ。
25 ℃ の純水の場合ほぼ pH=7(中性)となる。中性を境に pH<7 の場合を酸性、pH>7 の場合を塩基性(アルカリ性)と呼ぶ。
値の範囲
pHの値の範囲が特に存在するわけではない。一方で日本の高等学校の教科書などではpHが0~14の範囲で図表が掲げられ、水溶液のpHは、ほぼ0~14の範囲で変わると記述されている[3]。
また水溶液のガラス電極によるpH測定において、信頼性の高い値が得られるのはおよそpH=1~12の範囲内、イオン強度は0.1以下である。まず濃厚な酸の水溶液をガラス電極により測定する場合、ガラス電極表面の膨潤および陰イオンの吸着などが影響し、酸誤差が生じる。次に濃厚な塩基水溶液の場合はガラス電極表面への陽イオンの吸着などの影響によりアルカリ誤差を生じ、これは陽イオンのイオン半径が小さいほど大きい傾向がある[4]。
しかし、濃厚な強酸、強塩基水溶液あるいは超酸、超塩基ではpHの値がマイナスの値となる場合や、14を超える場合が存在する。この場合、pHやpOHではあまり意味をなさないため酸度関数によって表現するのが一般的である。
測定
pHは、測定によって数値を求める事が出来る。
リトマス紙
単に酸性、中性またはアルカリ性かのみを確認する場合、リトマス紙が用いられる。
pH指示薬(pHインジケーター)
必要に応じ、試験管などに分取した液に指示薬を加えることで、判定する。通常、指示薬の一覧にあるような色素が用いられ、市販されており、それぞれ色が異なる。複数試すことで、液のpHが概ねいくつなのかを判断する事が出来る。
pH試験紙
指示薬を紙に染み込ませ、乾燥させたものなどが、販売されている。液に触れると、液のpHに応じ、色が変化する。また、複数(2 - 4種類程度)の小さな試験紙が付属しているものもあり、このタイプはそれぞれの色の組み合わせによって、pHの数値を読み取る事が出来る仕組みにあらかじめなっている。
水素電極
水素電極(白金黒水素電極など)は白金板の表面が微粒子の白金黒で覆われたもので、105 Pa の純粋な水素ガスを通じながら使用する。
その電極反応は以下の通りで、ネルンストの式によりpHと電極電位との間には以下の関係が成立し、水素イオン活量と電極電位には直線関係がある。
- 2 H+(aq) + 2 e− = H2(g), E°= 0 V
参照電極(照合電極、reference electrode)としては銀-塩化銀電極あるいはカロメル電極などが用いられ、それらと水素電極との電位差をpHに換算する。
pH計
pH電極(ガラス電極など)を接続したpH計を使用し、電気的に測定する事が出来る。
電極内部にpH一定の緩衝溶液が封入され、ガラス膜の内部および測定溶液に接触する外部にそれぞれ水素イオンが吸着し電位差を生ずる。ガラス電極と参照電極との電位差をpHに換算する。
- 内部電極 | 内部液 | ガラス膜 | 試料溶液 | 外部照合電極
操作的定義
水素イオン指数は前述したように水素イオンの活量で定義されるが、電気化学的に測定されるものは陽イオンおよび陰イオンの活量の積であり、単独イオンの活量を直接測定することは不可能である。このため単独イオンの活量で定義される厳密な意味でのpHは測定が不可能であることになる。
そこで実験的にpHを測定するためには、デバイ-ヒュッケルの式などから推定される活量に基いて仮定される操作的な定義が必要となる。そこでJIS規格では15℃における0.05 mol/Lのフタル酸水素カリウム水溶液のpHを4と定義している[4]。
また米国の National Bureau of Standards (NBS) では以下のように一次標準溶液を定義している[4][5][6]。一次標準物質には緩衝溶液としての作用が強く、再結晶などにより純品が得やすいものが選定されている。
- 酒石酸塩標準溶液:25℃における酒石酸水素カリウムの飽和水溶液
- フタル酸塩標準溶液:フタル酸水素カリウム0.05 mol kg−1水溶液
- リン酸塩標準溶液(1):リン酸二水素カリウム0.025 molおよびリン酸水素二ナトリウム0.025 molを水1 kgに溶解
- リン酸塩標準溶液(2):リン酸二水素カリウム0.08695 molおよびリン酸水素二ナトリウム0.03043 molを水1 kgに溶解
- ホウ酸塩標準溶液:四ホウ酸ナトリウム十水和物(ホウ砂)0.01 molを水1 kgに溶解
温度/℃ | 酒石酸塩 | フタル酸塩 | リン酸塩(1) | リン酸塩(2) | ホウ酸塩 |
---|---|---|---|---|---|
0 | 4.003 | 6.984 | 7.534 | 9.464 | |
5 | 3.999 | 6.951 | 7.500 | 9.395 | |
10 | 3.998 | 6.923 | 7.472 | 9.332 | |
15 | 3.999 | 6.900 | 7.448 | 9.276 | |
20 | 4.002 | 6.881 | 7.429 | 9.225 | |
25 | 3.557 | 4.008 | 6.865 | 7.418 | 9.180 |
30 | 3.552 | 4.015 | 6.853 | 7.400 | 9.139 |
35 | 3.549 | 4.042 | 6.844 | 7.389 | 9.102 |
38 | 3.548 | 4.030 | 6.840 | 7.384 | 9.081 |
40 | 3.547 | 4.035 | 6.838 | 7.380 | 9.068 |
45 | 3.547 | 4.047 | 6.834 | 7.373 | 9.038 |
50 | 3.549 | 4.060 | 6.833 | 7.367 | 9.011 |
55 | 3.554 | 4.075 | 6.834 | 8.985 | |
60 | 3.560 | 4.091 | 6.836 | 8.962 | |
65 | 4.108 | 6.840 | 8.942 | ||
70 | 3.580 | 4.126 | 6.845 | 8.921 | |
75 | 4.145 | 6.852 | 8.903 | ||
80 | 3.609 | 4.164 | 6.859 | 8.885 | |
85 | 4.184 | 6.868 | 8.867 | ||
90 | 3.650 | 4.205 | 6.877 | 8.850 | |
95 | 3.674 | 4.227 | 6.886 | 8.833 |
試料測定前にこれらの一次標準溶液を用いてpHメーターの校正を行う。校正は中性付近のリン酸塩標準溶液および酸性側のフタル酸塩標準溶液または塩基性側のホウ酸塩標準溶液を用いて二点、あるいは三点で行う。
脚注
関連項目
外部リンク
- pH (英語) - Encyclopedia of Earth「水素イオン指数」の項目。