レモンマートル

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レモンマートル
レモンマートル
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: フトモモ目 Myrtles
: フトモモ科 Myrtaceae
: バクホウシア属 Backhousia
: B. citriodora
学名
Backhousia citriodora
F. Muell
和名
レモンマートル
英名
lemon myrtle

レモンマートルフトモモ科バクホウシア属の植物で、オーストラリアクイーンズランド州亜熱帯多雨林に自生する。

成長

高さは20mにも及ぶが、それより小さい事も少なくない。常緑の対称形で、長さ5-12cm、幅1.5-2.5cm、光沢のある緑色の全縁である。は乳白色で、直径5-7mm、夏から秋にかけて枝先にクラスタを形成し、萼から花びらが落ちた後も存続し続ける。

語源

レモンマートルは1853年にイギリスの植物学者 ジェイムズ・バックハウス(en:James Backhouse)にちなんで、Backhousia citriodora という学名を与えられた。一般名称レモンマートルは破砕した葉の強いレモンの香りに由来する。

レモンマートルはしばしばレモンユーカリ樹("lemon ironbark"; Eucalyptus staigeriana)と混同される。

精油

レモンマートルは2種の化学的精油成分を含む。

  • 主要な成分のシトラールは非常に一般的であり、香味料精油としてオーストラリアで栽培される。シトラールは水蒸気蒸留により、レモンマートルの新鮮な葉から1-3%の収率で、概ね90-98%の油分を単離できる。これは自然界に由来するシトラールとしては非常に高い。
  • 比較的少ない成分のシトロネラールには除虫効果がある[1]

利用

オーストラリア先住民のアボリジニは永きに渡り、レモンマートルを料理と薬草のいずれにも用いてきた。オイルにはレモングラスを超える高純度のシトラールが含まれ、レモングラスアオモジ(Litsea cubeba)以上の強い清涼感の芳香を有する[2]

料理

レモンマートルを用いたハーブティーの例[3]

レモンマートルは既知のブッシュ・タッカーの香料として、しばしば“レモンハーブの女王”として用いられ、その新芽には甘味もある[4]。葉は乾燥して砕いて用いるか、或いはカプセルにして芳香を長持ちさせる。砕いたレモンマートルはショートブレッドパスタ焼き魚マカダミアドレッシングなどに用いられる。また、レモン果汁では問題となる酸味について考慮しなくて良い為、乳製品の着香として、チーズケーキアイスクリームシャーベットにも用いられる。

抗菌性

レモンマートルの精油には抗菌性がある。希釈しない油は体外でヒト細胞にも毒性が確認されている[5]。およそ1%に希釈すれば、肌とその内部へ浸透する事によるダメージは小さくなる[6]。レモンマートル油は水イボの処置にも用いられ、伝染性疾患の子供、免疫障害患者について調査された。9人の16歳の患者に10%の強さのレモンマートル油を浴びせたところ、制御しなかったグループに比べ、改善の兆候が見られた[7]。この油は一般的な健康増進と清浄製品の原料として、特に石鹸、ローション、シャンプーに用いられる。

栽培

レモンマートルは観葉植物として栽培される。熱帯の温暖な地で育ち、寒冷な土地では若いうちは寒さから保護する必要がある。5メートルを超え、密集した林冠を形成する。園芸家たちは木に咲く花や葉から漂うレモン香を楽しむ。レモンマートルは丈夫な植物で、土壌の水分の欠乏に耐えられる。成長はゆっくりだが、次第によい土壌を作る。

レモンマートルの苗木は低木で、幹が聳え立つまではゆっくりと育つ。成長したならば切断する。切断して増やされたものは商業製品として用いられる。

プランテーションにおいては一般的な農作物としては上と横をメンテナンスし常に低木となる様に栽培される。商業的プランテーションにおいては機械化されている。樹木の健康の為にも枝を低く保つ事は重要である。収穫された葉は乾燥され、香辛料として、または蒸留して精油にする。

商業的なレモンマートルは主にオーストラリアのクイーンズランド州ニューサウスウェールズ州の北の海岸で育てられる。

レモンマートル利用の歴史

  • 1788年以前 - アボリジニによりレモンマートルが香料及び薬として用いられる。
  • 1853年 - 植物学者のフェルディナント・フォン・ミュラー (Ferdinand von Mueller)により学名を Backhousia citriodora と名付けられた。属名は友人であったクエーカー教徒の伝道者にして植物学者であるJames Backhouseに由来する。
  • 1888年 – バートラム(Bertram)らがレモンマートル油からシトラールを単離[8]
  • 1900年代-1920年代 - クイーンズランドのユーマンディでレモンマートルの蒸留が小規模で商業的に行われる。
  • 1920年代 – シドニーのTechnological MuseumのA.R.ペンフォールド(A.R.Penfold)、R.グラント(R.Grant)らにより、レモンマートル油の水蒸気蒸留が行われ、抗菌性が解明される。
  • 1940年代 – 第二次世界大戦の間、タラックス社(Tarax Co.)がレモンマートル油をレモン香料として用いる。
  • 1950年代 - JR・アーチボルトによりクイーンズランドのミリアムバール(en:Miriam Vale, Queensland)とマリーボロー(en:Maryborough, Queensland)の低木の領域において幾許かの油製品が出荷されるも[9]、小規模な工業は緩やかに衰退した。
  • 1989年 – ウォロンバー農業試験場(Wollongbar Agricultural Institute)のエッセンシャルオイル部門のイアン・サウスウェル博士(Dr.Ian Southwell)の研究室と大自然食品株式会社(Wildnerness Foods Pty Ltd)のペーター・ハードウィック(en:Peter Hardwick)によるレモンマートルのガスクロマトグラフィー分析により、レモンマートルの香辛料と商業価値が解明される。
  • 1990年 – ラッセル(Russel)とシャロン・コスティン(Sharon Costin)によるリンピンウッド庭園(Limpinwood Gardens)と奥地食事供給株式会社(Bush Tucker Supply Pty Ltd)のヴィク・チェリコフ(Vic Cherikoff)により、飲食店と食品製造業者にレモンマートルが乾燥した葉として供給される。
  • 1991年 – トーナ・エッセンシャルオイル株式会社(Toona Essential Oils Pty Ltd)のデニス・アーチャー(Dennis Archer)とローズマリー・カレン-アーチャー(Rosemary Cullen-Archer)によりレモンマートルのプランテーションが開始される。1993年にはレモンマートル油がプランテーション製品として商業的に供給された。
  • 1997年 – クイーンズランドの北でオーストラリア天然レモンマートル株式会社(Australian Native Lemon Myrtle Ltd.)によりレモンマートルの大規模プランテーションが開始される。
  • 1990年代以降 – 国際的な枠組みによる香料、化粧品、抗菌剤製品のレモンマートルの供給が開始され、手軽にレモンマートル製品が入手できるようになる。
  • 2004年 – トーナ・エッセンシャルオイル株式会社によりレモンマートルに関するの研究論文がまとめられる。
  • 2008年 - レモンマートルがロンドンで売れていると著名なテレビ番組の『Pukka』に取り上げられた。

脚注

  1. ^ Doran, J.C., Brophy, J.J., Lassak, E.V., A. P. N. House, Backhousia citriodora F. Muell. - Rediscovery and chemical characterization of the L-citronellal form and aspects of its breeding system, Flavour and Fragrance Journal, Volume 16 Issue 5, Pages 325 - 328, 20 Jul 2001. [1]
  2. ^ The Aromatic Plant Project [2]
  3. ^ 写真は株式会社ルピシア(LUPICIA Co., Ltd.)が日本国内で2009年現在販売するハーブティー"9504 GINGER & LEMON MYRTLE"の茶乾。砕かれた緑色の葉がレモンマートル、ベースはハニーブッシュとルイボスのハーブティー、白い塊は生姜である。
  4. ^ The Cook and the Chef, ABC TV. [3]
  5. ^ Hayes AJ, Markovic B. "Toxicity of Australian essential oil Backhousia citriodora (Lemon myrtle). Part 1. Antimicrobial activity and in vitro cytotoxicity." Food Chem Toxicol. 40(4):535-43 (2002). PubMed abstract
  6. ^ Hayes AJ, Markovic B. "Toxicity of Australian essential oil Backhousia citriodora (lemon myrtle). Part 2. Absorption and histopathology following application to human skin." Food Chem Toxicol. 41(10):1409-16 (2003). PubMed abstract
  7. ^ Burke BE, Baillie JE, Olson RD. "Essential oil of Australian lemon myrtle (Backhousia citriodora) in the treatment of molluscum contagiosum in children." Biomed Pharmacother. 58(4):245-7 (2004). PubMed abstract, CATIE summary
  8. ^ Simonsen, J. L. (Second Ed., 1953). The Terpenes, Vol. I. Cambridge University Press. pp. 83–100 
  9. ^ Rainforest fragrances.[4]

参考

関連項目

外部リンク