フライ・バイ・ワイヤ

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フライ・バイ・ワイヤ(Fly-by-wire, FBWと略される)は、航空機の操縦・飛行制御システムの1種。直訳すると「電線による飛行」。

概要

FBW以前の機力操縦システムでは、パイロット操縦桿(輪)やラダーペダルに与えた入力は、ケーブル(索)やロッドによる機械的リンクを介して油圧アクチュエータに伝わり、補助翼昇降舵方向舵などの操縦翼面が動かされていた。自動操縦も、ケーブルへ自動操縦装置が機械的入力を与えることで達成されていた。

FBWでは、パイロットの入力はコクピットで電気信号に変換され、電線(wire, ワイヤ)によって飛行制御コンピュータ(加速度と傾き検知するセンサーとコンピュータを組み込んだ物)を通り油圧アクチュエータに伝えられる。アナログコンピュータを使用した初期のものはアナログFBW、デジタルコンピュータを使用するものはデジタルFBWと呼ばれる。また電気信号を伝える電線を複数にして、多重系にすることにより冗長性を持たせている。

おおむね以下のような利点と欠点がある。

利点
  • ケーブルと油圧配管の一部が電線に替わることによる、整備性の向上と重量減の可能性。
  • 機械的な機構から信号線に替わることにより、操縦系統の設計の自由度が高まる(ジョイスティック操縦桿の登場)。
  • コンピュータを介在させることによる以下の利点
    • パイロットが誤った操縦をしても危険な姿勢に陥ることを防止する(プロテクション機能)。
    • 静安定性緩和などのCCV技術導入による、燃費向上や機動性向上(とくに軍用機)。
    • 絶え間なく姿勢制御が必要になる不安定な機体を、継続的に飛行させる事ができる(とくに軍用機)。
    • 軍用機における生存性の向上。
欠点
  • 飛行制御コンピュータとそれに伴う環境調節システムの設置による空間的・重量的制約。
  • 導入初期に、プロテクション機能を正しく理解せず無理な操縦を行ったことが原因と思われる事故が発生した(エールフランス296便事故を参照)。
  • 操作に対する油圧やリンクの応力(手応え)がないことによる以下の欠点
    • 該当機能が正常に作動しているか分かりにくい(系統が切れてもレバーの重さは不変)。
    • 急激な操作が可能になるため戦闘機では旋回時にすぐに限界Gに達してしまい、G-LOCを起こしやすい。
    • 機体が停電となりコンピュータが止まると、操縦不能となる。特にコンピュータの操縦系への介入を前提として設計された、空力安定性が低い機体では致命的。

CAS

FBWへの移行の前段階として、CAS(コントロール増強システム)と呼ばれるものがある。コンピューターによる飛行制御を、機械的リンクの補助として用いるものである。

採用例

軍用機

フライ・バイ・ワイヤを搭載したF-4実験機62-12200号機

軍用機では、試作のみで終わった大型戦闘機・CF-105 アローがデジタルFBWを採用していた。

実用機での最初はF-16で、これによりデジタルFBWが有名になった。CCV設計の導入により性能を高め、以降の多くの戦闘機が採用している。

F-16以前においても、F-15の場合、機械系統が戦闘などで破損しても、前述のCASを通じて問題なく操縦が可能になっており、完全なデジタルFBWの一歩手前の状況まで来ていた。ただしこのような設計の場合は、CCV設計の導入は不可能である。

民間機

旅客機では、コンコルドがはじめてアナログFBWを採用した。

エアバスA320で、旅客機として初めてデジタルFBWを採用した。同時に操縦桿はジョイスティック型となり、操縦席の横に配置された。以降のA330A340A380などでも踏襲されている。エアバスではボーイングに比べるとコンピュータによるプロテクション機能を優先しており、その点も含めた設計思想の違いはたびたび議論の的となっている(前述のエールフランス296便事故や中華航空140便墜落事故を参照)。

ボーイング777で初めてデジタルFBWを採用した。形状は従来と似た操縦輪であり、エアバスのようなジョイスティックではない。プロテクション機能はあるものの、操縦感覚が重くなることでパイロットに注意を促すだけで、それ以上の力を操縦桿に加えれば、プロテクション機能を越える操縦をすることもできる。これは空中衝突などを避けるための急激な回避行動を取れるようにするための措置で、安全性に劣るということではない。

他にはイリューシンのIl-96、ボンバルディアのCRJシリーズ、エンブラエル170シリーズ(アナログFBW)などの例がある。

ヘリコプター

ヘリコプターの操縦システムはリング機構やリング機構を介して油圧アクチュエータを作動させることによりメインローターやテールローターのブレードを動かす機体がほとんどで、動的不安定改善の為のSAS(安定増大装置)を搭載している機体はあるが、今の所FBWによるシステムで操縦する機体はNHインダストリーズ社が開発したNH-90のみで、FBWによって制御されるメインローター・テールローター・エンジンの動きをモニタリングするセンサーと機体の姿勢を検知するセンサーからの情報をFBWの飛行制御コンピュータにフィードバックすることにより機体を安定させるようになっている。

発展

光ケーブルの利用
操舵信号を電線ではなく光ケーブルによって伝えるシステムはフライ・バイ・ライト (Fly-by-light, FBL) またはフライ・バイ・オプティクス (Fly-by-optics) と呼ばれる。電磁干渉に強くなることなどが利点とされている。実用機では川崎重工業の次期固定翼哨戒機XP-1が唯一採用している。
パワー・バイ・ワイヤ
FBWでは、電気信号が伝わるのは油圧アクチュエータまでである。そのため依然として油圧システム(タンク・ポンプ・配管・アクチュエータ)は存在し、重量と整備性においての課題となっている。このためアクチュエータとして、電動モーターまたは密閉式電気油圧式アクチュエータを採用し、タンク・ポンプ・配管を削減したシステムが開発され、パワー・バイ・ワイヤ (Power-by-wire, PBW) と呼ばれている。F-35A380のバックアップシステムとして採用されている。

関連項目

参考

  • 日経エレクトロニクス 2007年11月19日号 P147-158
  • 飛行機構造 日本航空技術協会 1989年 ISBN 4930858499
  • ヘリコプタ 日本航空技術協会 1990年 ISBN 4930858453
  • 最強 世界の軍用ヘリ図鑑 学研パブリッシング 2012年 ISBN 978-4-05-405191-1