仕様

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。RedBot (会話 | 投稿記録) による 2012年6月2日 (土) 22:18個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (r2.7.2) (ロボットによる 変更: ca:Especificació)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

仕様(しよう、: Specification)とは、材料・製品・サービスが明確に満たさなければならない要求事項の集まりである[1]。仕様を記述した文書を仕様書と呼ぶ。素材・製品・サービスが適用可能な仕様を満たさない場合、規格外 (out of specification) とされる[2]。これを英語では "OOS" と略記することがある[3]

技術仕様は例えば企業や規制団体や軍事組織によって私的に開発されることもあるが、標準化団体が開発することもあり、より広範囲な入力から随意の工業規格として開発するのが一般的である(随意の工業規格を政府やビジネス契約で採用すれば、義務的なものになることもある)。

「仕様」という用語はデータシート(あるいはスペックシート)の意味で使われることがある。データシートは製品などの技術的特性を説明するテクニカルコミュニケーションの手段として使われるものである。製造業者が顧客の製品選択の際の補助として提供したりする。データシートは厳密には仕様ではない。

仕様の使用

工学製造業ビジネスにおいて、材料・製品・サービスの供給業者、購入者、ユーザーが全ての要求仕様について理解し合意することは重要である。仕様は一種の工業規格であり、契約書や調達書で参照されることが多い。特定の要求仕様についての必要とされる詳細を提供する。

仕様は政府機関、標準化団体(ASTMISOCENDoDなど)、業界団体、企業、その他が書くことがある。

製品仕様は、その製品が正しいことを証明する必要はない。ある製品がある仕様に準拠しているからといって、その製品が特定用途に適していることを示しているわけではない。それを使用する人々(技術者、職種別組合など)やそれを指定する人々(建築基準法、政府、業界など)は、利用可能な仕様群を検討し、その中から正しいものを選択し、それを正しく使用する責任を負う。すなわち、適合性の妥当性検証が必要である。

米国連邦仕様の一例として、FIPS-PUB 159 Detail Specification for 62.5-μm Core Diameter/125-μm Cladding Diameter Class Ia Multimode Optical Fibers がある(Federal Standard 1037C および MIL-STD-188 より)。

仕様の内容

よい仕様書を書くための標準手続きや書式、あるいはガイドが利用可能になっている場合もある[4][5][6][7]。仕様には以下のような内容が含まれる。

  • 説明的表題と仕様の範囲、仕様を識別するための番号
  • 最新版の発効日と改版履歴
  • その文書の著作権所有権・出所を明示するためのロゴタイプまたは商標[8]
  • 文書が長い場合は目次をつける。
  • その仕様の更新や変更に責任を持つ人物・オフィス・機関
  • 仕様とその用途の重要性
  • 使われている用語や略語の定義(仕様の内容を明確化するため)[9][10]
  • 記述されている特性すべてについての検査手法
  • 物質的な要求仕様: 物理的、機械的、電気的、化学的など。目標値と許容差
  • 機能的な要求仕様: 目標値と許容誤差
  • 図面写真テクニカルイラストレーション
  • 製造方法
  • 必要とされる認証
  • 安全性についての考慮と要求仕様
  • 環境についての考慮と要求仕様
  • 品質についての要求仕様。標本調査、検査、受け入れ基準
  • その仕様の施行に責任を持つ人物・オフィス・機関
  • 完了と出荷
  • 不合格、再検査、再審査、是正措置への用意
  • 出典と参考文献。文書を明確化し内容の確認を容易にするため[10][11][12]
  • 承認者の署名または捺印(必要ならば)
  • 改版の際には必要に応じて改版によって変更された部分がわかるよう印をつけたりする[13]
  • 付録(詳細化したり、オプションを提示したり、さらなる明確化をする場合)[13]

工程能力との関係

工学仕様自体がよいものであっても、その仕様にしたがっている製品が必ずしも仕様に指定されている目標値と許容差を満足しているとは限らない。どのような素材・製品・サービスでも、実際に生産されるものには固有のばらつきがある。正規分布では、生産時の平均の上下3σをはるかに越えたものも生産されうる。

材料や製品の工程能力は、指定された工学的許容差と互換である必要がある。生産において許容誤差を一定範囲内に保つには、プロセス制御が必須であり、TQMのような効率的品質管理システムが必要である。

仕様が有益であるためには、その効果的な強制が必要である。

北米での建築仕様

北米では建築の際の契約書の一部として建築仕様が存在する。そのガイドとなる主文書は National MasterFormat である。これは、以下の2つの専門団体が共同で後援する文書である。

「仕様は図面に優先する」という考え方があるため、仕様文書と図面に食い違いがあると、仕様が正しいとされる傾向がある。実際にはこれらは相補的であり、どちらが優先するというものではない。

仕様は、建築作業の大まかな分類に従って約50の Division に分けられる。Divison はさらに個々の作業ごとに Section に分けられる。例えば、防火仕切りは Section 078400 - Firestopping に対応する。これは、Division 7 の一部であり、Division 7 は Thermal and Moisture Protection(熱および湿気対策)である。Division 7 には他に外装や耐火作業が書かれる。各 Section はさらに General、Products、Execution の3節に分かれる。National MasterFormat は北米での多くの建築に適用されるが、例外もある。

建築仕様は、達成すべき性能だけを記述するだけの場合や、許容される特定製品・ベンダー・業者を列挙するだけの場合もある。

北米の建築仕様は概要的だが、ヨーロッパでは量的な記述も含まれ、例えば石膏ボード面積を平方メートル単位で指定したり、部品表のようなものを添えたりする。

食品と医薬品の仕様

医薬品は一般に各種薬局方によってテストされる。薬局方には以下のようなものがある。

これらの規格でカバーされない医薬品がある場合、他の国や業界の薬局方で評価されるか、以下のような標準の処方集で評価される。

  • 英国医療用医薬品集小児版(en)
  • 英国医療用医薬品集(en)
  • 国民医薬品集(en)

食品製造も同様のアプローチであり、国際食品規格委員会が最上位の規格を策定し、各地域や国がそれに従った規格を策定している[14]

ISOによる食品および医薬品の規格は、今のところあまり成果はなく、地域や国ごとの厳しい制限があるため(HACCPなど)、緊急の課題とされるに至っていない。

製法や品質についての内部的な仕様も存在する。仕様や規格は食品医薬品だけでなく、機械品質プロセス、包装物流コールドチェーン)などにも存在する。例えば ISO 14134[15] や ISO 15609[16] がある。

ソフトウェア開発

形式仕様

形式仕様は、ソフトウェアハードウェア数学的に記述したもので、何らかの実装の開発に使われる。それはシステムが何をすべきかを記述したもので、それをどう実現するかは記述する必要はない。システムの設計が形式仕様に照らして正しいかどうかの形式的検証に使われたりする。これには、工程が先に進む前に正しくない設計を改良できるという利点がある。代替手法としては、仕様から設計への変換、および特に実際の実装への変換に際して、詳細化を行う手法がある。

プログラム仕様

プログラム仕様は、プログラムがすべきことを定義したものである。「非形式的」な仕様記述の場合、開発者から見ればそれは青写真またはユーザーマニュアルのようなもので、「形式的」であれば、数学的またはプログラム的に定義された明確な意味を持つ。実際、ほとんどの成功した仕様は、既存の安定したアプリケーションを理解し保守するために書かれたものである。ただし、安全性が重視されるソフトウェアシステムでは、アプリケーション開発に先駆けて仕様を慎重に書くことがある。仕様は、安定して存続すべき外部インタフェースのためにも非常に重要である。

機能仕様

ソフトウェア開発における機能仕様は、プログラムや大規模なソフトウェアシステムの振る舞いを記述した文書群である。一般に、そのソフトウェアへの各種入力を記述し、それぞれに対してシステムがどのように反応するかを記述する。

Webサービス仕様

Webサービス仕様は、品質マネジメントシステムに基づいていることが多い[17]

文書仕様

文書仕様とは、特定の文書をどういう内容でどのように書くべきかを定義するもので、文書の命名体系、バージョン、レイアウト、参照、構造、外観、言語、著作権、階層、書式といったことなどを定めている[18][19]。この種の仕様書は補足としてテンプレートを明示していることが多い[20][21][22]

脚注・出典

  1. ^ ASTMの定義
  2. ^ “out of spec”. BusinessDictionary.com (online ed.). WebFinance. OCLC 316869803. http://www.businessdictionary.com/definition/out-of-spec.html 
  3. ^ Center for Drug Evaluation and Research (October 2006) (PDF). Guidance for Industry:Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production. Food and Drug Administration 
  4. ^ N/A. “SOP-Template for Project Specification”. 2009年6月15日閲覧。
  5. ^ Stout, Peter. “Equipment Specification Writing Guide”. 2009年6月15日閲覧。
  6. ^ N/A. “A Guide to Writing Specifications”. 2009年6月15日閲覧。
  7. ^ Defense and Program-Unique Specifications Format and Content” (pdf). US Dept. of Defense (2008年4月2日). 2010年9月16日閲覧。
  8. ^ International Organization for Standardization. “01.080.01: Graphical symbols in general”. 2009年6月10日閲覧。
  9. ^ International Organization for Standardization. “ISO 10209”. 2009年6月10日閲覧。
  10. ^ a b International Organization for Standardization. “ISO 832:1994 Information and documentation -- Bibliographic description and references -- Rules for the abbreviation of bibliographic terms”. 2009年6月10日閲覧。
  11. ^ ISO 690
  12. ^ International Organization for Standardization. “ISO 12615:2004 Bibliographic references and source identifiers for terminology work”. 2009年6月10日閲覧。
  13. ^ a b IEEE. “PDF Specification for IEEE Xplore”. 2009年3月27日閲覧。
  14. ^ Food Standards Australia New Zealand. “Australia New Zealand Food Standards Code”. 2008年4月6日閲覧。
  15. ^ International Organization for Standardization. “ISO 14134:2006 Optics and optical instruments -- Specifications for astronomical telescopes”. 2009年3月27日閲覧。
  16. ^ International Organization for Standardization. “ISO 15609:2004 Specification and qualification of welding procedures for metallic materials -- Welding procedure specification”. 2009年3月27日閲覧。
  17. ^ Stefanovic, Miladin et al.; Matijević, Milan; Erić, Milan; Simic, Visnja (2009). “Method of design and specification of web services based on quality system documentation”. Information Systems Frontiers 11 (1): 75–86. doi:10.1007/s10796-008-9143-y. 
  18. ^ Biodiversity Information Standards. “TDWG Standards Documentation Specification”. 2009年6月14日閲覧。
  19. ^ International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use. “ICH M2 EWG - Electronic Common Technical Document Specification”. 2009年6月14日閲覧。
  20. ^ Delaney, Declan; Stephen Brown. “Document Templates for Student Projects in Software Engineering”. 2009年6月14日閲覧。
  21. ^ N/A. “Laser Safety Standard Operating Procedure”. 2009年6月14日閲覧。
  22. ^ The University of Toledo. “Sample Standard Operating Procedure Requirements for BSL2 Containment”. 2009年6月14日閲覧。

参考文献

  • Pyzdek, T, "Quality Engineering Handbook", 2003, ISBN 0824746147
  • Godfrey, A. B., "Juran's Quality Handbook", 1999, ISBN 007034003X
  • "Specifications for the Chemical And Process Industries", 1996, ASQ Quality Press, ISBN 0-87389-351-4
  • ASTM E29-06b Standard Practice for Using Significant Digits in Test Data to Determine Conformance with Specifications

関連項目

外部リンク