屋根

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ドイツマイセンの屋根
萱葺き屋根(白川郷・五箇山の合掌造り集落
入母屋の屋根(粟津天満神社。兵庫県加古川市
造作中の民家の屋根。垂木構造がよく分かる。

屋根やね、: roofは、建物などの居住空間の上部を覆う構造物。住宅などの建物の場合、屋根は床や外壁などとともに居住空間を包む外周部(外皮)の一部である[1]

屋根の機能

屋根には次のような機能があり、屋根材には様々な性能が求められる[1]。屋根材は自重が軽いもののほうが建物には良いとされている[1]

  • 耐震性 - 地震で容易に脱落せず下地に固定されていること[1]。一般に軽い屋根材の方が地震に強いとされる[1]
  • 耐候性 - 太陽光、風雨、気温変化による腐食や変質が少ないこと[1]
  • 防火性 - 火災時の飛び火によって容易に引火せず、輻射熱による自燃が起きないこと[1]
  • 耐風性 - 地域、場所、高さに応じた強風に耐えること[1]
  • 耐食性(耐薬品性) - 潮風や汚染大気、酸性雨などによる腐食がないこと[1]
  • 遮音性 - 外部騒音を伝えず屋根材自体も音を発生させないこと[1]
  • 耐熱性(断熱性) - 夏季でも日射による熱に耐えること[1]
  • 耐寒性(耐凍害性) - 冬季でも寒気、放射冷却、すがもれ(屋根で再凍結した雪などで排水が妨げられ屋根材の隙間から水が漏れる現象)に耐えること[1]
  • 耐衝撃性 - 飛来物による衝撃や屋根上での人間の作業で損傷しないこと[1]
  • 施工補修性 - 施工や修理が容易であること[1]
  • 経済性 - 材料費のほか施工やメンテナンス費用が低廉であること[1]

このほか美観について色調や質感が良いことも挙げられる[1]

屋根の形状

基本的分類

屋根は住宅を作って風雨を避けるために工夫されたもので古今東西を通じて類似したものがみられる[2]

建築家の長野宇平治は数種の屋根の分類を行い、線によって直線形、曲線形、複曲線形、円形の4種類に分類し、形によって切妻、寄棟、四阿、入母屋、方錐、円錐、円屋根、宝珠形の8種類に分類した[2]。また、地理学者の藤田元春は屋根の形状を、1.片流れ、2.招造、3.切妻、4.方形(宝形、方錐)、5.寄棟、6.片入母屋、7.入母屋、8.円錐、9.円屋根に分類し、世界に存するあらゆる屋根はこれらに分類できるとした[2]

片流れ

片流れは屋根の一方へのみ傾斜している屋根で、特に傾斜が20度以内のものを大陸屋根という[2]

切妻

屋根の最頂部の棟から本を伏せたような二つの傾斜面の山形の形状をした屋根[3]。原始的な住宅では片流れの構造を両側に組み合わせて地上に三角形の空間を作っていた(天地根元造)[2]。これに四本柱を付けて屋根を地上から高くしたものを切妻という[2]

宝形

寺院などに多い形式で隅棟からの線がすべて屋根の頂点に集まる形式の屋根[3]

寄棟

屋根の最上部(大棟)から四方向に傾斜する形式の屋根[3]

入母屋

上部を切妻屋根で下部は四方に傾斜する形式の屋根[3]

各種の屋根

神結酒造工場の鋸屋根(兵庫県加東市下滝野)
  • 陸(ろく)屋根
  • ギャンブレル屋根(腰折れ)
  • マンサード屋根
  • 錣屋根
  • 鋸屋根(工場などにみられる)
  • M型屋根
  • バタフライ(軒または外壁で屋根部の外周を覆う、スノーダクト方式の無落雪屋根がこの形状。日本の大手ハウスメーカーがこぞって採用している屋根であり、寒冷地に限っては代表的な屋根形状のひとつ)
  • ドーム(丸屋根)
  • 尖塔
  • ヴォールト
  • オージー
  • 半切妻屋根(ドイツ屋根)
  • 越屋根 - 換気、採光などの目的で屋根の上に小規模な屋根と屋舎を設けたもの
  • 差掛屋根

屋根の材料

屋根材

屋根材には粘土瓦、化粧スレート、金属板、アスファルトシングルなどがある[1]

植物由来

鉱物由来・窯業製品

  • 石を板状に加工した材料(スレート):天然スレート葺き(雄勝石大谷石笏谷石など)
  • (粘土瓦とセメント瓦に大別される):瓦葺き
  • 石綿の混合物を成型した材料:石綿スレート葺きなど
  • 化粧スレート - セメント・ケイ酸質原料などの混合物を成型・着色した材料:化粧スレート葺き

金属材料

金属で葺いた屋根を、特に金属屋根として区分することがある

その他の材料

  • アスファルトシングル - グラスウールなどにスレートアスファルトを含漬させ、その表面に着色した砂を吹き付けたもの
  • 膜構造 - 東京ドームなど
  • FRP

下葺材

下葺材(防水材)には不透湿性のアスファルトルーフィングと透湿性ルーフィングがある[1]

屋根の構造

建物の外周部(外皮)の構造は建物によって異なり、倉庫や工場の屋根は屋根材一枚の場合もあるが、木造住宅の屋根は内側に天井が張られていることが多く、その中間に下地材や断熱材があるのが普通である[1]

各地域にみられる特徴

煉瓦造家屋の小屋組(チェコ

中東など降水量の少ない地域では、古くから木の枝に土をかぶせただけの簡易な陸屋根が用いられた。一方で、降雨の頻繁な地域では排水に有利な傾斜を持つ屋根が利用された。その形状の主流は切妻と寄棟であり、日本を含む東アジアではそれを組み合わせた入母屋が最も高い格式を持つとされた。

傾斜を持つ屋根は、木造の柱と横架材で小屋組を構成して作られる。西洋では、耐火などの理由で外壁が煉瓦造や石造である場合でも、屋根の小屋組は木造で組まれることが一般的である。一方で、ゴシック建築に見られる壮大な教会堂や宮殿などでは大広間などの空間を実現するために、アーチ構造を組み合わせたドームやヴォールトが利用された。西洋の上級建築においては重厚感あふれる石造が好まれたが、組積造のみで屋根を構築する場合はアーチの利用は不可欠である。

台風やハリケーンの多い地域(東アジア、東南アジア、アメリカ・メキシコ東海岸、メキシコ西海岸など)と少ない地域(ヨーロッパなど)では屋根の軒の出に違いがあり、ヨーロッパでは雨水の浸入リスクが小さいため軒の出が短く、日本では梅雨や台風の季節があるため軒の出が長い(ただし雨水侵入対策をしている軒ゼロ住宅も出てきている)[1]

現代建築において、鉄筋コンクリート造ラーメン構造では柱と梁で屋根スラブを支えて陸屋根を構築する。

日本の伝統的な形状

入母屋造

日本の伝統的建築は、その殆どが勾配屋根である。それは雨の多い気候風土によるものである。勾配は屋根材により異なるが一般的に瓦で4.5-5寸程度が普通勾配と呼ばれている。形状には以下のようなものがある。

  • 切妻造 - 伝統的に西日本に多く見られ古代「真屋」と呼ばれ、西日本ではスタンダードな形状とされた。
  • 寄棟造 - 伝統的に東日本に多く見られ古代「東屋」と呼ばれ、東日本ではスタンダードな形状だったようである。古代中国でも、格式のある形状とみなされた。
  • しころ入母屋造 - 中世以降はこの形状がわりと格式あるものとみなされたようである。
  • 宝形造 - 宝形造は寺社建築に見られる。

などがある。

屋根の曲面形状は、その凹凸によって「そり(反り)」と「むくり (起り)」に分類される。「そり」は下方に凸となったもの、「むくり」は上方に凸となったものである。そりに比べてむくりは使われることが少ないが、数奇屋建築にはむくり屋根が好んで使われ、桂離宮などはその好例である。

屋根の勾配

屋根の勾配は大きいほど雨漏りを防ぐことができ防水性は高まるが、施工や改修の費用が高くなり安全性も低くなる[1]。また、屋根の勾配が大きいと風圧による影響が大きくなる[1]

付帯の設備

屋根には落雪防止の設備(雪止め付きの瓦、雪止めの網や金具)や点検用の設備(フック吊具など)が設けられることがある[1]

開閉式屋根

スタジアムには開閉式屋根を持つものもある。蛇腹式[4]、立面円弧状など。左右をつなぐ梁がある場合もある[5]

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w 第2編 住まい手向け 長持ち住宅ガイドライン 国土技術政策総合研究所、2020年12月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 藤田元春「屋根概説 一」地球第5巻第5号 京都大学、2020年12月20日閲覧。
  3. ^ a b c d 今回登録の物件概要 新潟県、2020年12月20日閲覧。
  4. ^ 「豊スタ」屋根、開けっ放しに 中日新聞女性向けサイト:オピ・リーナ、2014年12月16日
  5. ^ 新国立競技場の可動屋根 - i+i 設計事務所

関連項目

外部リンク