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ヤンバルクイナ

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ヤンバルクイナ
ヤンバルクイナ
ヤンバルクイナ Gallirallus okinawae
保全状況評価[a 1]
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: ツル目 Gruiformes
: クイナ科 Rallidae
: Gallirallus
: ヤンバルクイナ G. okinawae
学名
Gallirallus okinawae
(Yamashina & Mano, 1981)
シノニム

Rallus okinawae
Yamashina & Mano, 1981

和名
ヤンバルクイナ
英名
Okinawa Rail

ヤンバルクイナ(山原水鶏、Gallirallus okinawae)は、鳥綱ツル目クイナ科に分類される鳥類。

分布

日本(沖縄島北部)[1][2][3][4][5]固有種[a 2][a 3]

発見のいきさつ

1981年の数年前から山階鳥類研究所の研究者らは沖縄本島北部に位置する山原(やんばる)地域で種不明のクイナ類を目撃していたが[1]1981年に調査を行った結果、2羽を捕獲し(これらはいずれも形態の検討等の後放鳥された)、同時に入手された1羽の死体(剥製標本)とあわせて検討された結果、学界に未知の新種であることが判明し、同年末に和名をヤンバルクイナ、学名をRallus okinawaeとして新種の記載論文が発表された[6]。この剥製標本がホロタイプ標本とされたが、これは玉城長正が与那の道路際で発見した死体が、友利哲夫を経由して、山階鳥類研究所に寄贈されたものである[7]

この「発見」の後になって、本種が以前から、地元の人々にアガチアガチャ(「慌て者」の意)、ヤマドゥイ(「山の鳥」の意)等の名で知られていたことが広く知られるようになった。また、鳥声録音家、野鳥愛好家、写真家ほかによって録音、羽毛の拾得、生態写真の撮影等がなされていたことも判明した[1][8]

形態

全長30センチメートル[1][2][3][5][a 2]体重約420グラム。上面の羽衣は暗黄褐色、顔や喉の羽衣は黒い[3][a 2][a 3]。眼先に白い斑点、耳孔を被う羽毛(耳羽)から頸部にかけて白い筋模様が入る[3]。頸部から腹部にかけての下面の羽衣は黒く、白い横縞が入る[1][2][a 2]。尾羽基部の下面を被う羽毛は白い[1][3]。初列風切内では第10初列風切が最も短い[5]

虹彩は赤い[2][3]。嘴は太い[5][a 3]。嘴の色彩は赤く[1][2][a 3]、先端が白い[3][5]。後肢は発達し太い[1][5]。後肢の色彩は赤い[2][5][a 3]

卵は長径4.9センチメートル、短径3.5センチメートル[5]。幼鳥は虹彩や嘴が褐色で、後肢は黄褐色[3]

分類

ムナオビクイナニューブリテンクイナカラヤンクイナと近縁であると考えられている[1][5][a 2]

生態

平地から標高500メートル以下にある主に林床にシダが繁茂したスダジイからなる常緑広葉樹林に生息する[1][2][3][5]。夜間になると樹上で休む[1][2][3][5][a 3]。ほとんど飛翔することはできない[1][2][4]

食性は雑食で、昆虫甲殻類両生類爬虫類種子、水生植物などを食べる[1][2][3]。林床で採食を行うが、浅い水中で採食を行うこともある[1]

繁殖形態は卵生。5-7月にシダや低木が繁茂した斜面の地表に枯れ葉を組み合わせた皿状の巣を作った例があり、2-5個の卵を産む[1][5]

人間との関係

開発による生息地の破壊および分断、交通事故、側溝への雛の滑落、イヌやノネコ、人為的に移入されたジャワマングースによる捕食などにより生息数は減少している[1][4][5][a 2][a 3]。特にマングースについては、沖縄本島南部から分布が北上するのと、ヤンバルクイナの分布の南限が北上するのがきわめてよく一致していることから[9][10]、本種の減少の主要な原因であることが考えられている[4][5][a 2] 日本では1982年に国指定の天然記念物[a 3]1993年種の保存法施行に伴い国内希少野生動植物種に指定されている[5][a 2][a 4]2000年から沖縄県(2001年には環境省も)による罠によるマングースの駆除が行われている[4][5][a 2]。2005-2006年にかけては、マングースの北上を食い止めるために、沖縄本島の東西を横断するフェンス(北上防止柵)が、大宜味村塩屋湾〜東村福地ダムを結ぶラインに設置された[11]。ノネコの発生防止のために、国頭村、東村、大宜味村では2004年9月に相次いで飼い猫の適正飼養に関する条例が制定されており(たとえば、[12])、飼い猫をマイクロチップによって個体識別するなどの対策が実施されている[5][13]1998年から山階鳥類研究所による発信機を取り付けた生態調査、1999年にやんばる野生生物保護センターの設置、NPOによるヤンバルクイナ救急救命センターの設置などの保護対策が進められている[5][a 2]。また、2007年6月28日環境省がこの鳥の人工繁殖事業の開始を決定した。

5-6月に轢死による死亡例(ロードキル)が多いことも大きな問題で[14]、巣立つ前の幼鳥に餌を与えるため親鳥が活発化することが原因だと考えられている[4]

2004年5月の交通事故による死亡数 4羽
2007年5月の交通事故による死亡数 1羽

1985-6年の推定生息数は約1800羽[15]とされたが、2002年には1,200羽[5]、2005年には717羽[16]と推定されており、近い将来の絶滅が予想されている。

繁殖については、1998年に沖縄県名護市のネオパークオキナワにて、野外から保護された卵から孵化に成功した事例があるが、飼育下の成体から繁殖させた事例はない。

絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト[a 3]

和名の由来

和名は沖縄本島北部をヤンバル(山原)と呼ぶことに由来する。新種の記載に先立って、1981年に現地で捕獲調査を実施した山階鳥類研究所の調査チームの間では、和名として「ヤンバルクイナ」か「ヤンバルフミル(フミルはバンの地方名)」にしようという話し合いがなされていた。当時は「ヤンバル」という名前は一般的でない名称であったため、山階鳥類研究所の内部では「オキナワクイナ」という名称が相応しいという意見もあったが、「鳥の保護には地元の理解と協力が不可欠なので、それにはより具体的なヤンバルを名前に入れるのがよい」という判断から、最終的に「ヤンバルクイナ」という和名がつけられた。これ以前にも「ヤンバル」を冠した生物名称はあったが、全国的に広く知られるようになったのは本種の命名以来のことである[17]

影響

ヤンバルクイナの発見は、沖縄においても大きく取り上げられ、その目立つ姿も手伝って話題となった[7][18]。1987年の沖縄・海邦国体ではマスコットキャラクターのクィクィとして用いられた[19]。また、これに前後してヤンバルテナガコガネが発見されたこともあり、沖縄はいわば新種ブームのようなものが起こるに至った[20]

参考文献

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著 『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』、講談社2000年、93、176頁。 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "fn1"が異なる内容で複数回定義されています
  2. ^ a b c d e f g h i j 黒田長久監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科7 鳥類I』、平凡社1986年、184頁。
  3. ^ a b c d e f g h i j k 黒田長久、森岡弘之監修 『世界の動物 分類と飼育10-II (ツル目)』、東京動物園協会、1989年、56-57、161頁。
  4. ^ a b c d e f 小高信彦、澤志泰正 「ヤンバルクイナのロードキル」『山階鳥類学雑誌』Vol.35 No.2、財団法人山階鳥類研究所2004年、134-143頁。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物(レッドデータおきなわ)-動物編-』、沖縄県文化環境部自然保護課編 、2005年、55-57頁。
  6. ^ 山階芳麿・真野徹, 1981. 沖縄島で発見されたクイナ類の1新種. 山階鳥類研究所研究報告, 13(3): 1-6. + plates 1-3.
  7. ^ a b 無記名, 2009. 新報アーカイブ. あの日の紙面. ヤンバルクイナ発見 1981年11月14日夕刊. 琉球新報(2009年11月13日)
  8. ^ 尾崎清明, 2009. 日本最後の「新種」-ヤンバルクイナ(ツル目クイナ科)-(所蔵名品から 第19回)山階鳥研NEWS, no. 226.
  9. ^ 尾崎清明・馬場孝雄・米田重玄・金城道男・渡久地豊・原戸鉄二郎.2002.ヤンバルクイナの生息域の減少.山階鳥類研究所研究報告.34(1):136-144.
  10. ^ 無記名, 2004. ヤンバルクイナの減少. (山階鳥類研究所, 平成16年山階芳麿賞贈賞式・受賞記念講演とシンポジウム「〜沖縄山原に生きる〜ヤンバルクイナに明日はあるか」.山階鳥類研究所. p. 14.) ヤンバルクイナの減少(山階鳥類研究所ウェブサイト「ヤンバルクイナ その命名・生態・危機」)に同内容で転載。
  11. ^ 嘉数浩, 2006. ストップ・ザ・マングース 〜沖縄本島北部地域生態系保全事業 マングース北上防止柵について〜. しまたてい, 39: 28-31.
  12. ^ 国頭村ネコの愛護および管理に関する条例
  13. ^ ねこの適正な飼養管理を推進するために(環境省, 2005)-「5.沖縄県やんばる地域でのモデル事業」の章がある。
  14. ^ 小高信彦, 2004. ヤンバルクイナの交通事故死. (山階鳥類研究所, 平成16年山階芳麿賞贈賞式・受賞記念講演とシンポジウム「〜沖縄山原に生きる〜ヤンバルクイナに明日はあるか」.山階鳥類研究所. p. 11.)
  15. ^ 花輪伸一・森下恵美子, 1986. ヤンバルクイナの分布域と個体数の推定について. 昭和60年度環境庁特殊鳥類調査. pp. 43-61.
  16. ^ 尾崎清明・馬場孝雄・米田重玄・広居忠量・原戸鉄二郎・渡久地豊・金城道男, 2006. ヤンバルクイナの生息域と生息数の減少. 日本鳥学会2006年度大会講演要旨.
  17. ^ 無記名, 2004. “ヤンバルクイナ”名前の由来. (山階鳥類研究所, 平成16年山階芳麿賞贈賞式・受賞記念講演とシンポジウム「〜沖縄山原に生きる〜ヤンバルクイナに明日はあるか」.山階鳥類研究所. p. 14.) “ヤンバルクイナ”名前の由来(山階鳥類研究所ウェブサイト「ヤンバルクイナ その命名・生態・危機」)に同内容で転載。
  18. ^ 「ヤンバルクイナの発見」絶滅の危機にある動植物たち - TBS
  19. ^ 沖縄・海邦国体マスコット「クィクィ」製作 - Bin企画(マスコット作成元)
  20. ^ 1981年(昭和56年)沖縄県内十大ニュース)1981年12月28日 琉球新報

外部リンク