リステッド競走

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リステッド競走英語: Listed races、リステッドきょうそう)は競馬の競走の国際的な分類のひとつ。1970年代にヨーロッパで制定、パターン競走のうち下位のものを中心にリステッド競走として分類した。日本ではこれに準重賞の訳語が与えられることもあった。

2019年から日本中央競馬会は新たな格付け表記として「リステッド競走」を導入した。これは「グレード競走に次ぐ重要な競走[1]」「特別競走の中でも競走体系上重賞競走に次ぐ重要なレース[2]」と位置づけられ、オープン競走の一部が指定された。

世界のリステッド競走制度

20世紀中頃まで、世界の競馬開催地では、国や地域、あるいは国際的な規模での競走の体系化は行われておらず、国ごと・地域ごとに古典的・伝統的な競走が「無計画な組み合わせ」で実施されていた[3]

1943年からイギリス国内での競走体系の再編が議論されるようになり、1960年代にはこれが発展して競馬パターン委員会が発足した。さらに1970年にイギリスアイルランドフランスの競馬統括機関により、国際的な競走体系制度としてグループ制度(Group System)が創設された[3]。グループ制度は1970年代にヨーロッパで急速に広まり、イタリアドイツも参加した[3]アメリカ合衆国でもほぼ同様のグレード制度(Grade System)が制定された。これは格上から順に「グレード1」(Grade1)・「グレード2」・「グレード3」という術語を用いる以外はヨーロッパの「グループ制度」とほぼ同等である。

この制度は、毎年行われる競走(パターン競走)を4ランクに分類する。最上級のカテゴリーは「グループ1」(Group One)と呼ばれ、各国のクラシック競走凱旋門賞キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスなど、主要な国際馬齢重量の競走とされる。「グループ2」(Group Two)はこれにグループ1に準ずるもの、「グループ3」(Group Three)はクラシック競走のトライアル競走などによって構成することとなった[3]

これら3ランクに次ぐ4番目のカテゴリーとして定められたのがリステッド競走Listed races)である。このカテゴリーは「グループ競走基準以下の良馬のため」のものと位置づけられた[3][注 1]。グループ1からグループ3までの格付けは国際間の協議により定められるが、リステッド競走はその国で独自に定められるとした[3]

グループ制・グレード制は、競馬の国際化が急速にすすむなかで、国や大陸の垣根を超えての競走馬の遠征や売買を円滑にするために用いられる。理論上、ヨーロッパの「グループ1」も、アメリカ合衆国の「グレード1」も、南米の「グレード1」も、等しい価値を持っているということになっている。

JRAのリステッド競走

リステッド競走の「導入」

日本中央競馬会(JRA)は2019年から、新たな格付けとして「リステッド競走」を導入した。JRAのリステッド競走は、「グレード競走に次ぐ重要な競走」「オープン特別競走の中で質の高い競走」として一部を指定したものである。指定を受けた競走には、名称(「○○ステークス」等)の後ろに "(L)"を付与して表記される[4]

従前は、「オープン競走」のなかでもトップクラスの階級として「GI」「GII」「GIII」を定め、この3ランクを「重賞競走(グレード競走)」としてきた。これ以外のオープン競走のあいだには格付けの差がなかったが、「リステッド競走」の導入によって、オープン競走は「グレード競走」「リステッド競走」「それ以外」の3ランクに格付けされることとなる[5][注 2]

実際のところ、2007年に日本がパート1国に昇格して以来、国際的には既に日本国内の競走にはG1・G2・G3・Lの格付が与えられていた。しかしJRAは日本国内のファン向けにはリステッド競走の概念を公表していなかった[6][注 3]

リステッド競走とJRAのレース体系

この格付は日本グレード格付け管理委員会によって定められる[4]。その基準となるのは、過去3年間のレースレーティング(R.R.)の平均値が100以上(2歳戦と牝馬限定戦は95以上)であることとなっている[6]。これが3年の平均値が97を下回るとリステッド格付を自動的に失う[6]

2018年の時点で、この基準をクリアする競走はJRAのオープン特別競走のなかでも100以上ある[6]。しかしJRAは、その全てをリステッド格付とするのではなく[6]、導入1年目となる2019年は63競走を「リステッド競走」に格付けした[7]。これはJRAが興行上の効果をねらって意図的に取捨選択したものである[6]。たとえば3歳戦の芝の競走はすべてリステッド競走としている。逆に、サマー2000シリーズに強い馬が集まるように、夏場のオープン競走で高いレートがある競走でもリステッド競走に指定していない[6]

これにはJRAが2019年に実施する競走馬の階級分けの制度の変更が関係している[6]。この体系変更では競走馬の「降級制度」が廃止されるため、オープン級に入る競走馬が増加することになる。そうするとオープン級の競走馬のなかで出走機会を失うものが増えることが予想されるため、オープン級の競走のなかに「上位オープン」としてのリステッド競走と、そうでないオープン競走をつくることで、各馬の実力に見合った出走機会の選択肢を提供しようというものである[6]

オープンクラス以上の競走馬の序列づけに用いる「収得賞金」と呼ばれる独自の計算値(単純な賞金総額とは異なる計算方式によって算出される)があり、「リステッド競走」の勝馬はただの「オープン競走」と較べて200万円多く「収得賞金」が加算されることになった[7]

略記号

国際セリ名簿基準委員会(ICSC)は、世界各国の競走の格付けをまとめた「インターナショナル・カタロギング・スタンダード・ブック」(International Cataloguing Standards Book)を管理している。これは通称「ブルーブック」と呼ばれている。

L

リステッド・レース(Listed races、リステッド競走)」は、略記号として「L」が用いられる。

R

リストリクテッド・レース(Restricted race、制限された競走)」のこと。略記号は「R」。

ICSCは競走の国際的格付けする上で、原則としてその競走の出走条件は「性別」と「馬齢」以外の制限を設けてはいけないこととしている。たとえば生産国、生産地、調教国、血統や所属、取引様態、獲得賞金や勝利数などの条件で出走できるかどうか制約のある競走は、基本的にG格付け対象外である。ただしパートI国のうち、北米など、地域によってはこうした競走を「リストリクテッド・レース」と称することが認められており「R」の略称表記が行われる。

LR

リステッド・リストリクテッド・レース(Listed Restricted race:制限されたリステッド競走)」のこと。略記号は「LR[8][注 4]

「リストリクテッド・レース」(R)に該当するも、ブルーブックやセリ名簿への記載が認められている競走のこと[8]

日本国内では、中央競馬や地方競馬で行われる競走のうち、生産国や所属などの制限によって正式G表記が行えず、独自に「JpnI」などの格付け表記を行っている競走には、国際的にはこの格付が与えられている[8]。ただし、2010年までICSCは、日本国内の競走を「L」と「LR」に区別せず、「L」表記のみ行ってきた[8]。2011年からは「LR」と「L」が区別されている[8]

例えば、外国調教馬や地方競馬所属馬が出走可能な2018年のアンドロメダステークス(京都競馬場(国際)(特指))は「L」(リステッド)格付けが与えられている。一方、外国調教馬の出走ができない2018年のアネモネステークス中山競馬場)は「LR」(リステッド・リストリクテッド)格付けが与えられている。どちらの競走も、主催者であるJRAは「オープン特別(OP)」として施行していた。なお後者は2019年より外国調教馬の出走を可能としたうえで「L」(リステッド)格付けを与えている。

同じ2018年にJRAの京都競馬場で行われたJBCクラシックJBCスプリントJBCレディスクラシックの3競走は、国内向けには「JpnI」表記で行われた。この3競走も「ブルーブック」上は「L」(リステッド競走)に格付けされている[8][9]

地方競馬にて施行されるJpn表記の重賞競走はほぼすべて「LR」格付となっている。なお、2010年のジャパンダートダービー大井競馬場)は外国調教馬の出走はできないため国内的には「JpnI」格付けで実施されているが、「ブルーブック」では「L」格付けが行われていた[10]。しかし2011年以降は「LR」格付け表記になっている[8][9]。数少ない例外として、全日本2歳優駿(JpnI)は2017年まで「LR」格付けであったが、2018年以降国際競走として施行されるようになり、「L」格付けに変更となっている。

脚注

注釈

  1. ^ ただし必ずしも、「グループ3の競走よりもL競走のほうが格下だ」とは決めつけられない。出走条件として馬齢・性別以外の条件がない・格付を得るための所定の開催実績がある、というのがG格付獲得の基本条件であるため、馬齢・性別以外の出走要件がある競走や、創設から間もないというだけでG格付が認められずL格付となっている競走もある。たとえばドバイワールドカップは創設期はG格付を得られずリステッド競走で、3年目からG1となった。イギリスでは特定のセリ市で売買された競走馬だけが出走できる競走があり、中にはG1競走を上回る賞金を出す競走もある(例:en:Weatherbys Super Sprint)。日本国内でも、外国産馬や外国調教馬が出走できなかった当時の日本ダービーは「L」格付だったものの、国際G1競走を上回るレースレートが与えられていた(例:2007年の日本ダービー(JRA格付は「JpnI」、国際格付は「L」)のRRは113.5、同年のエリザベス女王杯(国際GI)のRRは111)。
  2. ^ ただし、2020年の葵ステークスのようにグレードの格付けを獲得していない重賞はブルーブック上ではリステッド競走とされており、JRAがリステッド競走としているオープン特別競走と同格となっている。
  3. ^ これはパート1国では日本だけである[6]
  4. ^ これとは違い、日本語の文献では、外国の「Listed Race」(リステッド競走)の略語として「LR」が用いられているものもある。

出典

  1. ^ 日本中央競馬会、JRAニュース、2018年3月5日付、一部オープン競走のリステッド格付けについて 2019年1月21日閲覧。
  2. ^ 日本中央競馬会、J競馬用語辞典、リステッド競走 2019年2月15日閲覧。
  3. ^ a b c d e f 『英国競馬事典』p350-353「パターン・レース」
  4. ^ a b 日本中央競馬会、JRAニュース、2018年10月22日付、平成31年度(2019年)開催日割および重賞競走について 2019年1月21日閲覧。
  5. ^ 『競馬ブック』2019年1月6日号(第57巻1号)、ケイバブック、p5
  6. ^ a b c d e f g h i j 『優駿』平成31年2月号(79巻2号:通巻902号)、p158-159
  7. ^ a b 『競馬ブック』2019年1月6日号(第57巻1号)、ケイバブック、p156-157
  8. ^ a b c d e f g 『競馬ブック』2019年1月26・27日号(第57巻4号)、ケイバブック、p86
  9. ^ a b 国際セリ名簿基準委員会(ICSC)「2018 International Cataloguing Standards Book」Japan (PDF) 2019年1月26日閲覧。
  10. ^ 国際セリ名簿基準委員会(ICSC)「2010 International Cataloguing Standards Book」Japan (PDF) 2019年1月26日閲覧。

書誌情報

  • 『英国競馬事典』レイ・ヴァンプルー、ジョイス・ケイ共著、山本雅男・訳、財団法人競馬国際交流協会・刊、2008
  • 週刊競馬ブック』株式会社ケイバブック
    • 2019年1月6日号(第57巻1号)
    • 2019年1月26・27日号(第57巻4号)
  • 月刊『優駿』、日本中央競馬会内「優駿」編集部、中央競馬ピーアール・センター
    • 平成31年2月号(79巻2号: 通巻902号)ASIN: B07MKGPMTL

関連項目