ジュラルミン

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ジュラルミンDuralumin)とは、アルミニウムマグネシウムなどによるアルミニウム合金の一種である。

来歴

1903年[1]ドイツ中西部のデュレン(Düren ) で、アルフレート・ヴィルム(Alfred Wilm[1]によって偶然に新しい合金が発見された。薬莢の材料として従来は銅と亜鉛の合金の黄銅を用いていたが「もっと軽いアルミニウムを銅と混ぜたらよいのではないか」という発想から、4%の銅を混ぜたアルミニウム合金[1]を作ったところ、軽量でありながら破断に強い合金が得られたのである。ある種の金属において、焼入れ後室温で数日放置した後に硬度が上がる時効硬化という現象があるが、これは1907年にジュラルミンにおいて初めて発見された。

この合金は1909年[1]に「ジュラルミン」として発売された。ジュラルミンとは地名のデュレンとアルミニウムの合成語である。英和辞典の語源では、ラテン語でhardを意味するdurusとaluminiumの合成語とあるのが普通である[要出典]

この頃始まったモノコック成形に最適で、高い耐破断性を持ち、超軽量であり、また第一次世界大戦の前夜というタイミングでもあり[1]、1910年代、ツェッペリン飛行船ユンカース輸送機への導入を機に、航空機用資材として広く用いられるようになった。

日本では1916年(大正5年)に住友伸銅所(住友金属工業)でジュラルミンの研究が開始された[2]。さらに1936年に住友金属工業は超々ジュラルミン (ESD) を開発し、帝国陸海軍の軍用機にもESD他のジュラルミン材が多用された。

もっともジュラルミンには、特に海水に対する耐食性に問題があり、飛行艇の底面や水上機フロート(舟)喫水下部分には、「銅を含まないアルミニウム材」を使用せねばならなかった。

第二次世界大戦後、GHQによる航空産業の禁止で余剰となったジュラルミン部材が、川崎航空機と縁の深い川崎車輌が製造を担当した国鉄向け新製鉄道車両の一部(国鉄63系電車国鉄オロ40形客車など)に使われ、特に63系電車の場合は「ジュラ電」などと呼ばれて注目を集めたが、耐食性が低い材料であるにもかかわらず塗装を施しておらず、車両自体の電装品の絶縁が不十分であったことなどもあって急速に腐食と電食が進行し、このため製造後わずか7 - 8年程度でいずれも製車体に置き換えられ、短命に終わっている。また、東京駅戦災復興に際しても、軽量であることからドーム部の骨組にジュラルミン材が使用された。

日本が戦後唯一製造した国産旅客機YS-11も総ジュラルミン製である。

種類

ジュラルミンには、JIS規格

の3種類がある。

A2017とA2024は、JIS規格では2000系合金と呼ばれる系統に属し、主にアルミニウムと銅の合金である。一方7075は同様に7000系合金と呼ばれる系統で、主にアルミニウムと亜鉛・マグネシウム・銅の合金であり、アルミニウム合金の中で最高の強度を誇る。特徴としては3種とも切削性に富むが、後述するように耐性・溶接性に劣る。7000系には、他に溶接に向いている A7N01 がある。A7N01 は溶接構造用として銅を含まない、いわゆる三元合金として知られている。

アルミニウムは軽量であるが、純アルミニウム(1000系)の強度は大きくない。これに種々の元素を加えアルミニウム合金とし、さらに熱処理(溶体化処理・時効硬化処理・焼きなまし)などを加えることにより、強度・成形性その他の性質を調整することを調質という。

表記

例:A7075P-T651

最初のAはアルミニウム合金を示し、続く4桁の数字は合金分類を示す。第1位の数字は合金系を、第3・4位の数字は個々の合金の識別を示す。第2位の数字は0が基本合金を、1以降の数字は基本合金の改良または派生合金であることを示す。ただし、日本で開発され、国際アルミニウム合金に相当する合金が見出せない場合は、第2位目の数字に変えてNを記す。その代表例が新幹線など鉄道車両の構体に使用される A6N01 や、自動車のバンパー補強材に使用される A7N01 である。4桁の数字に続いて附される1-3個のローマ字は、材料の形状および製造条件を示す。

  • P - 板・条・円板
  • PC - 合わせ板
  • H - 箔
  • BE - 押出棒
  • BD - 引抜棒
  • TW - 溶接管
  • FD - 型打鍛造品
  • FH - 自由鍛造品

ハイフンに続くTを冠した数字は、材料の調質を示す識別記号であり、基本記号は

  • F - 製造のままのもの
  • O - 焼きなまししたもの
  • H - 加工硬化したもの
  • W - 溶体化処理したもの
  • T - 熱処理によって、F、O、H、以外の安定な質別にしたもの

の5種類に分けられ、その後の1-3桁の数字でさらに細分化できる。

その強度と軽さから家屋の窓枠、航空機ケースなどの材料に利用される(ジュラルミンケース)。また、最近では一部の携帯電話の端末本体の装飾に用いられる(2008年現在、au 向けのソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製端末「W62S」がこれに該当する)場合もある。

その他

なお、合金を構成するアルミニウム以外の金属の割合は以下の通りである。

  • ジュラルミン
    • 銅 - 約4%
    • マグネシウム - 0.5%
    • マンガン - 0.5%
  • 超ジュラルミン
    • 銅 - 4.5%
    • マグネシウム - 1.5%
  • 超々ジュラルミン
    • 亜鉛 - 5.5%
    • マグネシウム - 2.5%
    • 銅 - 1.6%

脚注

  1. ^ a b c d e 『ツァイス・イコン物語』p.123。
  2. ^ http://www.spp.co.jp/history/index.html なお、日本におけるジュラルミン開発をヒンデンブルク号の炎上墜落事故に繋げた「伝説」があるが、同事故は1937年で日本におけるジュラルミン開発はおろか、後述する超々ジュラルミンの開発(1936年)より後であり、前後関係すら一致しない誤伝である。

参考文献

  • 竹田正一郎『ツァイス・イコン物語』光人社 ISBN978-4-7698-1455-9