ブラキストン線

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ブラキストン線が通る津軽海峡

ブラキストン線(ブラキストンせん、: Blakiston Line)とは、津軽海峡を通る動物相の分布境界線である。津軽海峡線(つがるかいきょうせん)ともいう。

イギリス動物学者トーマス・ブレーキストンが提唱した。動物相はブラキストン線を境に北のシベリア亜区と南の満州亜区に分かれる。ブラキストン線は、ツキノワグマニホンザルニホンリスなどの北限、ヒグマナキウサギエゾシマリスなどの南限となっている。[1][2][3]

概要

幕末から明治期にかけて日本に滞在したイギリスの軍人・動物学者のトーマス・ブレーキストンによって提案された。彼は日本の野鳥を研究し、そこから津軽海峡に動物分布の境界線があるとみてこれを提唱した[4]。1883年に本州と北海道の動物に違いがあることをアジア協会報に発表し、ブレーキストンの知人でもある地震学者ジョン・ミルンの提案で津軽海峡がブラキストン線と呼ばれるようになった[5]

この線を北限とする種はツキノワグマニホンザルムササビニホンリスニホンカモシカニホンモモンガライチョウヤマドリアオゲラなどがある。逆にこの線を南限とするのがヒグマエゾモモンガエゾヤチネズミエゾリスエゾシマリスミユビゲラヤマゲラシマフクロウギンザンマシコクロテンナキウサギなどである[2][3]。また、タヌキアカギツネニホンジカフクロウはこの線の南北でそれぞれ固有の亜種となっている。エゾシカとホンシュウジカは形態的に差異があり別亜種とされているが、近年は遺伝子的には区別できないとする研究もある[6]

函館山山頂にあるブレーキストンの碑

函館山山頂にはブレーキストンの碑が設置されており、碑文でブラキストン線発見の功績が紹介されている[5]

境界線の起源についての仮説

10,000〜20,000年前の日本列島周辺の海岸線。細い線は現在の海岸線である。

津軽海峡を挟んだ動物相の違いは、最終氷期に北海道は樺太、千島列島を通じてユーラシア大陸と陸地で繋がっていたことに対して、本州は朝鮮半島を通じて大陸と繋がっていたことに起因すると考えられている[7]。ただし、最終氷期において津軽海峡が陸続きであったかについては諸説ある[8][9]。過去の大陸との繋がりに加えて、最深部が449 mと深く、現在の最短距離が19.5 kmあり、潮流も強いという津軽海峡の性質が動物の行き来を妨げていると考えられている[10][11]

陸棲動物の越海峡の可能性

海水準低下期に、本州からはナウマンゾウヤベオオツノジカが北海道へ、北海道からはヘラジカヒグマなどが本州へ移動していた可能性が指摘されている[12][13]

近年の変化

1988年青函トンネルの開通により、動物が歩いて津軽海峡を渡ることが可能となり、北海道と本州北部の生態系に変化があることが懸念されている[14]。実際に、2007年には青森県キタキツネの生息が確認されている[15]

脚注

  1. ^ トーマス・ライト・ブラキストン”. 函館中央図書館. 2014年4月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年11月18日閲覧。
  2. ^ a b 山崎晴雄、久保純子『日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語』講談社、2017年、61頁。ISBN 978-4-06-502000-5 
  3. ^ a b ブラキストン線”. 一般財団法人環境イノベーション情報機構. 2018年11月18日閲覧。
  4. ^ トーマス・W・ブラキストン”. 私立函館博物館. 2004年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年11月18日閲覧。
  5. ^ a b トーマス・ライト・ブラキストンの碑”. 函館市 (2005年4月12日). 2007年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年11月18日閲覧。
  6. ^ 梶光一; 宇野裕之; 宮木雅美 (2006). エゾシカの保全と管理. 北海道大学出版会 
  7. ^ Planet, Lonely. “The Blakiston Line in Hokkaidō” (英語). Lonely Planet. https://www.lonelyplanet.com/japan/hokkaido/background/other-features/18ee2039-f6f7-4c73-89a1-c742c4086f49/a/nar/18ee2039-f6f7-4c73-89a1-c742c4086f49/1323400 2018年10月5日閲覧。 
  8. ^ 大場忠道 (2008年10月18日). “だいよんき Q&A 最終氷期には日本列島と大陸間の海峡は完全につながっていたのですか。”. 日本第四紀学会. 2018年11月18日閲覧。
  9. ^ 津軽海峡はかつて陸続き? ザリガニのDNA分析で判明”. 日本経済新聞 (2012年3月30日). 2018年11月30日閲覧。
  10. ^ EFFECTS OF WAVE, TIDAL CURRENT AND OCEAN CURRENT COEXISTENCE ON THE WAVE AND CURRENT PREDICTIONS IN THE TSUGARU STRAIT, Ayumi Saruwatari, Yoshihiro Yoneko and Yu Tajima
  11. ^ Conlon, Dennis Michael, "Dynamics of Flow in the Region of the Tsugaru Strait." (1980). LSU Historical Dissertations and Theses. 3557. https://digitalcommons.lsu.edu/gradschool_disstheses/3557
  12. ^ 奥村潔, 石田克, 樽野博幸, 河村善也「岐阜県熊石洞産の後期更新世のヤベオオツノジカとヘラジカの化石(その1)角・頭骨・下顎骨・歯」『大阪市立自然史博物館研究報告』第70巻、大阪市立自然史博物館、2016年3月、1-82頁、ISSN 00786675NAID 110010038909 
    樽野博幸, 河村善也, 石田克, 奧村潔「岐阜県熊石洞産の後期更新世のヤベオオツノジカとヘラジカの化石(その2)体幹骨・肢骨」『大阪市立自然史博物館研究報告』第71号、2017年3月、17-142頁、doi:10.20643/00001228ISSN 0078-6675NAID 120006303900 
  13. ^ 山梨大学, 国立科学博物館, 山形大学, 2021年, 本州にかつて生息していたヒグマの起源の解明 (pdf)
  14. ^ 高橋政士(編)『深迷怪鉄道用語辞典』海拓舎、2001年4月、278頁。ISBN 4-907727-18-6 
  15. ^ 第2回青森県環境審議会議事録

関連項目